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発火リスク少なく超長寿命なナトリウムイオン電池の実力 開発者に聞いた
2026年1月9日 08:05
冬にスキーやスノーボードへ行ったら、さっきまで80%くらいあったスマートフォンのバッテリー残量が、一瞬で10%くらいになっていて焦った……なんていう経験は誰でもあるだろう。また昨今は、モバイルバッテリーが突然発火したというニュースを何度か見て、就寝時に枕元で充電するのが怖くなった……というのは、筆者の話だ。
リチウムイオン電池は、ユーザーの様々な不安や不満を少しずつ解消し続けてきた。昨今も進化は止まらず、EVやスマートフォン、モバイルバッテリーなど各製品ジャンルで改良され続けている。そんななかで、安全性や長寿命性をさらに向上させると期待されている、次世代バッテリーと呼ばれていたナトリウムイオン電池や半個体電池もモバイルバッテリーとして製品化されている。
エレコムも、ナトリウムイオン電池を採用した「ナトリウムイオン電池モバイルバッテリー DE-C55L-9000」を、世界で初めて発売した。そこで、同社の商品開発を担当した、スーパーバイザーの田邉明寛さんに、ナトリウムイオン電池を使うメリットと今後の展望を聞いてきた。
安全なうえに超長寿命なナトリウムイオン電池
「ナトリウムイオン電池モバイルバッテリー DE-C55L-9000」は、容量が9,000mAhで、最大出力が45Wのためパソコンの充電も可能。直販価格は9,980円。
そもそもナトリウムイオン電池のモバイルバッテリーのユーザーメリットは何か? 田邉さんは次のように話す。
「従来のリチウムイオン電池より、安全性が高いことは間違いありません。その安全性ですが、まずモバイルバッテリーを日々使用している際の安全性が1つあり、さらに何年も使う場合での安全性が挙げられます」(田邉さん)
例えば従来のモバイルバッテリーに外部から衝撃を与えると……つまりは固い地面に落としたり、めったにないと思うが釘を刺したりすると、一気に発火リスクが高まる。これらは電池内部の正極と負極が接触することで、急激に電池内部で化学反応が起こり、温度上昇して発火に至るのだという。ナトリウムイオン電池は、温度上昇が緩やかなため、発火に至りにくいのだという。
「もう1つ、通常のリチウムイオン電池は、充電を重ねていくと……だいたい500〜1,000回くらいを超えると、電池の内部にデンドライトという針のようなものが形成されます。この針のようなものが時間をかけて成長し、釘刺しと同じようにセパレートを突き抜けて負極と正極がつながると、発火のリスクが高まります」(田邉さん)
筆者はデンドライトを知らなかったのでネットで調べてみたところ、雪の結晶のようなきれいな形状をしている。このデンドライトの成長が、リチウムイオン電池は早いのだという。
「一方のナトリウムイオン電池の場合は、デンドライトの成長が非常にゆっくりです。そのため、一般的なリチウムイオン電池の充電サイクル回数が、だいたい500回なのに対して、ナトリウムイオン電池のそれは10倍の5,000回になります」(田邉さん)
電池寿命をスマートフォンで想像すると分かりやすい。現在のスマートフォンにはリチウムイオン電池が搭載されている。その電池容量は、だいたい5,000mAh前後。リチウムイオン電池を1日1回充電した場合に、2年弱くらいで充電サイクル回数の目安である500回に達する計算になる。これが2倍の1,000回だとしても、4年くらいだ。
スマートフォンに限らず、モバイルバッテリーなどを頻繁かつ長期間使うほど「あれ? もうバッテリーが切れそうだよ……」と感じるのは、この充電サイクル回数と関連している。電池が劣化しているのだ。これをもし、寿命が10倍のナトリウムイオン電池に置き換えると、20年近くストレスなく使い続けられるはず。
「そういう計算になります。そのため今までは、約2年くらいでバッテリーの持ちが悪くなってきたなぁと思い、それでスマートフォンなどは買い替えを検討し始める人が多かったと思います。ナトリウムイオン電池にすると、そうした状況が変わるはずです」(田邉さん)
安全で長寿命なナトリウムイオン電池には、もう1つのメリットがある。それは正常に使える温度範囲が広いことだ。
「通常のリチウムイオン電池の動作温度範囲は、0〜40℃程度です。冬の寒冷地では、スマートフォンなどのバッテリーが驚くほど早くなくなっていきますよね。でも、このナトリウムイオン電池であれば、-35~50℃の環境でもバッテリーの減りが早くなることなく、普通に使い続けられるんです」(田邉さん)
筆者は昔、雪山を登山していた時に、デジタルカメラのバッテリーを外して、ポケットであたためていたことを思い出した。ナトリウムイオン電池になれば、そんな必要もなくなるのだろうか。
「そうですね。ただし、現状ではモバイルバッテリーだけをナトリウムイオン電池にしても、受け手のスマートフォンやデジタルカメラなどが氷点下での使用にほとんど耐えられないので……」(田邉さん)
なるほど、いくら最大出力30WのUSB Type-Cケーブルを持っていても、受け手のデバイスが、入力30Wに対応していなければ、充電できないのと同じだ。ただし、「ナトリウムイオンモバイルバッテリー DE-C55L-9000」のように、-35℃でも平気で使えるモバイルバッテリーが登場したのだから、寒冷地仕様のデバイスが充実してくることも期待したい。
安全性が高く、寿命も超長いけれど……
従来電池よりも、とにかく安全で長寿命、さらに寒冷地でも問題なく使えるナトリウムイオン電池……無責任ユーザー代表の筆者としては「早く全てのデジタルデバイスを、ナトリウムイオン電池に換装してくれ!」と、短絡的に考えてしまう。
「そう思いますよね(笑)。ただし、当然、ナトリウムイオン電池にも弱点があるんです。1つは、現状では値段が高いこと。もう1つが、エネルギー密度が低く本体のサイズが大きくなってしまうことです」(田邉さん)
たしかに……2025年12月現在のエレコム製品の直販価格は10,000mAhのリチウムイオン電池(DE-C46L-10000)が5,000円前後。リン酸鉄が12,000mAhとはいえ13,585円、ナトリウムイオン電池が9,000mAhで9,980円だ。
ただし、値段に関しては、筆者の個人的な感想だと、購入をためらう値段ではあるけれど、もし次にモバイルバッテリーを買う必要があったら、ナトリウムイオン電池も十分に選択肢に挙がる可能性はある。なんといっても、充電サイクル回数が5,000回……1日1回の充電としても20年弱ももつ。9,000mAhも毎日充電するとも思えないので、筆者の歳でいえばもはや一生モノと言っても大げさではない。
「やはりナトリウムイオン電池は、まだ採用され始めたばかりですので、高くなってしまいます。ただし、名前のとおり主原料が、地球のどこにでもあるナトリウムです。たくさん作られるようになれば、安くなる期待値は高いです」(田邉さん)
この、(三元系)リチウムイオン電池とは異なり、レアアースやレアメタルを使っていない点は、かなり応援したくなるポイントだ。当然、環境にも、かなり良い。
ただし、ナトリウムイオン電池のもう1つの弱点は、けっこうヘビーな問題だ。
「現段階では、ナトリウムイオン電池のエネルギー密度は、リチウムイオン電池に比べて低いんです。そのため同じ容量のモバイルバッテリーでも、どうしても重くて大きくなってしまいます」(田邉さん)
両方式のモバイルバッテリーを持ってみると実感する。まず驚くのは、容量10,000mAhのリチウムイオン電池の小さいこと。「10,000mAhもあるのに、こんなに小さくなったかぁ」と感慨深い。それと比べてナトリウムイオン電池の9,000mAhの大きいこと(笑)。その大きさは、もはや懐かしさすら感じる。
だが、数年前はリチウムイオン電池だって、同じような大きさだったのだ。ナトリウムイオン電池も、これからどんどん小さくなるのか?
「そうですよね。リチウムイオン電池もはじめからこんなに小さかったわけではありません。時間をかけてじわじわと小さくなり、やっとここまで小さくなりました。一方のナトリウムイオン電池は、まだ製品化されたばかりです。今後の開発により、エネルギー密度が高まっていく……小さく軽くなっていく可能性は十分にあります」(田邉さん)
| 商品名 | リチウムイオン電池 DE-C46L-10000 | リン酸鉄 DE-C39-12000 | ナトリウムイオン電池 DE-C55L-9000 |
|---|---|---|---|
| 容量(mAh) | 10,000 | 12,000 | 9,000 |
| 合計最大出力 | 15W | 20W | 45W |
| 充電サイクル(目安) | 500回 | 1,000回 | 5,000回 |
| 本体サイズ (幅×奥行き×高さ) | 約58×26.5×81.5mm | 約78×17×159mm | 約87×31×106mm |
| 重さ | 約190g | 約310g | 約350g |
リン酸鉄/ナトリウム/半個体電池の中で最も安全な電池は?
最後に、安全性について補足しておきたい。田邉さんには「従来からあるリチウムイオン電池と、昨今はポータブル電源での採用が多いリン酸鉄のリチウムイオン電池と、それに次世代電池と言われるナトリウムイオン電池、それに半固体電池とで比べると、安全性が高いのはどれなのか?」という質問をした。
「従来からのリチウムイオン電池も、様々な工夫により安税制が高められていますが、発火のニュースがあるとおり、絶対に安全だとは言いづらいです。特に暑い環境で使ったり推奨される充電サイクル回数を超えた期間で使っていたりする場合は、より注意が必要になります」(田邉さん)
リチウムイオン電池については、“物持ちが良い”なんていうのは美徳ではなく、リスクなのだ。では、様々なメーカーが「これは絶対に安全です!」と言っているリン酸鉄のリチウムイオン電池や、釘を刺しても大丈夫だというナトリウムイオン電池や半固体電池を、比較するとどうなのか?
「1番を決めるとなると非常に難しく、どれも安全です。ただし、この中で社会的に安全性が証明されている、実績で圧倒しているのはリン酸鉄リチウムイオン電池です。最も普及していますからね」(田邉さん)
既にリン酸鉄の場合は、ポータブル電源やEVにも実装され、桁違いに大量に使われている。日々テストされていて、あらゆる環境や状況下での安全性が確認済みだということ。
「それに対してナトリウムイオン電池や半固体電池は、まだほとんど商品化されていません。そのため、実際に使ってみて安全なのかという確証は得られていない状況です」(田邉さん)
理論的には安全だが、実証に関してはリン酸鉄リチウムイオン電池と比べてしまうと、まだ不十分だということ。
それでもナトリウムイオン電池は、どこにでもあるナトリウムを主原料とし、コストが安くなる可能性が期待できるほか、バッテリー寿命が長く環境にも優しいのは確実。モバイルバッテリー購入時には、ついつい価格と容量のコスパを見て決めがちだが、価格と充電サイクル回数や環境性能などを考えれば、ナトリウムイオン電池も既に競争力があると感じる。早く普及して、さらに開発を加速させてもらいたいと、思わずにはいられない。




