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ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2025年 12月 30日

インバウンドの最大の目的は地方の生き残りにある~プロが語る対外広報と情報発信の進め方

日本広報協会という公益社団法人の機関誌「広報」2025年12月号に「インバウンドの最大の目的は地方の生き残りにある~プロが語る対外広報と情報発信の進め方」というコラムを寄稿しました。


実はちょうど3年前に同誌に「中国人観光客不在のインバウンドをどう構想するか」という文章を書いていました。別に未来を予見していたわけではないですが、2025年11月以降に始まった中国側からの一方的な関係悪化と中国人観光客の訪日渡航自粛という事態は、いわばぼくにとって想定内だったので、そんなタイトルで書いたのでした。

中国人観光客不在のインバウンドをどう構想するか(2022年12月18日)


観光を「政治の道具」にする中国政府は、民間交流を進めようとする両国民にとって大きな障害である。筆者が3年前「中国人観光客不在のインバンドをどう構想するか~インバウンドの健全化は地域の生き残りにもつながるチャンス」(『広報』202212月号)という論考を寄稿したのは、いずれ同じことは繰り返されることを予測していたからだ。

さいわい一部のメディアを除くと、日本の国民は冷静に事態を受け止めているようだ。人口規模が破格の中国が21世紀に経済力をつけたことが、日本社会にさまざまな影響を与えるのは避けられないが、権威主義を振りかざす同国政府の理不尽なふるまいに、むやみに翻弄されないよう心しておく必要を多くの国民が了解しているからだろう。


こうした突発的なインバウンド市場に対する「政治」の介入は、数を追うより大切なことを気がつかせてくれる。では外国人観光客を呼び込むべき最大の目的は何か。経済効果の話はもういいだろう。インバウンドの活力と人的往来を少子高齢化と人口減で消滅の危機にある地方の生き残りにつなげることである。


本稿は、こうした基本認識をふまえ、地方としてインバウンド推進に不可欠な対外広報と情報発信にいかに取り組むべきか、ささやかな提案をしたい。


多くの地方にインバウンドの恩恵は届いていない


コロナ禍が明け、日本のインバウンド市場は順調に回復した。2025年は初の4000万人超えが想定されている。中国客の行方はともかく、今後も訪日外国人は減りそうもない。そのせいか、メディアは盛んに「オーバーツーリズム」の弊害を喧伝したが、実際には京都や鎌倉などの一部を除くと、ほとんどの地方にインバウンドの恩恵は届いていない。理由は明快で、外国人観光客の大半は、国際的に認知された観光地以外はよく知らないからだ。彼らからみて「知名度」がない地方を訪れてみようと思うことはない。


いま人口減が進む地方にこそ対外広報と情報発信が必要なのはそのためだ。自らの存在を知ってもらえなければ、地域として生き残れない時代なのだ。ではそれをどのように進めていけばいいのだろうか。


筆者は自身のプロフィールにもあるように、特定の国や地域、文化ジャンルに関する情報発信をなりわいにしてきた。いわば情報発信のプロなのだが、どんな対象であれ、押さえておくべき共通の認識と実践のプロセスがある。これからそれをご説明したい。


「外からの視点」をいかに理解するか


筆者が情報発信を始める際、まず着手するのは、その土地の魅力、アピールポイントを見極めることだ。その基準は「外からの視点」にある。注意したいのは、外から訪れる人間にとっての魅力は、必ずしも地元の認識と同じとは限らないことだ。地元の人には当たり前で見慣れたものが、外の人には面白いと感じることが意外に多い。だが、この見え方の「違い」に、地元の側が気づくことが、情報発信の取り組みの起点となる。


情報発信にとっての対象は、言うまでもないが、地元の人ではない。外の人にどう思われるかだ。これは筆者がよく言う「観光の理不尽」で、地元の人には少々残酷なところがある。なぜなら、観光において地元の魅力を評価するのは外の人である。また人によって評価も変わる。なんと理不尽なことだろう。しかし、ここで考えてほしいのは、それは地元の人の思いを否定しているわけではないことだ。むしろ対外広報に必要とされる戦略的な認識の転換と考えるべきだ。こうした「外からの視点」を理解することで、効果的な情報発信が初めて可能となる。


対外広報を進めるための4つのステップ


これまで筆者が取り組んだメディアやSNSによる情報発信は、次のような4つのステップを通して、検討と実践を繰り返しながら進めてきた。


1)現状の把握と認識の更新

この地方の「外から見た」魅力は何なのか。それがうまく伝えられてこなかった理由は何か。どう発想を転換するか。

2)目標の策定

1をふまえ、この地方が解決すべき課題は何か。これからどう生まれ変わっていきたいのか。具体的な目標イメージを描いてみる。

3)目標達成のための戦略の立案

2の目標を実現するためには何をすればいいのか。どんな戦略や独自のプランが必要か。

4)戦術とノウハウの習得、その実践

3の戦略を具現化するためには、まず何から始めればいいのか。そこにはどんな知見やノウハウ、実践が必要となるのか。


筆者はこれまでいくつかの自治体のインバウンドの取り組みを取材したり、お手伝いをしたりしてきたが、たいていの場合、関係者を見ていて感じるのは、情報のキャッチアップの遅れと情報発信の経験値が足りないことだ。


だが、それは無理からぬところがある。これも筆者がよく言う「インバウンドの不条理」なのだが、外国人観光客が訪れない地域の人たちほど、彼らが求めるものを理解できていない。そのための体験の機会がないからだ。なぜ情報発信が必要かもそうだが、何を発信すべきか、それがどんな効果を生むかといったことまで想像できないのだろう。一方、多くの外国客が訪れる地域の人たちは豊富な知見を日常的に身につけることができる。両者の経験値の差は広がるばかりなのである。


「ファンづくり」を語る前に「仲間づくり」から


一般に世のコンサルタントは「情報発信が目指すべきはSNSによるファンづくり」だと言う。そのためのノウハウを学ぶ必要があるとも。今日の時代、特にインバウンドにおける情報発信の中核となるのはSNSの活用だ。SNSがなければ、何も始まらない。それ自体は間違いないのだが、筆者の経験上、そうしたことの前に考えること、やるべきことがあるのではないかと思っている。


それは同じ思いを共有する「仲間づくり」である。それまで対外広報がうまくいっていないとしても、その地方に魅力がないからではない。魅力をうまく引き出し、伝える人がいなかったからだ。さらにいえば、情報発信の必要を自覚し、進めていこうとする地域の人たちの意識形成が十分行われていなかったせいなのだ。


いきなり地元に外国人観光客を呼び込もうと考えても、すぐにできるものではない。先ほど述べた戦略もなく、情報をやみくもに発信したところで、それが届くものではないからだ。誰を相手にするかで発信すべき情報は違うはずだし、こうしたターゲットの分析もそうだが、そもそもどのような人たちに地元に訪れてもらいたいのかという核心の問題もきちんと考える必要がある。


「外からの視点」を持つ「在外市民」とともに関係人口を築く


とはいえ、それまで情報発信に取り組んでこなかった自治体が、こうしたことを一から考えるといっても雲をつかむような話だろう。であれば、情報発信のターゲットを、目に見えない不特定多数の誰かに想定するのではなく、まずは地元と縁のある、「外からの視点」を有する「在外市民」に設定し、彼らに「仲間」になってもらうことから始めてはどうだろう。


具体的にいうと、彼ら「在外市民」に呼びかけて、対外広報や情報発信に協力してもらおうということだ。たとえば、市外、県外にいる地元出身の学生や社会人、企業経営者だ。


里帰りやUターン、そしてIターン人材も力強い仲間となるだろう。またもし地元に大学があるなら、学生たちは貴重な存在である。地元出身者よりも、他県から来た学生や留学生に向いている役割かもしれない。なぜなら彼らは「外からの視点」を有している。なるべく若い人材がいいのは、SNSに習熟しているので、日常的な情報発信に長けているからだ。さらには、地元を訪れた訪問客やビジネス出張者にも声をかけたい。こうして地道に関係人口の形成を促進するのだ。


要するに、彼らひとりひとりに媒介者となってもらい、個人のSNSや人的ネットワークを通じて地元の知名度を上げていくよう働きかけるのである。現在知名度もなく、人口や予算規模の少ない自治体にとって、まずはこうしたアナログな人的ネットワークの力を借りることから始めるのが、生き残りに向けた現実的な道筋であり、最初のステップではないだろうか。もちろんそのとき不可欠なツールとなるのが、彼らと地元をつなぐSNSだろう。


これが、対外広報の初期段階において必要な意識形成や経験値を積み上げていくプロセスではないかと考えるのである。こうした「仲間づくり」を始めることで、どのような対外広報の戦略や情報発信が必要なのか、気づきがあるはずだ。それがさらなるステップ、すなわちSNSを本格活用した外国人観光客を対象としたインバウンドの取り組みにつながっていくのだと思う。




# by sanyo-kansatu | 2025-12-30 19:17 | “参与観察”日誌