――2025年は我が国から2名ものノーベル賞受賞者がでました。学術界も賑わっていることでしょう。北川進氏、坂口志文氏の両名とも、各所の受賞インタビューにおいて口々に基礎研究の重要性と長期的支援の必要性について発言されていますし、科学技術研究費補助金、いわゆる科研費の補正予算額も2025年度補正予算案で300億円とのこと! 昨年度が52億円と比べて大幅増となり、言う事なしですね。
そうですね。よかったと思います。
――あれ? テンション低。嬉しそうに見えませんが。
いや、嬉しいですよ。でも正直、どうせまた何も変わらないだろう、という思いです。十年も前から、ノーベル賞が受賞されるたびに「ほらみろ!基礎研究こそが重要なのだ!」と叫ばれるも学術界は特に変わっておらず、基礎研究が盛り上がってきている感はほぼないです。むしろ、学術界が全体的に悪化すらしている。例えば、博士課程の進学率や、大学教員の研究時間も長期的にみて減少傾向のまま。
――せっかくの基礎研究を盛り上げる機会を無駄にしているってことですか? なぜこういうことが起きるのでしょう。
理由は色々あると思いますが、一つは、大学の研究を活性化させるための研究資金配分の考え方ややり方が、基本的にずーーーーっと変わっていないことにあると言えます。
――その考え方、やり方というのは?
行政は、大学の研究推進の基盤に直結する国からの運営費交付金、いうなら大学における生活費のようなものですが、これを2004年の国立大学の法人化に伴い継続して減少させており、その分、競争的資金と言われるスポーツ大会の優勝賞金のようなコンテスト型の研究助成を増やしています。つまり、競い合うことで研究活動が磨かれるという考え方です。
もちろんそれはそれで全否定はしませんが、テニスならテニス、サッカーならサッカーの大会といったように、競争的資金には、例えば「量子力学」や「核融合」など学術分野が限定され、かつ、具体的な課題解決や直接的な社会貢献、もっと俗っぽく言うと、実益にきっちり接続されうる目標を設定されることがほとんど。もちろん実益を得ることは大事なことで大いにやればいいのですが、どうしても今社会が直面している課題にテーマが集中したり、短期的な研究成果を求めたり、勝てる大学ばかりが勝ち学術界に格差が生まれたり、資金獲得のサイクルが短くて常に評価に追われるため、研究者の研究時間が減少する状況になったりしているのです。
このように、基礎研究の振興につながる運営費交付金を減少させた分を応用目線の研究強化に充てるという大方針を変えないままで、いくら基礎研究振興のための対策や政策をやったとしても、それはどうしても一時的で限定的な効果にならざるを得ないというわけです。
――ならそのコンテスト型の研究助成、競争的資金ってやつを、応用研究じゃなくて基礎研究でやればいいんじゃないですか。
するどいですね。ところが、基礎研究には「コンテスト」や「競争」といったものがなじまないんですよ。そもそも基礎研究ってなんだと思いますか?