気になる。

日常の中にある “小さな違和感” を記録しています。 怖いかどうかは、読んだあなたが決めてください。

第十二話:インターホン越しの

インターホンの履歴を何気なく確認したときだった。


見覚えのない中年のおじさんが映っていた。

 

 

無表情。
まばたきひとつしない。
ただ、まっすぐ玄関のカメラを見つめている。

押されたのは真昼間。


その時間帯によくあるイタズラかと思ったが、違和感が強かった。

呼び鈴を押してるのに、まるで動きがない。
静止画みたいなのに、動画だった。

翌日もまた履歴が残っていた。
同じおじさん。
まったく同じ角度、同じ表情。
まばたきも、体の揺れもない。

 

……けれど、実際にチャイムが鳴った記憶はない。
インターホンが押された気配も、音もしていない。
なのに履歴だけ残り続ける。

 

それから1か月が経った。
不思議ともう来なくなった。
だけど、インターホンの前を通るたびに思い出す。

あのとき、もしオートロックじゃなかったら。
もしあの日、鳴ったはずの音が聞こえていたら。

あのおじさんは、今どこにいるんだろう。
……というより、そもそも何が目的だったんだろうか。

第十一話:家の周りをぐるぐると

結局その日は玄関の前で待つのをやめて、部屋に戻った。
不安になって、改めてGPSを開くと…
配達員のアイコンが、家の周りを回っていた。

普通のルートじゃない。
細い裏路地や、普段自転車でも通らないような幅の道を、ゆっくり、ゆっくり、円を描くように。

最初は「迷ってるのかな」と思った。
でも五分経ってもまだ回っている。
十分経っても止まらない。

ぐるぐる、ぐるぐる、家の周りだけ。

その間、一度もメッセージは来ない。
声も気配もない。
ただ、GPSの点だけが不自然に動き続けていた。

やがて突然、アイコンがピタッと止まり、
「配達が完了しました」
という通知が届いた。

玄関を開けた。
もちろん、何も置かれていない。

外は静まり返っていた。
まるで最初から配達員なんて存在しなかったみたいに。

その日の夜、寝つけなかった理由をずっと考えていたけど、
たぶんあれは“道に迷った”とか“システムのバグ”じゃない。

あの不自然な軌道、何分も続いた無言のまわり道。
あの時間、
誰が、何のために家の周りを回っていたんだろう。

第十話:届かないUber Eats

深夜一時すぎ。
小腹が空いて、なんとなくマックを頼んだ。

この時間帯は混むはずもない。
配達予定時間にも余裕があったし、玄関の前で待っていればすぐに受け取れる…
そんな気持ちで、軽い気分だった。

でも、予定時刻を過ぎても来ない。
通知は「近くまで来ています」。
GPSは、まるで家の前にいるように表示されていた。

玄関を開けて外をのぞいた。
誰もいない。
静まり返った住宅街の中に、偶然通り抜ける車の音すらない。

スマホを見ると、配達員はずっと“到着しました”の場所から動かない。
チャットを送っても既読がつかない。

深夜の冷たい空気のせいか、なんとなく胸の奥だけがざわついていた。
「こんなこと、あるんだっけ…?」

五分、十分。
時間だけが流れていった。

第九話:帰り道

沖縄には、昔から“スリーエス”と呼ばれる心霊スポットがある。
正式な名前ではない。地元の人間が勝手にそう呼んでいるだけだ。
ただ、その響きとは裏腹に、噂は妙に生々しい。

「帰り道で事故る。」
いつも決まって“帰り道”なんだ。

先輩が実際に事故を起こしたらしい。
ブレーキは踏んだのに、効かなかったと言っていた。
原因は分からないまま、車は廃車になったらしい。

そんな話を聞いたあとに、俺たちは三人で行くことにした。
好奇心と、ちょっとした怖いもの見たさと…まあ、そういう年頃だった。

夜のスリーエスは拍子抜けするほど静かで、
何かがいる感じも、不気味な音が聞こえるわけでもなかった。

「なんだ、普通だな。」

友達が笑いながら言って、俺も同じように笑った。
結局、何事もなく引き返すことにした。

 

その帰り道だった。

 

運転していたのは友達。
俺は後部座席で、窓の外の真っ暗な森を眺めていた。

ふと、ライトが妙に広い範囲を照らしているように見えた。

そのとき、妙な違和感に気づいた。

 

ガードレールが、すぐ目の前に迫っている。

 

「やばい!!」

 

友達が叫びながらハンドルを切る。
タイヤが悲鳴を上げた。
金属がこすれる匂いが車内に流れ込む。

ほんの数十センチずれていたら、
俺たち三人は崖の下に落ちていたかもしれない。

車はしばらく止まったまま、誰も動けなかった。

友達が絞り出すように言った。

「カーブ、見えんかった…。」

 

俺も、見えなかった。
ライトが反射したわけでもなかった。
ただ、“道がなかった”ようにしか見えなかった。

帰り道が危ない。
そんな噂を思い出したのは、家についてからだ。

 

スリーエスの何が危険なのか。
場所なのか、何かがいるのか…それとも、

“帰る途中で何かが寄ってくる”のか。

俺たちは、それ以上深く話すことはしなかった。
ただ、もう二度と夜に近づく気にはなれなかった。

第八話:切り傷

引き返そう、と言ったのは友達だった。


「なんか、空気が変だよな…」


その一言で、僕らは島の端へ向かって歩き出した。

海風が戻ってくると、少し安心した。
あのレストランの前だけ、妙に音が消えていたことに気づく。

浅瀬を渡りはじめたときだった。
足の裏に、ぴりっと鋭い痛みが走った。

 

「え?」


歩きながら足を上げてみると、
そこには細くまっすぐな切り傷がついていた。

何かに触れた覚えはない。
ガラス片も、岩も、何もなかったはずだ。
島にいたときは気づかなかったのに、
まるで“外へ出た瞬間に気づかされた”みたいだった。

友達も顔色を変えた。

 

「噂…本当だったのかな」


冗談めかして言う声が震えていた。

僕も笑えなかった。
怖いというより、
「何かに見られていた」ような妙な感覚が消えなかった。

海を渡り切ったとき、振り返ると、ひーとぅー島は静かにそこにあった。
風も、波も、さっきまでのことを否定するみたいに優しい。

けれど、僕の足の裏の切り傷だけが、
さっきの出来事が“現実”だったことを証明していた。

それ以来、あの島には二度と近づいていない。
でも、今でも時々思う。

 

――あの傷は、僕を追い返すためだったのか。


――それとも、何かを伝えようとしていたのか。

 

どちらにしても、
あの廃レストランの静けさは、
今も僕の記憶の中で、ざわざわと音を立て続けている。

第七話:海に浮かぶレストランの噂

小学生の頃、妙な噂が流れていた。


「ひーとぅー島にある廃レストランに入ると、ケガをする」


誰が言い出したのか覚えていない。

沖縄に住んでいれば誰でも知っているような、海にぽつんと浮かぶ小さな島だ。

ひーとぅーは沖縄の方言で「イルカ」という意味。
「あそこは昔、イルカ料理のレストランがあったらしいぞ」とか、「途中で工事が止まって廃墟になったんだよ」なんて、曖昧な噂ばかり。

ある日、友達と海沿いで遊んでいると、潮の満ち引きのおかげで島まで歩けそうなタイミングになった。


「行ってみる?」

 

そのひと言で、僕たちは探検隊みたいに胸を弾ませながら、海面がキラキラ光る浅瀬を渡った。

近づくにつれて、島の静けさが妙だった。

中は陰でよく見えない。
風の音ばかりが耳に届く。
島に上陸し、錆びて崩れかけ壁を見ながら、僕たちはゆっくり奥に歩いた。

レストラン跡の入り口まで来たとき、突然、胸の奥がざわついた。
怖い、というより“合わない”感じだった。
この場所だけ空気の重さがちがう。

 

「入る?」


「……やっぱ、やめとく?」

 

お互いの顔を見ても、答えは出ない。
けれど、子どもの好奇心は強い。
気づけば、僕は入口の影に手を伸ばしていた。

その瞬間――なぜか背筋がひやっとした。

続きが気になった僕らは、そっと入口をのぞき込んだ。
中は暗く、昼間なのに視界が落ち着かない。
なにも“起きない”。
ただ、静かすぎる。

その静けさが逆に、ずっと嫌な予感を残していた。

その違和感の正体に気づいたのは、島を出る“直前”だった。

第六話:出口

その階段を上った。
木がかすかに軋んだ音が、森の奥へ吸い込まれていく。

遊歩道は木製で、ところどころ古びていた。
踏むたびに沈む感覚があったけれど、足は止まらなかった。

森の中は、外よりも静かだった。
風の音もなく、鳥だけが、時々短く鳴いた。

道のりは、およそ一キロ。
けれど、距離の感覚は曖昧だった。
どれだけ進んだのか、どこにいるのか、よくわからなかった。

自然の大きさに包まれていると、
自分がとても小さく感じた。
それが、なぜか心地よかった。

やがて、森が開けた。

出口だった。

そこから獣道を抜ければ住宅街へ出る。
知っている景色のはずなのに、
初めて見るような、どこか遠い場所のようだった。

なぜだろう。達成感はなかった。

あったのは、
悲しさにも似た、
寂しさのような感情だけだった。

何かが足りない。みたいな。

なぜ、あの道に呼ばれたんだろう。

残ったのは不思議な気持ちだけだ。

でも、

 

ひとつだけ確信している。

 

また呼ばれると。