Zoom読書会 2025.07.26
【テキスト】『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』
フィリップ・K・ディック、朝倉久志訳(ハヤカワ文庫 SF)
【参加人数】出席4名
※今回はLINE通話を利用しました。
<推薦の理由(参加者A)>
◆私が初めて読んだのは2ヵ月くらい前。色々な作品に影響を与えているSFの古典でずっと読みたいと思っていたから、別の読書会で推薦させてもらった。そのとき、「中盤、ミステリーみたいで面白いな」「この観念的なラストはどうなんだろう?」などと感じたので、小説を書く人がメインのこちら(Zoom読書会)でも、皆さんの意見を聞いてみたくなった。
◆また、AIが身近になった今、タイムリーなテーマかなとも思う。1968年に出版された作品ながら新しいとすら感じたのですが、皆さんは如何でしたでしょうか?
<参加者B>
◆生命の定義を問う、メッセージ性の高い作品でした。
高度な機械生命体と生命体の差違と共感ボックス、バスター・フレンドリーの番組といった様々なガジェット一つひとつがマクガフィンとなり、最終的にある種の生命賛歌へと収斂されていく様が圧巻だった。
◆とくに魅力的なのは、特殊者(スペシャル)という烙印を押されたイジドア。職場でバカにされながらも、マーサー教を信じ、蜘蛛を大切にし、破れかぶれに活躍した彼からは気高さを感じた。イジドアの在り方は、最後、運命に電子生物のヒキガエルを掴まされたデッカードとは対照的だと思う。
◆また、保護すべき自然動物をわざわざ買い求めて飼うという「正義」は、規範に忠実であろうとし、どこか本末転倒にも思えるようなことになりがちなアメリカ人の価値観を皮肉っているようにも感じられた。
◆映画『ブレードランナー』(1982年、アメリカ)のラストとは全く違う内容で、最初は戸惑ったが、読みがいのある良い作品だった。
◆ラストは個人的に好き。間違いながら、ボロボロになりながら、間違いを犯しながら生きていく彼にとっては救いのある優しいエンドだと感じた。
<参加者C>
◆『ブレードランナー』は美しい映画だったイメージがある。
◆『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』は大昔に読んだかもしれないが、覚えていないので実質初読
◆古典だが予見的。孤独を紛らわすSNSのような存在があったり、メディアも現代のよう。
◆ストーリーラインのとりとめなさから、書きながら考えていたのではと感じた。
◆とくにニセ警察の強引な設定に作為を感じた。
◆だが、最後は先の展開が読めず、決まったストーリーラインから外れたオリジナリティを感じたのでよかった。
◆友達だと思っていたアンドロイドがクモの足を切るのを目の当たりにして、やはり人間ではないということを実感する部分はよくできている。
<Dさん>
◆最初は読むのに苦労した。短時間で世界観に入っていくのが難しい。情調オルガンなど細かい設定を理解する必要はないが、世界の仕組みや用語を受け入れなくてはならないので。
そんなふうに最初は難読だったが、有名な作品だから面白くなるだろうという期待が読み進める原動力となった。
◆火星から逃亡してきた8人のアンドロイドの征伐から物語が動いて面白くなる。細かい部分は読み飛ばしながら読んだので理解できていない箇所もあるが、わからないままに突っ走ったらわかったところもあるし、乗って読むことができた。その辺りの構成が上手いのかなという気がした。
◆人間より優れたアンドロイドを殺していいのか、というのが1つのポイント。
自分より劣る機械だからと殺していても、レイチェルやオペラ歌手のミス・ラフトなどは人間より優れている。主人公の考えが変わる過程が上手く描かれている。
感情移入できるかが人間との境目、という考え方はどうなのかな。リックはアンドロイドに感情移入してしまっているし、アンドロイドもリックに感情移入しているのではと思わせられる。将来、アンドロイドはどう発展していくのか? 物語はそこまで書いていないが、フォークト・カンプフ検査が成立しなくなったとき、彼らとどう共存していくのか興味深い。
現実に人間同士だって考え方が違う。日本人と外国人も考え方が違うし。外国人問題と置き換えて読める。
◆評判の作品だけに奇想天外の展開になるんじゃと身構えたが、オーソドックスな展開に想えるのは、(この作品が書かれて)50年の間に、SFに対するリテラシーがついてきて、現代の読者に馴染んでいるから。だから読みやすいのかな。
◆いろいろな発見があって面白かった。
◆ファンタジーやSFは作品で得た知識を他のところで活かせないのが困ったところ。
<参加者A(推薦者)>
◆この作品、時間にしたら短い間の話ですよね。いろいろ起こって内容は濃いんだけど。昨日の今日で、奥さんといい感じに収まるんだと思った。
◆機械の長所は合理的に判断してサクサク進めることだと思うのだが、思考を人間に近づけるとそのメリットがなくなってしまうのではと思った。シンプルな機械のほうが使い勝手がいいよな、実際逃げてしまってこんなことになっているし……と思いながら読んだ。
◆作中でも触れられているように人間でも機械みたいな反応をする者がいそうだし、アンドロイドも肉を使って作られ、傷つけば血が出るのなら、それはほぼ人間ではないかと思う。感情がない人間もいるかもしれないし、じゃあ人間って何だろう? そんなことを考える機会になった。
◆中盤、「リックも実はアンドロイドなのか?」とドキドキしてすごく面白かったが、最後のほうは観念的で、また、ラストはこんな感じなんだと思ったので、フリートークでも皆さんの意見を伺いたいです。
<フリートーク>
【世界観について】
A:私は映画の『ブレードランナー』を観ていないのですが、だいぶ違うんですか?
B:『ブレードランナー』はかなり設定を削ぎ落している。デッカード(リック)が人間かアンドロイドか曖昧になっていく。本筋は同じだが簡略化されている。
D:確かに2時間で全部詰め込むわけにはいかないので原作から大体削る。小説を膨らませた映画は『砂の器』(1974年)と『泥の河』(1981年)くらい。宮本輝の『泥の河』は短い小説。
A:削ぎ落とさないほうがいいのかな?
D:そうすると説明しないといけないし、説明に尺を取れないし……
A:『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の世界はディストピアなんですかね? ディストピア小説に分類されているのを見たことがあるけれど。
B:ディストピアとはちょっと違うのでは。管理されていて、思想は全体主義的で、みんなバスター・フレンドリーの番組を観ているなど似ているところはあるけど、コントロールされているわけではないから。アンドロイドにとってはディストピアかも。
D:これは、もともと管理されていた世界ではなく、放置された世界。それをディストピアと言うのだろうか? 火星移住がユートピアなのか? 描かれた現実とは異なる世界が生きにくいものならディストピアと判断してしまう見方があるのかな。中身はだいぶ違う。
C:核戦争後のアフターカタストロフでは。
D:逆に言えば、火星で生きられない人の逃げ場であるという考え方もできる。
AIがどうとか仰っておられましたよね。AIにフォークト・カンプフ検査の質問をしてみたところ、「私には人間のような感情はないが人間の感情を調べてみます」と躱された。そして、人間の行動を調べてみたらこう……と返ってきた。なるほど、賢い。いろんな答え方がある。
A:今のAIはすごく自然にやり取りできますよね。人間より気が利いたことさえ言うし。ゆくゆくは人間と区別がつかなくなるかも。
D:アルゴリズムは知らないが、まともに答えないように作られている。人間がどう考えるか客観的に答える。AI自身が主体にならず、感情を出さないようにしている。
そこを作中のアンドロイドはマスターしてしまっているんですよね。
人間より優れたアンドロイドを作るメリットは何か。火星で労働をさせるためなら人間より賢くある必要はない。アンドロイドを使って世界征服を狙うとかならわかるけど……自分勝手に動きだして人間が困っている様子を描きたかったのか?
A:ローゼン協会が不思議ですよね。
D:やってみたい、作ってみたいという探求心からかもしれない。クローン作りみたいに。
C:描かれていないだけで普通に働いているアンドロイドもたくさんいるんでしょうね。
D:ネクサス6型は全部で何人いるのか。従属的なものを殺す必要はない。飯の種がなくなりますね。
A:研究が進んでさらに人間に近くなったり……
D:そうなると、あのテストで見分けがつくのか。今のAIみたいに躱すアンドロイドも出てきそう。レイチェルみたいに。この世界の続きが見たかった。アンドロイドが否定しまくって、テストの意味がなくなるのを見たかった。
A:それはもうほぼ人間なのでは?
D:感情がないので心がない。蔓延ったら困る存在。クモの足を切るなど残酷なことを平気でやる。そうならないアンドロイドも作れるかもしれないが、それなら作る意味がない。2年しか生きないなら人間のほうが効率的だから。
【テーマについて】
D:レッシュは人間?
C:レッシュが人間だったせいで、じゃあニセ警察は何だったんだって。
D:火星からやってきて、ニセ警察に雇われて、それまで何していたんだろう? 記憶を書き換えられて騙されたのかと思っていた。
C:作中の話を信じるなら、人間の記憶は書き換えれないから本物を殺して成り代わった。作者は書きながら、リックはアンドロイドということにしようかなとか思っていたのかな。プロット切らない作家さんなんでしょうか。
D:以前読書会で取り上げた『華氏451度』の設定も半分忘れてしまっている。覚えていたら次の作品を読むとき邪魔になる。次の作品を読むまでにいかに忘れられるかが大切。
A:現実と異なる世界が舞台の作品だとそうなりますね。
『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』というタイトルに関してはどう思われますか?
D:寝る時に数える羊と関係あるのかな。
A:ネットで検索すると、「人工知能も、(電気羊を欲しがる人間のように)電気羊のことを夢に見たりするのだろうか」と解釈している方がいました。
C:作者はタイトルから考えた気がする。
B:イエス・キリストは自らを羊飼いになぞらえていた。イエス・キリストが隠れている。
D:それならそう書かないと、せっかくのアイデアがもったいない。
A:最後、宗教的でしたよね。リックがマーサー教のマーサーのようになっていたけれど、そもそも石を投げられるのもキリストがモチーフだろうし。
B:最後、砂漠のシーンは白昼夢のようだった。
D:最後のシーンはヒキガエルを見つけるために(作者が)行かせた気がした。
動物愛、でもそれも人工の物だった。じゃあそのカエルは誰が砂漠まで連れて行ったんだという疑問は残るが、終わらせ方として悪くない。徒労感、世の中上手くいかない、みたいな。
C:打ち切りっぽいけど、いい感じですね。
B:最後、『ギルガメシュ叙事詩』(古代メソポタミアの文学作品)に似ている気がする。永遠の命は見つからない、じゃあ命を大切に生きよう――生身のカエルも、電気ヒキガエルも命には変わりないから大切にしていこう。
A:電気のカエルを大切にすることは、アンドロイドを殺すことへの答えなのかな。
【アンドロイドと人間について】
D:砂漠で電気の補充はどうしていたんだろう。そのうちYOSHINOさんが開発してくれるか。
C:ライトニングするなら組み込んでもいい。
D:犬でも猫でもいいところを羊から連想したから羊なのか。羊邪魔になるもんな。
C:毛、伸びるんですかね? 隣人の手前、狩ってみたりして。
D:そこまで考えちゃいけない(笑)。どんな作品でも粗を探せばいくらでも出てくる。
C:その場その場の印象で読まなくちゃですね。
A:人間が羊を数えるみたいに、アンドロイドも羊を数えて眠るんですかね。「sheep」と「sleep」が似ているからとか、英語じゃなきゃ意味なさげですが……。
D:もともと向こうの文化だから、日本人より海外の人に刺さるのかも。
しかし電気掃除機に感情移入する人がいるくらいだからアンドロイドもそうなんだろうなぁ。
B:人間に近いと親しみが湧くのでは。
A:中途半端に近すぎると不気味の谷現象が起きてしまう。
D:アイコラを作るとき、体を入れ替えると不自然になる。人間の感覚としてあるんでしょうね。
A:少し違うかもしれないけど、人形が怖いという人は結構いますね。
D:夜中に見たら怖い(笑)。小さい頃、夜中にお雛様を見たとき怖かった。
A:人間に近いと、取って代わられるかもという恐怖心が出てくるのかも。ネアンデルタール人とか、別種の人類を滅ぼしたのも似たような理由だったりして。
D:見た目はひこにゃんみたいで頭だけすごくよかったら大丈夫かな?(笑)
C:ゆるキャラ、リアルに動いてたら怖いですよ。
D:昔、子どもがディズニーランドに行ったとき「ミッキーがあんなに大きいとは思わなかった」と言っていたなぁ(笑)。
C:アンドロイドの利点は人間の設備をそのまま使えることですかね。トイレとか。物を食べてたから排泄はするだろうし。脊髄調べないと人間と区別がつかないくらいですから。
A:食べて排泄するなら、そこまで人間に近くないほうがコストかからない気がする……。
D:なぜ有機体は生まれたのか。進化して人間になっている。アンドロイドだって流れで作られていきますよね。進化の過程をスピードアップしたらいい。40億年を40年くらいに。NHKの人体特集観たら、あんなの作れるわけないと思ってしまうが。ミトコンドリアとか、あんなものが自然にできてくるんだから。
A:生命ヤバいですよね。
D:人間って安上がりなんですよ。
C:人間が貴重な世界では、特殊者以外は大切にされるんじゃないかな。
D:特殊者も使い道がある。結構賢い。アンドロイドであることを見抜くし、彼らが友達でないことも見抜くし。特殊者の設定がわからない。作者は人間が決めつけるのがだめだと言いたいのか? 人事考課もそう。烙印がついたら上に上げない。人間が決めている。ニュートンもアインシュタインも子どものころは馬鹿にされていた。
A:差別や決めつけなどへの反発も感じますね。その辺り、映画では描かれているんですか?
B:出てきました。
A:映画、観ておけばよかったなぁ。
B:個人的には混乱した。情調オルガンとか出てこなかったから。
D:今なら仮想現実を見せるヘルメットみたいなものか。
C:もっと直接的に脳内物質を操作してるんですかね。煙草を吸うみたいな感じで。
A:それ、現代は薬でやってないですか?
C:そこはSFっぽくサービスで(笑)。
【今後の読書会に向けて】
D:読む機会を与えていただいてありがとうございました。有名な作品は、つい食わず嫌いになってしまう。
A:推薦してよかったです! 実は(本日欠席の)Eさんお薦めのSF作品があり、私もまだ読んでないのですが、読む前に古典を履修しておいたほうがいいのかなと思いまして。長い作品だから2ヶ月くらい前から告知するかたちで取り上げようかと。
D:Eさんのお薦めは難しそう。『屍者の帝国』(伊藤計劃☓円城塔/河出文庫)もそんな感じだった。
A:『屍者の帝国』、この読書会で取り上げましたね! 『屍者の帝国』のときも思ったけど、SFって最後、観念的になるんですかね?
B:『攻殻機動隊』(士郎正宗による漫画、それを原作としたアニメ)もそんな印象。観念とか概念にいきつく。
A:観念的にされると、はぐらかされてる気がする。私は、事件解決しました、犯人わかりました、みたいにスパーンと終わるのが好きなのかも。
D:ともあれ、今回の作品の設定は忘れたほうがいいですよ。次の作品を読むときに影響するから(笑)。
後から書かれた作品に影響を与えているものはオーソドックスで読みやすいけど。タイムマシーンとか説明してなくてもわかりますよね。