経済産業省が情報処理技術者試験の大幅な見直しに着手した。これまでのIT企業のITエンジニアらを意識したものから、ユーザー企業のデジタル変革(DX)担当者ら向けに大きくかじを切るものとみられる。
背景には、システム構築を請け負うシステムインテグレーター(SIer)側にITエンジニアが7~8割所属したままで、ユーザー企業側のIT人材育成・獲得が進まないことにある。そこに、日本企業のデジタル活用による生産性向上や新しいビジネスモデルの創出が停滞してしまう理由があるからだ。
見直しを検討する経産省 商務情報政策局 情報技術利用促進課デジタル人材政策室によると、試験制度改定の議論は約2年前から始まり、「土台となるデジタルスキルが重要」とし、DX推進に欠かせないスキルを身につけることを目的に、2026年3月末に試験制度の改正案、2026年度夏ごろに新試験の詳細をそれぞれ公表し、2027年度に新試験の開始というスケジュールを立てている。
1969年に発足した同試験制度は、1970年に法制化し、第一種情報処理技術者試験、第二種情報処理技術者試験などを始めた。1994年にシステムアナリストやプロジェクトマネージャーなど11の試験を整備し、システム構築に関わる専門家向けであることを鮮明にしている。IT企業はそれに応えて、自社のITエンジニアらに受験を奨励。試験制度改定は2001年と2009年にも実施されたが、基本的な内容に大きな変更はなかった。
2009年に新設されたITパスポート試験は、エンジニア向けではなく、全てのビジネスパーソンを対象にしており、IT活用の基礎知識を習得してより高度なIT活用力を身につけることに重きが置かれた。実は、情報処理技術者試験の志願者は70万人を超えたものの、その約4割である約30万人がITパスポート試験の応募者。加えて、情報処理技術者試験を運営する情報処理推進機構(IPA)によると、最近の受験傾向はデータベースなどシステム開発系より、マネジメント系が増えているという。
そうした中での2027年度に向けての改正検討は、あらゆる業種・業務のビジネスパーソンのデジタル活用力を高めることにある。そこで、データベーススペシャリストやシステムアーキテクト、ネットワークスペシャリストなどといった専門・技術スキルの試験から、システム構築の上流から下流までを担える「プロフェッショナルデジタルスキル試験(仮称)」にし、企業のDX人材育成を加速させるものにするようだ。継続するITパスポート試験の上位版という位置付けにも思える。
プロフェッショナルデジタルスキル試験(仮称)には、「マネジメント・監査」「データ・AI」「システム」の3つの区分を設けているが、全ての資格取得を推奨している。ある中堅SIerの経営者は「生成AIの台頭など技術変化が激しすぎる状況において、2009年以来の古い体系を刷新するのは妥当」と評価する。別の中堅SIerの経営者は「デジタル活用の遅れをなんとか取り戻そうとしているように感じる」と話す。
そんなSI業界関係者らは「デジタル人材スキルプラットフォームと論述試験」の中身に注目する。デジタル人材スキルプラットフォームは、個人のデジタル関連スキルに関する学びや資格取得などの情報を蓄積し、個人にとっては活躍できる環境に、企業にとってはデジタル人材の育成・活用に役立つものにする。問題は、ITベンダーの専門的なスキルを含めた資格の取得や職務履歴などをどこまでカバーし、企業が人材の採用や評価に活用するかだ。もう1つの論述試験は専門家としての評価になり、ITスキル標準の見直しも求められるだろう。
いずれにしろ、ユーザー企業がデジタル人材を育成し、デジタル企業へ変身できるかにかかっている。
- 田中 克己
- IT産業ジャーナリスト
- 日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。


