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R読書会/Zoom読書会

『地球にちりばめられて』多和田葉子(講談社文庫)

R読書会 2025.05.10
【テキスト】『地球にちりばめられて』多和田葉子講談社文庫)
【参加人数】9名
※オンラインでなく対面形式でした。

<推薦の理由(参加者A)>
 ある評論家が、カズオ・イシグロから派生したディストピア文学が村田沙耶香多和田葉子によって発展したと言っていた。この読書会ではカズオ・イシグロ(2015年11月に『忘れられた巨人』)、村田沙耶香2021年1月に『コンビニ人間』2023年4月に「無」※『絶縁』収録)を取り上げていたので、多和田葉子も読んでみようと推薦した。
 推薦したとき、私も未読だったため、どんな感じかなと思いながら推薦した。

<参加者B>
◆設定がすごく面白く、取っ掛かりもよかった。すんなり入り込め、どんどん読み進められた。
◆面白いのはHirukoの言葉(→パンスカ)。スカンジナビアならば通じるという設定。
日本語と韓国語は似ているが聞いても理解できない。また、インドのヒンディー語も文法的には日本語と同じだが(S(主語)+O(目的語)+V(述語))理解できない。
言語に互換性があるのが面白いと思った。
◆読み進めていくと「物語上の虚構」と「現実」の情報が入り混じっているので、少しイライラしてきた。面白いが、読者としての立ち位置がぐらぐらする。本当と嘘を判断したくなり(しなくてもいいのだが)、安心して虚構の世界に浸れない。引っ掛かる言葉が散りばめられているので油断ができない。ちょっとイライラしながら読んだ。
◆テーマの一つ「母語」について考えさせられた。母語を失うのは、母語が持っている文化を失うのと同じ。アイヌ語を語り継ごうとしているのも、文化を引き継ごうとしているから。文化が消えてしまうのは、国が消えてしまうということ。
◆すごく上手に虚構が作られている。よく読むと、消えた国は日本だと書かれていない。鮨の国としか書いていない。ムーミン北越にいたとか、ブルドーザーで山を崩したとかも虚構なんだなと思った。油断ができない。

<参加者C>
多和田葉子という作家を初めて知った。私はこんな面白い本を今まで読まずに来たのか。紹介してもらってよかった。
◆語学に堪能な作者なのだろう、遊びや読者の興味を引くことを入れて面白く仕上げられている。
◆消滅した国、スサノオ福井県出身という設定……原発問題を頭に入れて書かれたのだろうか。
◆たまたま別件でグリーンランドデンマーク領だと知ったところだった。なかなか本で読む機会がなかったのでタイムリー。
◆神話は詳しくないが、ヒルコがスサノオの姉であるなど、詳しければさらに面白かったのだろうか。
◆「シニセ・フジ」を「ニセフジ」にしたり、「抹茶」は「Macho」……面白い。
◆著者の履歴を見ると賞を総嘗めしており、能力のある方なんだろうなと思う。知的な部分が読み取れる。知識を表に出している。

<参加者D>
◆私にしては珍しく解説を読まずに読み始めたが、なかなか読み進められなかった。何を言っているのか、何の話なのかがわからなかった。
P158の「犬の言語なら問題なく理解できる」という部分を読んで、そういう話なんだと納得した。私も猫の言語ならわかる。人間は、人種や地域が異なると言葉で通じ合えない。
◆著者はドイツ在住。「異なる言語圏の世界から見える景色を知りたい。母語である日本語を外側から捉え直してみたい。言語と言語の溝に飛び込み、作品を書いてみたい」と語っている。
※出典:作家・多和田葉子の目に映る日本とグローバリズム(2020.02.03付)
    https://www.recruit.co.jp/blog/guesttalk/20200203_421.html
◆私はコロナ前にドイツへ旅行した。コロナ前は年2回くらい海外旅行をしていたがパンデミックで行けなくなり、YouTubeの旅番組を観るようになった。スーツケースに荷物を詰めなくていいし気楽。この本からはYouTubeで観る旅番組のような印象を受けた。
A:生活感がないですよね。
D:色々な言語を話す人が集まって旅をしている。クヌートの母にどきっとした。私って(母親として)どうなの? と考えさせられた。
福山雅治がラジオで語っていたエピソードだが、地方でパーティーをしているとき母親が出てきて、ここに母親いらない……と思ったそうだ。私もこうなりそうだから子どもとは敢えて距離を置いている。だからクヌートの母は興味深かった。おふくろ=お節介なのか。
A:よく描かれていますよね。

<参加者E>
◆色々な青年が登場して、有島武郎の「星座」を思い出した。様々な才能できらきら輝いている。
◆「クヌート」「ナヌーク」の名前が似ている。
◆考えてみれば、私も色々な方言を話す。出身は宮城で、福島、横浜、福山、岡山、大阪などにもいたことがあるので全部理解できる。ナヌークみたいな気分で暮らしている。
◆いつイベント(ウマミ・フェスティバルやシニセ・フジでのコンペティション)が始まるのか楽しみだったのに、なかなか始まらなかったのが、私がストーリーに乗り切れなかった理由。結局イベントはやらなかった。イベントをやってほしかった。
A:ただ集まっただけでしたね。

<参加者F>
◆この作品は三部作の一部だそう。だから集まるだけだったのかも。
◆近未来を描いた幻想的なSFだと思った。
B:2018年に出版された本だけどAIのことが書かれている。
◆散りばめられた詩的な表現や、言語に対する鋭い感覚が素敵だった。例えばパンスカが生まれる経緯、ネイティブという概念への疑問など。
◆寄る辺ないHirukoが、故郷を失った悲しみに浸るのではなく、自分と同じ母語を話す人を探しながら、未来を見つめて生きているのがよかった。
ウェットではなくドライな印象。私が作者なら、うだうだ郷愁の念を書き連ねていたと思う。
◆作中にもあるようにヒルコは、イザナギイザナミから生まれた一番初めの神。えびすと同一視して祀られているが、えびすは人々の前にときたま現れる外来物に対する信仰であり、海の向こうからやってくる神のこと。漂着したクジラや漂着物などを指す場合もある。
福井県には高速増殖炉もんじゅがある。第八章(Susanooは語る)は原発を念頭に置いて書かれたのだろうか。
◆私は、この作品はアイデンティティを巡る旅を描いていると思いながら読んだ。クヌートの母親は世間の価値観の象徴だろうか。自身を縛り付けていたものから自由になる、という。
D:私は若い人と話すとき、くどくなっていないか、すごく気をつける。子どもにも、幸せを願いつつ口は出さない。
A:古い世代はお金を出す。
B:そうしなさいと言われますよね。

<参加者G>
◆著者の作品を読むのは二作目だが難しかった。何とか読まなくてはと読んだ。言語には興味があるので、その部分は面白かった。
◆前に読んだ著者の作品より面白いと思ったけれど、純文学って何だろう。
言語が好きなら言語学者に、哲学に生きるなら哲学者になればいい。じゃあ小説を書く意味って何? と思わされた。
◆私が20代のころ、会津の方々とご一緒したことがある。会津弁は聞き取れなかった。私は九州の佐賀出身で、会津の年配の人から「敵」だと言われた(→戊辰戦争)。
C:鹿児島の人と会津の人が結婚しようとすると親に猛反対されると聞きますね。
B:山口県会津の人から嫌われていると聞くけど、佐賀も言われるんですね。
G:言われました。言葉と文化は思いもよらないところで繋がっている。
◆近未来なんかすぐですよね。なかなか難しい作品でした。

<参加者H>
◆最初読みにくくて、Hirukoに出会うまでが辛かった。Hirukoとクヌートが出会ってから物語が進み始める。
◆日本が失われた世界で文化伝統が消えたのがテーマなのかと思ったが、東日本大震災を下敷きに、地球温暖化も重ねている。また、著者がドイツ在住だからか、原子力発電に反対している書き方だと思った。
◆HirukoとSusanooはなぜローマ字表記なのだろう。ヒルコとスサノオは日本神話の神だが、なぜこの二人しか出てこなかったのか?
もしかしたらアマテラスがいなくなった世界の話? アマテラスがいなくなったら日本がなくなる?
◆Susanooは自分探しをしたり、生き残った人や文化を探すのだろうか。(現実の)日本にイタリア料理ではないけれどナポリタンがあるみたいに、日本文化が変質して異国の地に根付いているのが面白かった。
◆三部作だからこんな終わり方なんだろうと思ったが、続きを読めていない。

<参加者A(推薦者)>
◆皆様、よく読んでくださってありがとうございます。
◆文章がすごく綺麗。よく練って推敲されている。また、内容も深い。地頭がいい方なんだろうなと思う。
◆国や職業を乗り越えたところに人間が浮かんでいる。その人間同士はどうやって結びつくのか。言葉しかないが、言葉は流動的で変化している。それをこんなふうに言葉にできるのはすごい表現力。
◆Hirukoは自由なぶんだけ寂しい。誰かとわかり合いたい、話したいと思っている。
パンスカで通じるんですかね? まったく新しい造語ですよね。クヌートがHirukoを見たとき、雷が落ちたみたいに繋がりたいと思った。新しい言語であったとしても強い想いで繋がる。
◆Dさんが仰っていた母親の存在。かつては一つの制度の上に成り立っていたものが、彼らの新しい世界では壊れている。実務的なことを心配してあれこれ言ってくるのは、若い世代にとってお節介でしかない。
対立軸があるからHirukoやクヌートが際立っている。

<フリートーク
【言語について】
D:「言語と言語の溝に飛び込み、作品を書いてみたい」という、著者の小説を書く動機がすごい。ノーベル文学賞候補としても名前が挙げられている。
ヨーロッパって地続きだから言語が似ているところもある。
C:ヨーロッパは、国で分かれているけれど言語も人種も入り乱れている。
D:私は日本語でも東北の年配の方の言葉などは聞き取れない。
私は東京から岡山へ来たんだけど便利なことがあって。岡山弁の俳句を作って大阪で出したら褒められたんです。言葉って面白いな。
最近の研究で、鳥にも言語があるというのがわかったそう。危険が迫ってくると「警戒しろ」と鳴く。鳥の種類によって言葉は違うけど、他の鳥の言葉も理解できるみたい。
B:文法があるって言いますね。
※参考:NHK サイエンスZERO>読むZERO(2025年1月28日付)
https://www.nhk.jp/p/zero/ts/XK5VKV7V98/blog/bl/pkOaDjjMay/bp/p0XWGW8MX7/
G:鳥にも方言がある。岡山のスズメと九州のスズメは言葉が違うんですよ。
H:カラスも違います。岡山のカラスと名古屋のカラスの鳴き方は違っていた。

D:P264、eitherとneitherの教え方、本当にしてるのかな。
B:日本の言葉に掛けて教えている人もいる。代名詞は「~は、~が/~の/~を、~に/~のもの」→「羽賀の鬼の物(はがのおにのもの)」みたいに。
D:中学校までの英語でだいぶ通じるって言いますね。
B:今は仮定法も中学校くらいで習う。
D:私の時代は日本人の先生ばかりだった。今の子は恵まれている。
B:ドイツの英語学習ではドイツ訛りにならないよう、発音を徹底的に叩き込まれる。通じないと意味がないから。ドイツの教育は実質的。数学も、√の概念は習うが、√同士の足し算は勉強しない。実際何になるかは電卓で計算する。
日本は抽象概念を発達させるために勉強させる。どっちがいいのかな。

【作品世界について、または現実世界との比較】
B:Hirukoの年齢が、鮨の国が滅んだ年と合わない。彼女と同じ母語を話す者を知っているのは年を取っている人だけ。Hirukoの年齢があやふや。浦島太郎に引っかけているのかな。
A:年齢という縛りからも解き放された存在なのだろうか。
D:Hirukoの昔話が面白かった。
A:「鶴のありがとう」とか、ダウンジャケットとか。
D:昔話に出てくる男性は誠実で、みんな独身。展開の仕方、発想がいい。
Susanooは派手な女性にふらふらついていった。皮肉とユーモアのバランスがすごくいい。
綺麗な描写もたくさんある。私はP67「英語になるとほとんど呼吸の摩擦だけで話している」という箇所がいいと思った。

D:ノラは妊娠していた?
F:妊娠していたのはSusanooの恋人アンケでは。子どもができても男性は逃げられますよね。
A:この小説世界には変に善悪の基準がない。
あと、旅というのがキーワード。人生そのものが旅というのはありますね。
B:英語を共通語にしないという設定も肝ですね。英語を共通語にすると全部通じちゃうから。
A:Hirukoはアメリカに連れて行かれることをすごく恐れている。
B:中国はアメリカへの輸出を止めている。本当に「(現実の)今」ですよね。

【現実のヨーロッパの国々について】
A:日本がなくなることはあるのだろうか?
H:作中で日本は沈没したんですかね?
C:私は原発事故によるものかなと思った。
I:言葉がまったくわからなくても深いところで繋がり合っているのがわかる。難民の方は、言葉はどうしているんでしょう。身振り手振りでも生活していかないといけない。
A:クロアチアでは移民向けの言語教育が盛んだそう。
D:ドイツは難民を受け入れたが、旅行に行ってみて大変そうだと感じた。旅行に行ったとき、「お金をください」とついてくる年配の人などを見た。裕福な人はレディーファーストでドアを開けてくれるけれど貧しい人は余裕がない。日本だけで過ごしていると理解できないけれど。
C:旧東ドイツですか?
D:旧東ドイツです。
C:旧東ドイツと旧西ドイツは所得も違いますね。
D:私は日本に何か起きて海外に脱出するならチェコがいい。街が美しくて人もいいし、ビールが美味い(笑)。ヨーロッパでも比較的安定しているし。
C:私はグリーンランドがいいかな。温暖化で野菜が作れるようになったから。

【表現について】
D:会話の鉤括弧を閉じる前、句点を打っているところと句点がないところ、両方ある。
C:登場人物による?
F:Hirukoの台詞だけでも、あったりなかったりしていますね。
D:現代では、紙面が黒くならないように句点や読点はなるべく減らす傾向にある。鉤括弧を閉じる前に句点を打つ理由があればいいけど。
A:(本を捲って)本当についているところと、ついていないところがありますね。
H:言語によって分かれているわけでもないみたいですね。

D:マチュアの小説は大きい事件を書くけれど、この作品中では大きい事件が起きていない。それだけで書けるんだと驚いた。
A:生活感なく移動しますよね。
C:旅が1つのテーマなのかな。
I:私の友人は、夫婦でスペインに行ってそれぞれ別行動を取るそうだが、それを思い出した。
D:私もそうしている。それで迷子になって日本人を探す(笑)。
P44の「出る杭を打つ腕を鍛えるために「もぐら叩き」というゲームが開発された」……面白かった。
A:日本はそうですね。私は岡山県人ですが、岡山なんかとくに日本の中の日本みたいな。
D:なんで岡山の人って会議で喋らないの?
E:終わってから喋るんですよ(笑)。
F:会議の前に根回ししてから提案しないと(笑)。
B:子供会や町内会でも話し合いがあるが、若い世代は働きながらよく頑張ってくれていると思う。専業主婦が少ないから、男性と女性が半分くらい。人口が減って、地域の夏祭りも若い世代が動かないと開催できない。
D:昔は祭りも3日間やっていたけど、人口が減って回らなくなってきたから1日で終わるようにした。年配の人が反対したけど、人口がどう減っているのかグラフを作って説明した。
F:今も、若い世代ってしっかりしていますよね。
A:みんなChatGPT、使っていますね。
D:私もメールの返事とか、どう書けばいいか相談している。
B:イベントのアイデアとか訊いていますね。
F:小説のネタ出しを手伝ってもらうことがある。あと、旅行のプラン立ててもらうと見積りまで出してくれます。もちろんちゃんと自分でも調べないといけないですが。
まず肯定してくれるから話しやすいんですよね。
D:AIには感情がないから短歌が詠めない。短歌は人に作ってほしい。
A:AIは、小説はある程度書けても、短歌は無理かもしれないですね。
B:ChatGPTは面白い小説を書いていた。いい作品ができますよ。

【母親という存在について】
D:自分が若いころのことを考えると、確かに母親は邪魔だった。時代が変わっても圧力がある存在。
A:世代が違ったら鬱陶しいものですよね。
D:母親は心配する。子どもは世界に飛び出したいと思っている。
A:だから若い世代がふわふわして、母親を排除するのに、もやっとする。自分の子どもには、こちらから一切言わないようにしている。
C:男の立場からすると母親は絶対的存在。すごく反抗するんだけど絶対的。切り離せない、逃げられない。私も小説を書くと、その中に母親が必ず出てくる。生き方の半分には母親が影響している。いやでいやで、切り離したいのに。影響力がすごい。一般的な母親であり、私と合わなかっただけなんだけど。それに対して、父親は風船みたいな存在ですね。
B:私の息子は年に2~3回、連絡もなく帰ってくる。夫が帰ってきたと思ったら息子だった、みたいな(笑)。それ以外は1週間に1回程度、LINEで連絡するくらい。既読がつくのを見て生存確認している。時々すごく心配になるけれど……。
D:もう放っておきましょう!(笑)