hiro_ame’s blog

美術マニアで科学と宗教を学ぶのが大好きな絵描き。

奇跡のド天然アンリ・ルソー!

アンリ・ルソーはよく「元祖ウマヘタ」といわれる画家です。

個人的には「ウマヘタ」ってどういう意味?とも思いますが。

 

これまで絵の上手い多くの画家と作品を紹介してきましたが、この人の作品は普通に下手ですw

でも、この人はただ下手な絵を描いてただけじゃない!

この人自体が超ド級の天然ちゃんで、面白すぎるエピソード&作品が盛りだくさんなんです!

 

西洋絵画は敷居が高くて難しいとよく言われますが、是非アンリ・ルソーを見てみてください。

芸術の高尚なイメージがガタガタになること間違いなし!

どうぞこの人の奇妙奇怪な作品で笑って、日々を楽しんでいただきたい。

 

早速、作品を見てみましょう。

詩人に霊感を与えるミューズ』

描かれているのは詩人のアポリネールとその彼女で画家のマリー・ローランサン

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アートはよくわからないと思う人もいるかもしれませんが、素直に見て大丈夫です。

ルソーと同じ時代の美大の先生の肖像画はこんな感じです。

ウィリアム・アドルフ・ブグロー『二人の姉妹』

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どっちがリアルで上手に見えますか?

 

上手じゃなくても個性的でこれはこれでOKでは??

 

ピカソや抽象画まで当たり前に受け入れて見ている現代の私たちには、ちょっとわかりずらい感覚かもしれません。

ブグローが描いたリアルな人物の絵。これが「芸術」とされた時代です。

当時の画家たちはブグロー先生みたいな絵を競い合って描き、注文を受けていました。

ルソーから20~30年くらい前に描かれたルノワールのこの絵でさえ、リアルじゃないから「酷い、下手すぎ。肌に紫斑がでてる。」とボロカスにいわれた時代です。

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当時の新聞にも「ルソーの絵をみて笑わなかったものはいない」とまで書かれちゃってました。

 

しかし、ここからが奇跡のド天然の真骨頂。

この人は酷評の新聞記事をみて、自分の作品が話題になった!と大喜び。

しかも自分はアカデミーの大画家だと公言していた(言い張っていた)のです。

本人はブグローなどの大画家レベルだと思って描いていたのです!

(何を見てそう思ったのか??謎www)

みんなドン引きです。

 

描き方も独特。

通常は対象を見てキャンバスに描きます。上手くいかないならデッサンをしっかりやって練習する。

しかし、このド天然はこの作品をリアルに描くために、モデル本人たちをメジャーで測っていたそうです。

(そんなことしてる人、筆者は初めて聞きました)

非っ常にこと細かく、パーツ毎に。

顔の横幅は〇cm、目から鼻まで〇cm、肩幅は〇cm….などなど。

それを元にこの作品を描いています。モデルさんは戸惑って嫌がったでしょうね。

それでこの作品ができました。

ちなみに本人たちの写真はこれ。

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マリー・ローランサンは小柄で有名な女性だったのですが、明らかにアポリネールより大きくてマツ〇DX化www

(いったいどこを測ったんだ!?)

 

ちなみに、同じころにピカソ14歳が描いた作品が『初聖体拝領』

(ネットで検索して見てください)

ピカソもちゃんと上手い絵が描けるのです。10代でこれを描いちゃうのはやっぱり天才ですが。

こうやって並べると、ルソーがいかに(いろんな意味で)抜きん出てるかがわかります。

 

他の作品も見てみましょう。

フットボールをする人々

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筆者が初見で吹いた作品ですw

浮いてる!??どこでやってるの?もうどこからつっこんでいいのやら。

冗談で描いたわけじゃありません。ルソーおじさんはこれを本気モードで描いてます!

 

『岩の上の子供』

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もう浮いてるとかそういう問題じゃなくなってきましたwww

座ってる??山に刺さってるよ!足どうなってるの??

というかこれ子供??



美大の大先生ブグローと比べちゃいましたが、ルソーは職業画家ではなく日曜画家です。

つまり、ルソーは別の仕事をしながら趣味で日曜に絵を描いていた人で、ちゃんとした美術教育も受けていない素人画家です。

だから下手なのは仕方ないんですが、それにしたって下手すぎだし独特すぎだし、なんで自分は絵が上手いと思い込んでたのかも謎。

 

ルネサンスバロックの時代など、昔は美術学校がありませんでした。

この頃は、画家はアーティストではなく職人。

受注して絵を描く職人。絵の技術は親方から学んだり、先人画家の作品を模写したりして学びました。レオナルド・ダ・ヴィンチレンブラントも工房に弟子入りして学びました。

近代になると美術学校ができて、みんなそこで学びました。

(今でもそうですが)美大に入れなくても、絵画教室を開いている先生の所に行って学ぶこともできました。

印象派グループはこの絵画教室の受講生仲間です。

 

しかし、ルソーは絵画教室にも行ったことのない、全くの素人。

だからブグローのような絵を描けなくてもしょうがないことなんですが。。

こういう素人画家で有名な作品を残した人たちのことを、後の美術史家たちが「素朴派」(アウトサイダー・アート)と名づけました。

印象派は自分たちで「印象派だ!」と名乗りましたが、素朴派はあとから勝手に分類された一派です。

 

素朴派のほかの画家の作品も見てみると、確かにルソーっぽい。

下手だけど味がある作品が多いです。

しかし、ルソーの知名度は群を抜いてTOPです。

 

なぜこんなに有名なのかは次回。

速攻で忘れられちゃった夜の画家ジョルジュ・ラ・トゥール(続き)

今回紹介したい作品はこれです。

ジョルジュ・ラ・トゥール『ダイヤのエースを持ついかさま師』from wikimediacommons

 

ジョルジュ・ラ・トゥールバロック期のフランスの画家です。

 

バロックはイタリアのカラヴァッジオの絵画様式が画期的で世界中に広まり、100年以上続いた絵画様式です。

これはどうやって広まったのか?

 

カラヴァッジオが自分の様式を広めたわけではなく、この人の絵のスタイルが革新的で世界中の画家たちが超リスペクトして、カラヴァッジオ死後もみんな真似をしたのです。

このカラヴァッジオフォロワーのことをカラヴァジェスティといいます。

 

カラヴァッジオと知り合いで、直に影響を受けた人もいれば、イタリアに修行に行って、カラヴァッジオ作品に衝撃を受けてカラヴァッジオ様式を学び、自国に帰ってきて、自国でカラヴァッジオ様式を広めた人もいます。

またその広めた人の作品を若い画家が見てそれを真似して。

こういった具合で、カラヴァッジオ本人はあまり知らないけど、カラヴァジェスティ(フォロワー)から影響を受けてカラヴァッジオ様式(バロック様式)になった画家がイタリア、フランス、スペイン、オランダなどヨーロッパ各国にいたのです。

そうやってバロックは100年以上続きました。

こんな風に本人は意図せずにカラヴァッジオ様式が世界各国で広まるほどカラヴァッジオは革新者で大画家だったのです。これはとんでもないことです。

 

良かったら、過去のカラヴァッジオの記事も見てみてください。

 

hiro-ame.hatenablog.com

 

hiro-ame.hatenablog.com

 

カラヴァジェスティから影響を受けた若い画家は、フォロワーのフォロワー。

レンブラントもその一人です。

ラ・トゥールユトレヒト・カラヴァジェスティの人から学んだと言われています。

ユトレヒトはオランダの地名。

ここの出身の人たちをユトレヒト・カラバジェスティといいます。

 

これがユトレヒト派の人の作品。

 

ラ・トゥールはこの2人の人物に影響を受けたと言われています。

ヘラルド・ファン・ホントホルスト『聖ペテロの否認』(左)

ヘンドリック・テル・ブルッヘン『コンサート』(右)

たしかに蝋燭があります。

でも筆者的には蠟燭の光がより象徴的で、より静寂を感じるラ・トゥール作品のほうが好みです。

人物や物が少ない分ごちゃごちゃしていないからかもしれません。

ジョルジュ・ラ・トゥール
『ふたつの炎のあるマグダラのマリア (悔悛するマグダラのマリア)』
 from wikimediacommons



蝋燭の炎が象徴的な「夜の画家」ジョルジュ・ラ・トゥール

ラ・トゥールは最初から夜の画家だったわけではなく、最初は昼の情景を描いていました。

どうやらあるときからシフトチェンジしたようです。

その夜の画家になる前の有名な作品が一番最初に紹介したものです。

『ダイヤのエースのいかさま師』

 

タイトルにあるようにいかさま師。

夜の画家になる前ですが、過渡期のようで背景が黒いです。

この絵は詐欺現場です。

被害者はもちろん一番右のボンボンそうな若い男性

残りの3人が賭けカードゲームのいかさま師です。3人は視線だけで示し合わせて、いかさまをしている真っ最中。一番左の男がカードをすり替えようとしています。

人物の視線、身なりや手の動きなどいろいろ見ていると想像がふくらみます。

 

ところでなんでこんな詐欺現場絵画があるのか?

当時は注文主が注文して絵を描くので、「この題材の絵を描いてくれ」といわれて描いたのです。

こんな特殊な題材の注文するのいるのか?と疑いたくなりますが、面白いことにこの題材が当時、流行ったのです。

しかもこの題材を流行らせたのも実はカラヴァッジオ

ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ
『トランプ詐欺師』from wikimediacommons

スティーブ・ジョブズよりもすごい革新者かもしれません。

 

何のために描いたのかはよくわかっていませんが、騙されないようにという教訓なのか、被害者を笑っているのか、

聖書の中の話「放蕩息子」が騙される場面の題材からとっているともいわれています。

 

ラ・トゥールの作品を見てみてください。

カモになった男性の何も疑っていなさそうな表情

中央の女いかさま師のぎょろっとした目

給仕の女性の目だけで合図を送っている視線

男性が鑑賞者のほうを向いて「今からやるぜ」とでも言っていそうな視線。

4者4様の表情がわかりやすくて面白い。

新しいことを始めたカラヴァッジオはすごいですが、それを自分なりに消化したラ・トゥールの表現力も本当に素晴らしいです。

どちらの絵もそれぞれに個性ある表現力で面白い。

 

ラ・トゥールは死後すぐに忘れられちゃいましたが、再評価されて今ではマグダラのマリアもこのいかさま師もルーブル美術館の目玉作品の一つになりました。

暗闇の中のアンニュイな一場面から、詐欺現場絵画まで。

ラ・トゥールの魅力的な作品たち。今後ももっと面白いラ・トゥール作品が再発見されることを願って。

 

長くなりましたが、これでバロック画家たちの記事はいったん終了です。

 

今回は、バロックという西洋絵画史では重要だけどちょっと難しめだったと思います。

技術と才能が光る小難しい西洋絵画が続いたので

次回はへたっぴな絵で笑いましょう!

 

速攻で忘れられちゃった夜の画家ジョルジュ・ラ・トゥール

ジョルジュ・ラ・トゥールの作品を見たことがありますか?

こんな作品があります。

左『ふたつの炎のあるマグダラのマリア (悔悛するマグダラのマリア)』

右『鏡の前のマグダラのマリア (悔悛するマグダラのマリア)』

from wikimediacommons



バロックというとゴチャゴチャしている騒がしい絵が多いですが、この作品はとても静か。

なんとなく惹きつけられてじっと見てしまいます。

どうして炎を見つめているの?マリアは何を想っているの?

一緒に私たちも炎を見つめて物思いに耽ってしまいそうです。

 

過去にバロックはまるで演劇の一場面でも見ているような劇場型とお伝えしたので、これはバロックっぽくなさそうにもみえます。



しかし、これもれっきとしたバロック絵画です。

スポットライトではないですが静かな蠟燭の炎の光からくる明暗対比がすばらしい作品です。

 

この蠟燭の炎に照らされた暗闇の静寂の情景を描いたラ・トゥールは「夜の画家」と呼ばれています。

この作品も有名です。

『大工の聖ヨセフ』

from wilkimediacommons

タイトルからして宗教画ですが、なんとも静かで、2人の会話にそっと耳を傾けてしまいます。

皆さんはどう思いますか?



これまでバロック期の画家4人について紹介してきました。

カラヴァッジオ(イタリア)、ルーベンス(ベルギー)、ベラスケス(スペイン)、レンブラント(オランダ)

この4人は超がつくほどの大画家たちです。

バロック期の画家たちは超大物がゴロゴロいます。

 

しかし一方で生前は人気だったけど、すぐに忘れられてしまった画家もその何十倍もいます。

その忘れられた画家のうちで19~20世紀になって

「あれ?この絵すごくない?」と再発見・再評価された画家たちも一定数います。

 

今回の画家ジョルジュ・ラ・トゥールもその一人です。

日本人が好きなオランダバロックヨハネス・フェルメールも再発見されて、今では大人気画家となっています。

 

ラ・トゥールも20世紀になって再発見されました。

再発見された画家の特徴として、どんな画家だったのか記録や資料があまりないからよくわからないことが多い。

自画像が無いから顔さえわからない。

とにかく情報が少なくてよくわからない。

どれがラ・トゥールの作品かもあやふやで本人のだと断言できる作品数も少ない。

フェルメールと同じです。

前述した大画家たちは忘れられていないので資料が豊富でいつ頃どこに行って何をしたのかもわかっています。レンブラントなんて年代ごとに30枚近く自画像があります。

 

当時の画家はアーティストではなく職人(アーチザン)。注文主のために絵を描くだけなので、自分の絵にサインをしたりしなかったり。

そのため、記録がなく忘れられちゃうと、この作品は誰の?となって、「作者不詳」とか「多分、ルーベンス工房の作品かも?」みたいな表記になっちゃいます。

フェルメールも同じ理由でフェルメール作品と確定してるものと、していないものがあり、作品数が未だにあやふやです。

 

余談ですが、バロック期より100年以上前から自分の作品にサインをバリバリ書いていた画家もいました。自己顕示欲激しめ画家。ドイツの巨匠アルブレヒト・デューラーです。この人はちょっと異常

右下の壁に描いた年とサインAD(Albrecht Dürer)のモノグラム

そんな中でラ・トゥールも再発見されました。

 

次回は、ラ・トゥールのもう一つ有名な作品を見ていきます。

シチュエーションつけすぎで大炎上しちゃったレンブラント(続き)

オランダの代表画家レンブラントの代表作品『夜警』

正式名称『フランス・バニング・コック隊長とウィレム・ファン・ライテンブルフ副隊長の市民隊

from wikimediacommons

バロック絵画といえばこれ。といわれるぐらいの代表作にして超大作。

スポットライトを浴びて劇場の一場面のような明暗対比と人物の躍動感。

今、まさに市民隊が旗を掲げて出動するかのような場面。

オランダ最高の至宝。

 

前回お伝えした通り17世紀オランダは当時としては非常に独特な国でした。

 

hiro-ame.hatenablog.com

 

周辺各国は王様が支配する絶対王政の国ばかりなのに、オランダはスペインから独立して王様のいない「市民の国」となっていました。

そのため通常、画家の仕事は、王様や教会の注文で肖像画や宗教画を描くのがメイン。

しかしオランダは市民の国なので注文は市民。

そうすると市民はお金をたくさん持っていないので小さな絵の風俗画を注文するか、みんなでお金を出し合って集合写真のようにみんなを描いてもらう「集団肖像画」という画題がオランダで流行りました。

でもただ修学旅行の集合写真のようにみんな一律で描いたんじゃつまらない。

シチュエーションをつけちゃえ。(現代のJKもやってる手法みたいです)

それをレンブラントが行って、大バズリ。

レンブラントが初めてそれを行った作品が『テュルプ博士の解剖学講義』

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博士が解剖学講義をやってる風の集合写真。

この作品でレンブラントは大ブレイクしました。

 

(ちなみに小さな絵の風俗画を描いていたのが同時代のオランダの画家フェルメールです。)

 

ノリに乗ったレンブラントは大量の注文をこなしていきます。

自分と奥さんの絵でもシチュエーション、というかコスプレして描いて遊んでいます。

いっぱい絵を描いてお金もザクザク。笑顔がとまりません。

(左)『春の女神フローラに扮したサスキア』女神コスした妻サスキア
(右)『売春宿の放蕩息子』妻と自分を聖書の一説に模して描いた作品
from wikimediacommons



オランダの一等地に家も買いました。趣味の骨董にもお金をつぎ込みました。

 

このノリノリの絶頂のときに本作の注文が来ます。

そしてシチュエーションバリバリで描いてみました。

そうしたらこの作品は非常に不評で非難轟轟になっちゃいました。それはなぜか?

 

集団肖像画はみんなでお金を出し合って描いてもらう集合写真のような絵画です。

でもこの作品をよく見てください。

スポットライトを浴びている手前2人、市民隊の隊長と副隊長はいいとして、次に光を浴びてるのが一人だけ描かれている女性。

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これ誰?

当時の注文主みんなも「これ誰?」となりました。

よく見るとこの女性は腰に何かをぶら下げています。これは鶏です。なぜ鶏?

鶏の爪は火縄銃協会のシンボルだったそうです。カギ爪が火縄に似ていたようで。この市民隊は火縄銃協会の人たちです。

つまりこの女性は火縄銃協会のシンボルとして描いた実在しない女性です。シンボルとして描いたにしては女性の顔が結構老けてます。もうちょっと美人に描いてもよかったのでは?と思いますが。

この女性のモデルはレンブラントの奥さんサスキアではないかといわれています。

実はこの絵が描かれた同年1642年にサスキアが亡くなっています。

 

奥さんの追悼(?)も兼ねて、火縄銃協会のシンボルとして女性を描いて、そこにもスポットライトを浴びてる。これは百歩譲ってOKとして、

他の後ろの人たち雑すぎません?

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背景が暗くてほとんど顔が隠れちゃったり、顔が見切れちゃったり。

みんなでお金をだしたのに、、、

それで注文主から非難されたそうです。そりゃそうでしょ。

 

この絵を絶頂の頂点として、レンブラントはここから一気に転落人生をたどります。

前述したように最愛の妻サスキアを亡くし(厳密にいうとサスキアが亡くなったことで一気に不運に見舞われてます)

本作で不興を買うとともにオランダの不況もやってきて注文が激減。借金して買った家も支払いができなくなって引越し。息子の乳母と揉めて裁判で負ける。などなど。。

自業自得なところもありますが、レンブラントは無一文になってしまいます。

 

面白いことに、なぜか『夜警』も不幸続きの人生をたどります。

心を病んだ人がこの作品をナイフで切りつける、硫酸スプレーをかけるなど事件が多発します。

それほどまでにこの作品が大変な名画であり、多くの人の心を惹きつけているとも言えます。

 

レンブラントは日本人にはあまりなじみがないかもしれませんが、この人は現在でも大巨匠です。つい最近もレンブラントの作品が何十億という値段で取引されるほど大人気です。

本人は天国と地獄を味わった人ですが、転落後の作品も名作ばかりです。

辛酸を嘗め尽くしたからこそ、その深みが作品に表現されているからなのかもしれません。

本当にいい作品ばかりです。

是非、機会があれば別の作品も紹介します。

 

次回はバロック画家最後になります。

夜の画家ジョルジュ・ラ・トゥールについて。

シチュエーションつけすぎで大炎上しちゃったレンブラント

オランダの代表画家というとレンブラント・ファン・レインです。

オランダの葛飾北斎といっても過言ではない巨匠です。

 

レンブラントといえばこの作品『夜警』

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実はこのタイトルは通称で正式名称は

フランス・バニング・コック隊長とウィレム・ファン・ライテンブルフ副隊長の市民隊

長い。

つまり、中央にスポットライトを浴びている2人がコック隊長とライテンブルフ副隊長。

 

17世紀オランダは「オランダ黄金時代」と呼ばれる大変面白い時代で、当時のヨーロッパ各国と比べて17世紀オランダは非常に特殊な国でした。

当時のヨーロッパの周辺各国はどこかの王族が領地を支配している絶対王政の時代。

イングランドステュアート朝、フランスはマリーアントワネットもいたブルボン朝オーストリアやスペインは神聖ローマ帝国ハプスブルク家が支配していました。

オランダはスペイン・ハプスブルク家に支配されていましたが、1500年代中盤からスペインに反抗して80年も続いた八十年戦争によって1600年代にスペインから独立した王様のいない「市民の国」となりました。

貴族や農民などの階級はありましたが、オランダ自体が非常に栄えており、オランダ東インド会社による貿易など産業や文化も非常に発達しました。

その時代を生きたのがレンブラントです。

 

絶対王政の時代、画家の仕事は王様の肖像画や教会の宗教画など、権力者による注文が主でした。

しかし、オランダは市民の国なので注文主が市民なのです。

そうすると、王様みたいに莫大な財産は持っていないので、絵を注文するときは、少額で小さめの絵を注文するか、団体がお金を出し合って大きな絵を注文するか。

フェルメールも黄金時代のオランダの画家ですが、フェルメール作品が比較的小さい(縦横50cmぐらい)のは市民からの注文だったからです。そして市民からの注文なので、市民の生活を描いた作品が多いのもこれが理由です。

 

今回の『夜警』は火縄銃組合という団体からの注文のため363×437cmという巨大な作品になっています。

先ほども言った通り、市民の国のため、町の警備も市民が行っていました。そのためこの火縄銃組合が市民隊として町の警備を行っていました。その団体がお金を出し合って、みんなの肖像画を描いてほしいという注文でした。これはオランダ特有の画題で「集団肖像画」といいます。

肖像画といえば貴族や王様。高貴な人たちは1枚に1人で描かれるのが普通です。だからこの集団肖像画というのは17世紀オランダで生まれた非常に特殊な画題なのです。

 

余談ですが、王族は1人1枚があたりまえの肖像画なのに、前回紹介したベラスケスの『ラス・メニーナス』は王族が集団で描かれた非常に珍しい作品です。ベラスケスはスペイン王室に仕えていた画家。しかも外国の絵画の収集も任されていました。直前までオランダと八十年戦争をしていたぐらいなのでオランダ絵画のことはよく知っていたのかもしれません。

from wikimediacommons

ちなみにレンブラントはベラスケスの7歳下。

 

集団肖像画レンブラント以前の画家も当時描いていました。

コルネリス・アントニス『アムステルダムクロスボウ市民警備隊の晩餐会』

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集団肖像画はいわば当時の集団記念写真。みんなで均等にお金を出して記念肖像画を描いてもらうのだから、均等に描いてもらった方がいいでしょう。そうなるとこうなります。

現代の私たちが見るとなかなか不自然な感じ。

 

そこに画期的な絵を描く画家が現れました。

フランス・ハルス『1616年の聖ゲオルギウス市民警備隊士官の宴会』

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だいぶリアル。この人たちの声まで聞こえてきそうです。いかにも宴会中ですという感じです。



レンブラントはここからさらに進化して画期的な絵を描きました。

『テュルプ博士の解剖学講義』

これまでは人物を並列に並べて宴会しているような集団肖像画だったのが、これはタイトルにある通りテュルプ博士が生徒たちに解剖学の講義をしている一場面を集団肖像画にしています。

つまりシチュエーションをつけたのです。

この作品はレンブラント出世作。このシチュエーションあり肖像画が有名になり人気画家となりました。

本作はその人気絶頂の頃の作品。しかも『テュルプ博士の解剖学講義』の頃よりシチュエーション盛り盛り。肖像画というよりむしろ、演劇の一場面のようです。まさにバロック絵画。

しかし、この作品に火縄銃組合は大激怒。

人気絶頂だったレンブラントはここから一気に急降下の転落人生を歩むことになります。

 

その理由は『夜警』の絵をじっくり見ながら次回へ。

有能すぎて過労死 偉大なる画家の中の画家ベラスケス(続き)

ディエゴ・ベラスケスラス・メニーナス』の解説の続きです。

ラス・メニーナス』from wikimediacommons

バロック絵画の特徴として、明暗対比と躍動的な人物。まるでスポットライトが当たっているような場面。

バロック創始者カラヴァッジオの作品でみると、真っ黒な背景の中に人物がスポットライトのような強い光を浴びて強調されていること。

バロックの大巨匠ルーベンスのように人物がひしめくように描かれて一人一人の躍動感がすごいこと。むしろごちゃごちゃしすぎてちょっと日本人には胸やけですが。

それに比べて、ベラスケスの作品はどれも柔らかい光と不思議な静けさがあります。

3人の作品と見比べると一目瞭然。

左から、カラヴァッジオルーベンス、ベラスケス from wikimediacommons

これがベラスケスの特徴の一つです。人物もたくさんいてごちゃごちゃしているはずなのに、静か。

王女様や侍女たちの動きもとても上品でゆったりしたような感じがします。

ベラスケスの描く人物はみんなそうなのです。王様でも平民でも、なんか知的そうで品がある。

そして静か。それも全くの無音ではなくて、とても優雅な静けさがあります。

人物の描き方のほかにも、この柔らかい光も重要です。カラヴァッジオの強烈な光ではなく、『ラス・メニーナス』では右側の窓からのとても柔らかい光、この光が王女にまっすぐ当たって、王女の高貴さが表現されています。

絵を見る人は王女にまず目が行きます。

 

前回、この作品はベラスケスが絵の前に立っているであろう国王夫妻を描いているところにマルガリータ王女が侍女を連れてやってきた場面を描いていると書きました。

 

hiro-ame.hatenablog.com

 

つまり、私たちは国王夫妻が立っているであろう場所からこの作品を鑑賞することになります。

だから、この作品は私たちが作品を見ると同時に、王女や侍女、ベラスケスに見られている作品でもあります。

 

次に細部を見ていきましょう。

マルガリータ王女の描き方をみると、だいぶ雑に描かれています。

from wikimediacommons

筆跡がはっきりわかる、しかもほんの数回のタッチをサッサッサッと重ねただけ、それだけで胸の飾りを描いています。こんなに雑でも遠くから見るとはっきりと飾りがわかります。

これは200年以上も後のマネや印象派のような描き方です。ベラスケスは印象派を200年以上先取りしてます。

マネはこの描き方もリスペクトして自分の作品でも挑戦しています。ちなみにそのマネを慕っていたのが印象派のモネやルノワールです。

エドゥアール・マネの作品 明らかにベラスケスを意識してる from wikimediacommons

 

右手前には小人症の人物が描かれています。王女様と一緒の画面になぜ?と思いますが、昔の各国の宮廷には宮廷道化師として、ピエロや小人症の人が「楽しみを与える人々」「慰みの人々」という職業として、ピエロや奇形の人がいました。そこそこ待遇良かったそうです。

from wikimediacommons

王女に付き添っている若い女性2人が王女の侍女、その侍女の少し後ろ、宮廷道化師の後ろにいる2人がシャペロンというしつけ役、お目付け役。一番奥のドアのところにいる人が侍従長

 

この作品のとんでもないところは構図にあります。

描かれている人物たちがなんと、7層にも描き分けて、奥行きが広がっています。

まず、ベラスケスが描いているであろう左側のキャンバスと右のワンちゃんが同じ位置にいます。次に小人症の人たち。次に王女と侍女。次にベラスケス。次にシャペロン。次が鏡の中の国王夫妻。一番奥が侍従長

これだけ見事に7層に分けて奥行きが描かれている作品は他に見たことがありません。

 

これを真似しようとして(多分)失敗したのがスペインの宮廷画家ゴヤ

ゴヤ『カルロス4世の家族』

from wikimediacommons

これは完全に『ラス・メニーナス』を意識して描いた作品です。

ベラスケスと同じ位置にゴヤ本人とキャンバスが描かれてます。でも人物で奥行きを描こうとしてますが、あんまり奥行きがありません。ゴヤ自身も暗く描かれて奥に引っ込んでいて、あんまりベラスケスほど主張してません。

ベラスケスの柔らかい光と比べて明暗対比が強めで全体的にベラスケスよりごちゃごちゃして見えるため、品の良い静けさはありません。

サージェントも頑張ってます。ベラスケスより層の数は低いですが。

from wikimediacommons




ラス・メニーナス』は一番光が当たっている王女にピントが合うように、王女の顔がはっきり描かれています。人間の目は奥に行けば行くほどピントが合わなくてぼやけて見えます。だから一番奥にいる侍従長はとてもぼやけて描かれてます。

しかし、この作品は7層に奥行きが広がっているので、なんとベラスケスはその層に合わせてぼやかし具合も7層に描き分けています。ベラスケスとシャペロンたちもぼやかし具合が違います。

さらに、人間の目は手前側もぼやけます。だから王女より手前にいる小人症の人たちもわずかにぼやけて描かれてます!

こうやって、光の入り方、人物のいる位置、人物のぼやけ具合で奥行きを広げて、一番奥の侍従長のところに行きます。奥のほうは光が入らず暗くなるところを、ドアを開けることで光を入れて侍従長がはっきりわかります。これらがすべて計算されて描かれています。とんでもない。

 

さらにもう一つ。もう一度全体をよく見ると、なんとこの作品、人物が綺麗に下半分に全員収まっています。上半分はなんと天井!実は上方向にも空間が広がっていたんです。

意外なことに、よーーく見ないとこれになかなか気づけません。

普通は描くものが乏しい天井をこんなに広く描くと上がぽっかり空いて下に描かれたたくさんの人物との対比で、絵としてなんとなく違和感を感じますが、それを感じさせないほど見事に描かれています。

だからこの作品は奥にも上にも広がりがあります。

これを平面のキャンバスにここまですごい画力で、見事な構図で描いちゃってるんです。

 

私たちは国王夫妻と同じ位置に立ってこの作品を見ることで、まるでこの部屋にいるかのような没入感を楽しめるとんでもない作品なのです。

 

作品もさることながらベラスケス自身もとても有能だったようで、フェリペ4世に非常に信頼されており、宮廷の美術品の鑑定や収集などもすべて任されました。

今のプラド美術館にある作品の多くはベラスケスが選定したもの。

さらに画家の地位じゃありえない王宮配室長という王城の全体を管理するような重職につき、そっちの仕事で大忙し。

さらにサンチャゴ騎士団の騎士にも任命されます。

歴史の教科書的にもビジュアル的にも微妙なフェリペ4世ですが、この人の功績は若きベラスケスを見出したことだ。とよく言われます。

その王の信頼が篤すぎて、描けたのは美男美女でもない王家の肖像画ばっかりで、画家以外の仕事も忙しすぎてあまり作品数も残せず。。。

だから親交のあったルーベンスと比べて作品数がとても少ないです。後の私たちからしたら、もっとたくさんの作品を見たかった。。。

その結果、なんと、忙しすぎて過労死。

 

ベラスケスの魅力はまだまだこれだけじゃありません。面白くて素晴らしい作品ばかり。数は少ないですが、歴史画や宗教画もあります。

是非ほかの作品も鑑賞してみてください。

 

長くなりましたがここまで読んでいただきありがとうございました。



次回はこれまた大大巨匠レンブラント

有能すぎて過労死 偉大なる画家の中の画家ベラスケス

ベラスケスは1600年代のスペイン王室に仕えた宮廷画家です。

この人は、西洋絵画史上最も偉大で最高峰の画家の一人といっても間違いありません。

それは、後の時代の大画家たちがベラスケスをこぞって絶賛しているからです。

この人をディスっている人を見たことがないです。

みんながみんな大絶賛。

ディエゴ・ベラスケス(『ラス・メニーナス部分』)
 from wikimediacommons

 

ベラスケス後のスペインの宮廷画家になったゴヤ、他にピカソもダリも。イギリスのフランシス・ベーコン、ジョン・シンガー・サージェントなどもベラスケスリスペクト作品を描いてます。

フランスのエドゥアール・マネに至っては「画家の中の画家」「私が絵画において理想と考えるものはベラスケスがすべて実現してる」とまで言ってます。

後の世代の世界中の巨匠がベラスケスに追いつけ追い越せと目標に掲げるほどの大画家です。

 

バロック絵画というと背景が暗く、明暗対比がついており、ルーベンスのように大げさでちょっとゴチャゴチャしてる作品が多いですが、この人の作品はそれに加えて、品がある。

多少ゴチャゴチャしていても、何とも言えない静けさがあり、一人一人の登場人物の個性が際立って、とても丁寧に描かれています。

 

そのベラスケスの最高峰の作品が『ラス・メニーナス』です。

「世界三大絵画」と検索してよく出てくるのがこの作品です。

from wikimediacommons

 

筆者も昔からこの作品はすごい!と何度も聞いたことがありましたが、何がそんなにすごいのか??

よくわかりませんでした。

しかし、この作品の解説などをじっくり聞いて理解できた時、鳥肌が立ちました。

これはとんでもない絵画でした。

後の巨匠たちが褒めちぎるほどの絵画技術がこれでもかと盛り盛りで入っているため「玄人がわかる傑作」なのかもしれません。

 

実際に作品を観ていきましょう。

この作品は『ラス・メニーナス』「侍女たち」という意味です。

中央にいてスッとこちらを見ている少女が当時のスペインハプスブルク王家のマルガリータ王女。

王女を取り囲むようにお付きの侍女たちが描かれてます。

画面左には筆とパレットを持ったベラスケス本人がいます。何やらこっちを見てる。

よく見るとベラスケスの手前に大きなキャンバスがあります。

つまり、ベラスケスはこちらにあるものを見て絵を描いてる場面なのです。

 

じゃあ、ベラスケスは何を描いてるのか?それもこの絵をみるとわかります。

ベラスケスのすぐ右横にある鏡。ここに男女が映っています。ベラスケスはこの2人を見て描いています。

この2人はマルガリータ王女の両親。フェリペ4世と王妃マリアナ夫妻。鏡の拡大図をみると、ずいぶんぼやっと描かれてます。それなのになぜ、国王夫妻だとわかるかというと、この作品を参考にしたんだろうとすぐわかるからです。

from wikimediacommons

ベラスケスが描いた国王夫妻。鏡だからちゃんと反転してる。

こんなにぼやっと描かれてるのに、国王夫妻であることがわかる。これだけでも画力のすごさがわかります。

 

つまり、この絵はベラスケスが国王夫妻を描いているところに、娘のマルガリータ王女がトコトコトコ~とやって来て「お父様、お母様何やってるの~?」その後ろを侍女たちが「お待ちください王女様~」ドカドカドカ~とついてきた。そういう場面。

侍女はこちら(国王夫妻)に気づいてご挨拶をしています。(もう一人はまだ気づいてない?)

 

当時は高貴な人は1枚のキャンバスに1人ずつ描かれる肖像画がほとんどなのに、このように場面を切り取ったかのような、しかも、王女だけじゃなく侍女たちまで一緒に描かれている集団肖像画のような作品はスペインではまず珍しいです。しかも一番敬わなければならない国王夫妻は鏡の中でぼやっと描いただけ!

このスナップ写真のような描き方でかつ王族(下々の者も含めた)の集団肖像画というだけで画期的ですが、この絵のすごさはそれだけじゃありません。



次回は、この作品の真髄をみていきます。