遊心逍遥記

遊び心で本の森を逍遥し、その時の思いを残しておこうと始めました。

『神の時空 三輪の山祇』 高田崇史  講談社NOVELS

 [神の時空(かみのとき)]シリーズは、『鎌倉の地龍』から始まり、この『三輪の山祇(やまづみ)』で4作目になる。
 本書は、講談社ノベルスとして、2015年7月に刊行された。

 このシリーズは、高村皇(たかむらすめろぎ)の謀計のもとに、高村皇の命を受けた輩が蠢き、超常現象を起こす事件に辻曲家の兄妹たちが遭遇する。彼らが、高村皇が背後に存在することを知ることなく、事件の解決に奔走する姿を描いて行く。
 清和源氏の血を引き、もともとは中伊豆の旧家だったが、今は長男の了を家長として兄妹が東京・中目黒の古い一軒家に暮らしている。この辻曲家の姉妹は先祖から受け継いだシャーマン的な能力に秀でた特質を持つ。鎌倉・由比ヶ浜女学院1年生の次女・摩季が鎌倉の鶴岡八幡宮で起こった事件に巻き込まれて死亡する。
 辻曲家の長男・了は、妹に「死反術(まかるがえしのじゅつ)」を執り行って、摩季の命を取り戻そうと決断する。
 この術式は、古代日本の物部氏系統の書である『先代旧事本紀』にのみ収載されている術式なのだ。それは「十種(とくさ)の神宝(かんだから)」に関わっている。この「十種の神宝」が揃うことで、「死反術」の術式を執り行えるという。辻曲家には十種のうちの二種が「辻曲家の深秘(じんぴ)」として代々伝わっている。摩季の死から7日以内にこの「死反術」を実施するために、長女の彩音(あやね)が、三女の巳雨(みう)とともに、福来陽一の協力を得て、残り八種の神宝を入手すべく各地に出かけて行く。
 ところが、その出向く地の先々は、高村皇が謀計を遂行するための破壊対象地になっていく。そのため、辻曲彩音は高村皇の存在を知らないままに、その謀計を阻止する対決者の立場に立たされることになる。
 名古屋の熱田神宮を経て、前作では京都の貴船神社が中心の舞台となり、対決に発展した。この「三輪の山祇」ではその対決の舞台が奈良の三輪山、大神(おおみわ)神社に移る。


 高村皇が謀計の一環として、怪我から回復した磯笛を大神神社に差し向けることから始まる。高村皇は、磯笛の片腕として天地否(あまちいなめ)を付ける。その一方で、鳴石を奈良に先行させているという。目的は、大神神社すなわち三輪山に鎮められている怨霊を目覚めさせよということなのだ。

 事件は奈良の高校生・早見淳一が死亡したことから始まる。淳一は「蛇が・・・」と言い残して死んだという。田村暁(こう)は仰天する。というのは、淳一から高校卒業までに一度は三輪山へ登ってみようと誘われて、二人だけで三輪山に登ったのだ。
 三輪山大神神社御神体山。頂上には村の鎮守様という程度の神社が建てられていて、その奧に、奧津磐座がある。二人はその磐座までいく。そこで、淳一がとんでもないことを行う。磐座に登り、そこから石を3つ取ってきたのだ。苦労して登ってきた土産にするという。そのうちの一つを田村暁に手渡す。暁は躊躇したのだが、淳一にいつから迷信深くなったのかと問われ、そそのかされて、手渡された石を持って帰る。
 ところが、早見淳一が「蛇が・・・」と言い残し死んだと聞く。バチがあたったのだと畏れ、暁は自分の持ち帰った石を三輪山に返しに行こうと決意し行動する。警察の調べで、理由は不明だが早見淳一は殺害されたことが判明する。警察は淳一の友人の暁が淳一の死の前に一緒に行動していたので、暁に事情を聞こうと連絡をとる。
 暁は、手許の石を三輪山に帰すことと、警察の事情聴取に対応すること、そのどちらを優先させるかにまず悩む羽目となる。

 ここで、2つの独立した事象が同時併行で進展していく。
 一つは、第2作『倭の水霊』に登場した涙川紗也(なみかわさや)がふとしたことから、奈良に出かけてくる。横須賀市の走水神社の近くに引っ越す決意をした紗也が、新しい生活に入る前に、自分を縛る過去をどこかの神社にお参りして祓ってもらえたらと考えたことによる。書店に入り、旅行ガイドブックを眺めているときに、書棚から目の前に落ちてきた一冊のガイドブックを手にして、京都から奈良・大神神社に行こうと決めたのだ。
 もう一つは、辻曲彩音らである。貴船神社に行き事件に遭遇し、対峙することになったが、最後に貴船川の霊水を入手し、東京への帰路につこうとした。だが、京都・祇園の裏通りあたりまで戻ってきたところで、車のエンジン不調で立ち往生する羽目になる。
 それは、単に車の不調だけではなく、同乗していた福来陽一とともに彩音も何か嫌な感覚、不吉な感覚を覚え始めていたのだった。さらに、三女の巳雨が伴ってきたシベリア猫のグリが突然車内から飛び出していく。グリは小柄な老人を追いかけて一直線に飛び出して行ったのだ。彩音はグリを追いかける。グリが捕まえたのは六道佐助(りくどうさすけ)だった。
 彩音は佐助が磯笛に頼まれて涙川紗也をつけ回していたこと、紗也が大神神社に行くらしいことを知る。磯笛・紗也・大神神社ということから、彩音の抱いた不吉な感覚が、奈良・大神神社に関係しているのではと思いをめぐらし、奈良に向かう決断をする。


 このストーリーは、大神神社三輪山にかかわって、高村皇の意図のもとに命じられて行動する輩に対し、田村暁、涙川紗也、彩音の一行が、蠢く輩に対立する立場で収斂していき、問題事象を解決するプロセスを描く。
 再び怨霊を解き放とうとする企みに対する対立ドラマである。

 一方で、このストーリーは、彩音の要望で、福来陽一--実はヌリカベ--を黒子として、東京の「猫柳珈琲店」に居つく幽霊・火地晋の考えを引き出し、大神神社に潜む謎を明らかにしていくプロセスである。大神神社の立地、三輪山と祭神についての謎解きでもある。
 三輪山の怨霊を彩音たちが鎮めるためには、この謎の解明が必須なのだった。徐々に三輪山の神の謎が明らかになっていく。そこには壮大な歴史の闇が潜んでいた。この解明作業がこのストーリーの中軸になっている。読み応えがある部分だ。
 日本歴史の闇の部分に光をあてることに関心・興味をお持ちの読者には、かなりスリリングな謎解きプロセスであり、楽しめることと思う。
 歴史史料の行間を読み、史料を縦横にリンクさせていくところから広がり深まる世界、そこにある謎の解明を、この第4作で再び堪能できるという趣向である。
 
 ご一読ありがとうございます。     【覚書 2015.10.30(金) 記】

    【付記】 文庫本 2018年3月 刊行

 

本書に関連する事項をネット検索してみた。一覧にしておきたい。
 (掲載当時のリストの中で 2025.12.14 現在でアクセスが確認できた項目)
先代旧事本紀  :ウィキペディア
三輪明神 大神神社 公式ホームページ
  三輪山登拝について  
狭井神社 (さいじんじゃ) (桜井市 三輪)  :「桜井市観光協会
三輪山  :ウィキペディア
雄神神社 【おが】(奈良県奈良市都祁白石町)  :「さくらインターネト」
大国主  :ウィキペディア
大己貴神(オオナムチ)  :「日本神話・神社まとめ」

 

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【 読書録整理函 】

gooブログで2011年8月から「遊心逍遥記」を開設。10年余続けた時点でログインでミスをして、ブロックがかかってしまい、復旧はできませんでした。それで、「遊心逍遥記その2」を新たに開設して継続。こちらはデータ移設が完了。
旧ブログ記事はその後、問い合わせもしてみましたが、データの移設不可という結論に。
読書感想・印象記は原稿を書いた後にブログ記事を掲載していましたので、当時の原稿はファイルとして残っています。

そこで、愛読作家の諸作品と手軽に参照したいものについて、カテゴリー別に抽出してまとめて、再掲載してみたくなりました。
「読書録整理函」として、私自身の記憶の引き出しづくりをしていきたいと思います。

掲載当時の読後感想・印象の本文を掲載いたします。どんな気持ちで読んでいたかの軌跡を残すためにも。再掲にあたり、凡ミス等に気づいた箇所は訂正を加えています。
当時、補遺としてネットで調べた事項を併載していました。ここには、アクセスが再確認できたものを併載します。

こちらもお読みいただければうれしいです。

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