法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『野生のラスボスが現れた!』雑多な感想

 オンラインゲームの世界を女性キャラクターで一度は支配し、その動きが公式ノベルにも採用された男が、操作していた女性キャラクターに憑依してゲームそっくりの世界に呼び出される。
 かたわらには、ずっと帰還を待ちつづけていたという参謀の少女がいた。遊んだゲームの200年後の変貌にとまどいながら、同じように現実から召喚されたプレイヤーを探す旅を始めるが……


 すでに完結しているWEB小説を原作として、2025年10月から1クールで放送され、2期放送も決定しているTVアニメ。30分枠でのほりうちゆうや初監督作品で、シリーズ構成は筆安一幸。

 今のところ映像ソフト化はされておらず、プライムビデオでも未配信だが、ABEMAでは約一週間後まで全話が無料配信中。
https://abema.tv/video/title/11-76
 さて作品については何よりも、アース・スターとワオワールドが生きていることに驚いた。いや、前者は昨年あたりからまたTVアニメ化作品を出してきているし、後者も他社作品のクレジットでは見かけていたが、この組み合わせでTVアニメ化することができるとは……


 しかし映像は安定して見やすく、アクションや威圧描写も最低限の見ごたえがある。ワオワールドの真面目な仕事ぶりが良い方向に出ている。
 導入はシネマスコープサイズでシリアスファンタジーを装いつつ、本筋に入ると『転スラ』と『オーバーロード』を単純に混ぜたような新鮮味のない内容だが、けして悪くない。
 登場人物が少ないのでもたつきがなく、異世界に召喚された主人公の驚きから今後の布石だろう違和感、さらに圧倒的な能力を見せるところまで描き切っている。情報も過不足なく、テンポも適切。初回のパッケージングの完成度が高いのは筆安シリーズ構成作品で感じている傾向だが、どのようにこの初回ができあがったのだろうか。


 以下は気になった各話の、さらに雑多な感想。
 第2話で、意外と真面目に世界設定を構築しているとわかって感心した。水上都市という特殊な情景を印象づけ、その湖そのものが巨大なゴーレムという設定のハッタリで人類のすごさを感じさせてから、実はそのような人工都市がひとつの国になるくらい人類の生存領域がせまいことの伏線にもなる。そうした情報を集めるための図書館で、七英雄がつくった国家でありながら七英雄を批判する書籍も複数所蔵されている描写も地味に良かった。長い年月をへて200年前の主人公の支配を肯定する意見が出つつあることの前振りでありつつ、専制ではない国家の図書館のあるべき姿を描いてもいる。このあたりの真面目な設定とその説明描写に、もともとワオワールドが教材会社であることを思い出した。
 第3話で、モブの戦士やモンスターは明らかに同じ3DCGモデルを複製しているだけなのに、意外とポージングなどに適度な個性をつけていて悪くない。キャラクターデザインが近年の水準ではやや簡素なことで、情報量が少ない3DCGと同じフレーム内でなじんでいる。等身大の戦闘がきちんとしているから、それを圧倒する超巨大なモンスターとゴーレムの戦闘も派手で楽しいし、炎属性のモンスターが足から火を噴いて跳躍する描写などにアイデアがある。ただED後に明かされた設定で、モンスターの人間形態がいわゆる「男の娘」*1という設定は、なんというか凄いと思った。もちろんひとりくらい女装キャラがいるファンタジーは珍しくないが、主人公からしてTS美女なわけで、現実と同じ姿で転生することが好まれるゲーム召喚ジャンルでここまでのジェンダー撹乱ぶりは珍しい。
 第5話、温泉回なのに原画がほぼ外国人っぽく、作画監督の人数も少ないのに、キャラクター作画が安定しているところが立派。乳首をまったく作画していないが、フレーム外に逃がしたり草むらをなめるカメラワークで自然に見せている。同時期の『らんま1/2』も同じ方針で裸体を見せてほしかった*2。また前半のキャンピングカーはさすがに作品世界になじむデザインにするべきだろうと思ったが*3、後半のダンジョン攻略のバランスの悪さのツッコミ合戦など、今回はラストシーン以外はコメディ色が強いので許容はできる。
 第6話、主人を待ちつづけたゴーレムでちょっと泣かせたり、冒険者が足手まといなりに好感をもてたり、ウェルメイドなドラマをちゃんとやるのがこの作品なのだとわかってきた。手描きと3DCGを組みあわせた空中戦も、最低限に板野サーカスを模倣したカメラワークができていて悪くない。その空中戦の前に戦う相手の能力で岩が浮かぶ青空に舞台が変わるのだが、これが原作由来かアニメのアレンジかは知らないが、予算内で最大の効果をあげる意味はあると思えた。あと、主人公の参謀が過去の主人公の部下の誰も記憶していない天丼ギャグは、もともと微妙に不穏なEDもあわせて、何かの伏線っぽい感じがある。
 第8話、参謀の怪しさを主人公が気づいて追及したが、謎に見えたところが危なげなく回答されていく展開が楽しかった。たまにミステリである、複雑な推理をあっさり容疑者がすりぬけ、むしろ誤った推理をしていたのかと名探偵が不安になるパターンの味わいがある。謎めいた人物が同一という真相そのものは意外性がないが、前回のキャラクターの移動と別個の出来事を組みあわせて根拠とする推理も地味にミステリ的で良い。
 第10話、このあたりで参謀に隠された設定を開示することで世界観を明かす構成が、過去の1クールでよくまとまった異世界転生TVアニメを思い出させる。たしかに主人公の気づいた手がかりは、初回を見ていて気になった描写だった。もっとも、この作品はさらに二転三転して謎を残したまま2期へと続いていくわけだが。
 第11話、善良で無力な勇者が召喚されたとたんに目前で頂上決戦が始まる。すでにその頂上を超える存在の暗躍が示唆されているので、主人公と敵勢力のリーダーが戦いながら情報を共有することで無駄な段取りを減らせる。これも極端に斬新な展開というわけではないが、定番を踏まえて面白さを抽出するアレンジがうまい。頂上決戦らしい派手な映像も少ないリソースなりに描写できている。

*1:女装男性のなかでも、特に天然で少女とみまがう少年を主に指す。

*2:あえて乳首のない裸をあけっぴろげに見せることで、逆に想像力を刺激せず性的なニュアンスを感じにくくする意図であれば、それはそれで巧みな演出だとは思うが。

*3:たとえばゴーレム馬に引かせる馬車っぽい乗り物をつくっても、作中の技術や能力を見るかぎり不自然な描写にはならないだろう。