基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

2025-01-01から1年間の記事一覧

何のために火星移住するのか?──『科学的かつ現実的で、崇高かつロマンティックな 火星移住計画』

科学的かつ現実的で、崇高かつロマンティックな 火星移住計画作者:ロバート・ズブリン講談社Amazonこの『火星移住計画』は長いキャリアを持つ宇宙工学者、原子力工学の博士号や熱核融合研究の分野の経験もあるエンジニア、火星協会の創設者でもあるロバート…

2025年、読んでおもしろかった本を振り返る!

今年は4月に子どもが産まれて特にその周辺月がバタバタしていたのもあって近年もっとも本が読めなかった一年だったが、年末年始の読書のお供にできるよう、SF・ノンフィクションを中心に振り返ってみよう。今年は特に前半の方はノンフィクションが、後半の…

統合失調症を患い、矛盾した記憶を「真実」として抱える語り手による、サイコロジカルホラーの傑作──『溺れる少女』

溺れる少女作者:ケイトリン・R・キアナン河出書房新社Amazonこの『溺れる少女』は、ホラーや名手として知られる作家、ケイトリン・R・キアナンによるサイコロジカル・ホラー長篇だ。原書2012年刊。世界幻想文学大賞の最終候補、ネビュラ賞最終候補など様々な…

ラテンアメリカン・ホラーの傑作長篇──『秘儀』

秘儀(上)(新潮文庫)作者:マリアーナ・エンリケス,宮﨑真紀新潮社Amazon毎年この時期(12月頃)は年間ベストについて考えている頃合いだが、「あれは絶対ベストに入るな〜」という作品でも、時間的な都合で記事を書けていないものも多い。そうやって取りこ…

抗生物質が大量生産できなかった旧ソ連圏でひそかに研究され、今まさに日の目を浴びようとしているファージ療法について──『善良なウイルス』

善良なウイルス 世にも数奇なファージ医療の歴史 (文春e-book)作者:トム・アイルランド文藝春秋Amazonウイルスといえば、「コロナウイルス」に代表されるように、人間に感染して悪さをするものというイメージがあるが、世の中には人間を苦しめる細菌を駆逐し…

怪獣が実在する世界で、あえて本気の着ぐるみ怪獣ショーを試みる第二次世界大戦末期の人々を描き出すSF長篇──『ヒロシマめざしてのそのそと』

ヒロシマめざしてのそのそと作者:ジェイムズ・モロウ竹書房Amazonこの『ヒロシマめざしてのそのそと』は、ジェイムズ・モロウによる怪獣をテーマにしたSF長篇だ。2009年に刊行された作品で、元々は2011年にSFマガジン誌上で翻訳を連載していたが、それが近…

人間の性欲の処理が愛玩動物に移行した社会を描き出す、村田沙耶香によるディストピアSFの傑作──『世界99』

世界99 上下巻セット集英社Amazonこの『世界99』は『コンビニ人間』などで知られる村田沙耶香の3年以上にわたる連載をまとめた大長篇だ。10人の子どもを産むことで一人の人間を殺しても良い、特殊なシステムが生まれた日本を描き出す「殺人出産」や、カジュ…

人肉食が合法化した社会で何が起こるのかを描き出す、ディストピア食人ホラーSF──『肉は美し』

SF

肉は美し作者:アグスティナ・バステリカ河出書房新社Amazonこの『肉は美し』はブエノスアイレス生まれの著者による、人肉食が合法化された世界を描き出すディストピアSFホラー長篇だ。2017年に刊行された本作は、ショッキングな設定ながらも全世界100万部…

大富豪が成層圏に二酸化硫黄を散布し始めたら何が起こるのかを全世界規模で描き出す気候変動SFの傑作──『ターミネーション・ショック』

ターミネーション・ショック作者:ニール・スティーヴンスン,坂村健パーソナルメディアAmazonこの『ターミネーション・ショック』は、『スノウ・クラッシュ』をはじめとした数々の近未来・テクノロジーSFで知られるニール・スティーヴンスンによる最新の気…

NHKの放送100年特集ドラマ原作にして、世界のエンタメSFに比肩しうる壮大な長篇──『火星の女王』

火星の女王作者:小川 哲早川書房Amazonこの『火星の女王』はNHKの放送100年特集ドラマ「火星の女王」の原作にして、『君のクイズ』や『地図と拳』で知られる作家・小川哲によるSF長篇だ。小川哲は今年でデビュー10周年だというが、デビューは早川書房が主…

何も対策をうたなかったら〈選択問題〉によって崩壊する可能性が高い保険市場をどのように成立させるのか──『ヤバい保険の経済学』

ヤバい保険の経済学――〈選択問題〉で、なぜいつもコケてしまうのか?作者:リラン・エイナヴ,エイミー・フィンケルスタイン,レイ・フィスマンみすず書房Amazonこの『ヤバい保険の経済学』は、特に保険でよくみられる「選択問題」、またこれが存在する「選択市…

ヒューゴー賞中篇部門を受賞した、遺伝子編集技術によって、マンモスが復活した近未来を描き出す遺伝子工学SF──『絶滅の牙』

絶滅の牙 (創元SF文庫)作者:レイ・ネイラー東京創元社Amazonこの『絶滅の牙』は最新のヒューゴー賞でノヴェラ部門を受賞した、マンモスが〝脱絶滅〟を果たした未来を描き出す遺伝子工学SFだ。マンモスが遺伝子編集技術で復活する! と簡単に言うが、そこに…

2025年ベスト級! フランスの哲学者・作家による、連作短篇と長篇の間のような、独特の味わいを残すSF作品集──『7』

7作者:トリスタン・ガルシア河出書房新社Amazonこの『7』は、フランスの小説家・哲学者のトリスタン・ガルシアによる、連作短篇集と長篇の間のようなSF作品集だ。物語は6つの短篇と一つの中篇から構成されているが、中篇(死んでも同じ自分に転生し幾度も生…

健康に長生きするために、何をしたらいいのか──『OUTLIVE(アウトリブ) 人はどこまで生きられるのか』

OUTLIVE(アウトリブ) 人はどこまで生きられるのか 健康長寿の限界を超える科学的戦略作者:ピーター・アッティア,ビル・ギフォードNHK出版Amazonプーチンと習近平が臓器移植や永遠の命について語り合ったというニュースが先日世界をかけめぐった。権力者は…

ソローキンの集大成的作品と評される、シンゾーもトランプも存在する近未来SFごった煮長篇──『ドクトル・ガーリン』

SF

ドクトル・ガーリン作者:ウラジーミル・ソローキン河出書房新社Amazonこの『ドクトル・ガーリン』は、ロシアを代表する作家のひとりウラジミール・ソローキンによって2021年に刊行された、邦訳としては最新の長篇となる。ソローキンの作品としては、単独の長…

自炊観を一変させる、12カ国の自炊料理調査の旅──『世界自炊紀行』

世界自炊紀行作者:山口祐加晶文社Amazonこの『世界自炊紀行』は、『自分のために料理を作る』などで知られる自炊料理家の山口祐加による、世界12カ国をめぐって各家庭の自炊料理や料理観を調査し、まとめた一冊である。僕も結婚してからずっと家の食事当番で…

脱成長でも経済成長推進でもない、第三の道について──『GROWTH | 「脱」でも「親」でもない新成長論』

GROWTH――「脱」でも「親」でもない新成長論作者:ダニエル・サスキンドみすず書房Amazonこの『GROWTH』は、ロンドン大学キングス・カレッジ研究教授にしてテクノロジーの社会へのインパクトが専門の学者である著者が「経済成長」について語った一冊だ。経済成…

米国の移植医療をめぐる状況と、ひとりの移植医の悔恨を語る回顧録の傑作──『呼吸を取り戻せ | 肺移植がもたらす奇跡と悲劇』

呼吸を取り戻せ――肺移植がもたらす奇跡と悲劇みすず書房Amazonこの『呼吸を取り戻せ』は米国で移植医として長年勤務してきたデヴィッド・ワイルが書く、米国の移植医療にまつわる話と彼の人生を綴った回顧録だ。「移植医」とは耳慣れない言葉だが、外科手術…

怪談の3分の2は神経学的に説明できる──『幽霊の脳科学』

幽霊の脳科学 (ハヤカワ新書)作者:古谷 博和早川書房Amazon睡眠中に枕元に立っている幽霊やろくろっ首、金縛りなど「定番」の幽霊譚・怪異譚というのは数多い。現代科学的な観点でいえばそうした幽霊が「実在」していないのは明らかだが、かといって何人もが…

AIネイティブの子どもたちは、どのように育っていくのだろうか?──『AIは私たちの学び方をどう変えるのか―BRAVE NEW WORDS―』

AIは私たちの学び方をどう変えるのか―BRAVE NEW WORDS―作者:サルマン・カーン東洋館出版社Amazonこの『AIは私たちの学び方をどう変えるのか』は、誰もがどこにいても無償で世界水準の教育を受けられることを使命とする非営利団体のカーンアカデミーを創設し…

動物の感覚の限界値と人間の感覚を美しい構成で比較する、類まれなノンフィクション──『人間には12の感覚がある 動物たちに学ぶセンス・オブ・ワンダー』

人間には12の感覚がある 動物たちに学ぶセンス・オブ・ワンダー (文春e-book)作者:ジャッキー・ヒギンズ文藝春秋Amazonこの『人間には12の感覚がある』は、人間と動物の各種感覚──嗅覚とか視覚とか──について書かれた一冊だ。それって五感のこと? であれば…

結局、儀式は行ったほうがいいのか?──『御利益を科学する―宗教の儀式や祈りはなぜ効くのか』

御利益を科学する 宗教の儀式や祈りはなぜ効くのか作者:デイヴィッド・デステノ,児島修白揚社Amazon世の中を見渡してみると儀式が多い。結婚式や葬式は言わずもがな、子どもが生まれたら七五三やらお宮参りやらお食い初めやらがどんどんと押し寄せてくる。こ…

早川書房の3000作品以上が最大80%割引のビッグな電子書籍セールがきたので、新作ノンフィクション・SFを中心にオススメを紹介する

毎年夏頃に恒例となっている早川書房の電子書籍最大80%割引のセールがきているので、今回も「前回から今回にかけて、新しくセール対象になった作品」を中心に紹介していこうかと。この夏のセールが作品点数的には年間を通して最大になるので、気になるもの…

生産性と思想によって社会階層が決定される近未来都市を描き出す、インド作家のデビュー作──『頂点都市』

頂点都市 (創元SF文庫)作者:ラヴァンヤ・ラクシュミナラヤン東京創元社Amazonこの『頂点都市』は、生産性や思想のスコアで厳格に個々人の評価が管理され、下位の10%に選ばれてしまったら最後デジタル社会からはじき出されてしまうディストピア化した近未来…

終末を予想することは可能なのかを描き出す、現代的なテーマを見事に捉えた終末論SF長篇─『未来』

SF

未来作者:ナオミ・オルダーマン河出書房新社Amazonこの『未来』は、女性に電撃を放つ力が突如として宿り、女性が男性を支配するようになった世界を描き出した長篇『パワー』の著者ナオミ・オルダーマンの最新長篇である。前作が女性というジェンダーの意味を…

若手からベテランまで幅広い作家・作風が揃った、傑作揃いの現代中国を概観できるSFアンソロジー『宇宙墓碑』

宇宙墓碑 現代中国SFアンソロジー (ハヤカワ文庫SF)作者:倪 雪婷早川書房Amazonこの『宇宙墓碑』は、中国生まれ英国育ちの倪雪婷が編・翻訳を務めた、英語圏向けの中国SFアンソロジーの邦訳版である。中国SFは本邦でも流行を迎えており、中国SFアン…

殺人事件を解明するか、人類の滅亡かの究極の二択に挑む壮大なSFミステリ──『世界の終わりの最後の殺人』

世界の終わりの最後の殺人 (文春e-book)作者:スチュアート・タートン文藝春秋Amazonこの『世界の終わりの最後の殺人』は、タイムループ物の特殊設定ミステリー『イヴリン嬢は七回殺される』や17世紀の帆船で起こった怪事件を追う『名探偵と海の悪魔』など、…

時間の止まった死体を幻視する、時間SF✗ミステリのすべての要素が噛み合った良作──『パラドクス・ホテル』

パラドクス・ホテル (創元SF文庫)作者:ロブ・ハート東京創元社Amazonこの『パラドクス・ホテル』は、米国の作家ロブ・ハートによる時間SFミステリ長篇だ。物語の舞台になっているのは過去へのタイムトラベル技術が実用化された未来で、「時間離脱症(アンス…

AIは民主主義と全体主義をどれほど変えうるか?──『NEXUS 情報の人類史』

NEXUS 情報の人類史 上 人間のネットワーク作者:ユヴァル・ノア・ハラリ河出書房新社Amazonこの『NEXUS』は、ホモ・サピエンスが世界を支配しているのは、特別に賢いからではなく「虚構」を操作し大勢で柔軟に協力できる唯一の種であると示した人類史本『サ…

ポスト資本主義をどう乗り越えていくべきか?──『テクノ封建制 デジタル空間の領主たちが私たち農奴を支配する とんでもなく醜くて、不公平な経済の話。』

テクノ封建制 デジタル空間の領主たちが私たち農奴を支配する とんでもなく醜くて、不公平な経済の話。(集英社シリーズ・コモン) (集英社学芸単行本)作者:ヤニス・バルファキス,斎藤幸平集英社Amazonこの『テクノ封建制』は、『父が娘に語る 美しく、深く…