- 鯖そうめんなる愛おしき食べ物
- 伊吹山ではぐくまれたお灸
- ボン・バイ・テンで梅を見る。
- 滋賀最古の私立図書館、1907年開設の江北図書館へ
- 480年を越える歴史を持つ、滋賀のリキュール、桑酒
- 彦根で近江牛のすき焼きを食べる
- 雪降りしきる朝に
- 麗しきは五個荘の街
- 近江ちゃんぽん、出汁が効いていてとても美味しい
- 紫式部が源氏物語の着想を得た石山寺へ
「久しぶりに、京都に行かない?」と配偶者に聞いたら「お、いいね、行こう」との返事があったので、京都に行くことにした。翌日、京都駅前のバスの尋常ならざる混雑を思い出すないなや、一気に行きたい意欲が消えていった。あの混雑に自分が加わりさらに混雑を加速させることは、申し訳なさを感じた。
そうだなあと思案した。そういえば、京都の一個手前、滋賀って行ったことないなと思った。まだ見ぬ地、滋賀に行くほうが短い休みにはいいのではないかという気がしてきた。そんな経緯で、僕たちは滋賀に行ってみることになった。
鯖そうめんなる愛おしき食べ物
新幹線で、びゅんと米原駅まで行った。米原というのは琵琶湖の右側にある市である。
「新幹線内で調べていたところによると、どうも長浜という米原の北にある街が賑やかのようだよ」
配偶者はスマホで検索して「たしかに、なんか観光地っぽい感じなんだね。じゃあ、そこ行ってみようか」と言った。

駅を降りて中心地に歩いていく。ネットで調べていたところによると、鯖そうめんなるものがこの地域の郷土料理のようだ。農繫期に親がとついだ娘に焼き鯖を届けるという風習があり、手軽に食べることができる鯖そうめんという形になったということらしい。
翼果楼

鯖そうめんの専門店にやってきた。築約200年の商屋を利用しているとのことだ。いい感じの雰囲気である。

二階席に案内された。畳の上に座り、メニューを見る。鯖そうめんのセット的なものを注文した。窓からは端正な日本庭園が見えるので、しばらくの間ぼーっと外を見ていた。

そうめんに黒々とした鯖が乗っている。よく煮込まれてているようである。そうめんは渦を巻いていてうつくしい。どのように盛り付けるとこうなるのだろう。そうめんは温かく、鯖の煮汁がしみこんだような味がした。鯖をかじる。肉厚で味が染み出てくる。これはなんというか、ぜいたくな鯖である。そうめんにも煮汁が染みているので、料理に一体感があっておいしい。

「おお、これけっこういいね」
「温かいそうめんもいい感じだよね。味がしみているのに、硬くないし美味しいね」と配偶者は言って黙々と食べていた。
伊吹山ではぐくまれたお灸
鯖そうめんで胃が満たされた。長浜の街を歩いてみる。混んでおらずとても歩きやすい。1月頃だったので、雪がちらほら残っていて、時折、屋根からどさっと雪の塊が落ちてきた。歴史的建築物が立ち並ぶ通りを歩いていくと、大通寺という大変立派な寺が現れた。参拝する。寺の屋根から雪解け水が滴り落ち、陽射しと混ざり合ってキラキラしていた。おびただしい数の鳩が飛び交っていた。

そのまま商店街を歩いていると、せんねん灸の店が現れた。お灸について全然知らないけれど、せんねん灸という名前は聞いたことがある。きっと有名な店なのだろうなと思った。
「そういえば、さっき、お灸が有名って観光のパンフレットに書いてあったよ」と配偶者は言った。
「お灸ってやったことないな」
「無料で体験できるって書いてあるし、やってみるか」

店に入ると、スタッフの人がやって来て、お灸を選ばせてくれた。熱さや香りでいろいろなバリエーションがあるらしい。どこに置くと、どのような効用があるというような話をふむふむと聞く。

無料体験をして、人間はその後購入せずに店を出ることは難しい...... 二三個試して、僕たちは、言われるがままお灸を購入し店を後にした。
ボン・バイ・テンで梅を見る。
長浜の街をぐるっと歩き、駅に向かっていると、盆梅展なる梅の展示会が実施中である旨のポスターが貼られていた。へえ、梅かあという感じの話をしてちょっと寄ってみることにした。

盆栽の梅なので、盆梅展。ボンバイテンである。なんという音のよさであろうか。ボンバイテン、ボンバイテンと頭でボンバイテンをこだまさせながら、梅を見た。絵画と梅が合わせておかれている展示があった。鳥が本当に空間を飛んでいるように見え、美しかった。

ご飯も美味しいし、街並みに歴史も感じるし、展示はいい感じだし、僕は滋賀県のことが徐々に好きになり始めていた。
滋賀最古の私立図書館、1907年開設の江北図書館へ
長浜の北にある木ノ本に行ってみたい酒造があったので、電車に乗り込んだ。雪景色のまっすぐな道を電車がすくすくと進んでいく。白い地平が少しずつ傾いた陽で色づいてきていた。木ノ本駅で降りると駅の目の前に、古風な洋館があった。

「なんだろうね、あれ」と僕は洋館を見た。
「いい感じの建物だね」
Googleマップを開いた。どうやらその建物は、100年を超える歴史をもつ、滋賀県最古の私立図書館であるらしい。市立図書館なんて珍しいなと思い、Googleマップ上は閉館の15分前くらいだったのだけど、戸を開け入ってみた。「まだ、見学ってできますか」と聞くと、受付の方が「あら、いらっしゃいませ。まだ大丈夫なので見学していってくださいね」と言ってパンフレットをくれた。

なんでも地元の弁護士の方が作った施設ということのようだ。古いけれど、きれいに掃除されていて、清潔感がある。古いジュブナイル映画に出てきそうだ。

二階もたくさん本がしまわれている。昔の人の文化や地域への貢献への意欲はすごいものがあるなあと思う。こんな立派な図書館、僕は3回ほど転生しても作ることができない気がする。いまでも、現役の図書館として運営されているらしく、地元の方が本を読みに来ていた。末長く、この図書館が続いていくとよいなと思う。

480年を越える歴史を持つ、滋賀のリキュール、桑酒
図書館を後にして、もともと行ってみたかった酒造へ行くことにした。山路酒造といって、みりん的な酒に桑の葉を漬け込んだ桑酒というリキュールが有名だ。具体的にいつなのか詳細には分かっていないらしいのだけど、480年以上前からつくられているようだ。

木ノ本は、古い道と、歴史を感じさせる建物が一帯に広がってて、浮世絵の中を歩いているのではないかという気がしてくる。

この道は、北国街道という歴史ある道のようだ。湾曲が通り過ぎた時間を思わせ、大変趣あるのだけど、観光客はおらず、すべてを独り占めすることができた。最初は、京都はこんでるしなあとおもって、消極的選択で来たのだけど、これだけ落ち着いた気持ちで観光できるのであれば、滋賀は素晴らしい旅行体験をもたらす地域であるなと思った。

山路酒造は県内四番目に古い酒造とのことだ。大きな杉玉がつられている。

桑酒が買いたくて来たのですと言うと、お店の人がいろいろと資料を見せてくれた。桑酒は島崎藤村に愛飲されていたらしい。以下が、島崎藤村が桑酒について述べた手紙である。

お店の人がモヒートにして飲むといいですよと教えてくれた。ラベルもなかなかかっこいい。桑酒を使った洋菓子もあったので買ってみた。
家に帰って、ソーダで割って飲んでみた。炭酸がはじけるに伴って、桑の清涼感のある香りが放たれた。何世紀も前にこれが飲まれていたというのであれば、当時は、大変ハイカラな飲み物だったのだろうなと思う。

彦根で近江牛のすき焼きを食べる
木ノ本を後にした。今日は彦根に泊まる予定になっていたので、電車で琵琶湖沿いを南に向かって移動する。陽が暮れてきて、うっすらと空が染まってきている。雪の中をぐんぐん進んでいく電車というのは心強いものである。

彦根に着いた。ちょうど出かけていた人たちが返っていく時間帯だったので、駅からぞろぞろと人々が出て行っていた。人口は11万人ほどとのことだ。とりあえず、琵琶湖まで行ってみた。対岸に陽が沈んでいくのが見えた。風が少なく、琵琶湖は水鏡のようで、1月の空気の冷たさを感じさせた。

「陽も暮れてきたね。夕飯何食べようか」
配偶者は腹が減ってきたようだった。
「何がいいかね。滋賀と言えばなんだろうね。近江牛とか有名だけどね」
「ああ、いいね。近江牛食べたいかも」
「ちょっと、調べてみるわ」

近江牛のステーキの店もあったのだけど、けっこう高かったのでどうしたものかなと思い探していると、わりとお手頃なすき焼きの店があった。バスに乗れば10分ほどの距離だったので夕飯はすき焼きとすることにした。

さて、すき焼きである。すき焼きというのは、一般的にどれくらいの頻度で食べられているものなのだろう。僕は、たぶん3年ぶりくらいのすき焼きだ。店員さんが準備を進めてくれる。牛脂のが溶けてきたら、近江牛が投入される。ジューという音が響きに牛肉の匂いが立ち上ってくる。ザラメが一気に振りかけられた。



すき焼きというのは、なんと美味しそうな食べ物なのだろう。肉がふつふつと煮えていく。覆いかぶさるように野菜がのる。なんとも待ち遠しい時間である。3年ぶりともなるとたまらないものがある。

たまごに肉をくぐらせる。当然美味しかった。

ホテルまで歩いて帰る。彦根城の周りは、城下町の雰囲気を残している。静かな知らない街をぽろぽろ歩くというのはいいものである。

お濠も立派だ。遠くにちょろっと彦根城が見えた。

雪降りしきる朝に
朝、起きて、窓から外を見た。雪がたっぷりと降っていた。情緒のある雪ではなく、ちょっと暴力的な雰囲気のある雪だった。
「すごいね、雪」と配偶者は言った。
「旅先じゃなかったら、家にいるだろうね」
「だよね。やばいな。傘ないんだよな」
しかし、我々は、今まさに旅行中なので、外に出る以外に選択はなかった。ちょっと歩いて、喫茶店で朝ごはんを食べることにした。

カフェメルカードという喫茶店に入った。

クリームのたっぷり乗ったコーヒーを飲んだ。ひこにゃんのシールがたくさん張ってあった。ひこにゃんは街のいたるところにいて、かなり愛されていることが感じられる。雪で冷えたからだが温まった。

麗しきは五個荘の街
この雪のなか、街を歩くのは厳しいだろうという話になり、タイムズカーシェアで車を借りた。二人とも、光る君へという紫式部が主人公の大河ドラマを見ていたので、紫式部にゆかりがあり、光る君へとコラボした企画が行われているらしい、石山寺に向かうことにした。
車で走っていると、雪はやみ、徐々に、天気が回復してきた。滋賀の天気は変わりやすいとかあるのだろうか。石山寺へのルートを調べているときに、途中にいい感じの建物が並ぶ五個荘という地域があるのを見つけたので寄ってみた。全然知らなかったのだけど、五個荘というのは近江商人発祥の地と呼ばれているらしく、有名な商人をたくさん排出した地域らしい。

確かに、趣深い建物が多く並んでいて威厳がある。滋賀というのは、長い歴史があるので、こうした風光明媚な地域がたくさんあるらしい。道のわきには水路があって、覗き込むと川中地蔵なるものがあった。花が添えられている。こんなところに今でも続く信仰があるのだなあ。過度に観光地化されていない、素朴な良さがある。

水路はかなりしっかりと作られていて、鯉がたくさん泳いでいた。なんというか、高そうな鯉である。近江商人発祥の地らしいが五個荘はたぶんかなり豊かな地域なのだろうなと思った。

街並みを見学していると、最近はやっている『成瀬は天下を取りに行く』のポスターをいくつか見かけた。成瀬は滋賀の女の子のようで、いろんなところで見かけた。新たな滋賀のアイコンとなりそうな勢いだ。

近江ちゃんぽん、出汁が効いていてとても美味しい
僕は、アクセルをただぼーっと踏んでいたのだけど、ふと気が付いた。
「やばい、腹減ってきかも」
「そうだね、何食べるかね」
「運転してるから、調べてなんかいい感じの滋賀フードを探してよ。よろしく!」と配偶者に伝えた。
「滋賀っぽいものってなんだ」と配偶者はこまっていたのだけど、数分すると、近江ちゃんぽんなる食べ物の店を見つけてきた。配偶者の説明によると、長崎ちゃんぽんとは結構違うもののようだ。チェーン店らしく、滋賀を中心に関西圏にちらほらと店舗があるらしい。

店に入り注文して、どんなものなんだろうねとかなんとか、話をしていると、ちゃんぽんが目の前へとやってきた。

「めっちゃ、おいしそうじゃん......」と僕はつぶやいた。湯気が立ちのぼった。
「いいね、スープの色がラーメンみたいだね。 いい匂いだなあ」
「さっき言っていた通り、長崎のちゃんぽんとは全然違うねスープの色からして正反対だし」
麺をすすった。スープはめちゃくちゃ出汁が利いていて甘めだ。つるりと飲み込むと、ふわんといい香りが鼻に抜けた。僕はうわ~と思った。関西の出汁のパワーはすごい。ちゃんぽんもこんな感じになるのか。正直、そんなに期待をしていなかったのだけど、思ったよりもかなり美味しかった。
紫式部が源氏物語の着想を得た石山寺へ
石山寺に到着した。正直滋賀に来てから、この寺の名前を知ったのだけど、かなり立派な寺のようだ。747年ころに聖武天皇の勅願により建てられた寺院と公式HPに書いてある。( 石山寺の歴史 | 大本山 石山寺 公式ホームページ )

参道を歩いていると、切り立つ巨大な石が現れた。自然の荒々しさを感じさせる。なるほど、確かに、これは”石”山寺と呼ばれるべくして呼ばれている寺だ。なかなか迫力がある。

寺は小高いところに立っているので、大津の街が広がっているのが見えた。

石山寺には、紫式部がいろんなところにいた。本堂にも精巧な紫式部の人形があったのだけど、写真が禁止だったので銅像を撮った。1000年後にこうして、読み継がれ、銅像にまでなってしまうというのは並大抵のことではない。世紀の大作家である。

敷地内に光る君への資料館があったので行ってみた。吉高由里子がアンニュイな表情をしていた。

1000年以上前に書かれた文学がいまだに読まれて、こうしてドラマ化されているのだから、なんだかんだ日本の文化というのはけっこうすごいものだなあと思った。

寺の前にあった売店で、石餅なるものを買った。石山寺の名物らしい。硬いのだろうか....

帰りの新幹線で開けてみた。餅の上に、つぶあんと栗が乗っている。これが絶妙な弾力で、とても美味しかった。一瞬でひと箱食べてしまった。僕は餅をかみしめながら「滋賀県、めちゃちゃ楽しかったな」とつぶやいた。
「本当に。なんとなく来ただけなのに、正直、めっちゃよかったよね」
京都はそりゃすごいし、行けば圧倒されるほどいろいろなものがある。滋賀県も来てみれば、これは大変に楽しい所だ。いろいろと昔から続く独自の文化があるようなので、今度は消極的選択ではなく、第一目的地として滋賀に来てみようと思った。

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