遊心逍遥記

遊び心で本の森を逍遥し、その時の思いを残しておこうと始めました。

歴史時代小説

『逆軍の旗』  藤沢周平   文春文庫

藤沢周平の小説は文庫本で集めた。どちらかというと、晩年に文庫本となった小説からランダムに読み始めている。 本書は1985(昭和60)年3月に文庫化された。単行本が刊行されたのは、1976(昭和51)年6月、著者49歳の時である。 この短編集を先に読もうと思…

『漆の実のみのる国』(文藝春秋) と 『用心棒日月抄』(新潮社)  藤沢周平  

『漆の実のみのる国』 文春文庫 ブログ記事を書き始める前に、本書の読後印象をアマゾンに投稿していた。 覚書を兼ねて、こちらに掲載しておきたいと思う。 著者最晩年の作品。「年譜」を参照すると、1993(平成5)年1月、66歳の年に「漆の実のみのる国」が…

『暦のしずく』   沢木耕太郎    朝日新聞出版

著者の作品は、2024年8月に『天路の旅人』を読んで以来、これが二作目。 本書は、朝日新聞「be」(2022年10月1日~2024年8月31日)に連載された後、2025年6月に単行本が刊行された。 日本の長い芸能史を通じて、芸によって死刑に処せられ、獄門となった芸…

『新・紫式部日記』  夏山かほる  日本経済新聞出版社

先日ご紹介した『源氏五十五帖』を読んだとき、著者プロフィールから本書を知った。 2019年に第11回日経小説大賞を受賞した作品で、著者の作家デビュー作という。 2020年2月に単行本が刊行された。 紫式部は『紫式部日記』を書いている。1010年頃に成立した…

『月と日の后』  冲方 丁  PHP

一条天皇の中宮となった藤原道長の長女・彰子の人生、その生き様を描いた小説である。清少納言を介して中宮定子を、紫式部を介して中宮彰子に触れるということが今までのパターンだった。そして、藤原道長が長女・彰子を一条天皇へ入内させたことにより、藤…

『秘密の花園』   朝井まかて   日本経済新聞出版

本書は「秘密の花壇」というタイトルで日本経済新聞夕刊(2020年1月4日~12月28日)に連載された後、「秘密の花園」に改題され、単行本が2024年1月に刊行された。 朝井まかてさんの小説を読み継いでいるので、近作の本書を事前情報なしに手に取って読み始め…

『親鸞 完結篇』上・下  五木寛之  講談社

奥書を読むと、この『完結篇』は全国各地の新聞37紙に2013年7月1日から2014年10月6日まで連載され、それに加筆修正して2014年11月に単行本が出版された。2016年5月に文庫化されている。 61歳で親鸞は激動の地・京都に戻る決意をした。この『完結篇』は、親鸞…

『親鸞 激動篇』上・下  五木寛之  講談社

「承元の法難」と称される念仏禁制の弾圧で、師の法然は讃岐へ。親鸞は藤井善信の俗名を与えられ越後へ流刑となる。この時、自ら愚禿親鸞と名を変え、妻の恵信とともに北国に旅立つ。この「激動篇」は、親鸞が越後の国府の浜に着いた1年後の春から始まる。描…

『親鸞』上・下  五木寛之  講談社

本書は、奥書によれば、2008年9月1日から2009年8月31日まで新聞27紙に連載された後、加筆修正されて2010年1月に上・下巻の単行本として発刊された。2011年10月に「青春篇」の副題が付き文庫化されている。 この小説『親鸞』は親鸞の幼少の頃から30代にいたる…

『江戸の夢びらき』  松井今朝子  文藝春秋

初代市川團十郎の歌舞伎役者人生を描くとともに、二代目團十郎が己の芸風を確立するまでを点描風に描き加えるた時代小説である。「オール讀物」の2019年2月号から2020年3・4月合併号に連載され、2020年4月に単行本が刊行された。 この小説の最後の章名が「江…

『そろそろ旅に』 松井今朝子 講談社

本書は十返舎一九の伝記小説。歴史年表を見ると、江戸時代享和2年(1802)に「東海道中膝栗毛」と記載されている。 本書のエピローグを読んで目から鱗。というのは、年表記載の作者名・作品名を学生時代に暗記した以外は、弥次さん、喜多さんの名コンビによ…

『鋼鉄の城塞 ヤマトブジシンスイス』 伊東 潤    幻冬舎

団塊の世代の一人として、今あらためて昭和史に関心を抱いている。 本書の新聞広告を見て、タイトルに惹かれた。地元の図書館予約本で早速読んでみた。 奥書を読むと、地方新聞10紙と月刊『正論』に掲載された後、加筆・修正を施し、2025年7月に単行本が刊行…

『洛陽』  朝井まかて  祥伝社

明治という時代を改めて考える材料になる小説。 本書は平成28年(2016)7月に書き下ろしにより単行本として出版された。 何気なく読み出し、読み進める内に本書のテーマが何かが理解できてきた。 大きく捉えると、明治時代とはどういう時代だったのかを見つ…

『類』  朝井まかて  集英社

類は名前である。姓は森。森類は森鴎外の二男で末子。 (漢字「鷗」は環境依存文字なので「鴎」で代用する。ご容赦いただきたい。) この小説は、森鴎外の末子・類の人生に焦点をあてながら森鴎外ファミリーを描いた小説。巻末に「なお、本作品はフィクショ…

『グッドバイ』  朝井まかて   朝日新聞出版

嘉永6年(1853)6月末日、阿蘭陀(オランダ)の商船が長崎に入港する場面から始まり、明治17年(1884)4月、お慶が中庭の彼方の空を見上げ、遠くで海の音が鳴るのを聴いている場面で終わる。お慶とは、長崎の油屋町で菜種油を商う大浦屋を継いだ女主。 この小説…

『落花狼藉』  朝井まかて  双葉社

奥書を読むと、「小説推理」2018年2月号から2019年4月号の偶数月号に連載された同名作品に加筆修正を加え、2019年8月に単行本が刊行された。 この小説は、次の文で締めくくられる。本書のタイトルはここに由来するようだ。 「いつか、この傾城町に桜を。 媚…

『阿蘭陀西鶴』 朝井まかて  講談社文庫

西鶴とくれば、即座に井原西鶴の名が浮かぶ。 この小説は西鶴とその娘おあいの人生を描いた伝記風時代小説。井原西鶴の名と代表作の書名のいくつかは知っているが、西鶴の伝記を読んだこともなければ、その代表作を読んだ事もない。概説紹介文で知る程度。な…

『恋歌 れんか』  朝井まかて  講談社

手許にある高校生向け学習参考書『クリアカラー国語便覧』(数研出版・第4版)を見ると、「樋口一葉」についてまとめた1ページに、樋口一葉が明治19年(1888)14歳で歌塾「萩の舍」に入門したという記述がある。一方、「近現代文学の流れ」というチャート…

『南海王国記』   飯嶋和一   小学館

1626年、女真族を統一し後金国を建国したヌルハチが、万里の長城東端の山海関から明国に侵攻しようとした。この時を起点として、1683年8月に、現在の台湾に建国されていた「東都」が清国に滅ぼされるに至るまでを描く。史実を踏まえた歴史時代小説。 タイト…

『眩 くらら』  朝井まかて  新潮社

「この世は、円と線でできている。」という一行から始まる。絵師が5つの幼い娘を大きな胡座の中に坐らせて、真剣に「画法」を説きながら絵を描いている場面。苛立った娘は父親を見上げて「おやじどの」と呼ぶ。絵師の号は北斎。弟子や版元からは葛飾親爺と…

『もののふの国』  天野純希  中央公論新社

2019年「螺旋プロジェクト」の一環となる作品。日本において「もののふ」(武士)が政権を争った時代における「海族」と「山族」との対立を描いて行く。平将門の乱発生の時点から西南戦争の終結までという長い時間軸において、エポック・メーキングな局面を…

『恋ふらむ鳥は』  澤田瞳子   毎日新聞出版

古代歴史小説。飛鳥時代末期に生きたに額田王(ぬかたのおおきみ)が主人公。 歴史年表風に言えば、斎明天皇(皇極重祚)の末期、「660年10月:百済、唐・新羅に敗れ、救援を求めるが、百済滅亡。661年1月:新羅征討の軍進発、斉明天皇親征。同年7月:斉明天…

『星落ちて、なお』   澤田瞳子  文藝春秋

読み継いでいる作家の一人。読了後に少し関連情報をネット検索していて、遅ればせながら、この作品が2021年上期の直木賞受賞作だったということを知った。奥書を読むと、別冊文藝春秋(2019年7月号~2021年1月号)に連載後、2021年5月に単行本が出版されてい…

『与楽の飯 東大寺造仏所炊屋私記』  澤田瞳子  光文社

本書は「小説宝石」の2013年12月号~2015年2月号の偶数月号(4月を除く)に、短編連作として発表されたものをまとめて、2015年8月に単行本が刊行された。 副題から、東大寺の毘盧舎那大仏造立の作業所に関連する内容であること。その作業所に設けられた炊屋…

『日輪の賦』  澤田瞳子  幻冬舎

2013年3月に書き下ろしの単行本として出版された。著者は前年(2012)に『満つる月の如し』で第2回本屋が選ぶ時代小説大賞を受賞している。実は著者の作品で一番最初に読んだのが、仏師・定朝を主人公にしたこの小説だった。その後、奥書に記された本のタイ…

『月人壮士 つきひとおとこ』  澤田瞳子  中央公論新社

『小説BOC』創刊号から10号(2016年4月~2018年7月)に連載されたものに加筆修正を加え、2019年6月に単行本化された。著者の小説を読み継ぐ中で、その一冊として本書を手に取った。 本書の末尾に、興味深い広告文が入っている。2019年に「螺旋プロジェク…

『秋萩の散る』  澤田瞳子  徳間書店

「問題小説」(2011年7月号)、「読楽}(2013年9月号、2016年5月号)、「小説新潮}(2014年7月号)に短編4作が発表され、これに本書の題名と同じタイトルの短編が書き下ろされて、計5作の短編集が2016年10月に単行本として出版された。2019年10月に文庫化…

『師走の扶持 京都鷹ヶ峰御薬園日録』  澤田瞳子  徳間書店

『ふたり妻』に続く「京都鷹ヶ峰御薬園日録」シリーズ第2弾。今回も6つの短編連作が収録されている。「読楽」の2014年1月号から2015年1月号の期間中、奇数月に連載された。、2015年11月に単行本として刊行され、2018年5月に徳間時代小説文庫となった。。 …

『夢も定かに』  澤田瞳子  中公文庫

著者は2010年に『弧鷹の天』(2011年:中山義秀文学賞受賞)でデビューし、2012年に『満つる月の如し 仏師・定朝』(2013年:本屋が選ぶ時代小説大賞/新田次郎文学賞受賞)を出版。2013年に本書と『日輪の賦』を出版している。そして本書は2016年10月に文庫…

『落花』 澤田瞳子  中央公論新社

主人公は仁和寺の僧・寬朝。先帝醍醐天皇の同母弟であり、若き頃より政の中枢に身を置く敦実親王の第一皇子として、寬朝は生まれた。だがその出生の数寄さ故に父から忌み嫌われて、幼少の時点で、僧になるべしと仁和寺に放り込まれる。仁和寺の開基は寛平法…