言語学な人々Advent Calendar 2025 の参加記事です。言語学なみなさん、こんにちは!
言語と看板が好きなピジェです。
🪧昨年2月には、#みんなの母語デー 企画で あちこちでみた多言語看板・貼紙たち という記事を書きました。🪧
今回も、ことばであふれかえったカメラロールから、これまで撮ってきた看板・貼紙を大公開!
まず、今年公開された論文 平川 & 西村 (2025) 「マルチモーダルテクストとしての禁止看板」 をご紹介しつつ看板を見て、それから立入禁止看板に焦点を絞ります。
「マルチモーダルテクストとしての禁止看板」を読みながら看板を鑑賞する
論文:
平川 裕己・西村 綾夏. マルチモーダルテクストとしての禁止看板―比喩の枠組みによる体系的分析に向けて―. 認知言語学研究 10 巻, pp. 23-39, 2025. https://doi.org/10.69243/jcla.10.0_23
立入禁止の看板は人が立ってるだけの絵で、なんで「立ち入る行為」を表せるの?という疑問から、この論文は始まる。
え、考えたことなかったっす…

2022年9月 朝霞市
この論文では、禁止看板に書かれた図像と言語表現がどのように関連しているのかを、認知言語学の枠組みで分析している。
この論文のキーワード:メトニミーとシネクドキ
- メトニミー:隣接・関連している一方で他方を指す
- 例:走る人の姿で、走る行為を指す
- 例:タバコで、喫煙する行為を指す
- シネクドキ:特殊なもので一般的なもの/一般的なもので特殊なものを指す
- 例:おにぎりとハンバーガーで、食べ物全般を指す
- 例:車の列で、入庫待ちの車の列を指す
人が立ってるだけの絵で立入禁止を示す仕組み:
人の絵(行為者)→ 立ち入る行為(メトニミー)→ 関係者以外の立ち入り(シネクドキ)
つまり絵が禁止行為そのものを表していなくても、比喩的に繋がっているから理解できる。
では、論文を読みながら、私ピジェのカメラロールにあった看板や貼紙の写真を見ていこう。
禁止されている行為をする人の姿が描かれた看板
まずそもそも、図像と言語表現がそれほどかけ離れていない看板というのがある。
たとえば以下の「スケートボード禁止」看板では、禁止されている行為(スケートボードで遊ぶ、スケートボードで走行する)をする人の姿が描かれている。
京都市下京区 2025年8月
豊中市 2023年7月
広島市 2024年2月

大阪市難波 2025年11月
どうしてこんなにスケートボード禁止の写真がたくさん出てくるかというと、スケートボードに乗っている人の絵が元気で楽しそうで好きだからです。
では次。歩きスマホをする人の姿。

大阪市日本橋 2024年4月
柵を乗り越える人の姿。言葉がよくわからなくても、図像を見れば何が禁止されているのかが大体わかる。

上海浦東国際空港 2025年3月
行商する人の姿。これは日本では見たことがない気がする。

San Diego 2025年12月
しかし、禁止の対象行為そのものを描いているわけではない看板もたくさんある。もっと見てみよう。
身体の一部と物にフォーカスした看板
足とスケートボード。靴紐まで描かれていて、やたら細かい!
神戸市中央区 2023年1月)
手とゴミ。

奈良市 2025年11月
これらの図像では、禁止されている行為に直接関わる身体部位と物に焦点が当てられている。 こうした「行為に最も関与する部位」はアクティヴ・ゾーンと呼ばれ、〈道具でプロセス〉のメトニミーで禁止行為と結びつく、と分析されている。
物だけが描かれた看板

関西国際空港 2025年7月

木津川市 2025年12月
自転車の図像の多義性
京都市下京区(四条通) 2024年8月
京都市中京区 2024年8月
四条通の看板では「自転車に乗ること」が禁止されているのに対し、撤去強化区域の看板では「自転車を駐輪すること・放置すること」が禁止されている。
同じ図像でも、言語表現や設置場所などによって、禁止される行為が変わる。自転車という道具が、〈道具でプロセス〉のメトニミーを介して、「乗る」「駐輪する」といった異なる行為と結びつくわけだ。
全部描きたいけど描けない看板

名古屋市中央区 2025年5月
この看板には、スケートボード、自転車、ローラースケート、キックボードそれぞれに乗って走る人の姿が描かれている。しかし言語表現では「等」がついており、ここに描かれていないものも禁止対象に含まれることが示唆されている。
すべての対象物を図示することはできなくても、図像で一部の行為を示すことで、公園に乗り入れる可能性のある乗り物全ての使用といった、より広い範囲を〈種で類〉のシネクドキによって指している。
ほかにも


豊中市 2025年12月
立入禁止看板の「禁止する人」
ここまで見てきた看板は、論文で分析されていた、禁止されている行為を表す図像の例だった。

大阪市中央区 2025年11月
しかし、カメラロールを眺めていたら、論文で中心的に扱われていたものとは異なるタイプの看板も見つかった。
下の看板に描かれた人物は、手のひらを相手のほうへ向けて立入を禁止するジェスチャをしている。つまり、図像が表しているのは、禁止されている行為ではなく、禁止するという行為のようだ。

京都市左京区 2023年4月

大阪市北区 2023年9月

大阪市北区 2018年3月
上の3つの看板では、図像の人物が斜線よりも手前に描かれているというのも興味深い特徴である。
下の看板でも、人物は片足と片手を赤丸斜線から手前に出し、手のひらをこちらに向けている。

福岡市博多区 2023年5月
ヘルメットを被った人がジェスチャで立入禁止を示す看板は、ほかにもあった。この看板では斜線がないが同じく立入禁止を示している。
西宮市 2021年11月
次の2つの看板は図像がないが、赤い四角に斜線が引かれ、その中に「立入禁止」という文字が書かれている。
大阪大学吹田キャンパス 2018年12月
奈良市 2024年3月
考えたこと
論文では、斜線入り円は禁止の指示・命令を示していると述べられていた。
しかし、立入を禁止するジェスチャが描かれた看板を見ていると、ヘルメットを被った警備員がロープやフェンスの前に立ち、関係者以外が立ち入ろうとするのを制止する場面が思い浮かぶ。そこでは斜線が、ロープやフェンスといった、立入禁止区域の物理的な境界を示すものとして理解できる。
さらに抽象化すると、禁止看板で図像にかぶせられた斜線は、「許可されている行為」(私たち見る人が立っている側)と「禁止されている行為」(向こう側)を隔てる境界を示していると考えられるかもしれない。つまり斜線は、物理空間における境界(フェンス、壁)と概念的な区別(許可/禁止)を結びつけるメタファーを通して、禁止の意味を獲得している?
だとすると、斜線入り円や四角が「禁止」を示すのは恣意的な約束事ではなく、私たちの空間認識と結びついていると言えるのだろうか。
おみやげ
大阪万博で見た看板が圧倒的だった。図像がたくさんあってお得。さすが万博!
みなさん各自拡大して、ひとつひとつの図像を鑑賞してみてね。
大阪市此花区 2025年9月
