JakeOdagiriのブログ

〜〜パラテクスト研究のブログ〜〜

2025-12-01から1ヶ月間の記事一覧

『猫』の視覚的資料(中)

2025年12月31日(水・晴) 夏目漱石『吾輩は猫である』は多くの人の読まれてをり、現在なほさまざまな形で存在し続けてゐる。その中、作品名だけでも多くの著者が利用し、自分の本に似たやうな形式として使用することがある(日比、2016)。また…

『猫』の視覚的資料について(上)

2025年12月30日(火・晴) 日本近代文学において、夏目漱石『吾輩は猫である』(以下『猫』と称す)ほど知られてゐる作品は少ない。特に、「吾輩は猫である。名前はまだ無い。」といふあまりにも有名な冒頭は、たとへ作品を読んだことがなくても、知…

挿絵とジャンルの問題

2025年12月29日(月・晴) 日本文学と挿絵との関係を先行研究で調べると、ある傾向が出てくる。それは、挿絵の多くはいはゆる大衆文学に出てゐたといふことである。純文学には挿絵がなかつたといふわけではないが、比較的少なかつたことは事実である…

挿絵の生成(論)について

2025年12月28日(日・晴) 文学作品の中に絵画が挿し込まれてゐると、作品の解釈が補助されるといふことは、先行研究においてしばしば指摘されてゐる。例へば、主要人物の姿や作中舞台のやうな事柄が視覚化されることになる。すると、読者は、文字だ…

挿絵はアダプテーションの一種

2025年12月27日(土・晴) 文学作品が別の媒体・メディアに置き換へることは、アダプテーションとよく言はれる。本案といふ概念をもとに、文学作品が原作として絵雨がや漫画などのやうな別の媒体・メディアになるといふことである。もちろん、アダプ…

パラテクスト研究と挿絵を再考

2025年12月26日(金・晴) 文学理論は何らかの絶対的な方法論ではない。あくまで、作品を読むための分析方法の提案にすぎないとも言へよう。換言すれば、文学理論は作品を読解するための道具であり、参照するもので、辿り着く結論はそれぞれの論者の…

挿絵とパラテクスト要素として

2025年12月25日(木・曇) パラテクスト要素の一つとして、確かにジュネットは挿絵を実例を取り上げ考察してゐるわけではないが、挿絵はパラテクスト要素の一つであると認めることは、『スイユ』の「序論」から読み取ることができる。また、挿絵研究…

挿絵研究とパラテクスト

2025年12月24日(水・雨) ある書物に収録されてゐる本文なる「テクスト」は、どれほど他の物事に影響されるのだらうか。その本文と直接関係のあるものとしては、例へば書物の体裁に絞つても、キリがないほど、多くの事柄は本文の解釈を変へようとし…

「津軽(抄)」の挿絵を整理する

2025年12月23日(火・晴) 太宰治の長篇作品『津軽』は、もともと多くのメディアから成り立つてゐるものである。口絵写真をはじめ、5枚の挿絵、更に本文中に多くの引用が挿入されてゐることで、まさに引用の織物であるとして捉へることができる。引…

龍神様の八重桜の挿絵

2025年12月22日(月・曇) これまでは「津軽(抄)」に挿入されてゐる挿絵及び本選集の巻頭に置かれてゐる口絵を改めて取り上げ、その内容を分析し、そして命名した。以前にも指摘したことがあるやうに、多くの挿絵は単独に芸術作品として取り上げる…

芦野公園駅と運動会での案内の挿絵

2025年12月21日 「乾橋を渡る」と命名した挿絵は、「津軽(抄)」にとつて重要な意味を持つことが明らかになつた。『津軽』全体において「私」と「けいちやん」の会話はさほど大きいことではないだらうが、「五 西海岸」を短篇のやうな物語として捉…

乾橋を渡る挿絵

2025年12月20日(土・雨) 口絵には、比較的多くの情報が含まれてゐることを前回において確認できた。西村保史郎の口絵である「小泊運動場への案内(口絵)」と命名したものには、人物紹介といふ機能があり、更に作中世界の一部も視覚化されてゐる。…

西村の口絵を整理する、命名する

2025年12月19日(金・晴) 結論から言ふと、西村保史郎の¥による挿絵は『津軽』から抜粋された「五 西海岸」のところどころを見事に解釈してゐるのである。他の作品も同様だが、偕成社版「太宰治名作集」に収録されてゐる「津軽(抄)」は原作に新…

再会シーンの挿絵について

2025年12月18日(木・晴) 『津軽』の初版本に収録されてゐる各視覚的資料の中では、5枚目の挿絵「小泊 たけの顔」だけは登場人物の姿を見せてゐる。口絵写真には弘前城だけがあり、そして5枚目の挿絵以外の挿絵には登場人物の姿は描かれてゐない…

運動会への道を示す挿絵

2025年12月17日(水・晴) 挿絵は作中世界のイメージ形成を補助する役割を担つてゐることを前回で検討した。物語それ自体の展開と深い関係があるわけではない挿絵を取り上げた。主人公「私」は直接話したりする人物でもないのに、西村の2枚目の挿絵…

挿話を挿絵にすること

2025年12月16日(火・晴) 偕成社が各絵師にどれほど自由に挿絵を描かせたことは明確ではないが、本選集全巻においては収録されてゐる作品に関する独自な解釈が挿絵といふ形で示されてゐる。これまで論考してきたやうに、太宰治の戦時中の作品『津軽…

「津軽(抄)」の挿絵の位置について

2025年12月15日(月・晴) 第三者による挿絵は、原作の解釈に大きな影響を及ぼすことがある。なぜかといふと、その絵師も読者として作品を解釈してをり、重要と思はれてゐる場面・シーンを絵にしてゐるからである。太宰治『津軽』の初版本を見ると、…

「津軽(抄)」の挿絵について

2025年12月14日(日・晴) 既に論考したことがあるやうに、挿絵付きの文学作品にとつて、挿絵の位置は非常に重要なことである。出版社は必ずしも意図的にその挿絵の場所を選んでゐるわけではないかもしれない、何かしらの意識があるのではにかとも言…

選ばれた視覚的資料と選集の存在について

2025年12月13日(土・曇) 視覚的資料が文学選集に挿入されてゐることは、特に珍しくない。個人全集にしても単行本にしても文庫本にしても、多くの媒体を調査すると何らかの形での視覚的資料が本文の周囲にあることを確認することができる。これらの…

偕成社版選集の視覚的資料について

2025年12月12日(金・晴) 挿絵の異同については、例へば小澤論(2020)にあるやうに、非常に興味深い分野である。初出媒体にあつた挿絵は後に省略されたり、描きなおしたりすることがその特徴になつてゐる。そこで、挿絵がもともとあつた作品に…

偕成社版の挿絵の位置

2025年12月11日(木・晴) 挿絵は本文の解釈であり、本文を解釈することを補助する役割も担つてゐる。その果たされてゐる役割を考へるには、挿絵の画風のみならず、本文での挿し込まれてゐる位置も意識しなければならない。出版社が組版をする際に、…

挿絵の位置とその効果(5)

2025年12月10日(水・晴) 『津軽』の読解史をさまざまな角度から確認すると、研究の世界にしても一般読者の感想文にしても、「五 西海岸」の後半が作品において感動的な展開として読まれてきた。つまり、主人公「私」が小泊まで「たけ」といふ人物…

挿絵の位置とその効果(4)

2025年12月9日(火・晴/曇) これまでは、『津軽』に挿し込まれてゐる挿絵の三枚を取り上げてきた。「本編」の冒頭にある「津軽図」、「二 蟹田」にある「あすなろう小枝 リンゴ花」、「三 外ケ浜」にある「津軽揺籃」といふ三枚とそれらの位置と意…

挿絵とパラテクスト(再考)

2025年12月8日(月・晴) ジュネット著『スイユ』には、挿絵は特に論じられてゐない。書物とそれにおける、読み方を影響する事柄が次々に取り上げられ、表紙と装幀デザインから、注釈と奥付まで多くが論じられてゐる。また、ジュネット自身は最後の言…

挿絵の位置とその効果(3)

2025年12月7日(日・晴) 前回に取り上げた第一の挿絵「津軽図」は地図といふ内容になつてゐるから、「私」の旅行の世界を紹介する役割になつてゐる。特別にそのルートが示されてゐるわけではないが、読者は作中に出てくる地名と併読しながら地図を見…

挿絵の位置とその効果(2)

2025年12月6日(土・晴) 前回において、太宰治『津軽』の初版本を中心に、口絵写真の存在と位置の意味を考察した。口絵にせよ、挿絵にせよ挿し込まれてゐることだけではなく、その場所も非常に重要なことになつてゐることを論じた。読者が作品に入る…

挿絵の位置とその効果(1)

2025年12月5日(金・晴) 文作作品の中に絵画が挿し込まれることを挿絵もしくは挿画と呼ぶのである。書物の巻頭に絵画がると、それを口絵と呼ぶ。かうしたメディアミックスは、当然ながら作品それ自体に大きな影響を与へることがあり、読者の解釈を変…

挿絵研究の歴史と展望

2025年12月5日(木・晴) 文学作品の中には挿絵があると、挿絵そのものがさまざまな役割を担ふことになる。特に、これまでの挿絵研究において指摘されてゐるのは、挿絵と本文との関係となると、補助的な役割が重視されてきた。すなはち、読者が本文を…

共通語彙と読者

2025年12月3日(水・曇) 言葉と言葉をつなぎ、文章を作つていくことは作文の根本的な作業ではあるが、他の人と(偶然に)同じやうな言葉を選ぶことで何かしらの関連が発生する。一般読者の角川文庫版『津軽』に関する読書感想文を113件ほと集め、…

共起キーワードと解釈

2025年12月2日(火・晴) 一般読者の読書感想文を大量に取り上げると、その結果に注目すべき点が多く浮かんでくる。特に共起キーワードの結果図は重要であると考へられる。なぜかといふと、読者たちの読み方がどのやうにつながつてゐるのかをその言葉…