情報や科学に対するリテラシーを確立させ、行政や教育にはびこるニセ科学への啓発と対策を求めて、以下の質問をしました。(2015年9月16日)
◆環境を悪化させる「EM菌」ーー松崎の質問 ニセ科学に対しても警戒と対策を急ぐべきです。その一つがEM菌です。
EMとは、有用微生物群の略称で商品名にもなっていますが、1980年代の初めに土壌改良を目的とした微生物資材として開発されたものでした。
ところがその後土壌だけでなく、河川や下水を浄化する、飲めば健康になる、自動車のラジエーターに入れれば燃費が向上するなど、際限ない効果、万能性が喧伝されています。原発事故後は「EM菌は放射能を分解する」とまで宣伝されるようになっています。
乳酸菌や酵母菌が含まれていれば、それ相応の効果があっても不思議ではありませんが、万能性を裏付ける科学的根拠はありません。しかし見過ごせないのは、EM菌が様々な市民団体や自治体によって、環境浄化の名のもとに推奨される事態が広がっていることです。
また、環境学習、体験学習として、EM菌を使った授業や学校行事も全国で行われています。
こうした動きに対し、たとえば福島県は、「高濃度の有機物が含まれる微生物資材を河川や湖沼に投入すれば汚濁源となる」という見解を出しています。広島県でも、水質浄化に効果が認められないとして、県としてはEMの利用を推進しないことに決めています。
板橋区でも放置せずに対策を講じるべきです。EM菌は全国の自治体、学校に広がり続けていますが、環境浄化どころかかえって環境に負荷を与え、汚染の原因ともなります。EM菌に対する板橋区の評価をお聞きします。
◆授業で「EM菌」は扱わないーー教育長の答弁
学校における EM菌を取り扱った授業についてのご質問ですが、板橋区では、区立幼稚園、小中学校において、板橋区保幼小中一貫カリキュラムに基づき、環境教育の保育及び授業を行っています。
保幼小中一貫カリキュラムに基づいた区独自の環境教育テキスト「未来へ」の中では、EM菌を取り上げた内容は取り扱っていません。
現在、テキスト「未来へ」の改訂を進めていますが、EM菌については取り扱うことは考えておりません。
◆偏見を助長する「親学」――松崎の質問
「親学」も放置できないニセ科学です。
「親学」は、「子どもは3歳になるまで母親が育てないと発達障害になる」とか、「自閉症は親の育て方が悪いため後天的に発症する」、など科学的根拠のない俗説を振りまいているからです。
これは板橋区でも無縁ではありません。親学には、「親学」とは名乗らない、いくつもの亜流が存在しますが、そのひとつの団体が、板橋区にパンフを寄贈し、区立保育園を通じて保護者に配布されるという出来事もありました。
そのパンフには「保育園に預けられて子どもは悲しんでいる」という内容が書かれていました。
また、区議会議員に「アンナチュラル―小説・自閉症」という単行本が無償配布されるということもありました。この本はフィクションとはいえ、自閉障害が後天性で親に原因があるという間違った認識を広げるものとして看過できません。
これら「親学」などと名前をつけ、科学・学問を装った俗説は、障害や病気に対する差別、偏見を助長するとともに、子育てにたいして親、とくに母親に過大な責任を押し付け、孤立化させるものです。
親学は子育てや行政から追放すべきものです。「親学」に対する区の評価をお聞きします。
◆「発達障害は後天性」にまったく科学的根拠はないーー区長の答弁
親学に対する区の評価についてのご質問です。
親学とは、親になるために学んでほしいことを伝える考え方であると認識をしておりますが、親学の考え方の是非について、区が評価をする立場にないと考えます。
当然ながら、子どもは3歳になるまで母親が育てないと発達障がいになるとか、自閉症は親の育て方が悪いため後天性に発症することなど、全く科学的根拠のないことであると考えます。
◆「江戸しぐさ」ウソの歴史を教えるのは有害ーー松崎の質問
さらに「江戸しぐさ」も歴史的事実にもとづかない一種のニセ科学、ニセの歴史であり、教育から排除すべきです。
江戸しぐさとは、江戸時代に江戸の商人たちが生み出した思いやりや譲り合いのマナーだと説明されており、地下鉄などの公共マナーのポスターやテレビCMにもなり、文科省発行の「私たちの道徳 小学校5.6年」にもとりあげられています。
しかし、江戸しぐさが実在したことを示す文書、絵画、言い伝えはいっさい存在しません。そればかりか、歴史的事実に反することが「江戸しぐさ」だとされています。
たとえば「傘かしげ」は「私たちの道徳」では「傘をさした人同士がすれ違うときのしぐさで、相手をぬらさないように、たがいの傘をかたむける」と説明されています。しかし、江戸時代の江戸において、和傘は超高級なぜいたく品で、一般の町人が日常の雨具に使用できるようなものではありませんでした。雨具には美濃や頭にかぶる笠が使用されていたことが分かっています。 仮に数が少ないとはいえ和傘を使用した場合でも、重い和傘を傾けるのではなく、すぼませるほうがずっと合理的で、この情景は当時の浮世絵にも描かれています。
「こぶしうかせ」はさらにありえません。「私たちの道徳」は「複数の人が一緒にすわるとき、一人でも多くの人が座れるように、みんなが少しずつ腰を上げて、場所をつくる」しぐさだというのですが、江戸時代には、電車の座席のようなみんなで座る長椅子やベンチは、そもそも存在しないのです。
「私たちの道徳」の挿絵は、茶店の縁台のようなものが描かれていますが、縁台は座席とテーブルを兼ねたもので、この挿絵のように詰めて座れば、出されたお茶や団子を置く場所がなくなってしまい、現実的におこりえません。
江戸しぐさは、江戸時代にはなく、1980年代に創作された作り話です。道徳を教えるのにウソの歴史を使う必要はありません。例え話として使うのなら、童話や昔話のように、空想と現実を区別して子どもたちに伝えるべきです。
歴史的根拠のないウソの歴史を学校の授業で子どもたちに教えるのは有害です。にもかかわらず、なぜいまだに江戸しぐさを教え続けるのでしょうか? それが正しいというのであれば、それを裏付ける歴史的事実、科学的根拠を示すべきです。
教育委員会が学校で江戸しぐさを教える根拠をお示しください。
◆とくに問題はないーー教育長の答弁 「江戸しぐさ」を取り上げた授業についてのご質問ですが、区立小中学校においては、学習指導要領に基づき、児童生徒の実態に応じて道徳教育の年間指導計画を作成しています。
「江戸しぐさ」については、文部科学省が発行をしている道徳教育教材集「わたしたちの道徳 小学校第5、6学年」で、主として、他の人とのかかわりに関することについて考える題材として取り上げられています。
各学校では、学年の発達段階に応じて道徳の時間や総合的な学習の時間などの学習で「江戸しぐさ」を取り上げており、
礼儀やおもてなしなどにかかわる学習において取り扱う上では、特に問題はないと考えています。
◆ニセ科学を教育に持ち込ませるなーー松崎の質問
ナノ銀除染、EM菌、親学、江戸しぐさに代表されるようなニセ科学を教育に持ち込ませないようにすべきです。
そのためには教育委員会とともに、それぞれの学校や、一人一人の教職員が意識的な情報リテラシーに取り組むことが必要です。
長崎大学や文教大学では、教職員課程で学ぶ学生向けや、一般教養科目として「疑似科学とのつきあい方」というカリキュラムを組んでいます。
こうした先進事例を研究し、板橋区でもニセ科学を教育に持ち込ませないように特別の注意をはらっていただきたいが、いかがですか?
◆「水から伝言」を反省。引き続き注意するーー教育長の答弁
教育にニセ科学を持ち込まないようにすることについてのご質問ですが、長崎大学や文教大学では、水に対して「ありがとう」などのよい言葉をかけるときれいな結晶になるという、いわゆる「水からの伝言」などの疑似科学についての研究事例があります。区立小中学校の学習では、学習指導要領に基づき行われており、校長が週ごとの指導計画で内容を確認した上で、教員は授業を実施しています。教育委員会は、学校が各教科等の指導において適切な教材を選択するよう、引き続き注意を促していくとともに、主体的・協働的な学習を通じて、思考力・判断力・表現力等を一層伸ばしていくための授業を推進するよう指導してまいります。
◆教員に考える時間の保障をーー松崎の質問
ニセ科学は教職員の忙しさに付け込んできます。たとえば、容器に「ありがとう」と書いたラベルを張ったボトルの水を凍らせるときれいな結晶になり、「ばかやろう」と書いたラベルを張ったボトルの水を凍らせると汚い結晶の氷しかできないという、いわゆる「水からの伝言」というニセ科学では、インターネットを通じて、これを授業でおしえる「指導案」が配られました。EM菌でも同様なことがおきています。
多忙のなかで指導案を考えるゆとりのない先生には、こうした出来あいの指導案は大きな誘惑になります。教員に考える時間を保障することはたいへん大事です。
とくに小学校において専科教員を増やすなど、担任教員の負担を減らし、研修時間を確保することを求めるものですが、教育長の見解を求めます。
◆担任教員の負担を減らし、研修時間などを確保したいーー教育長の答弁
教員の研修時間などを確保する取り組みについてのご質問ですが、小学校において、担任教員の負担を減らし研修時間などを確保していくことは重要課題の1つと考えています。しかし、現状では、区独自に専科教員を増やすことは制度上困難です。
そこで、各学校が今年度から稼働している校務支援システムを有効活用するとともに、全教職員がチームとして校務を効果的に分担したり、学習指導講師を一層活用したりすることで担任教員の負担を減らし、研修時間などを確保してまいります。
いただきました教育に関する質問の答弁につきましては、以上でございます。