遊心逍遥記

遊び心で本の森を逍遥し、その時の思いを残しておこうと始めました。

澤田瞳子

『恋ふらむ鳥は』  澤田瞳子   毎日新聞出版

古代歴史小説。飛鳥時代末期に生きたに額田王(ぬかたのおおきみ)が主人公。 歴史年表風に言えば、斎明天皇(皇極重祚)の末期、「660年10月:百済、唐・新羅に敗れ、救援を求めるが、百済滅亡。661年1月:新羅征討の軍進発、斉明天皇親征。同年7月:斉明天…

『星落ちて、なお』   澤田瞳子  文藝春秋

読み継いでいる作家の一人。読了後に少し関連情報をネット検索していて、遅ればせながら、この作品が2021年上期の直木賞受賞作だったということを知った。奥書を読むと、別冊文藝春秋(2019年7月号~2021年1月号)に連載後、2021年5月に単行本が出版されてい…

『輝山』  澤田瞳子  徳間書店

現在の島根県西部は、江戸時代、石見国と称され、天領(幕府領)、津和野藩と浜田藩が分有し支配していた。江戸幕府は大森町に大森代官所を置き、石見銀山附御料を支配する役所とした。この代官所は江戸幕府開闢以前から銀の産出地である杣の山を御直山とし…

『与楽の飯 東大寺造仏所炊屋私記』  澤田瞳子  光文社

本書は「小説宝石」の2013年12月号~2015年2月号の偶数月号(4月を除く)に、短編連作として発表されたものをまとめて、2015年8月に単行本が刊行された。 副題から、東大寺の毘盧舎那大仏造立の作業所に関連する内容であること。その作業所に設けられた炊屋…

『駆け入りの寺』  澤田瞳子  文藝春秋

「オール讀物」(2016年1月号~2019年12月号の期間)に年2作の掲載で発表された短編をまとめて、2020年4月に単行本として出版されたもの。合計7作の短編は連作として、いわばオムニバス形式と言えるものになっている。 京都・洛北にある修学院離宮に隣接した…

『日輪の賦』  澤田瞳子  幻冬舎

2013年3月に書き下ろしの単行本として出版された。著者は前年(2012)に『満つる月の如し』で第2回本屋が選ぶ時代小説大賞を受賞している。実は著者の作品で一番最初に読んだのが、仏師・定朝を主人公にしたこの小説だった。その後、奥書に記された本のタイ…

『月人壮士 つきひとおとこ』  澤田瞳子  中央公論新社

『小説BOC』創刊号から10号(2016年4月~2018年7月)に連載されたものに加筆修正を加え、2019年6月に単行本化された。著者の小説を読み継ぐ中で、その一冊として本書を手に取った。 本書の末尾に、興味深い広告文が入っている。2019年に「螺旋プロジェク…

『秋萩の散る』  澤田瞳子  徳間書店

「問題小説」(2011年7月号)、「読楽}(2013年9月号、2016年5月号)、「小説新潮}(2014年7月号)に短編4作が発表され、これに本書の題名と同じタイトルの短編が書き下ろされて、計5作の短編集が2016年10月に単行本として出版された。2019年10月に文庫化…

『関越えの夜 東海道浮世がたり』  澤田瞳子  徳間文庫

2014年2月に単行本が徳間書店から刊行され、2017年11月に文庫化されている。 12話の短編連作集で、第4話のタイトルが本書の題名になっている。「東海道浮世がたり」という副題が付いている通り、東海道を行き交う人々の喜怒哀楽、さまざまな場面が鮮やかに切…

『師走の扶持 京都鷹ヶ峰御薬園日録』  澤田瞳子  徳間書店

『ふたり妻』に続く「京都鷹ヶ峰御薬園日録」シリーズ第2弾。今回も6つの短編連作が収録されている。「読楽」の2014年1月号から2015年1月号の期間中、奇数月に連載された。、2015年11月に単行本として刊行され、2018年5月に徳間時代小説文庫となった。。 …

『ふたり女房 京都鷹ヶ峰御薬園日録』  澤田瞳子  徳間書店

著者の作品を読み継いできている。まず関心を抱いたのは、この小説のタイトルに記された「鷹ヶ峰御薬園」。 なぜか? この御薬園の跡地を史跡探訪の一環で通ったことがあるから。 今は駐車場になった場所の一隅に、跡地を示す石標が建てられている。 この2…

『夢も定かに』  澤田瞳子  中公文庫

著者は2010年に『弧鷹の天』(2011年:中山義秀文学賞受賞)でデビューし、2012年に『満つる月の如し 仏師・定朝』(2013年:本屋が選ぶ時代小説大賞/新田次郎文学賞受賞)を出版。2013年に本書と『日輪の賦』を出版している。そして本書は2016年10月に文庫…

『能楽ものがたり 稚児桜』  澤田瞳子  淡交社

月刊『なごみ』の2017年7月号から2019年6月号までの期間に、3ヵ月連載を1作として連載された短編をまとめて出版された単行本。「能楽ものがたり」とタイトルにある通り、能の曲目を下敷きにしている。和歌で言えば本歌取りという作歌法、四字熟語「換骨奪胎…

『名残の花』  澤田瞳子  新潮社

2015年から2018年にかけて「小説新潮」に断続的に発表された6つの短編連作に加筆修正を行い、単行本化された作品集。 「名残の花」はこの連作の第一作の題名。それが単行本のタイトルになっている。そして、第一作「名残の花」の中で、「誘う花とつれて、散…

『落花』 澤田瞳子  中央公論新社

主人公は仁和寺の僧・寬朝。先帝醍醐天皇の同母弟であり、若き頃より政の中枢に身を置く敦実親王の第一皇子として、寬朝は生まれた。だがその出生の数寄さ故に父から忌み嫌われて、幼少の時点で、僧になるべしと仁和寺に放り込まれる。仁和寺の開基は寛平法…

『龍華記』  澤田瞳子  KADOKAWA

この小説のメイン・テーマは、釈尊が弟子に語った訓話集『発句経』の「怨みごころは怨みを捨てることによってのみ消ゆる」という一節だと思う。興福寺の悪僧(僧兵)に身を落とした範長(はんちょう)が、様々な戦いと行動・葛藤を経てこの釈尊のメッセージ…

『火定』  澤田瞳子  PHP

「世の僧侶たちは時に御仏に少しでも近付かんとして、ある者は水中に我が身を投じ、ある者は自ら燃え盛る焔に身を投じるという。もしかしたら京を荒れ野に変えるが如き病に焼かれ、人としての心を失った者に翻弄される自分たちもまた、この世の業火によって…

『泣くな道真 -太宰府の詩-』  澤田瞳子  集英社文庫

先般『腐れ梅』を読み、その奥書からこの小説が出版されていることを知った。菅原道真絡みの関心から早速読んでみた。末尾にこの作品が書き下ろしであると付記してあるので、当初から文庫本として出版されたようである。2014年6月に出版されている。 手許の…

『腐れ梅』 澤田瞳子  集英社

「ほとがかゆい」という独り言で始まり、「ほとがかゆい」という独り言でストーリーが締めくくられる。一瞬、ええっ!と艶っぽさを感じさせる冒頭である。そして、巻末も同じ独り言で終わる。しかし、この同じ語句が全く異なる状況での独り言であり、一人の…

『若冲』 澤田瞳子  文藝春秋

平成10年(1998)に「京の絵師は百花繚乱」(京都文化博物館)というタイトルの展覧会があった。京の都はまさに様々な絵師が様々な画風・技法・技巧で競ってきた場である。数多の絵師の中で、江戸時代にあって、個性的な絵を描き続けた若冲は心惹かれる絵師…

『孤鷹の天』  澤田瞳子   徳間書店

聖武天皇から皇位を継いだ孝謙天皇(在位749~748)の時代、光明皇太后の権威と結びついた藤原仲麻呂は天平宝宇3年(759)に太師(太政大臣)の地位に昇りつめる。「恵美押勝」の美称を賜り、55歳にして人臣として最高位の官職に就く。 その少し前、757年に…

『満つる月の如し 仏師・定朝』 澤田瞳子  徳間書店

最近、仏像鑑賞のための本を数冊読み継いできていたので、たまたまある新聞記事でこの作品名を知り、「仏師・定朝」という副題に関心をもち読んだ。その際、本作が新田次郎文学賞の受賞(2013年)作品だということも知った。この著者の作品を読むのはこれが初…

『孤城春たり』  澤田瞳子   徳間書店

備中松山城。地図で確かめると岡山県岡山市の北西に位置する高梁(タカハシ)市に所在する。JR伯備線備中高梁駅が最寄り駅。城はこの駅から北方向にあり、備中高梁駅から遊歩道を歩いて登れば天守までは約90分の距離という。 備中松山藩の先代藩主・板倉勝職の時…

『赫夜』   澤田瞳子    光文社

タイトルの「赫夜」には「かぐよ」というルビが振られている。 赤を二つ並べたこの最初の漢字は、辞典を引くと「火がまっかにかがやく意を表す。①あかい。(ア)まっか。火のあかいさま。②さかん(盛)。勢いのさかんなさま。③かがやく。ひかる(光)」(『角川新…

『月ぞ流るる』   澤田瞳子   文藝春秋

平安時代後期に『大鏡』という歴史物語が書かれた。これに先立つ歴史物語の始まりとなったのは『栄花物語』。『栄花物語』は正編・続編から構成される。正編を書いたのは赤染衛門と言われている。その赤染衛門が本作では朝児という名前で登場する。 朝児の夫…

『のち更に咲く』  澤田瞳子  新潮社

本書を読み終えてから、ネット検索で関連情報を調べてみた。そして、本作は実に巧妙な構想で、歴史的題材をベースに、史実の空隙にフィクションを織り込み、複数の謎解きというミステリー仕立てにしていると思った。下層貴族の懊悩に共感させていく筆致は、…

『天神さんが晴れなら』   澤田瞳子   徳間書店

小説かと思って手に取ってみたら、エッセイ集だった。2023年4月の刊行である。 冒頭のエッセイの見出しが「天神さんが晴れなら」である。この一文に、「天神さんが晴れなら弘法さんは雨。弘法さんが晴れなら天神さんは雨」との諺があると記されている。京都…

『漆花ひとつ』 澤田瞳子  講談社

著者の作品を読み継いできている。本書は、白河上皇の死後、鳥羽上皇(宗仁)・後白河上皇(雅仁)・二条天皇(守仁)の時代、いわゆる院政時代を題材に取り上げる。天皇家の系譜における政治的確執を背景に、史実を踏まえて様々な確執の局面に焦点をあてて…