テレビの国のアイドル

 青春時代の甘酸っぱい思い出は、いくつになっても心の奥の涙腺を少し切なく刺激します。

 今日では「オールドメディア」と呼ばれるテレビですが、テレビの国がキラキラしていた80年代のアイドルグループといえばなんといっても「おニャン子クラブ」でしょう。 

 おニャン子クラブとは、1985(昭和60)年4月1日に放送を開始したフジテレビ系全国ネット番組「夕やけニャンニャン」から誕生したアイドルグループで、11人でスタートし、最終的には総勢52名にもなりました(B組等は除く)。そして、グループとしての楽曲とは別に、ソロデビューしたメンバーも多く、河合その子さんもその一人でした。

 一方、夕やけニャンニャンは、それまでドラマの再放送時間帯であった夕方5(17)時に生放送の全国ネットという画期的な番組でしたが、当初、関西(近畿2府4県の近畿広域圏)ではネットされていませんでした。

 そんな時、一つの奇跡が起こります。夕やけニャンニャンが関西で放送されていなかったことをいいことに、大阪の朝日放送(現:ABCテレビ)があろうことか、夕やけニャンニャンをパクって、「YOUごはんまた?(ゆうごはんまだ)」という番組を同じ年の5月13日からローカル番組としてスタートさせました。これにすぐ反応したのか、フジテレビの系列局でありながら夕やけニャンニャンをネットしていなかった同じ大阪の関西テレビ放送です。関西テレビは、約2週間の告知CMを打った上で、番組開始から約2か月遅れで、同年6月3日から夕やけニャンニャンのネットを開始したのです。

 関西では在阪局が全国ネット番組をわざと放送しないことがあり、クイズ・ドレミファドン!、オールナイトフジ、ネプリーグ、いかすバンド天国、ワンダフルなど多くの全国ネット番組が関西では放送されてきませんでした。例えば、TBS系のいかすバンド天国では、全国をブロックに分けて視聴者が審査し、その状況をパネルで示すのですが、在阪局である毎日放送は最後までネットせず、番組では近畿地方が空白に表示されるのを防ぐため、こともあろうに「近畿・中国四国ブロック」なる奇策を講じました。

 そんな状況でも、関西のファンはへこたれません。インターネットなどない時代、情報はもっばら雑誌しかありません。それでも、ワンダフル(TBS系)がネットされていなかった大阪でのワンダフルガールズワンギャル)のイベントには、人数は少ないもののファンが集まったのです。

 もし、夕やけニャンニャンが関西で放送されてていなかったら、「じゃあね」や河合その子さんの「青いスタスィオン」のような名曲が、今に残って22/7の西條和さんにカバーされることはなかったでしょう。

 ところで、当時を経験した人たちに話を聞くと、夕やけニャンニャン、そしておニャン子クラブの魅力は、「帰宅部」の中高生を中心に、思春期のちょっと背伸びしたい年頃の情欲的な憧れを“あぶない”という言葉でオブラートにつつみながらも、何気なくつまらなかった日常を、より魅力的なものに変えていったとのことでした。

 翻って現代、私たちの日常にはインターネットがあり、スマホをいじることが当たり前になっています。もちろん、昔からデパートの屋上などでアイドルの握手会のようなものがあり、大規模なレコード店では昔も今と変わることなくリリイベが行われていました。しかし、今では好きな時間に好きなだけ楽曲のMVを視聴できたり、SNSで交流することが身近になって、より気軽に推すことが可能になりました。

 推しに出会う機会がテレビからYouTubeにかわっても、情報源が雑誌などからSNSにかわっても、アイドルはアイドルに憧れる思春期の世代だけではなく、多くの人々の日常に活気を与え、繰り返される日常に彩りを添えることができるのであれば、「推し活」とは実はとっても素晴らしいことだとは思いませんか。