
「測る」を極める第一歩:SI単位完全マスターシリーズ
第二回目のテーマは、「SI単位の仕組み」を深掘りしていきます。
前回は、SI単位がどのようにして生まれ、なぜ世界共通の測定言語として不可欠になったのか、その壮大な歴史を紐解きました。今回は、このSIがどのような「仕組み」で構成されているのか、その全体像を深掘りしていきます。」
前回は、SI単位がどのようにして生まれ、なぜ世界共通の測定言語として不可欠になったのか、その壮大な歴史を紐解きました。
【SI単位とは?なぜ世界共通の測定言語が必要なのか?】
このテーマで学べる事
このテーマでは、単なる知識の羅列に留まらず、SI単位が誕生し、そして進化を遂げてきた「必然性」と「背景」を深く掘り下げていきます。
具体的には、SI単位の「歴史」と、それが「なぜ世界共通の測定言語として不可欠になってきたのか」という理由を、解説します。
現代社会を支える共通の「ものさし」:国際単位系(SI)の仕組みとは?
私たちの日常生活から最先端の科学技術まで、あらゆる場面で「単位」は欠かせません。その中心にあるのが、世界共通の計量システムである**国際単位系(SI)**です。今回は、このSIがどのような「仕組み」で構成されているのか、その全体像を紹介します。
1. SIとは何か?
国際単位系(SI)は、1875年にパリで締結された「メートル条約」を起源とする、十進数をベースにした世界共通の単位体系です。フランス語の「Système International d'unités」の略称で、言語に関わらず「SI」と表記されます。その目的は、かつて地域や分野ごとにバラバラだった単位を統一し、簡便性と合理性を保つこと。これにより、科学の発展や国際的な取引が円滑に進むようになりました。
2. SIを構成する3つの要素
SIは主に以下の3つの要素で構成されています
• SI基本単位 (SI Basic Units)
• SI組立単位 (SI Derived Units)
• SI接頭語 (SI Prefixes)
2.1. SI基本単位:すべての単位の「土台」
SIには、すべての物理量の単位の基礎となる7つのSI基本単位が定義されています。これらは「時間(秒:s)」「長さ(メートル:m)」「質量(キログラム:kg)」「電流(アンペア:A)」「熱力学温度(ケルビン:K)」「物質量(モル:mol)」「光度(カンデラ:cd)」です。

特筆すべきは、2019年5月20日に施行されたSI基本単位の大幅な再定義です。これにより、キログラム、アンペア、ケルビン、モルの4つの単位が、国際キログラム原器のような人工物による基準から解放され、自然界の普遍的な物理定数に基づいて定義されるようになりました。
• 秒 (s): セシウム133原子の超微細構造遷移周波数(ΔνCs)の数値を9 192 631 770と定めることで定義されます。この定義は1967年に地球の公転に基づくものから改定されました。
• メートル (m): 真空中の光の速さ(c)の数値を299 792 458と定めることで定義されます。これは1983年にクリプトン86の波長基準から改定され、実質的に2019年の改定を先取りしていました。
• キログラム (kg): プランク定数(h)の数値を6.626 070 15 × 10⁻³⁴と定めることで定義されます。日本はシリコン単結晶球体を用いた高精度なプランク定数測定で、この改定に大きく貢献しました
• アンペア (A): 電気素量(e)の数値を1.602 176 634 × 10⁻¹⁹と定めることで定義されます
• ケルビン (K): ボルツマン定数(k)の数値を1.380 649 × 10⁻²³と定めることで定義されます
• モル (mol): アボガドロ定数(NA)の数値を6.022 140 76 × 10²³と定めることで定義されます
• カンデラ (cd): 周波数540 × 10¹² Hzの単色放射の視感効果度(Kcd)の数値を683と定めることで定義されます
これらの定義定数は不確かさを持たない固定値であり、これによりすべてのSI単位がこれらの定数から直接導き出せるようになりました。
2.2. SI組立単位:基本単位の組み合わせ
組立単位は、7つの基本単位を乗法・除法の数学記号を使って組み合わせることで表される単位です。世の中に存在する物理量は無限にあるため、SI組立単位も無限に存在しますが、その中でも特に使用頻度が高いものや歴史的な理由から、22個の組立単位には固有の名称と記号が与えられています。
例としては、力の単位ニュートン(N)は「kg・m・s⁻²」として基本単位であらわされます。そして、圧力の単位パスカル(Pa)は「N/m²」であり、これを基本単位で表すと「kg・m⁻¹・s⁻²」なります。「一貫性のあるSI組立単位」とは、基本単位の積で表される際に、係数が「1」となる単位を指します。
なお、これらの固有の名称を持つSI組立単位の記号は、人名に由来する場合は大文字(例:ニュートン N、パスカル Pa)、人名に由来しない場合は小文字(例:ラジアン rad、ルーメン lm)で始まります
2.3. SI接頭語:桁数の表現を簡潔に
SI接頭語は、SI単位の10の整数乗倍を表すための接頭語です。例えば、キロメートル(km)の「キロ(k)」や、メガパスカル(MPa)の「メガ(M)」がこれに当たります。これにより、桁数が非常に多い、あるいは少ない量を、可読性良くコンパクトに表現できるようになります。
最近では、2022年の国際度量衡総会で、SI接頭語の範囲が10の±24乗から10の±30乗に拡張され、「クエタ(Q)」「ロナ(R)」「ロント(r)」「クエクト(q)」が新たに加わりました。

ただし、SI接頭語をSI単位に付加すると、その単位は「一貫性のあるSI単位」ではなくなります。例外として、質量の基本単位であるキログラム(kg)は、その名称にすでに接頭語の「キロ」が含まれていますが、これは歴史的な経緯によるものであり、キログラムにさらにSI接頭語を付けることはありません。
3. SIに属さないが併用される単位
SIは「1つの量に1つの単位」を原則としていますが、社会的な慣習や歴史的背景から、SIに属さないもののSIと併用が認められている単位も存在します。これらには、時間の「分(min)」「時(h)」「日(d)」や、体積の「リットル(l, L)」、質量の「トン(t)」などがあります。これらの単位も、SI単位によって正確な定義が与えられています。
4. なぜSIが重要なのか?
SIは、微細な値から宇宙規模の値まで、小数点を動かすだけで表現できる一貫性と、長さや重さなどの単位が相互に関連している論理的・合理的な構成を持っています。単位系の不統一は、過去に火星探査機の墜落事故や航空機の燃料切れ事故、遊園地での脱線事故など、重大な問題を引き起こした例もあります。
このように、SIは単なる単位の集合ではなく、科学的発見を促進し、公平な取引を保証し、地球規模の課題に対応するための重要な基盤として、私たちの社会の発展を支え続けているのです。そして、技術の進歩に合わせて、SIもまた進化を続けています。
次回は、測定の信頼性を保証する『トレーサビリティ』という概念について、さらに深堀りしていきます。どうぞお楽しみに!



