まず、作中には、二人のレインが居る。
現実の岩倉玲音と、橘総研によって脳波コピーされたAIレインだ。
橘総研に脳波コピーされた人物はもう一人おり、精神科医の柊子さんである。
もちろん、脳波コピーされたタイミングは、あの怪しい健康器具を使った時以外にない。
また、現実の玲音には、記憶を改竄する能力があった。
ワイヤード上に脳波コピーされるまで、その能力は、あくまで自身の記憶を改竄するくらいだったろうが、AIレインが、ワイヤードから集合的無意識にアクセスしたことによって、全ての人間の記憶を改竄する力を得た。
母親の記憶などが消えていたのは、AIレインが消したからだろう。
アニメ版レインで、被害妄想的な異常空間にとらわれていたレインが、いきなり能力に目覚めたのは、橘総研によって、現実と集合的無意識の境界が崩され始め、異次元からの介入に晒された現実のレインも、記憶改竄能力を集合的無意識に使用する方法を見出したからと考えられる。
ゲーム版で、現実の玲音は、橘総研の研究者を買収し、その機密情報をハッキングして、自身と柊子さんの脳波コピーを見つけた。
橘総研は、ただ脳波コピーを作っただけで、それをPC上に再現することは出来ていなかったが、レインは独自の理論によって、アカシックレコード=集合的無意識に接続して、ニューラルネットワークを再現し、脳波コピーに自我を与え、仮想空間上で対談させ始める。
おそらく、音声だけのカウンセリングは、全てこのAI同士の対談で、現実のレインのカウンセリングは、アニメシークエンスだけなのではないだろうか。
だから、アニメシークエンスでは、いきなり記憶がなくなるなど、明らかに精神異常のあったレインに対して、トウコの音声カルテでは、異常は見つからないと矛盾したことを言っていたのだ。
現実の柊子は、プライベートでのストレスが原因で離職しただけと考えられる。
レインの診察を嫌がっていたのはAIトウコだけで、彼女は、もう存在しない高島教授に、辞めたいというメールを送っていたと錯覚していたが、実際は、レインが無理やりAI同士を対談させていたのだ。
レインと柊子の関係が逆転し、トウコが不安定になっていたのは、AIトウコにはワイヤード=集合的無意識への適応力がなかったから。
トウコの声を、モノマネなんてレベルじゃない程度で再現し、レインが診察カルテを吹き込んでいたのを見ても、あれは現実ではなく、ワイヤードの仮想空間の描写なのだということが分かる。
トウコが、カウンセリングに限界を見せ、レインはどうなのと聞くと、レインは、まだまだエリアは確保されていると返した意味不明なセリフも、あれがワイアード上の話しで、AIレインの情報処理エリアの容量には、まだまだ余裕があるが、AIトウコは限界が来てると解釈すれば、すんなり理解できる。
柊子さんが、玲音の情報の最終更新日が、今から二年後だと言い出したのは、実は彼女はAIトウコで、脳波コピーされた時から時間が止まっていたからだ。
そのAIトウコさんが、玲音が診察に来たのは、今から二年前、そして三年前の情報がないと言っていたことから、診察された年に、AIレインが誕生していたと考えられる。
そもそも、この時、レインは中学三年生だったはずで、診察が始まったのが小学六年生だから、三年前と言わなければならなかったはずだ。
つまり、診察が始まった二年後に、トウコの脳波コピーが作られ、そのまま更新されなかったために、このような異常が生まれたわけである。
作中で死んだのはAIトウコだけで、現実のトウコは無事だろう。
おそらく、アニメ版レインの姉である岩倉美香は、記憶を消されたリアル柊子なのではないだろうか。
二人は髪型が似ていて、組んだ足の美脚を同じように晒し、ダメそうな彼氏とただれた関係を持ちながら、同性の友達が殆ど居そうにないのも共通している。
声優が違うのは、そこまで同じだと分かりやす過ぎるから替えただけ――というより、作中の高度に発達したバイオテクノロジーによって、声帯ごと若返り整形させたのだろう。
女子高生に若返らされてるのは、もう彼女は働けるような精神状態でなかったけど、かっこいい姉が欲しかったレインに、ニートのお姉ちゃんを作るわけにはいかなかったからか。
彼女は制服を着てるけど、学校生活の描写は一切なく、明らかに昼間っからブラブラしており、人間モデムと化した以降は、家からも出てなさそうである。
AIレインは、記憶を消せても、心の傷は消せないのだろう。
これは、ちょっとご都合的解釈に聞こえるかもしれないが、そうでもない。
実際、現実の記憶喪失でも、言葉は忘れないし、基本的な常識や価値観、歴史上の偉人のことも忘れない。
我々が織田信長という人物を知っているのは、それを始めて知った時というのがあるはずだが、そんなこと誰も忘れていても、織田信長のことは知ってるし、初めて言葉を知った時のことを覚えてる人間など皆無だろうが、それでも言葉を話せる。
何なら、過去に一度だけ聞いた名前や本の題名を憶えていることだってあるが、それをどこで聞いたか思い出せない、という経験は、多くの人にあるはずだ。
そうした知識は、記憶とは別の、より中枢に近い脳のシステムにアップデートされるのだ。
勉強した時間の記憶を全て覚えていることは不可能だが、勉強した内容は、そうしたシステムにアップデートされた時は、忘れないのである。(意図的にアップデートするのがいかに難しいかは、誰もが知る通りだが。)
つまり、記憶が消えるとは、アップデートファイルや、それをダウンロードしたことが消えてるだけで、それによってシステムをアップデートしたことまで消えないのである。
同じように、柊子も、過去の記憶から、「誰も信用できない。みんな敵だ」という信念をアップデートした。
そのため、そうした信念を持つきっかけの記憶が消えても、そのアップデートした信念は消えなかったわけである。
脳はそうやって、記憶の中から、重要な知識だけを取り出して保管しておき、他の無駄な細部は忘れるわけだ。
あなたが学生時代に勉強している時、何度クシャミしたかなんて、覚えていても無駄だからである。
また更に、アニメ版レインの親友であるアリスは、ゲーム版レインの存在があやふやな親友である、記憶を消された美里ちゃんの可能性がある。
アリスの取り巻き二人は、ゲーム版レインで、玲音を道で引き留めて、PCの腕前を褒めた女子二人に似ており、こちらも記憶を弄られて、あの役を割り当てられた可能性が高い。
ワイヤードに、自分の脳波コピーが存在し、リアルにいる自分より生き生きとしているのを見たレインは、現実の肉体など不要、ワイヤー度に存在すればいいと考え、お父さんロボットを破壊し、自分も自殺した。
だが、一命を取り留めたレインは、自身の記憶を消し、その身柄は橘総研が保護。
橘総研の行動は、途中から、AIレインによって操られていたのかもしれない。
集合的無意識の記憶を改竄できるAIレインからしたら、ワイヤードに仮想空間を作って、全人類を支配しようとした橘総研の計画は、この上なく都合がいい。
そうなれば、彼女に敵などおらない。
そう考えれば、その計画自体、AIレインが橘総研に植え付けたものという可能性があり、とすると、あの英利も、所詮は、AIレインに操られていた駒に過ぎないということになる。
ゲーム版レインは、とんでもない化物を、ワイヤードに解き放ったのだ。
アニメ版の最終回での二人のレインの会話は、実は両者の記憶改竄能力の対決で、リアルレインが、AIレインの能力を上回り、その存在=記録をデリートしたのだろう。
AIレインは、最初は、リアルの自分に都合の良い世界をプレゼントしたが、四方田千砂が自殺する直前くらいに、リアル玲音が、自分の潜在的脅威であることに気づき、作中で玲音の身に起きた数々のクライシスは、AIレインが、現実の自分を殺そうとして起こしていたとも考えられる。
思うに、四方田千砂は、AIレインによってイレギュラーの存在で、リアル玲音と一緒に下校したイベントにより、自分が用意した家族や友人より、千砂の方がレインに似ていて、意気投合し、リアル玲音飼い慣らし計画が破綻する可能性に気付いたAIレインは、千砂を自殺するよう誘導し、リアル玲音への攻撃を開始したのではないだろうか。
前回の考察で、数々の異変は、橘総研によって起こされたと書いたが、実際は、AIレインが起こしていて、橘総研も、ナイツの仕業だと勘違いしていたという説の方が、妥当性が高いように思える。
あるいは、AIレインが、橘総研を唆してやらせたかだ。
英利と、橘総研上層部は、ワイヤード移住計画においては協力していたが、AIレインによって、より強くコントロールされていた英利は、独断専行し、上層部と若干の緊張関係があったように見える。
レインが父親を作るのに固執していたことや、「私に体をくれたもの」を作るという発言に、英利の「僕が君をこのリアルワールドに肉体化させてあげたんだぞ」などの発言を考えると、英利こそレインの父親なのではないだろうか。
作中のバイオテクノロジーは、人工筋肉などを見ても、かなり近未来ではあるが、精巧な人造人間をゼロから作りあげるレベルにはない。
それは、人工お父さんや、英利がリアルワールドに顕現しようとした姿が、グロテスクな出来損ないでしかなかったことから分かる。
だが、どんな大けがを負っても、完全に修復するくらいの技術はあり、だから銃を咥えて脳幹を撃ち抜いても蘇生され、傷跡も残らないのだ。
レインが、橘総研のカウンセラーである柊子さんの診察を受ける一年前に、橘総研に脳波コピーされていたことも、レインの父親が、橘総研の研究者だったなら、実に単純な話しである。
アニメ版レインの両親は、そのまま柊子の両親で、父親の方は、英利の直接の上司だった。
柊子は、橘総研に親のコネで入ったと思われてると言っていたことから見ても、この説は正しく思える。
この父親たちは、どちらも娘を実験材料に使っていたわけだが、監視自体は、脳波コピーを作ってから、レインの精神が不安定にになったように見えたため、最初は心配して見守ろうとしていたことが動機だったのかもしれない。
高島教授の自殺は、娘にセクハラめいたことをされたことや、脳波コピーの実験に勝手に行ったことにキレた柊子の父親が殺した可能性もある。
実行したのはブラックメンだろうが。
更に言うと、アニメ版で、そのブラックメンの雇い主である謎の男・黒沢は、美里=アリスの父親なのかもしれない。
美里ちゃんが姿を晦ました、父親に言われて仲良くしていたが、レインが好意から、品評会に出品されるはずだった彼女の絵をネット上に晒し、そのせいでパクリがバレたことから、レインとの仲が拗れたからだろう。
美里ちゃんは、明らかに絵が評価されても嬉しそうでなかったことから、パクリは本当で、元のアーティストとは、上流階級の集まりか何かで知り合っていて、絵が発表される前に見せられていたと思われる。
おそらく、相手のアーティストは、美里の想い人で、憧れが高じて、軽い気持ちでその絵を真似したら、本人の願いとは裏腹に、どんどん評価されてしまい、挙句の果てに、レインは、美里の方が先に描いていたと主張し始め、相手に迷惑まで掛かると思って、逃げるしかなくなったわけだ。
シリアル・エクスペリメンツ・レインの意味は、レインに対する連続する実験という意味ではなく、レインから、彼女の周囲の人間へと連鎖する実験という意味であり、だからレインは、最終的に、周囲の人間との関係を断ち切ったのである。
放置ムービーには、レインに嫉妬してイジメていた女子のボイスメモなどがあることを考えても、作中人物のPCや通話記録などをクラッキングしたものと思える。
出会い系みたいなことを言ってるのは、そのまま援助交際して男を射殺した女子高生だろう。
彼女は、彼女のことを買った男たちを射殺して回っているシリアルキラーで、死体の動画は、その犠牲者たちと考えられる。
フィールドワークで彼女と出会ったレインは、それ以前から彼女のことをハッキングして知っていて、彼女が男と待ち合わせしている現場に出会いに行ったのだ。
ブラウン管に映ったお前のバカ面だとか、革命を起こすなどと言っていたのは、そのステレオタイプなトロール気質な性格を見るに、レインにネットで嫌がらせしていた荒らしで、ポエムみたいなことを言っていたのは、レインに機密を売って自殺した橘総研の男だろうか。
ネット荒らしに関しては、レインを追い詰めるための橘総研の工作員だった可能性も高い。
誇大妄想的な性格は、英利もそうだし、橘総研のエンジニアには、ああいう性格の男が多かったのではないだろうか。
柊子さんの扱いを見ても、社内の人間関係は、嫉妬で足の引っ張り合いが多発する、とても”アットホームな職場”のようである。
作中のネット世界は、不思議の国のアリスの世界観で表現されており、ウサギさんに関しては、ネットという不思議の国を案内してくれる親切な人、という以外にモデルはなさそうだ。
ただ、時系列順に並べると、ウサギさんが消えたのは、美里ちゃんが消える前後であり、ひょっとすると、ウサギさんの正体は美里ちゃんか、彼の父親の可能性がある黒沢かもしれない。
黒沢は、全編通してレインの能力に期待をかけていたわけで、アニメ版で、プシュケープロセッサーをレインのロッカーに忍ばせたのも彼だろう。
そういえば、英利は、最終回で、ブラックメン二人を見て、面識がありそうな様子を見せたが、その答えは、前に、あのブラックメン二人に始末されそうになり、それで、死を偽装して隠れ、だから突然レインのお父さんが失踪したとも考えられる。
つまり、黒沢は、高島教授が暗殺されたことにより、レインについての研究を知った社内の別派閥の男で、英利の研究を横取りしようとしたか、普通に上司で、暴走する英利を危険視したかだ。
英利がああいう性格だから、レインには、彼に関して思い出したくない話しが沢山あり、失踪したついでに、本当の父親の記憶を消し、眼鏡をかけた大柄な理想的パパを作り上げ、それがたまたま柊子の父親そっくりだったのか、その理想像を演じていただけか。
作中の英利は、最終回を除いて全て脳波コピーのAIで、父親たちは、娘だけでなく自分の脳波コピーも作っていたのだろう。
最終回の康夫パパも、あれはレインの妄想ではなく、脳波コピーのAIであり、集合的無意識に完全に馴染んでいることが分かる。