中学生の労働・社会保険【会社員・学生・経営者必見】

中学生でもわかる!労働・社会保険

現役労働相談員が徹底解説!失業手当の基礎と離職区分をわかりやすく解説【Part1】

1 「離職証明書」と「離職票」の関係

退職する際に会社から交付される「離職票」は、失業手当(基本手当)の受給手続きに必要となる重要な書類です。

この離職票について、混乱しやすい点や知っておくべきポイントを解説します。

1-1 離職票 とは

会社がハローワークに提出す書類で、正式名称は「雇用保険被保険者離職証明書」といい、これは3枚綴りで、黄緑色の記載がされている、A3の複写式用紙です。

1枚目: 会社が保管する「事業主控え」

2枚目: 会社がハローワークへ提出する書類

3枚目: ハローワークの確認後に、会社から離職者本人へ交付される「雇用保険被保険者離職票-2」(以下、「離職票②」と略。)

これにハローワークで交付される「雇用保険被保険者離職票-1」が加わり、この2枚を合わせて一般的に「離職票」と呼びます。

会社の手続きとして、この「雇用保険被保険者離職証明書」を「雇用保険被保険者資格喪失届」と一緒に、離職日の「翌々日から10日以内」に、事業所を管轄するハローワークへ提出します。

1ー2 離職票の交付は希望しよう

離職票の交付は、原則として59歳未満の離職者は会社に希望を伝える必要があります(59歳以上64歳未満の場合は、希望の有無にかかわらず会社に交付義務があります)。

「今回は失業手当を受給する要件を満たさないから、離職票は不要」と考えてしまう方もいるかもしれません。

しかし、雇用保険の被保険者期間は「通算」することが可能な場合があり、将来的に失業手当の受給資格を得られる可能性があります。

そのため、たとえすぐに失業手当を受給しない場合でも、59歳未満の方は会社に離職票の交付を希望しておくことを強くおすすめします。

また、「離職票の交付には法的な時効はありません」が、退職後時間が経つと会社への依頼がしにくくなったり、実務上対応が難しくなったりするケースもあります。

できるだけスムーズに手続きを進めるためにも、退職時に会社へ交付を希望しておきましょう。

2 失業手当の受給要件となる「被保険者期間」

2-1 雇用保険の被保険者期間とは

失業手当を受給するためには、原則として「離職日以前2年間に、雇用保険の被保険者期間が通算して12か月以上あること」が必要です。

ただし、会社都合による退職などの「特定受給資格者」や、やむを得ない事情による「特定理由離職者」の場合は、「離職日以前1年間に、被保険者期間が通算して6か月以上あること」として、要件が緩和されます。

この「被保険者期間」は、離職日からさかのぼって1か月ごとに区切った期間で、その期間中に賃金支払基礎日数が11日以上(または、11日未満であっても80時間以上)ある月を1か月として計算します。

2-2 雇用保険の被保険者期間は「通算」できる

「転職を繰り返しているから、被保険者期間が足りないかも…」と心配される方もいるかもしれません。

しかし、雇用保険の被保険者期間は通算することが可能です。

たとえば、前職を離職後、ハローワークで失業手当の求職申し込みや受給資格決定の手続きをしたとしても、実際に1円も受給せずに1年以内に雇用保険の対象となる形で再就職した場合は、前職の被保険者期間が新しい職場の期間に通算されます。

これにより、失業手当の受給要件を満たすことができるのです。

3 離職理由の最終決定プロセスと「異議あり」の主張方法

会社を辞める際の離職理由は、失業給付の受給資格や期間に大きく影響する重要な情報です。

この離職理由の最終的な判定は、離職者自身の居住地を管轄するハローワークが行います。

4 ハローワークによる公正な判定

4-1 会社の離職理由に「異議あり

会社が作成する離職証明書には、会社が主張する離職理由が記載されます。

しかし、もしあなたがその離職理由に異議がある場合は、離職票②の「離職理由について(異議の有無)」の欄で、「異議有り」にチェックを入れ、あなたの住所地を管轄するハローワークに提出しましょう。

ハローワークは、提出された離職票と異議申し立ての内容を受け、会社とあなた双方の主張を確認します。

そして、客観的な資料などを集めて事実関係を調査した上で、最終的な離職理由を中立的に判定します。

4-2 「異議あり」の意思表示と署名についての誤解

会社記載の離職理由があなた自身の認識と異なる場合、雇用保険被保険者離職証明書の3枚目にある⑯欄「離職者本人の判断」で「異議有り」に丸を付けてください。

これは、会社が記載した離職理由に対して異議があることを明確にするためのものです。

一方で、同じく3枚目の⑰欄「⑦欄の自ら記載した事項に間違いがないことを認めます。」には、

≪離職者自身が記載した内容(例えば、異議の申し立てなど)に間違いがないことを確認する意味合いがあるため、署名または記名押印をする必要があります。≫

これは、会社が記載した離職理由には同意しないものの、異議を申し立てたという事実については認めるという理解になります。

4-3 上司の監視下での離職証明書記載は不適切

離職証明書は、会社が作成し、離職者本人に内容を確認してもらうものです。

上司の監視下で記載させることは、離職者の自由な意思表示を阻害する可能性があり、適切ではありません。

例えば、パワハラが離職理由であるにもかかわらず、その加害者である上司の前で離職証明書に記載をすることは、実務上、非常に困難であり、不適切と言わざるを得ません。

このような状況では離職者が不当な圧力を感じ、異議を申し立てること(異議有りと、その理由の記載)を躊躇してしまう可能性が高いでしょう。

このような状況を避けるためには、以下のような対応が考えられます。

・上司のいない場所で、落ち着いて内容を確認したり、記載できる機会を設ける。

・郵送で送付し、記入後に返送してもらう、

・人事担当者など、上司が同席しない状況で確認・記載を行うなど、が考えられます。

もし会社が適切な対応をしない場合、ハローワークに相談してください!

(参考)異議を申し立てる場合は、書面(内容証明郵便など)で会社に送付することも有効な手段です。

これにより、会社側が離職証明書の内容を勝手に変更することを防ぎ、離職者の意思を明確に伝えることができます。

◎重要なのは、離職証明書への署名は、退職の条件ではないということです!

後述のとおり、離職者が署名を希望しない場合、事業主は署名を強制することはできません!

5 事業主が離職証明書に記載する「やむを得ない場合」とは

雇用保険被保険者離職証明書の3枚目(離職票②)の⑯欄への離職者の署名(または記名押印)は、原則として必要です。

しかし、「やむをえない場合」で⑯欄に署名を得ることができなかったときは、事業主がその理由を記載して、本人に代わって事業主がサインして提出することになります。

「やむをえない場合」とは、具体的に以下のケースが考えられます。

・1 離職者が署名を拒否する場合: 最も一般的なケースです。

離職者が会社の提示する離職理由に納得できない、あるいは単に署名したくないという意思表示をした場合です。

この場合、事業主は署名を強制することはできません。

・2離職者と連絡が取れない場合: 離職者が会社を無断欠勤し、そのまま退職してしまい、連絡先も不明であるなど、音信不通になってしまったケースです。

・3離職者が海外にいるなど、物理的に署名が困難な場合: 離職後すぐに海外へ転居してしまった、あるいは遠隔地にいるため、書類のやり取りに時間や労力がかかりすぎる場合などです。

・4離職者が病気や事故などで、署名する能力がない場合: 重度の病気や意識不明の重体など、本人が物理的に署名することが不可能な状態である場合です。

・5署名手続きに関する合意が得られない場合: 会社側が提示した署名方法について、離職者側と合意が得られない場合です。

こうした場合、≪事業主は3枚目⑯欄に「本人拒否」「連絡不能」「所在不明」などの具体的な理由を記載し、事業主が署名(記名押印)して提出する≫ことになります。

6 離職後の署名と返送について

離職者が「離職後に記載して返送することは、実務上、可能です。

法律上、離職証明書をいつまでに離職者が確認・署名しなければならないという明確な期日規定はありません。

しかし、会社は離職日の翌々日から10日以内にハローワークへ離職証明書を提出する義務があるため、現実的には離職日からあまり時間が経ってしまうと会社が手続きに間に合わなくなります。

したがって、会社としては、離職日までに離職証明書の内容を確認してもらい、署名を得ることを推奨しますが、離職者が「後日郵送で返送する」と申し出た場合、会社は離職者に対し、返送期限を伝えるなどして、速やかな返送を依頼することになります。

もし、離職者が期日までに返送しない場合、会社は前述の「やむをえない場合」として「本人未返送」「連絡不能」などの理由を記載して提出することになります。

離職理由の判定は、あなたの今後の生活に影響を与える重要な手続きです。

不明な点があれば、遠慮なく居住地管轄のハローワークに相談しましょう。

7 特定受給資格者の主な要件

雇用保険における特定受給資格者とは、会社の都合などにより離職を余儀なくされた方を指します。

この区分に該当すると、一般の離職者よりも早く失業給付を受給できるだけでなく(給付制限なし)、状況によっては受け取れる失業給付の日数(所定給付日数)が手厚くなるという利点があります。

主な要件は以下の通りです。

①  倒産

会社の倒産(破産、民事再生、会社更生、特別清算など)で離職した場合。

②  解雇・退職勧奨

会社から解雇された場合(ただし、あなたに重大な責任がある解雇は除きます)。

③  会社から強く退職を勧められた場合(ただし、本人の自由意思に基づき「早期退職優遇制度」等に応募した場合は、特定受給資格者と認められない可能性があります)。

④  リストラ(事業所の閉鎖、事業活動の縮小など)

勤めていた事業所が閉鎖されたり、事業活動が縮小されたりした場合。

長時間労働

離職する前の6ヶ月間に、以下のいずれかに該当する時間外労働があった場合。

・3ヶ月連続で月45時間を超える時間外労働があった。

・1ヶ月で月100時間を超える時間外労働があった。

・6ヶ月の平均で月80時間を超える時間外労働があった。

⑥  労働条件の相違

採用された時の労働条件と、実際に働いたときの労働条件が大きく違ったために離職した場合。

(例:正社員として採用されたが、実際はアルバイト扱いで社会保険が未加入だった場合など。)

⑦ 賃金に関する重大な問題による離職

以下のいずれかに該当する場合。

・賃金不払い(重大な未払額)

 離職日以前6か月間に、退職手当を除く賃金の3分の1を超える額が、

 支払期日までに支払われなかったことを理由に離職した場合。

・賃金低下(85%未満への低下)

 支払われた賃金が、それまでの賃金と比べて 85%未満 に低下した

 (またはその見込みがあった)ことを理由に離職した場合。

 ※ 公式基準に「連続○か月」の要件はない。

・労働条件の相違(賃金に関する重大な相違)

 労働契約締結時に明示された労働条件(賃金を含む)と実際の条件が、著しく相違 していたことにより離職した場合。

⑧  期間の定めのある労働契約の更新拒否(雇止め)

有期雇用契約(例:1年契約)を繰り返し更新し、##通算して3年以上その会社で働いた後##に、本人が引き続き働くことを##希望##したにもかかわらず、会社側の都合で契約を更新してもらえなかった場合。

⑨  パワハラ・セクハラ等

事業主や職場の従業員から、就業環境が著しく害されるような言動(セクシャルハラスメントパワーハラスメントなど) を受けたことにより離職した場合。

⑩ 事業所の移転による通勤困難

・会社の移転により、往復4時間以上(片道2時間以上)の通勤が必要となり、通常の通勤が著しく困難になったため離職した場合。

ただし、会社から移転の通知が1年以上前に行われ、実際の移転後おおむね3か月以内に離職したときに限る。

8 特定理由離職者の主な要件

特定理由離職者とは、会社都合ではないものの、やむを得ない理由で離職した人を指します。

この区分に該当すると、一般の自己都合退職と異なり給付制限がありません。

※##所定給付日数は原則として一般の離職者と同じ(例外あり)。##

①  雇止め(ただし特定受給資格者に該当しないケース)

期間の定めのある労働契約が満了し、更新されなかったことにより離職した場合。

特定受給資格者となる要件(例:通算契約期間3年以上など)に該当しない雇止めはこちらに分類されます。

この「雇止め」に限り、2027年3月31日までの時限措置として、所定給付日数が特定受給資格者と同様に手厚くなる場合があります。

② 正当な理由のある自己都合退職

以下のように、業務継続が困難と認められる事情による退職です。

・健康上の理由:疾病・負傷・心身の不調・体力の不足などで勤務継続が困難

・妊娠・出産・育児:母体保護や育児との両立が困難

・親族の介護:父母・配偶者・子などの介護が必要で勤務継続が困難

・結婚による住所変更:住所変更により通勤が困難となった場合

・配偶者の転勤:転居を伴う転勤で通勤が不可能となった場合

・事業所移転・転勤による通勤困難

※ただし、特定受給資格者の「事業所移転による通勤困難」に該当しないケースのみ(例:通勤時間が往復4時間未満 など)

・希望退職制度への応募(人員整理目的でない一般的募集の場合)

③  教育訓練受講のための離職

専門実践教育訓練(専門学校・大学院等)を受講するため、やむを得ず離職した場合。

9  一般の離職者の主な要件

特定受給資格者・特定理由離職者のいずれにも該当しない場合、一般の離職者として扱われます。

給付制限(待期後1〜3か月)が適用される、所定給付日数が短いなどの特徴があります。

・転職・キャリアアップを目的とした退職

・結婚・転居による退職で、通勤困難と認められない場合

・職場・仕事への不満による退職 (人間関係、仕事内容への不満、労働条件への不満など)

10 給付制限期間について

10-1 雇用保険離職理由の3区分

① 受給資格者(会社都合) → 給付制限なし

② 特定理由離職者(やむを得ず) → 給付制限なし

③ 自己都合退職者(通常の自己都合) → 原則2か月(※令和7年時点の短縮後)

2025年3月31日以前の離職:原則 2か月

2025年4月1日以降の離職:原則 1か月

重大な責めに帰すべき理由での退職(重責退職者) →## 一律 3か月の給付制限##

10-2 給付制限期間が3か月となる場合

・退職日から遡って5年間に、正当な理由なく自己都合退職を2回以上行い、受給資格決定を受けている場合

・重責解雇(重大な理由による解雇)場合

本人に重大な責任がある解雇(懲戒解雇相当)の場合、給付制限は原則3カ月間となります。

重大な責めに帰すべき理由による退職(いわゆる重責解雇)と判断された場合は、他の要件にかかわらず、一律で3か月の給付制限となります。

例:

・会社の金品の横領・盗難

・正当な理由のない無断欠勤の繰り返し

・勤務中の私的行為の常習化により業務に支障

・セクハラ・パワハラなど職場秩序を著しく乱す行為

10―3 重要な実務ポイント

・判断は必ずハローワークが個別具体的に行う

・主張を裏付ける資料(離職票、給与明細、タイムカード、医師の診断書など)があると有利

・同じ事由でも認定される/されないケースが分かれるため、事前相談が重要

11 まとめ

失業手当の制度は一見複雑に感じられますが、基本的な仕組みを押さえておけば理解がぐっと進みます。

今回の Part1 では、失業手当の基礎となる考え方と、失業手当等に関わる前提知識を整理しました。

ただし、具体的な取扱いは個々の離職理由や勤務状況によって異なる場合がありますので、疑問がある場合は 退職前にハローワークへ確認することを強くおすすめします。

最後までお読みいただきありがとうございました。

年金の「合言葉」と「期間のナゾ」を徹底解明!

はじめに

こんにちは、年金制度に関心のある中学生のクニです。

今日は、みなさんがよく耳にする 「1号」「2号」「3号」 という年金の区分、つまり“合言葉”と、年金の加入期間や受給開始のルールについて、スッキリ整理して解説していきます。

1. 年金の区分の「合言葉」とは?

日本に住んでいて、20歳以上60歳未満の人は、必ず 第1号・第2号・第3号 のどれかに加入しています。

1-1. 第1号被保険者(自営業・フリーランスなど)

ご自身で保険料を納めるグループです。

≪誰が入るか≫

◎ 国内に住所を要する人(国籍は不要)で、20歳から60歳未満の人(第2号被保険者や第3号被保険者以外の人)

例:

・自営業の方、農業・漁業の方

フリーランス個人事業主)の方

・学生、無職の方

納付方法: 国民年金の保険料をご自身で納付します。

将来の年金: 将来は 老齢基礎年金(国民年金) が受け取れます。

● クニからの専門的な補足:

昔と違い、士業(弁護士・税理士など)の個人事業であっても、従業員を5人以上雇っているなど一定の要件を満たす場合、厚生年金への加入が義務化(強制適用事業所)され、従業員は 第2号被保険者 になる可能性があります。

反対に、個人事業所で従業員を5人未満であれば、強制適用事業所にはなりません(任意適用事業所)。

また、農林水産畜産業、接客娯楽業などの個人事業所は、従業員の人数にかかわらず、任意適用事業所となります。

個人経営の定食屋さんや床屋さんなど、従業員の厚生年金保険料を折半で負担するとなると、事業主には相当な負担になるかもしれませんよね。

1-2. 第2号被保険者(会社員・公務員)

お給料から天引きで厚生年金保険料を払うグループ(厚生年金被保険者)です。

≪誰が入るか≫

◎ 厚生年金は、70歳まで加入できますが、老齢基礎年金の受給権(10年)を有していない人を除き、原則65歳で、第2号被保険者を資格喪失します。

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例:

・一般の会社員の方

・公務員の方

納付方法: 厚生年金保険料が給与天引きされ、会社が半分を負担します。

カバー範囲: 国民年金と厚生年金の両方をカバーしています。

つまり、厚生年金保険料には基礎年金拠出金として、基礎年金の負担しているのですね。

1-3. 第3号被保険者(第2号被保険者の配偶者)

ご自身で保険料を払わずに年金に加入できるグループです。

≪誰が入るか≫

◎ 第2号被保険者の収入で生計を維持されている配偶者で20歳以上60歳未満の人。

国内居住要件はありませんが、国内に生活の基盤があると認められる必要があります。

第2号被保険者に扶養されている配偶者で、収入が概ね130万円未満(※)の方です。

(※生計維持要件は原則として、上記130万円未満えあり、かつ配偶者の年収の1/2であること。)

メリット: ご自身で保険料を払わなくても、将来、老齢基礎年金を受け取れます。

●クニの追加補足:「年収130万以下でも3号じゃなくなる」ケース

以下(1)や(2)の要件をすべて満たすと、年収が130万円未満であっても、社会保険に加入しなければなりません。

(1) 正社員の週の所定労働時間と月の所定労働日数の3/4以上の人(「3/4」要件といいます。)。

(正社員が労基法で定められた1日8時間で週40時間。そして、月に20勤務したと仮定すれば、3/4以上の人は週30時間勤務かつ15日勤務以上の人が該当しますね。参考にしてください。)

(2) 以下、5つの要件をすべて要する人(「適用拡大」といいます。)。

① 従業員数(厚生年金の被保険者数)50人超の会社

(企業全体でカウントします。なお、50人以下でも、労使合意のもとに事業主が手続きをすれば、①の要件を満たしたこととなります。)

(令和9年10月からは、従業員数35人超となります。)

② 週20時間以上勤務

③ 月額賃金 8.8万円以上

(年収にすると、105万6千円、いわゆる「106万円の壁」などとといます。)

(「月額賃金 88,000円以上」の基準を判定する際、「最低賃金法で算入しないこととされる賃金(通勤手当、家族手当、精皆勤手当、残業代、ボーナスなど)」は除外されます。

この賃金の判断は、「雇用契約書等」の書面で確認できる「所定内賃金」 (時間給や日給、月給など、毎月固定的に支払われる基本給および固定手当)をベースに判断することが、原則です。)

(例えば、地域別の最低賃金1,140円であり週20時間勤務で、月に換算(仮に4週間)であれば、計算するまでもなく、月額賃金 8.8万円以上に該当しますね。なお、地域別の最低賃金を下回る時給は例外を除き、最低賃金法違反として罰せられます。)

④ 2カ月超の雇用見込み(※)

⑤ 学生ではない

(対象となる“学生”は、正規の学校(例:高等学校、中等教育学校、大学等)に在学中の者。休学中、夜間定時制定時制課程・夜間部などは、例外として適用対象になる場合あります。)

社会保険に加入すると、老後の年金が増えたり、健康保険制度(傷病手当金の受給等)などのメリットがあります。

●クニのから追加補足:

以下のいずれかに該当する者は、原則として健康保険・厚生年金保険の被保険者となりません。

・1カ月未満の日雇い労働者

(要件: 雇用期間の定めなく日々雇用される者(日雇特例被保険者に該当する場合を除く))

(日々雇い入れられる者で、1カ月を超えて継続して使用されていない、または2カ月間継続使用された後に引き続き使用されていない者。)

具体例:

建設現場の手元作業員、

イベント設営・撤去スタッフ、

引越しの単発アルバイトなど

・(※)2カ月以内の期間で働く人

(2カ月以内の期間を定めて使用される者で、その期間を超えて引き続き使用されていない者。

具体例:

年末年始の短期アルバイト、

工場の繁忙期2カ月契約スタッフなど

・所在地が一定しない事業所で働く人

その「事業所」自体が、法令上、適用事業所と認められない「臨時に使用される事業所」であること。

具体例:

サーカス団員・旅回り劇団など

・4カ月以内の期間で働く季節労働者

(季節的業務に4カ月以内の期間を定めて使用される者で、その期間を超えて引き続き使用されていない者。

具体例:

農家の出稼ぎ労働者の方や、農園の収穫時期のスタッフ、

スキー場スタッフ、海の家のスタッフなど

・6カ月以内の期間で働く人

(臨時的事業の事業所に6カ月以内の期間を定めて使用される者で、その期間を超えて引き続き使用されていない者。)

具体例:

工場の繁忙期の増員スタッフ、

決算期の短期事務補助など

●注意点

上記の短期雇用の類型に該当する者であっても、契約期間や当初の期間満了後、「引き続き使用されるに至ったとき」には、その時点(その日)から社会保険の被保険者資格を取得し、適用対象となります。 (ただし、社会保険の適用事業所は「所在地が一定していること」が原則的な要件の一つであるため、サーカス団や移動劇団のように所在地が常に移動する事業所自体が、社会保険の適用事業所と認められないために、そこで働く人も被保険者とならない(例外的な適用を受ける場合を除く)。)

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●クニのから追加補足:臨時的な収入増の取り扱い

・被扶養者の認定は、過去の収入実績ではなく、今後1年間の「収入見込み」に基づいて行われるのが原則です。

税金の年収(いわゆる年収の壁)はその年の「1月から12月まで」であり、よく混同されるので注意ですね。

・もし直近の収入が、臨時的な残業手当や賞与の増加により結果的に130万円(60歳以上または障害者の場合は180万円)を超えても、直ちに扶養から外れるとは限りません。

その収入増が恒常的でなく、今後も継続的にその水準の収入が見込まれないと会社が判断し証明できる場合、保険者(健康保険組合協会けんぽ)への書面等による説明・証明で、被扶養者認定を継続できる可能性があります。

最終的な可否は、個別の事情を総合的に勘案した保険者の判断となります。

2. クニと一緒に解く!年金「期間のナゾ」

年金の期間計算には、混乱しやすい大きなルールが3つあります。

2-1. まず大前提:年齢到達日は「誕生日の前日」!

年金制度では、年齢を重ねる日(到達日)は「誕生日の前日」と扱うのがルールです。

例:12月10日生まれの方 → 12月9日に年齢が1つ増えたと扱います。

重要なのは、この“年齢到達日”が属する「月」です。

2-2. 期間の終わり方は2パターン!

年金の加入期間が終了する月には、2つのパターンがあります。

■ パターンA(義務が完全に終わる時):

例:60歳到達、70歳到達など(資格喪失)

→ 喪失月の前月までが加入期間となります。

■ パターンB(資格の種類が変わるだけの時):

例:3号から1号へ変更、2号から1号へ変更など

→ 喪失日の属する月までが加入期間となります。

2-3. 新しい期間の始まりはすべて「翌月」!

新しい種別(1号、3号など)が始まるのは、原則として翌月からです。

年金の受給も 翌月分からスタートします。

3. 実践問題:夫婦の年金期間を計算しましょう!

夫1965年4月1日生まれ【状況】65歳で会社退職し、第2号を喪失

妻1970年5月1010日生まれ【状況】夫に扶養されている第3号(現在59歳)

【回答と解説】

① 夫が65歳になった日(=2号喪失日)は?

回答: 3月31日

解説: 4月1日生まれなので、前日の3月31日に65歳に到達します。

② 妻が第3号でいられる月は?

回答: 3月分まで

解説: 夫が65歳になり2号被保険者の資格を喪失すると、妻も3号被保険者の資格を喪失します。

これはパターンB(資格の種類が変わる時)の考え方に準じ、喪失日(3月31日)の属する3月分までが3号となります。

③ 妻が任意加入(第1号)として保険料を払う月は?

回答: 5月分から

解説:

3月分まで:第3号

4月分:3号喪失の翌月で、強制加入の第1号になります。

5月10日:60歳に到達します。

60歳到達の月(5月)から任意加入が可能になり、5月分から保険料を納付します。

④ 夫の老齢年金の受取開始月は?

回答: 4月分から

解説: 年金は65歳到達(3月31日)の翌月分から支給がスタートします。

⑤ 夫の厚生年金保険料の最終納付月は?

回答: 2月分まで

解説: 2号被保険者の資格喪失月は3月です。

これはパターンA(義務が完全に終わる時)に該当するため、喪失月の前月(2月)分までが最後の納付となります。

まとめ

「1号・2号・3号」 は、誰が年金にどのように加入しているかを示す大切な区分です。

年金の期間計算は、以下の3つのルールでスッキリ整理できます。

・年齢到達日は、誕生日の前日です。

・期間の終了には、「前月まで」(パターンA)と「その月まで」(パターンB)の2つのルールがあります。

・新しい期間や受給は、すべて翌月から開始します。

なお、本文は一般的な取扱いを説明したものです。

個別の適用については、必ずお近くの年金事務所にご相談ください。

最後までお読みいただきありがとうございました。

完全無料公開「クビは会社の気分じゃない」高知放送事件が示す解雇の真実とは?

1. はじめに

みなさんは、会社のルールや就業規則に沿って働いている場合、会社から自由に解雇されると思いますか?

実は、会社のルールに沿っているだけでは、解雇されない場合があるのです。

このブログでは、1960年代に起きた「高知放送事件」を例にして、会社が従業員を解雇するときにどんなルールがあるのか、また、労働契約法16条がどのように使われるのかをわかりやすく解説します。

「解雇は、就業規則の内容だけでは足りない理由?」

「社会通念上の相当性って何?」

こうしたポイントを押さえながら、会社と労働者の間で守られるべきルールを学んでいきましょう。

2. 高知放送事件の関連条文等の説明

≪まずは、高知放送事件に関連する条文をざっと見ていきましょう。≫

2-1  労働契約法の関連条文

(解雇)労働契約法第16条  解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。 ↓ コメント:≪ この規定は,「高知放送事件」および「日本食塩製造事件」などの判例により、判例法として確立された考え方が明文化されたものです。使用者による解雇全般が対象となります。 ≫

(懲戒)労働契約法15条  使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。 ↓ コメント: ≪ 懲戒の種類は軽い順から、訓告 : 口頭・書面での注意、 けん責: 書面での厳重注意、減給: 給与の一部を減額、出勤停止: 一定期間の勤務停止、

(普通解雇)

諭旨(ゆし)解雇: 懲戒事由であるが自主的退職を促す解雇扱い、懲戒解雇: 最も重い処分です。(※) ≫

(※)普通解雇と懲戒解雇の関係について 普通解雇は能力不足・会社都合などが中心で、懲戒解雇は規律違反など制裁が目的です。

ただし、規律違反でも懲戒解雇ではなく普通解雇として扱う場合があります(便宜上、懲戒の軽重順に含めました。)。

≪ 普通解雇を4つに大別すると以下のとおりです。 ≫

①  労務提供の不能・能力不足例:仕事ができない、資格が必要なのに取得できない、病気で働けない場合などです。

②  規律違反これは懲戒処分事由とほぼ同じです。

高知放送事件のように、懲戒解雇ではなく、普通解雇として処理される場合があります。

③  整理解雇・会社解散などの事由会社都合による解雇。経営上の理由で人員削減が必要な場合。

整理解雇は16条に基づき、 判例上の四要素(人員削減の必要性、解雇回避努力、解雇対象者の合理的選定、手続の妥当性)で合理性が判断されます。

④  ユニオンショップ協定に基づく解雇要求労働組合と会社との契約により、組合非加入者を解雇できる場合です。

日本食塩製造事件が該当します。

労働契約法第7条 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。 (但書、以下略) ↓ コメント:≪ 就業規則の法的効力を定めた条文です。高知放送事件の就業規則は、合理的な労働条件が定められている就業規則とされ、(※)裁判所は、就業規則自体が不当な内容ではないと判断しました。 ≫

(※)高知放送事件における就業規則について 高知放送事件の判決は、就業規則が合理的であり、労働契約の内容として有効である(つまり、労働契約法第7条の要件を満たしている)ことを前提としています。 しかし、就業規則が有効であっても、その規則を根拠とする解雇が、必ずしも有効になるとは限らないという点が、この事件の核心です。

最高裁は、就業規則が合理的であっても、個別の解雇が「社会通念上の相当性」がある、と認められない場合は、 解雇権の濫用として無効になると判断しました。

これは、就業規則という「客観的なルール」による合理的な理由があっても、個別の事案における公平性や妥当性を考慮した結果、解雇という処分に「社会通念上の相当性」がないと判断されました。

(契約期間中の解雇等) 労働契約法第17条 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。 (第2項、略) ↓ コメント:≪ この条文は有期労働契約に関するもので、高知放送事件(無期契約)には直接関係しません。 ただし、労働契約法第16条による解雇権濫用法理よりも、契約期間中の解雇については「やむを得ない事由」が必要とされるため、さらに厳格に判断されることになります。 ≫

2-2  労働基準法の関連条文

(作成及び届出の義務) 労働基準法第89条第3号  常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。 (略) 三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。) (以下、略) ↓ コメント:≪ 2003年より、労働基準法第89条3号では、解雇の事由が就業規則の絶対的必要記載事項として明記されるようになりました。 ≫

(解雇制限) 労働基準法第19条第1項 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によって休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。 ただし、使用者が、第八十一条の規定によって打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合においては、この限りでない。

第2項 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。 ↓ コメント:≪ 解雇制限を解除するには、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合で、会社管轄の労働基準監督署で、その認定を受けなければならない(マスト:must)、ということです。 ≫

(解雇の予告) 労働基準法第20条第1項 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。 三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。 但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。 第2項 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮することができる。 第3項 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。 ↓ コメント:≪ 解雇予告手当の除外認定は、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合であり、会社管轄の労働基準監督署で、その認定を受けなければならない(マスト:must)、ということです。 ≫

2-3  民法の関連条文

民法第1条  (略) 第3項 権利の濫用は、これを許さない。↓コメント:≪ この条文が、高知放送事件で解雇権濫用を主張する根拠となったことを正しく示しています。裁判所が、会社の解雇権の行使が「社会的に見て行き過ぎた行為」ではないか、という観点から判断したことの根拠となる基本原則です。 ≫

民法第627条第1項  当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。(以下、略) ↓ コメント:≪ 期間の定めのない雇用契約(無期雇用)では、「労働者も使用者も」いつでも雇用契約の解除を申し出ることができます。 ただし、「労働者からの解約は解約の申し入れから2週間を経過すると雇用契約が終了する」というルールがあります(解約の申入れから2週間が経過すると雇用関係は終了します。)。 ≫

民法第628条  当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、「やむを得ない事由」があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。 この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。 ↓ コメント: ≪ この条文は、期間の定めがある雇用契約であっても、やむを得ない事由が存在すると認められる場合には、当事者は直ちに契約を解除できることを定めています。 ただし、その「やむを得ない事由」の有無は個別の事情に即して判断されるものであり、必ずしも一律に認められるわけではありません。 また、解除の原因が一方の過失による場合には、その当事者は相手方に対して損害賠償責任を負うとされています。  ≫

≪ 高知放送事件は無期雇用契約の事案ですが、これらの民法の条文は、「解雇の自由」は絶対的なものではなく、常に制約を受けるべきものであるという、労働法全体に通底する考え方を理解する上で重要な背景となります。 

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3. 事件の経緯

高知放送事件は、高知放送株式会社(以下、Y社)でアナウンサーとして勤務していたXさんが、寝過ごしによる二度の放送事故を理由に、会社から解雇されたことから争われた事件です。

【第一事故】(1967年2月22日~23日)について

・アナウンサーのXさんは、ファックス担当者Aさんと夜勤の宿直勤務中、翌朝の定時ラジオニュース放送に備えて仮眠を取っていました。

しかし、朝6時20分頃まで仮眠していたため、定時ニュース(10分間)が全く放送できず、放送事故となりました。

【第二事故】(1967年3月7日~8日)について

・Xさんは、ファックス担当者Bさんと夜勤の宿直勤務中に、再び寝過ごしてしまい、翌朝の定時ラジオニュースが約5分間放送できませんでした。

さらに、今回Xさんは、上司に事故報告をしませんでした。

・後日事故を知ったC部長から「事故報告書」の提出を求められた際、Xさんは一部事実と異なる内容を含む報告書を1967年3月14日~15日頃に提出しました。 (その後、1967年3月20日に、C部長の要求に応じてD放送本部長に「始末書」を提出しましたが、書き直しを命じられました。)

・寝過ごしたファックス担当者Bさんは、けん責処分(「始末書」の提出と思われます。)に処せられました。

【補足】

「ファックス担当者」とは: アナウンサーと共に宿直勤務にあたり、早朝のニュース放送の準備をサポートする役割でした。 具体的には、放送原稿を整理したり、アナウンサーを起こして放送準備を整えるといった任務を担っていました。 (現在では、「フロア(floor)担当者」または「放送補助担当者」とでもいうべきでしょうか?)

この事件では、Xさんと一緒に宿直していたAさん・Bさんも寝過ごしてしまいました。

一部事実と異なる内容を含む報告書:一階通路ドアの開閉状況に、Xさんの誤解があった。(ドアが開いている、あるいは閉まっていると、の勘違いでしょうか?)

Y社は、Xさんの行為が就業規則の懲戒事由に該当すると判断しましたが、再就職など将来を考慮して懲戒解雇ではなく普通解雇の処分としました。

これに対してXさんは解雇の無効を主張して裁判を起こしました。

第一審(地方裁判所)はXさんの主張を認め、解雇を無効としました。

原審(高等裁判所)も解雇無効と判断したため、Y社が最高裁判所に上告しました。

(上告=高等裁判所判決に法律上の誤りがないかを最高裁が確認する手続きです。)

4. 「最高裁判所」判旨(理由)を要約

以下では、最高裁判決の内容をわかりやすく説明します。

●(判旨要約1) 就業規則で定められた懲戒解雇の理由に該当する事実があったとしても、Y社がXの将来を配慮して、懲戒解雇ではなく普通解雇とすることは可能である。

そして、この場合、Y社は普通解雇の要件を満たしていれば解雇できる。懲戒解雇の厳しい要件まで満たす必要はない。

Y社は、Xの将来を考えて、懲戒解雇の理由があっても、より処分が軽い普通解雇を選ぶ裁量がある。

この場合、解雇の目的が懲戒であったとしても、法的に問題はない。

コメント:≪ これは、会社が解雇の判断を下す際の柔軟性を示す重要な点です。 ≫

(判旨要約つづき) 本件についてみると、原審が確定した事実によれば、被上告人であるXは会社の報道部に勤務するアナウンサーであった。

① 昭和42年2月22日午後6時から翌23日午前10時まで宿直勤務をしたが、23日午前6時20分頃まで寝てしまい、午前6時から10分間の定時ラジオニュースを放送できなかった(【第一事故】)。

② さらに昭和42年3月7日から8日にかけても宿直勤務中に寝過ごし、8日午前6時からの定時ニュースを約5分間放送できなかった(【第二事故】)。

③ 第二事故については上司に報告をせず、後日、部長に報告書を求められた際、事実と異なる内容を提出した。

そこでY社はこれらの行為は懲戒解雇にあたるが、Xの将来を考えて普通解雇としたという。

Y社の就業規則15条には普通解雇の定めとして、 『 従業員が次の各号の一に該当するときは、30日前に予告して解雇する。ただし、会社が必要とするときは平均賃金の30日分を支給して即時解雇する。ただし労働基準法の解雇制限該当者はこの限りでない。 (※) 1 精神または身体の障害により業務に耐えられないとき。 2 天災事変その他やむをえない事由のため事業の継続が不可能  となったとき。 3 その他、前各号に準ずる程度のやむをえない事由があるとき。 』 と定められていた。

コメント: ≪(※)これは、「平均賃金の30日分を支給して即時解雇する」ことについて、労働基準法第20条の規定(解雇予告手当)を踏まえた規定です。 ≫

(判旨要約つづき) これによればXの行為は就業規則15条の3号の普通解雇事由にもあたる。

コメント: ≪ ※ちなみに、解雇の制限について、労働基準法第19条では「業務上の負傷・疾病で休業している期間と、その後30日間は解雇できない」および「労基法65条による産前産後休業中と、その後30日間も解雇できない」と規定されています。 ≫

(判旨要約つづき) しかし、普通解雇の理由があっても、常に解雇できるわけではない。

具体的な事情から見て、解雇があまりに不合理で社会通念上相当と認められない場合は解雇権の濫用となり無効である。

本件では、第一事故と第二事故は会社の信用を大きく傷つけ、短期間(2週間)のうちに二度も同じ態様(行動のようすのこと)で起きたこと、第二事故直後に非を認めなかったことから、Xに責任がないとはいえない。

だが、他方で、事故はいずれも過失(不注意による失敗のこと)で故意ではなく、通常は同僚の宿直勤務をしていたファックス担当者(第一事故の時はA、第二事故の時はB)が起こすはずであったのに、同僚も寝過ごしていた。

放送できなかった時間も長くはなく、会社も防止策を講じていなかった。

虚偽報告も誤解や動揺が原因であり、これを強く責めるのは酷である。

さらに被上告人はそれまで事故歴がなく勤務成績も悪くなかった。

同僚(B)はけん責処分にとどまり、会社では事故を理由に解雇した例もなかった。最終的には非を認め謝罪している。

これらの事情を考えると、解雇は苛酷にすぎ合理性を欠き、社会的に相当とはいえない。

したがって解雇を無効とした原審の判断は正当である。会社の主張は採用できない(=解雇は無効であり、原審の判断を支持する。)。

●(判旨要約2) この裁判で争われたのは、Xの解雇が有効かどうかという点であり、勤務場所についてはそもそも当事者の争点ではなかった。

したがって、原審判決に勤務場所が記載されていたのは単なる形式的なもので、法的な意味はない。

そこに誤りはなく、Y社の上告理由は採用できない。

以上の理由により、民事訴訟法の規定に従い、裁判官全員一致で上告を棄却する(=Y社の上告の申立ては認められない)。(以上が判旨要約です。)

補足: この記事ではいくつか法律用語を使いましたが、あまり馴染みがない方もいるかもしれません。

簡単に解説します。

・被上告人: 最高裁判所に上告された裁判で、上告された側の当事者を指します。

今回の事件ではXさんのことです。

・解雇権の濫用: 会社が解雇する権利を持っていても、理由が不合理であったり、社会的に見て重すぎる場合は行使できないという考え方です。

・社会通念上相当: 解雇などの行為が、一般的な常識や社会のルールに照らして妥当かどうかを判断する基準です。

5. 最高裁の判旨(原文抜粋):「社会的相当性」と「普通解雇」

以下は「社会的な相当性」の部分の判旨(原文抜粋)です。≪ あなたはどう思われますか? ≫

●「本件事故は、いずれも被上告人の寝過しという過失行為によって発生したものであって。

悪意ないし故意によるものではなく、また、通常はファックス担当者が先に起きアナウンサーを起こすことになっていたところ、本件第一事故、第二事故ともファックス担当者においても寝過ごし・・・事故発生につき、被上告人のみを責めるのは酷であること」「被上告人は、第一事故については直ちに謝罪し、第二事故については起床後一刻も早くスタジオ入りすべく努力したこと」「第一、第二事故とも寝過しによる放送の空白時間はさほど長時間とはいえないこと」「上告会社において早朝のニュース放送の万全を期すべき何らの措置も講じていなかったこと」「事実と異なる事故報告書を提出した点についても、一階通路ドアの開閉状況に被上告人の誤解があり、また短期間内に二度の放送事故を起こし気後れしていたことを考えると・・・強く責めることはできないこと」「被上告人はこれまで放送事故歴がなく、平素の勤務成績も別段悪くないこと」「第二事故のファックス担当者・・・はけん責処分に処せられたにすぎないこと」「上告会社においては従前放送事故を理由に解雇された事例はなかったこと」「第二事故についても結局は自己の非を認めて謝罪の意を表明していること」

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≪ 判旨(原文抜粋)の「社会的な相当性」を欠く理由を9つにまとめてみました。 ≫

  1. アナウンサーだけの責任ではない : 事故はアナウンサーの過失でしたが、同僚のファックス担当者も同様に寝過ごしており、アナウンサーだけを厳しく罰するのは不公平でした。

  2. アナウンサーの反省: 事故後、アナウンサーはすぐに謝罪し、非を認めようと努力していました。

  3. 事故の軽微さ: 放送できなかった時間は短く、それほど重大な事故とは言えませんでした。

  4. 会社の管理体制の不備: そもそも、会社がニュース放送という重要な業務に対して、寝過ごしを防ぐための十分な体制を整えていませんでした。

  5. 報告書の不備は悪意ではない: 報告書に事実と異なる点がありましたが、それは故意ではなく、動揺や誤解によるもので、強く責めるのは酷でした。

  6. 過去の勤務態度: アナウンサーはそれまで勤務成績が良く、事故歴もありませんでした。

  7. 他の社員との処分の不公平: 同様の過失を犯したファックス担当者は「けん責処分」という軽い処分だったのに、アナウンサーだけが解雇されました。

  8. 前例のない解雇: 会社ではこれまで、放送事故を理由に解雇された前例がありませんでした。

  9. 最終的な反省: アナウンサーは最終的に自分の非を認め、謝罪していました。

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●判旨(原文抜粋) (このような→)「事情のもとにおいて被上告人に対し、解雇をもってのぞむことは、いささか苛酷にすぎ。」

「合理性を欠くうらみなしとせず」「必ずしも社会的に相当なものとして是認することはできないと考えられる余地がある」

(判旨(原文抜粋)は、以上です。)

・「合理性を欠くうらみなしとせず」とは: この表現は、「解雇には合理的な理由があったとは言えない」という意味で、「うらみ」は「残念なこと、悔やまれること」を意味し、「合理性を欠くような、残念なことではない」→「解雇の妥当性について残念ながら疑問が残る」というニュアンスを含んで、「合理性に疑問が残る」ということです。

・「いささか苛酷にすぎ」とは: (会社の対応は)「少し厳しすぎる」ということです。

・「社会的に相当なものとして是認することはできない」とは: 「社会的に妥当とは言えない」と結論。

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6. 就業規則の解雇理由

6-1  解雇理由の限定列挙説と例示列挙説

就業規則の解雇理由には、限定列挙説と例示列挙説という考え方があります。

限定列挙説とは: 「就業規則に具体的に書かれた事由しか普通解雇の理由にできない」と考える説です。

「寝過ごしによる放送事故」だけで解雇するのは、条文に直接書かれていないので無効と考えます。

・メリット:解雇権の濫用を防ぎやすい。

・デメリット:柔軟な運用ができず、会社が合理的に解雇したくてもできないことがある。

例示列挙説とは: 「就業規則に書かれた例は代表例であり、それに準じるやむを得ない事由なら解雇できる」と考える説です。

高知放送事件でのY社就業規則15条の3「その他、前各号に準ずる程度のやむをえない事由があるとき。」がこの考え方を反映しています。

宿直勤務中の寝過ごし事故が、事例説の考え方に基づき、解雇が合理的かつ社会通念上の相当があるか、どうかで判断されました。

・メリット:個別事情に応じて柔軟に解雇できる。・デメリット:会社が恣意的に解雇理由を作る危険があるため、社会通念上の相当性などでチェックが重要な鍵となります。

6-2  懲戒解雇と普通解雇の違い:

懲戒解雇とは: 懲戒解雇は、労働者の重大な規律違反に対する制裁として行われる、最も厳しい解雇です。就業規則で定められた懲戒事由に該当する行為(横領、情報漏洩、長期の無断欠勤など)を理由に、会社が労働者に科す一種の制裁です。

多くの場合、退職金が不支給になったり、再就職が困難になったりするなどの厳しい影響を伴います。

普通解雇とは: 労働者の能力不足や勤務態度不良、会社の経営悪化など、雇用契約の継続が困難になったことを理由に行われる解雇です。

これは懲戒的な意味合いを持たず、会社の判断による合理的な措置とされます。

通常、退職金は支給され、再就職にも懲戒解雇ほどの悪影響はありません。

(懲戒事由に該当する行為があったとしても、会社の裁量で選択できる別の手段です。会社が「制裁」ではなく、あくまで雇用関係の継続が困難だという理由で解雇する際に用いられます。)

6-3  注意点

懲戒解雇は重い処分であり、労働者にとっては非常に厳しい処分ですから、裁判所は慎重にチェックします。

そのため、懲戒解雇を主張すると、「解雇の重さに見合う合理的な理由や故意・悪意があるか」が問題になりやすいです。

同じ事実でも、普通解雇として主張していれば、社会通念上相当として認められるケースもあります。

≪ 労働者としても、解雇の理由を十分に理解しておきましょう。 ≫

7. 労働契約法第16条と2段方式

労働契約法第16条では、解雇が有効になるためには、次の二つの要件を満たす必要があります。

合理性: 解雇の理由が客観的に妥当かどうか。就業規則や会社の解雇規程が合理的であることも判断の材料となります。

社会通念上の相当性: 解雇が社会的に見て妥当かどうか。過失の程度や勤務態度、会社の対応などを総合的に考慮して判断されます。

この二段方式により、会社のルールに沿っている場合であっても、社会的に重すぎる解雇は無効となります。

労働契約法第16条の規定は、正社員に限らず、すべての労働者に適用されます。

労働契約法第17条との補足

(労働契約法第17条は、有期労働契約を締結している労働者(パートタイマー、アルバイト、派遣社員などを含む)を対象に、契約期間満了前に解雇する場合の基準を定めています。

契約期間中の解雇は、客観的に合理的かつ社会通念上相当と認められる「やむを得ない事情」がある場合に限られます。

この基準は、労働契約法第16条に基づく解雇権濫用の判断(合理性・相当性)よりも厳格に適用されます。

労働契約法16条と17条を併せて考えることで、すべての労働者に対する解雇の正当性を慎重に判断するための法的枠組みが整えられています。

8.  退職との違い(民法第627条の起算方法)

民法627条1項では、期間の定めのない雇用契約の労働者は、自ら退職の意思表示をすれば、少なくとも2週間後に退職が成立します。

例えば、10月1日に退職の意思表示を行った場合、翌日から起算して【2週間後】の10月15日が【退職日】となり、10月16日以降は雇用関係が終了します。

有期契約の労働者でも、民法628条により、【やむを得ない事由がある場合】には、【契約期間中】でも退職が認められることがあります。

(※)即日に契約の解除が認められる場合もあります。

典型的なやむを得ない事由としては、ハラスメントや労働安全上の重大な問題などが挙げられます。

(※)ただし、これらの場合でも、有効性が認められるかどうかは、個別に判断されます。

一方、会社が労働者を解雇する場合、現在では労働契約法第16条及び第17条の基準に従う必要があります。

労働契約法が制定される以前は、学説上「解雇の自由」と呼ばれるように、会社には比較的広い解雇権が認められていました。

しかし、その行使は無制限ではなく、民法第1条第3項(権利濫用の禁止)や判例法理によって、不当な解雇はすでに制限されていました。

この「解雇権濫用法理」を確立した代表的な判例が、日本食塩製造事件最判昭和50年4月25日)と高知放送事件最判昭和53年2月17日)です。

これらの判決で最高裁は、 「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当として是認することができない解雇は、権利の濫用として無効である」と判示しました。

この判例の積み重ねが、2007年(平成19年)の労働契約法制定時に、第16条として明文化されました(2008年3月1日 に施行)。

特に高知放送事件は、会社の解雇権と労働者保護のバランスがどのように法的に判断されるかを示す典型例であり、この分野の歴史的背景を理解するうえで極めて重要な判例と言えます。

9.  日本食塩製造事件との比較

日本食塩製造事件では、(※1)組合活動に関わる解雇に限定して、合理性および社会通念上の相当性が求められることが示されました。

高知放送事件で、勤務上の過失による解雇でも同じ基準が適用されることが明確にされました。

さらに、労働契約法17条の制定により、有期契約労働者(パート・アルバイト・派遣社員など)の契約期間中の解雇も慎重に判断されることが法律上明確になりました。

これらの判例と法律の積み重ねを通じて、労働契約法第16条の解雇権濫用法理は、幅広い状況に適用可能であることが明確になっています。

(※1)日本食塩製造事件では、ユニオンショップ協定(労働組合加入や除名に関する解雇)に基づく「労働組合の除名にかかる解雇」が争われ、解雇の有効性について「合理的理由と社会通念上の相当性」が初めて具体的に示されました。

10.   まとめ

高知放送事件は、会社がアナウンサーを宿直勤務中の過失(寝過ごしによるニュース放送不能)を理由に解雇した事案です。この事件で最高裁は、解雇の有効性を判断するにあたり、合理性と社会通念上の相当性の両方を満たす必要があることを明確に示しました。

具体的には、就業規則に従った解雇であっても、社会的に過重で不当な解雇は無効となることを示し、「会社のルール通りでも社会的に重すぎる解雇は無効」という解雇判断の基本原則を確立しました。

さらに、労働契約法第16条(解雇権濫用法理)により、この原則は現代のすべての労働者に適用されます。労働契約法第17条を加えることで、有期契約労働者(パート・アルバイト・派遣社員など)に対する期間中の解雇も慎重に判断されることが法律上明確になりました。

高知放送事件は、当時の高度成長期の長期雇用を前提に作られた基準であるにもかかわらず、現代の多様な働き方にも汎用的に適用可能な解雇判断の考え方を示した、非常に重要な判例です。

アナウンサーが寝過ごして放送事故を起こしたという一見シンプルな話ですが、裁判所は「それだけでクビにしていいのか?」を細かく検討したのです。前述のとおり、その結果は、「就業規則に書いてあるから解雇できる」わけではなく、解雇が社会常識に照らして妥当かどうかが大切だと判断されました。つまり、・会社が勝手に理由を作って解雇することはできない。・逆に、社員が何をしても守られるわけではない。・双方がルールと常識の両方に照らして判断される。というバランスがポイントです。

この考え方は現在の労働契約法16条にもつながり、「解雇は本当にやむを得ない場合だけ」という大原則として、今も使われています。

働く人にとっても、会社にとっても、「解雇は最後の手段」であることを覚えておくのが大切です。

【参考資料】 ・三訂 最高裁判例集 1民事編 編集 労働省労政局発行所[平成4年2月20日]株式会社 六法出版 ・判例サムアップ労働法[初版]弘文堂・労働法判例百選[第9版]有斐閣 ・労働法判例百選[第10版]有斐閣

最後までお読みいただきありがとうございました。

【事例つき】退職後の傷病手当金と失業手当|延長申請と受給順序のすべて(保存版・Part2)

1.はじめに:働けないならまず傷病手当金

まず大前提として、傷病手当金と失業手当(基本手当)は同時には受け取れません。

なぜなら、傷病手当金は「働けない状態」が前提であり、失業手当は「働く意思と能力がある状態」が前提だからです。

この二つは、そもそもの制度の性質が正反対です。

離職後も体調が戻らず、すぐに働ける見込みが立たない場合は、焦って求職活動を始めるよりも、 まずは傷病手当金を受けながら療養に専念するのが現実的です。

2.最優先事項:失業手当「受給期間延長」の鉄則

離職後も病気やけがなどで30日以上働けない状態が続く場合、失業手当の「受給期間」(通常1年間)を最長で3年間延長することができます。

つまり、離職から最大で4年間は、失業手当を受け取るチャンスを残しておけるということです。

この「受給期間延長制度」の申請は自動では行われません。

療養中でも「延長申請だけは早めに済ませておく」のが鉄則です。

複雑な延長申請のタイミング(原則と例外)

受給期間延長の申請には、原則の期間と、やむを得ない場合の例外的な期間が存在します。

・原則の申請期間: 離職後30日以上にわたって働けない状態が続いた場合、その翌日から1か月以内が原則です。

・例外的な期間: 長期療養などやむを得ない事情がある場合には、延長後の受給期間が満了する日までの間であれば、申請を受け付けてもらえます(かつての厳格な期間より緩和されています。)。

とはいえ、申請が遅れると、所定給付日数をすべて受け取る前に受給期間が終了してしまうおそれがあります。

そのため、療養中でも「延長申請だけは早めに済ませておく」のが鉄則です。

【具体例:A子さんの延長申請と受給申請】

A子さんは2025年1月1日に会社を離職しましたが、すぐに病気で30日以上働けない状態が続きました。

1.原則の申請期間の把握: 離職日の翌日(1月2日)から30日後の2月1日から1か月間(2月28日まで)が、原則の申請期間でした。

2.例外による申請: A子さんは入院のため原則期間中に申請できませんでしたが、3月10日に退院し、申請可能になったため、3月10日以降に速やかに延長申請を実施しました。

3.受給申請のタイミング: 2026年4月1日、医師から「週20時間以上働ける」と診断され、就労可能と判断されました。

この時点で傷病手当金は4月1日以降、支給停止になりますが、同時に失業手当の受給資格が発生します。

したがって、A子さんは4月1日以降、速やかにハローワークに行って受給申請を行う必要があります。

「延長した期間の最終日(最大4年後)まで待って申請すればいい」と誤解している人も多いですが、延長申請は早めに行うことが原則であり、回復したら即座に受給申請を行う必要があります。

3.失業手当と傷病手当金の「働ける」基準の違い

「働ける状態」の判断基準は、健康保険(傷病手当金)と雇用保険(失業手当)で異なります。

・失業手当の「働ける」: 週20時間以上の就労が可能な状態を指します。

傷病手当金の「働ける」: 通常の業務を遂行できる状態を指します。

【◎週20時間未満は、まだ働けない】

医師が「週20時間未満の軽作業なら可能」と診断しても、それは雇用保険上の「働ける」とはみなされず、失業手当の受給はできません。

一方で、このような「短時間なら可能」という状態は、健康保険法上は依然として“労務不能”と判断されることが多く傷病手当金の支給は継続されるのが一般的な運用です。

つまり、週20時間未満しか働けない状態は、実務上“まだ働けない”と扱われるということです。

4.支給内容、休職後の賃金日額、退職後の注意点

傷病手当金

給与のおよそ約67%(標準報酬日額の3分の2)が支給されます。支給期間は最長で通算1年6か月です。

退職後の注意点: 退職後に継続給付を受けている場合は、途中で一度でも「働ける状態(労務可能)」と判断されると、その後の残りの期間について支給が打ち切られます(在職中のような通算は認められません)。

◎失業手当(基本手当)

離職前賃金をもとに計算した「賃金日額」の45〜80%が支給されます。支給期間は通常90〜150日程度と短めです。

長期の療養が必要な人にとっては、支給期間の長い傷病手当金の方がトータルで有利になるケースが多いです。

(※なお、離職前の被保険者期間が原則12カ月未満の場合など、失業手当を受けられないケースもあります。その場合でも、傷病手当金は条件を満たせば支給されます。傷病手当金の受給要件は以下を参照ください。)

jinji60.hatenablog.com

休職後の賃金日額算定の特例

失業手当の支給額の基礎となる賃金日額は、原則として離職前6か月の賃金を180日で割って算出されます。

しかし、病気やケガで休職し、賃金が支払われていなかった期間がある場合は、以下の特例が適用されます。

・特例: 賃金の支払い日数が11日未満の月が連続する場合、その休職期間を賃金算定期間から除外します。

その結果、さかのぼって賃金が十分に支払われていた時期(離職前2年間が上限)の6か月を抽出して計算されます。

・意味: 休職期間中、給与が大きく減額されたり、ゼロになったりしていても、その期間の影響を受けず、病気になる前の高い給与水準をベースに失業手当が計算されるため、安心して次のステップへ進めます。

5.「少しなら働ける」診断のリスク

医師が診断書に「週10時間程度なら可能」などと記載すると、傷病手当金の支給が停止される可能性がある一方、失業手当も受給できないという“宙ぶらりん”の状態になるおそれがあります。

そのため、現場の医師は通常、「当面の間、通常勤務は困難」「引き続き療養を要する」と記載して、就労不能として扱うことが多いのです。

中途半端に“少しなら働ける”という診断は避け、療養を継続するか、完全に回復してから失業手当へ切り替えるかを明確にすることが大切です。

6.リハビリ勤務・短時間就労の注意点

体調回復に伴い、「短時間だけ働いてみたい」と考える場合は、必ず医師と保険者(健康保険組合など)に確認が必要です。

このような週20時間未満の軽作業であっても、以下の条件を満たせば、傷病手当金を継続して受けられる可能性があります。

・医師が「リハビリの範囲内」と認めること。

・収入が一時的または軽微であること。

保険者は、勤務内容・時間・収入などを総合的に判断し、「回復への支障がない」「労務不能状態が継続している」と認めれば支給を継続します。

リハビリ勤務を希望する場合は、必ず医師の意見書を添えて保険者に報告することが大切です。

7.おわりに ― 療養と再就職の正しい順番

離職後も病気やけがで働けない人は、まずは無理に働かず、傷病手当金で生活を安定させることが第一です。

そのうえで、必ず失業手当の「受給期間延長申請」を行い、将来、回復してから失業手当を受け取れるように備えておきましょう。

療養と再就職活動は同時にはできません。

「延長は早めに」「受給は回復したらすぐ」、この2ステップが非常に重要です。

「今は治す」「その後に働く」――この順番を意識して、自分のペースで無理なく社会復帰を目指すのが、結果的に最も得な道です。

最後までお読みいただきありがとうございました。

【実務で使える】社会保険と労働保険の違いをまとめて理解!

はじめに

働く人に関わる保険には、「社会保険」と「労働保険」という二つの制度があります。

どちらも「働く人を守る仕組み」ですが、法律の目的も、保険料の負担も、加入のルールもまったく異なります。

ここでは、その違いをわかりやすく整理します。


1. 社会保険とは「生活を守る制度」

社会保険は、労働者とその家族の生活の安定と福祉の向上を目的とした制度です。

社会保険」という言葉は、一つの法律で定義されているわけではありませんが、一般的に次の5つの制度を含む総称として使われます。

健康保険(健康保険法)

厚生年金保険(厚生年金保険法

雇用保険雇用保険法

労災保険労働者災害補償保険法)

介護保険介護保険法・40歳以上の被保険者に適用)

ただし、一般的に(狭義の)「社会保険」と言うときは、主に健康保険と厚生年金保の2つを指します。

この2つは、会社員や公務員が加入するもので、病気やけが、老後の生活、出産・育児といった「人生のリスク」に備える制度です。

たとえば、病気で働けないときに傷病手当金が支給されたり、出産の際に出産手当金が支払われたりします。

また、老後には厚生年金が支給され、生活を支える重要な役割を果たします。

2. 労働保険とは「働くことによるリスクを守る制度」

一方、労働保険(=広義の社会保険)は、働くことそのものに伴うリスクを補うための制度です。

これは法律上の正式名称ではなく、次の2つの制度を合わせた総称です。

労災保険労働者災害補償保険法)

雇用保険雇用保険法

労災保険は、労働者が仕事中や通勤中にけが・病気・死亡した場合に補償する制度です。

業務上の事故で治療が必要になった場合の医療費や休業補償、または遺族への給付などが行われます。

一方、雇用保険は、失業したときや育児・介護のために休業したときなどに、一定の所得を補う制度です。

たとえば、失業給付や育児休業給付金などが支給されるのは、この雇用保険によるものです。

3. 保険料の負担の仕方の違い

社会保険と労働保険では、保険料の負担者が異なります。

社会保険の負担

社会保険(健康保険・厚生年金保険)の保険料は、会社と労働者が折半して負担します。

健康保険法第161条および厚生年金保険法第82条に基づき、保険料は労使が等分に負担し、給与から控除されたうえで、会社がまとめて納付します。

(参考:全国健康保険協会東京支部「標準報酬月額 等級表(令和7年3月から)」) https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/shared/hokenryouritu/r7/ippan/13tokyo.pdf

■ 労働保険の負担

労働保険の場合、保険ごとに負担の仕方が異なります。

労災保険:全額を会社(事業主)が負担します。労働者の自己負担は一切ありません。

雇用保険:労働保険徴収法第31条に基づき、会社と労働者の双方が負担します(割合は、以下を参照。)。

こちらも給与から控除され、会社が国に納めます。

(参考:令和7年度 雇用保険料率) https://www.mhlw.go.jp/content/001401966.pdf


4. 加入の単位と強制加入の範囲

社会保険と労働保険では、加入が義務となる「事業所」の単位(適用範囲)に違いがあります。

4-1. 社会保険(健康保険・厚生年金)の範囲

社会保険(健康保険・厚生年金保険)の適用は、事業所が法人格を持つかどうかで決まります。

※法人事業所:(強制適用)

株式会社、合同会社NPO法人などの法人格を持つすべての事業所は、原則として社会保険の強制適用事業所となります。

従業員数の要件はありません。

従業員が1人もいなくても、代表取締役(役員)が1人いるだけで強制適用となり、代表取締役(役員)も原則として加入の対象となります。

法人設立後(または事業開始後)5日以内に、年金事務所へ「新規適用届」と「被保険者資格取得届」を提出する義務が生じます。

※個人事業所:(条件付き強制適用)

法人格を持たない個人経営の事業所は、原則として任意適用ですが、特定の業種において常時5人以上の従業員を雇用している場合などに強制適用となります。

4-2. 労働保険(労災保険雇用保険)の範囲

労働保険は、社会保険よりもさらに広い範囲に適用されます。

労災保険: ごく一部の例外的な個人事業(小規模な農林漁業など)を除き、労働者を1人でも雇えば、法人か個人かを問わず必ず加入しなければならないとされています。

雇用保険: 労働者を1人でも雇う事業はすべて強制適用ですが、個々の労働者が加入するには、以下の2つの要件を満たす必要があります。

・1週間の所定労働時間が20時間以上であること。

・31日以上引き続き雇用されることが見込まれること。


5. 適用される立場の違い:役員と各種保険

誰が保険に加入できるかという点も重要です。特に役員(経営者側)の扱いは、社会保険と労働保険の目的の違いにより、明確に分かれます。

5-1. 社会保険(健康保険・厚生年金):原則として強制加入

役員も加入が義務(マスト)

社会保険において、すべての法人(株式会社、有限会社など)は強制適用事業所です。

そのため、代表取締役や取締役などの役員は、次の加入条件を満たせば、被保険者(加入者)となることが法律上の義務(マスト)となります。

加入条件: 支払われる役員報酬「労働の対価」(労務の提供に対する適正な報酬)と認められること。

つまり、経営者本人であっても、会社から労務の対価としての報酬を受けていれば、加入は「できる」ではなく「しなければならない」と理解するのが正確です。

5-2. 労働保険(雇用保険労災保険

雇用保険:原則加入不可

雇用保険は、失業時の生活を支えるための制度であり、「使用者(会社)の指揮命令下で働く労働者」を前提としています。

そのため、指揮命令を行う立場にある役員は原則として加入できません

しかし、使用人としての側面も持つ「兼務役員」(肩書きは役員だが、実質的に一般従業員と同じ立場で労働に従事している)と認められる場合は、例外的に加入が認められます。

この場合、雇用保険の対象となるのは労働者として受け取る賃金部分のみです。

例(兼務役員): 役員でありながら、部長、支店長、工場長などの従業員としての身分を持ち、労働者的性格が強いと認められる場合に限り、被保険者となることが可能です。

この「労働者的性格が強い」かどうかの判断は、・職務内容、・報酬体系、・労働時間の管理状況など、「実態」に基づいて客観的に行われます。

特に、従業員としての賃金が役員報酬を「上回っていること」が要件の一つとされる場合があります。

※手続きとして、ハローワークに「兼務役員雇用実態証明書」などの書類を提出し、認定を受ける必要があります。

雇用保険料の計算は、従業員として支払われる賃金部分のみが対象となり、役員報酬部分は含まれません。

なお、兼務役員として労働者性が認められた場合、その労働者としての業務については、労災保険の加入も認められます

ただし、「役員としての職務中に被った災害は労災保険の対象外」となります。

労災保険:特別加入制度(条件付きの任意加入)

労災保険は、労働者を保護するための制度であるため、労働者ではない経営者や個人事業主は原則加入できません。

しかし、彼らが業務中の災害から身を守るために、特定の要件を満たし、所定の手続きを行った場合に限り、任意で加入が認められる「特別加入制度」が設けられています。

これは、本来の労働保険の枠組みから外れた、例外的な保障措置です。

6. 管轄官庁の違い

社会保険と労働保険は、管轄する行政機関も異なります。

社会保険厚生労働省の年金局と保険局が所管し、実際の手続きは日本年金機構が行います。

労働保険は厚生労働省の労働基準局および職業安定局が所管し、労働局やハローワーク労働基準監督署が実務を担当します。

この違いは、手続き先にも反映されます。

たとえば、健康保険・厚生年金の加入は「年金事務所」で行い、労災・雇用保険の手続きは「労働基準監督署」や「ハローワーク」で行うという具合です。


7. 社会保険の加入と手続き

7-1. 社会保険の加入は「事業所単位」

社会保険(健康保険・厚生年金)は、事業所単位で適用される制度です。

法律上、事業の形態や従業員数によって「強制適用事業所」か「任意適用事業所」かが決まります。

7-2. 法人事業所(株式会社・合同会社など)

法人は、従業員が1人でもいれば、原則として健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所となります。

この「1人」には、代表取締役を含む役員も含まれます。

そのため、会社設立後、最初に役員または従業員を雇用した段階で、会社は以下の届出を事業所の所在地を管轄する年金事務所へ提出する必要があります。

「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」(事業所として社会保険に加入する手続き)

「被保険者資格取得届」(代表者や従業員個人が被保険者となる手続き)

7-3. 個人事業所

個人事業の場合は、常時5人以上の従業員を使用している事業であれば、原則として健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所となります。

ただし、農林水産業、飲食業、美容業、旅館業、宗教業など、一部の業種は強制適用の対象外とされています。

これらの業種であっても、または常時5人未満の個人事業であっても、事業主と従業員の双方が同意し、年金事務所に申請することで「任意適用事業所」として加入することが可能です。


7-4. 被保険者の対象と勤務時間の基準(令和7年時点)

社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入できるかどうかは、勤務時間や勤務日数によって判断されます。

※ 原則として、正社員の所定労働時間および所定労働日数の4分の3以上で働く人は、「一般被保険者」として社会保険に加入する義務があります。

例: 正社員が法定労働時間である1日8時間で、月20日間の勤務と仮定すれば、4分の3以上で働く人は1日6時間以上で月15日以上勤務となります。

※短時間労働者への適用拡大(令和7年現在)

平成28年(2016年)の制度改正以降、段階的に進められてきた「短時間労働者への社会保険の適用拡大」は、令和6年10月から「従業員51人以上の企業」まで対象が広がりました。

この制度では、以下の条件すべてを満たす場合、パート・アルバイトでも社会保険に加入しなければなりません。

・週の所定労働時間が20時間以上

・雇用期間が2か月を超える見込み(原則)

・月額賃金が88,000円以上

・学生でない

・従業員数が常時51人以上の企業(企業単位で判断)

※ 「51人以上」とは、同一法人・同一企業単位での従業員数を指します。

たとえば、同じ法人の複数店舗を合算して「51人以上であれば、1つの店舗に10人しかいなくても対象」となります。

※「月額88,000円基準は実質的に形骸化?」

令和7年度の最低賃金(例:全国平均約1,050円前後)をもとにすると、週20時間勤務の場合でも、次のように計算されます。

1,050円 × 20時間 × (※)4.33週≒ 90,930円

つまり、最低賃金で働いても月収は約9万円前後となり、「月額88,000円以上」という要件を自動的に満たすことになります。

(※)365日÷12カ月÷7日≒4.33週


7-5. 手続きの流れと提出先

社会保険の手続きは、日本年金機構年金事務所が窓口です。

会社設立後、速やかに次の書類を提出します。

まず「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」を提出し、会社自体を適用事業所として登録します。

その後、従業員ごとに「被保険者資格取得届」を提出します。

健康保険証が発行されるのは、通常1〜2週間ほどです。 (※既に基礎年金番号を持つ場合は、その番号を引継いで使用します。)

給与からは、入社月の翌月分から社会保険料(=月単位)を控除します。

当月分を翌月末日までに納付します(厚生年金保険法第83条第1項・健康保険法第164条)。

控除した保険料と会社負担分を合算して、毎月末までに納付します。

納付は銀行振込または口座振替で行われ、支払先は日本年金機構です。


8. 労働保険の加入と手続き

労働者を1人雇ったときの実務的な対応(労働保険の手続き)

労働者を1人でも雇い入れた場合、それが短時間のアルバイト(週20時間未満)であっても、法人・個人事業主を問わず、労働保険への加入手続き(保険関係の成立手続き)が義務となります。

この手続きは、労災保険の管轄である労働基準監督署と、雇用保険の管轄であるハローワークの二箇所で行う必要があります。

8-1. 最初に必ず行う手続き(労働基準監督署

まず、雇い入れた従業員の労働時間に関係なく、すべての労働者に適用される労災保険の手続きを最優先で行います。

提出先: 事業所の所在地を管轄する労働基準監督署

必要な書類:

労働保険保険関係成立届

労働保険概算保険料申告書

この「保険関係成立届」を提出し、受理されると、事業所に固有の労働保険番号が付与されます。

このとき、**「保険関係成立届」の事業主控(複写)が返却されますので、これは絶対に保管しておいてください。

後のハローワークでの手続きで必要になります。**

8-2. 雇用保険対象者がいない場合の対応(週20時間未満のアルバイトのみ)

もし、雇ったのが週20時間未満のアルバイトだけで、雇用保険の加入条件を満たす従業員が一人もいない場合、ハローワークでの雇用保険の適用手続きは不要です。

この状態でハローワークに「雇用保険適用事業所設置届」を持参しても、「雇用保険の対象者がいない」として受理してもらえませんので、無理に提出する必要はありません。

労働基準監督署での労災保険の手続きが完了していれば、この段階では問題ありません。

8-3. 雇用保険対象者を雇い入れた場合の対応(ハローワーク

その後、正社員や週20時間以上のパートなど、雇用保険の加入条件を満たす従業員を初めて雇い入れた場合は、以下の手続きをすぐに行います。

提出先: 事業所の所在地を管轄するハローワーク

必要な書類と期限:

雇用保険適用事業所設置届雇用保険の適用事業所となった日の翌日から10日以内

雇用保険被保険者資格取得届:資格取得日(雇い入れ日)の翌月10日まで

この際、手順1で保管しておいた「保険関係成立届」の控え(写し)を添付書類としてハローワークに提出します。

これにより、すべての労働保険の手続きが完了します。

2人目以降の従業員からは、この雇用保険被保険者資格取得届」のみを、対象者が出るたびに期限内(翌月10日まで)に提出すればよくなります。

8-4. 労災保険雇用保険の実務的な違い

労災保険は、従業員全員を自動的にカバーします。

つまり、労働者が働き始めた瞬間から適用され、個人ごとの加入手続きは不要です。

業務中や通勤途中にけがをした場合、会社が「労働者死傷病報告書」(1日以上の欠勤は労基署へ)や「療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号)」(※病院窓口へ)などを提出し、給付申請を行います。

一方、雇用保険は加入条件を満たす従業員ごとに「雇用保険被保険者資格取得届」を提出します。ハローワークが受理すると、従業員に雇用保険番号が発行されます。

8-5. 加入手続き完了後の書類(被保険者証の管理)

雇用保険被保険者資格取得届」が受理されると、ハローワークから会社宛に雇用保険の加入を証明する用紙が送付されます。この用紙は、通常以下の部分で構成されています。

・従業員本人に渡す部分

雇用保険被保険者証

雇用保険被保険者資格取得等確認通知書(被保険者通知用)

・会社が保管する部分

雇用保険被保険者資格取得等確認通知書(事業主通知用)

実務上、これらはミシン線(切り取り線)で繋がった状態のものが含まれています。

原則として「被保険者証」は本人に渡すものですが、紛失を防ぐため、この用紙をミシン目で切り離さず、まるごと会社で預かり保管しているケースが多く見られます。

会社で保管する場合は、従業員が転職などで被保険者証を必要とした際、すぐに切り離して渡せるように管理しておくことが重要です。

9. 会社が忘れやすい「資格喪失」と「算定基礎届」「年度更新」

社会保険や労働保険の手続きで、意外と忘れがちなのが、従業員の退職時に行う「資格喪失」と、毎年必ず実施する定期手続きの「算定基礎届」および「年度更新」です。

いずれも期限が定められており、遅れると保険料の過不足や延滞金などのトラブルにつながることがあります。

■ 退職時の「資格喪失届」

従業員が退職した場合:

社会保険(健康保険・厚生年金)では退職日の翌日から5日以内、労働保険(雇用保険)では退職日の翌日から10日以内に「資格喪失届」を提出しなければなりません。

この手続きを忘れると、実際には働いていない従業員に対して保険料を払い続けることになり、無駄な出費が発生します。

退職予定者が出た段階で、早めに書類を準備しておくことが重要です。

■ 年1回の「算定基礎届」(社会保険

社会保険では、毎年7月1日から7月10日までの間に「算定基礎届」を提出します。

この届出は、4月・5月・6月の3か月間に支払った給与を基準として、全従業員の標準報酬月額を見直すためのものです。

算定結果は、9月からの社会保険料額に反映されます。

給与変動を正しく反映させるためにも、提出期限を守り、記載内容に誤りがないか十分に確認しましょう。

■ 年1回の「年度更新」(労働保険)

一方、労働保険(労災保険雇用保険)では、毎年6月1日から7月10日までの間に「年度更新」を行います。

これは、前年度の実際の賃金総額に基づいて確定保険料を申告・納付し、同時に新年度分の概算保険料を納付する手続きです。

算定基礎届と同様、期限を過ぎると延滞金が発生することがあります。

年度更新と算定基礎届の期間が一部重なっているため、担当者は毎年この時期に手続きが集中する点に注意が必要です。

おわりに

社会保険と労働保険は、どちらも働く人を守るために法律で定められた重要な制度ですが、その目的や手続きの仕組みは根本的に異なります。

社会保険は、病気や老後、出産といった**「生活の保障」を目的とし、主な窓口は年金事務所です。

一方、労働保険は、業務災害や失業、休業といった「働くことによるリスクの補償」を目的とし、手続きは労働基準監督署ハローワーク**で行います。

法令遵守は事業主の義務であり、手続きの遅延や誤りは、従業員の不利益につながるだけでなく、企業への行政指導やペナルティのリスクを高めます。

本稿で整理した違いとルールをしっかりと理解し、適切なタイミングで正確な手続きを行うことが、健全な企業経営の基盤となります。

最後までお読みいただきありがとうございました。

【事例つき】傷病手当金の受給要件と退職後の支給条件を完全解説(保存版・Part1)

1 はじめに

病気やケガで仕事を休まなければならないとき、生活の支えとなるのが「傷病手当金」です。

これは、健康保険の被保険者(被扶養者・任意継続被保険者を除く)が、業務外の理由で働けなくなった場合に支給される所得補償制度です。

実は、この傷病手当金は退職後でも一定の条件を満たしていれば継続して受け取れる場合があります。

ただし、退職してから新たに申請することはできず、在職中に受給のための要件を満たしているかどうかが大きなポイントになります。

この記事では、傷病手当金の基本的な「受給要件」と、退職後に受け取るための注意点を、具体例を交えてわかりやすく解説します。

2 傷病手当金の「受給要件」とは?

傷病手当金を受け取るには、以下の3つの条件をすべて満たしている必要があります。

① まず1つ目の条件は、健康保険(社会保険)の被保険者であることです。

役員・正社員=原則として社会保険加入

正社員以外の人は以下の要件を満たす場合には、「一般被保険者」として健康保険(社会保険)に加入する義務があります。

(1)4分の3要件:正社員の週の所定労働時間および月の所定労働日数の4分の3以上で働く人(学生も含まれる)

例:

正社員が法定労働時間の1日8時間で月20日勤務と仮定すれば、4分の3以上で働く人は1日6時間以上で月15日以上勤務となります。

(2)短時間労働者への適用拡大:学生を除く(令和7年現在)

原則として、社会保険の被従業員数が常時51人以上の企業(企業単位(=適用事業所)で判断)以下の条件すべてを満たす場合

・週の所定労働時間が20時間以上

・雇用期間が2カ月を超える見込み(原則)

・「月額賃金88,000円以上」(令和7年10月現在の全国最低賃金水準では、この要件を満たすケースが多い。)

役員(取締役など)であっても、健康保険の被保険者資格があり、報酬が労務の対償と認められる場合は対象になります。

ただし、労務不能かどうかの判断は一般従業員よりも厳格に見られます。

② 2つ目の条件は、病気やケガによって働けない状態にあること(労務不能)です。

これは、医師の診断書(傷病手当金の意見書など)によって証明する必要があります。

③ 3つ目の条件は、待期期間として連続した3日間の労務不能期間があることです。

この3日間には、有給休暇中や会社の休日も含まれます。

待期期間が満了した翌日(労務不能の連続4日目)から、傷病手当金の支給対象期間が開始されます。

たとえば、有給休暇中に体調を崩し、そのまま「労務不能」になった場合でも、「3日間連続「で休んでいれば待期は完成します。

ただし、有給期間中は会社から給与が出ているため、その期間については傷病手当金は支給されません。

3 具体例と要件整理

パターン①

出勤日・祝日・【有給】・【有給】・【有給】(=労務不能1日目)・【有給】(=労務不能2日目)・【有給】(労=労務不能3日目で待期完成!)・【有給】・【有給】・【出勤日】➡この日から傷病手当金の支給対象期間が開始されます(ただし、有給休暇中は賃金優先のため、傷病手当金は原則不支給)。

パターン②(祝日は会社の休みとする)

祝日・出勤日・【有給】・【有給】(=労務不能1日目)・【有給】(=労務不能2日目)・【有給】(労=労務不能3日目で待期完成!)・【有給】・【祝日】➡この日から傷病手当金の支給対象期間が開始されます(有給休暇や祝日等で賃金がない日があれば支給されます)。・【出勤日】・【出勤日】・【祝日】・【出勤日】 

パターン③(受給中に有給休暇を取得した場合)

・出勤日・【有給】・【有給】(=労務不能1日目)・【有給】(=労務不能2日目) ・【有給】(労=労務不能3日目で待期完成!)【有給】・【祝日】➡この日から傷病手当金の支給対象期間が開始されます(有給休暇や祝日等で賃金がない日があれば支給されます)・【出勤日】・【出勤日】・【有給(✖理論上この日は不支給)】 ・【出勤日】・【祝日】・【出勤日】

かんたん!整理

・待期期間は労務不能が連続して3日間で完成(待期期間は傷病手当金は出ません。)。

・有給休暇は待期期間の3日間にカウント(労務不能であればよいため、労働日でも休日でもカウント)

・待期が完成した通常4日目から傷病手当金の支給対象期間が開始されます(労働日でも休日でも対象)。

ただし、傷病手当金が支給される日に賃金が支給されていれば傷病手当金から賃金を引いた差額が支給される。

つまり、有給休暇を4日目に支給されれば、通常の賃金等が支給されるわけで、傷病手当金の支給額を上回るから、その日は傷病手当金を受給することはできません。

4 退職後も傷病手当金を受け取るには?

退職後に傷病手当金を継続して受け取るためには、以下の3つの条件をすべて満たしている必要があります。

① 1つ目は、退職前にすでに傷病手当金の支給要件を満たしていること。

具体的には、待期3日間を終え、医師から労務不能と判断されている状態である必要があります。

退職後に初めて病気やケガをした場合は、たとえ重症であっても支給されません。

② 2つ目は、健康保険の被保険者期間が、継続して1年以上あることです。

この「継続して」というのは、同一の健康保険制度内で1年以上加入していたことを意味します。

※「前の健康保険の資格喪失日の翌日に、次の健康保険の資格を取得していること」が必要です(空白が1日でもあると通算されません)。

例:

制度が異なる場合の通算のケース(✖=不可)

協会けんぽ+組合けんぽ ≧1年

共済組合+協会けんぽ  ≧1年

市町村国保協会けんぽ ≧1年

③ 3つ目は、退職日当日にも引き続き労務不能状態にあること。

(つまり、退職日を境に回復して「働ける状態」と判断されてしまうと、その翌日以降の支給は受けられません。)

具体的には「退職日において、受給している。あるいは、退職日において受給できる状態にあること」が要件です。

例:

(あくまで業務外で)メンタル疾患に罹患したA男さん。会社を辞めることにした。

この場合、退職日の3日前に関して主治医の労務不能の証明を貰う。

【欠勤(労務不能)】・【欠勤(労務不能)】・【欠勤(労務不能)】・【退職日】➡最長で1年6カ月傷病手当金の受給の可能性あり! 

※退職日に出勤すると、その日は「労務可能」とみなされるのが原則であり、退職後の支給が認められない可能性が高くなります。退職日当日の出勤は避けましょう。

ついつい、最後の日ぐらいは、挨拶をして職場を去ろうなどと考えないことです。

同様の条件を満たしているA男さんが、退職日までの4日間、有給休暇を取得して、主治医が、この4日間について、労務不能の証明をしてくれれば、退職の翌日(5日目)から、最長で1年6カ月の傷病手当金が受給できる可能性があります。

5 有給休暇と傷病手当金、どちらを先に使うべき?

有給休暇を取得した日は賃金が支払われるため、その日については傷病手当金は支給されません(併給不可)。

労働基準法で定められた年次有給休暇を先に使うか、それとも傷病手当金を優先して申請するかは、本人の自由です。

会社がどちらかを先に使うように指示することはできません(ただし、特別休暇などを除く)。

長期の療養が必要になりそうな場合は、先に傷病手当金を受給し、有給休暇を後に温存する方法が有利なこともあります。

一方で、復職の見通しが立たない場合には、先に有給休暇を消化してから傷病手当金に切り替える方法も検討できます。

いずれにしても、有給休暇は翌年度への繰り越しが可能で、2年間の消滅時効があるため、安易に使い切らず、全体の療養スケジュールを見据えて判断するのがよいでしょう。

例:

4月1日に付与された有給休暇の時効期間は、付与された日を起算日として2年間となります。

付与日(起算日): 4月1日

満了日(使用可): 2年後の3月31日

消滅日(使用不可): 2年後の4月1日

6 請求期限(時効)に注意!

傷病手当金の請求期限(時効)は、労務不能であった日ごとに、その「翌日から」2年間です。

2年を過ぎると、その日の分の請求権は時効により消滅し、支給を受けることができなくなります。

例:

労務不能だった日: 4月1日

時効の起算日: 4月2日

時効満了日: 2年後の4月1日(消滅日は2年後の4月2日)

このように、1日単位で時効が進行します。

申請は休業した期間をまとめて行うことも可能ですが、時効にかからないよう、1カ月ごとなど定期的に申請することが推奨されます。

詳しくは、ご加入の健康保険組合または全国健康保険協会協会けんぽ)にお問い合わせください。

7 まとめ

退職後であっても、在職中に要件を満たしていれば、最長1年6カ月間、傷病手当金を受け取ることができます。

ただし、そのためには次の3点がそろっていることが必要です。

・退職前にすでに労務不能となり、待期3日を満たしていること。

・健康保険の被保険者期間が継続して1年以上あること。

・退職日当日も労務不能状態であること。

これらを満たしていないと、退職後の支給は受けられません。

また、請求には2年の時効があるため、申請を後回しにすると受け取れなくなるおそれもあります。

少しでも不安な点があれば、早めに会社の人事部門や健康保険組合、または全国健康保険協会協会けんぽに相談し、手続きを確実に進めましょう。

制度を正しく理解し、安心して療養に専念できるよう備えてください。

最後までお読みいただきありがとうございました。

会社の『弁償しろ!』は心配いらない 〜茨城石炭商事事件に学ぶ、損害賠償の真実〜

1. はじめに

職場で働く中で、従業員のちょっとしたミスや不注意が、会社の備品や取引先に損害を与えてしまうことがあります。

そうしたとき、会社は「損害を弁償しなさい」と従業員に求めることができるのでしょうか。

この問いに大きな道筋を示したのが、茨城石炭商事事件(最高裁昭和51年7月8日判決)です。

一見すると交通事故をめぐる損害賠償事件ですが、その本質は「会社と従業員のあいだで、損害をどのように分担すべきか」という、労働法上の重要な問題を扱ったものです。

この判決を通じて確立されたのが、いまでも多くの労働事件で引用される「責任制限の法理」です。

これは、会社が事業活動によって利益を得る以上、その活動に内在するリスクも一定程度負担すべきであり、従業員に無制限の賠償を求めることは許されない、という考え方です。

本稿では、この茨城石炭商事事件について、事案の概要から判決の内容、そして現代の労働問題への意義までを整理して解説していきます。

2. 用語解説と事件の背景

このセクションでは、茨城石炭商事事件を理解するために不可欠な用語を解説し、事件が起きた背景を整理します。

2-1. 事故と損害

本件は、石炭輸送会社のY社に勤める運転手のXさんが、業務中にA社のタンクローリーに追突した事故です。

タンクローリーは、液体や気体を運ぶための大きなタンクが付いた特殊なトラックです。

この事故により、A社のタンクローリーと、Xさんが運転していたY社のタンクローリーの両方が破損しました。

事故で生じた損害は、以下の2つに分けられます。

A社への損害: 車両の修理費と、その車が使えなかったことによってA社が失った利益(休車補償)。

休車補償とは、事故で車が使えなくなった期間に、その車が働けないことで本来得られるはずだった利益を補うためのお金です。

Y社自身の損害:

自社タンクローリーの修理費と、それが使えなかったために失った利益(逸失利益)。

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逸失利益とは、被害者が事故によって得られなくなった、将来にわたる利益のことです。

今回のケースでは、Y社のタンクローリーが修理で動かせない間に、本来得られるはずだった仕事の収入を指します。

(注)休車補償と逸失利益の違い

休車補償と逸失利益は、どちらも「事故がなければ得られたはずの利益」を意味しますが、通常、以下の通り使い分けられます。

・休車補償(きゅうしゃほしょう):

業務用の車両(タクシー、トラック、バスなど)が事故で使えなくなった場合に、その車両が働けない期間中に失われた営業利益を指します。

「あくまで車両そのものがもたらす収益の損失に焦点を当てた言葉です。」

逸失利益(いっしつりえき):

事故や不法行為によって、将来にわたって得られるはずだったあらゆる利益を指す、より広い概念です。

財産的損害:

物が使えなくなったことによる利益の損失(今回のケースの休車補償もこれにあたります)。

人的損害:

人がケガや死亡により、働けなくなって失われた収入のことです。

つまり、「休車補償は、逸失利益という大きなカテゴリの中の、一つの具体的な項目」であると言えます。

2-2. 損害賠償と保険

事故後、Y社はA社との間で示談を成立させました。

示談とは、裁判をせずに話し合いで問題を解決することです。

Y社はA社に、損害の補償として約8万円を支払うことに合意しました。

しかし、Y社は経費節減のため、以下の保険に加入していませんでした。

対物賠償責任保険:

相手の物を壊した場合の損害を補償する保険のことです。

車両保険:

自分の車が壊れた場合の修理費用を補償する保険のことです。

もし、Y社がこれらの保険に入っていれば、A社への賠償金や自社の修理費は保険でカバーされたため、Xさんに損害賠償を求める必要はありませんでした。

2-3. 民法のルール

Y社は、A社に支払った賠償金と、自社が被った損害の両方を、すべてXさんに請求しました。

この請求には、主に以下の法律が関わっています。

民法第709条(不法行為責任):

「自分の行為によって誰かに損害を与えたら、その責任を負う」という基本的なルールです。

Xさんの運転ミス(過失)によってY社自身の車両が壊れたため、Y社は民法第709条を根拠にXさんに自社の損害を賠償するよう請求しました。

民法第715条(使用者責任と求償):

この法律には2つの重要なポイントがあります。

使用者責任(第1項):

従業員が仕事中に他人に損害を与えた場合、その雇用主である会社も一緒に責任を負うというルールです。

これにより、A社はXさんではなく、Y社に損害賠償を請求しました。

求償(第3項):

会社が被害者に損害賠償金を支払った後、そのお金を従業員に返すよう求める権利です。

Y社はA社に支払った賠償金について、この条文を根拠にXさんに求償しました。

2-4. 裁判の判断と核心的な考え方

Y社は、上記の法律を根拠に損害の全額をXさんに請求しましたが、最高裁はこれを認めませんでした。

その背景には、以下の2つの重要な法的概念が核となっています。

報償責任の原則:

「会社が事業で利益を得るならば、それに伴うリスクも負うべきだ」という理念です。

従業員のミスによる損害は、事業活動を続ける上で避けられないリスクの一部と見なされます。

会社は従業員を使うことで利益を得ている以上、最終的にその損害も引き受ける責任がある、というのがこの原則です。

責任制限の法理:

これは、報償責任の原則という理念を実現するための具体的なルールです。

従業員が会社に与えた損害の賠償額を、どこまで制限すべきか、という判断を下すために用いられます。

今回の裁判では、この法理に基づき、従業員の過失の程度や給与、そして会社が保険加入という「常識的なリスク管理を怠ったことなどを考慮して、Xさんの賠償責任が損害額の4分の1に制限されました。

これらの2つの原則は、なぜ会社が損害を負担すべきか、という理念と、どのように損害を分担するかという具体的な方法論を結びつけており、この判例の核心をなしています。

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3. 訴訟の経緯と争点

本件は、損害を被ったY社が、その全額を従業員であるXさんと、その身元保証人に対し請求したことで、最高裁判所の判断を仰ぐことになりました。

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3-1. Y社の主張と法的根拠

Y社は、自社の損害について、Xさんの過失を根拠に民法第709条(不法行為責任)に基づいて賠償を請求しました。

また、Y社が被害者であるA社に支払った賠償金については、民法第715条第3項(使用者責任における求償権)に基づいてXさんに全額を返すよう求めました。

これは、法律上は認められている権利の行使でした。

しかし、この訴訟の核心的な争点は、会社が従業員に損害の全額を請求することが、法的にどこまで許されるのか、という点にありました。

3-2. 原審の判断と最高裁への上告

原審(高等裁判所)は、Y社の全額請求を認めませんでした。

裁判所は、従業員と会社の間には特別な関係があり、会社が従業員に損害の全額を負担させることは、「信義則」に照らして不当であると判断しました。

その結果、Xさんが賠償すべき金額は、損害総額の4分の1を限度とすべきであるとしました。

これに対し、全額賠償を求めていたY社は不服とし、最高裁判所に上告したのです。

4. 最高裁判所の判断と核心的な考え方

最高裁判所は、原審の判断を支持し、Y社の上告を棄却しました。

この判決は、会社と従業員の損害賠償責任を判断する上で、現代の労働法に大きな影響を与える2つの重要な法的概念を明確にしました。

4-1. 報償責任の原則

この原則は、「会社が事業で利益を得るならば、それに伴うリスクも負うべきだ」という理念です。

従業員が仕事中に起こすミスや事故による損害は、事業活動を続ける上で避けられないリスクの一部と見なされます。

会社は、従業員を使うことで利益を得ている以上、最終的にそのような損害も引き受ける責任がある、というのがこの原則の基本的な考え方です。

4-2. 責任制限の法理

これは、報償責任の原則という理念を、具体的な事案に当てはめて実現するためのルールです。

裁判所は、会社が従業員に与えた損害の賠償額を、どこまで制限すべきかを以下の諸般の事情を総合的に考慮して判断するとしました。

・事業の性質、規模、施設の状況

・従業員の業務内容、労働条件、勤務態度

・行為の態様(事故の状況)

・会社による、加害行為の予防や損失の分散への配慮の程度

・その他すべての事情

この裁判では、この法理に基づき、従業員Xさんの給与や勤務成績、そして会社が保険加入という常識的なリスク管理を怠ったことなどを考慮して、Xさんの賠償責任が損害額の4分の1に制限されました。

5. 本件の事実へのあてはめ

最高裁判所は、先に述べた「責任制限の法理」の要件を、本件の具体的な事実に当てはめ、原審の判断が正当であると結論づけました。

5-1. 判決が考慮した具体的な事実

裁判所は、以下の点を総合的に考慮しました。

・会社の状況: Y社は資本金800万円、従業員約50名を擁する比較的大規模な会社でした。

しかし、経費節減のため、・法律で加入が義務付けられている対人賠償責任保険のみに加入し、・対物賠償責任保険や車両保険には入っていませんでした。

従業員Xさんの状況: Xさんは、・主に小型貨物自動車を運転しており、・タンクローリーの運転は臨時的に命じられたものでした。

・当時の月給は約4万5千円で、・勤務成績は普通以上と評価されていました。

・事故の状況: 事故は、重油を満載したタンクローリーを運転中に、交通渋滞が始まっていた国道で発生しました。

Xさんは、・車間距離を十分に取らず・前方注視も不十分な状態で、先行車両に追突しました。

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5-2. 判決の結論

これらの事実関係から、裁判所は、Y社がXさんに請求できる損害賠償額は、損害総額の4分の1が限度であると判断しました。

判決文には明確に書かれていませんが、「その他諸般の事情」には、労働者と使用者の経済的な格差や、損害の大きさなどが含まれていると考えられます。

最高裁は、原審の判断を「正当」として支持し、Y社の上告を棄却しました。

これにより、会社の事業活動中の損害について、従業員が全責任を負うべきではないという重要な判例が確立されました。

6. 労働基準法第16条について(損害賠償との違い)

この事件で会社が従業員に損害賠償を請求したことと、労働基準法第16条は、しばしば混同されますが、両者はまったく異なるルールです。

6-1. 労働基準法第16条とは?

労働基準法第16条は、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定めています。

この法律の趣旨は、会社が「遅刻したら罰金1万円」といったあらかじめ決めたルールで労働者を縛り、自由に退職したり転職したりするのを妨げるような、不当な「足止め策」を講じることを防ぐことです。

これは、弱い立場にある労働者を守るための重要なルールです。

6-2. 本件の損害賠償との違い

今回の事件での会社の行為は、この法律には違反しません。

なぜなら、会社は「あらかじめ約束した損害賠償額」を請求したのではなく、「実際に発生した損害」の賠償を求めたからです。

したがって、今回のケースは労働基準法第16条には違反していません。

しかし、最高裁は、民法上の損害賠償請求であっても、労働関係の特殊性を考慮して、信義則や報償責任の原則に基づき、その範囲を制限すべきだと判断しました。

この判決は、たとえ法律違反ではない場合でも、会社が労働者に対して不当に重い責任を負わせることを許さないという、重要なメッセージを示しています。

7. 雇用契約上の連帯保証人契約

この事件では、従業員であるXさんだけでなく、身元保証人にも賠償請求がなされました。

これは、身元保証契約という特別な契約に基づいています。

7-1. 身元保証契約の法的制限

雇用契約における身元保証は、従業員の不正行為などによって会社が被った損害を保証人が賠償する制度です。

しかし、保証人の負担が不当に重くならないよう、法律(身元保証に関する法律)で以下の通り厳しい制限が設けられています。

有効期間の制限: 期間を定めていなければ有効期間は3年間です。

期間を定める場合でも、最長で5年間が上限となります。

自動更新の禁止: 自動更新は認められず、更新時には必ず保証人の同意を得て、改めて契約を結び直す必要があります。

賠償額の制限: 保証人の責任は無制限ではありません。

茨城石炭商事事件のように、裁判所は従業員の職務や不正の態様、保証人が保証した経緯などを総合的に考慮して、賠償額を厳しく制限します。

保証人は単なる借金の保証人のように無条件に全額を負担するわけではないため、過度に心配する必要はありません。

7-2. 実務上の慣行と契約書の保存

実務上は入社時に保証契約を結ぶことが多く、かつては親族と第三者の2名を立てる慣行が一般的でした。

もっとも、近年は個人情報や人権への配慮から、身元保証契約を求めない企業も増えています。

契約書の保存については法律上の明確な規定はありませんが、損害賠償請求権の時効(不法行為に基づく場合、民法上は3年または20年)を考慮し、一般的には5年程度保管することが推奨されます。

8. おわりに

茨城石炭商事事件は、単なる交通事故の損害賠償を超えた、日本の労働法における重要な判例です。

この判決は、従業員が会社の事業活動中に損害を与えた場合でも、会社がその全額を当然に従業員へ請求できるわけではないというルールを示しました。

この「責任制限の法理」は、会社が事業で利益を得る以上、そのリスクも適切に負担すべきだという「報償責任の原則」を具体化したものです。

そして、この法理は対物損害に限られず、場合によっては対人損害にも及ぶことがあります。

会社が保険加入など合理的なリスク管理を怠った場合に、その責任を従業員に過度に転嫁することは認められません。

現代の労働相談でも、会社が従業員に備品破損や顧客損害の弁償を求めるケースは少なくありませんが、この判例はそうした請求が常に正当とは限らないことを明確にしました。

これは、「損害の公平な分担」という理念を示したものであり、今なお会社と従業員の健全な関係を考える上で重要な意義を持ちます。

参考資料:

労働法判例百選[第10版](有斐閣

最後までお読みいただきありがとうございました。