ネタバレします。
(六)消失と再生
ラグトーリンはマーリーに撃たれるがその途端ラグトーリンの髪を覆っていた布が解け長い黒髪がほどけ舞うようにマーリーの首に巻き付いた。
外で待っていたタカオは異変に気付き中へ入る。
そこには今まで一度もターバンを解いて黒髪を見せてくれなかったラグトーリンがその黒い髪を垂らして立っていた。
そしてその足元には中央からの客マーリーが倒れていた。
タカオはマーリーの遺骸を担ぎ上げ谷に埋める。そして優しくラグトーリンに声をかけた。「心配することはないよ。あしたにでも羊をつれて遊牧に出よう。・・・そのうち子どもが生まれたらいっしょに育てよう」
しかしラグトーリンは寂しげに見返すだけで去って行ってしまったのだ。
中央ではマーリーの生体反応波が消えたことでクローン再生を申請した。
第二部
(一)マーリー・2
蘇生されたマーリー・2にマーリーの記憶が注入される。
が、同時にエロキュスの記憶も注入されてしまう。
これによってマーリー・2は不安定な人格として目覚める。
百科事典なみの学識を持つが自分のことは何もわからないのだ。
マーリー・2は心細さに耐えきれずチェッカーに「毎日電話していいだろうか」と問いかけ嫌がられる。
マーリー・2もまた「親に愛されなかった子ども」なのだ。
(二)安定指数セクション
マーリーの友人だったジェイフは依頼を受けてマーリー・2を訪ねるが反応はまったくなかった。
ジェイフはチェッカーに会いマーリーが保安機構の安定指数のスペシャルだったと聞く。彼が予知能力を持っていたとも。
ジェイフが送ったカセットで彼はエロキュスの歌声に興味を持ったと言ったのはトメイでのクーデターを予知してのことだったのか。
チェッカーはジェイフの興味を刺激し疑問を与えることでこの件に関与してくれることを期待している。
ジェイフがマーリー・2の家へ戻ると彼は水蛇が住む池のほとりに立っていた。
ひとりの美しい黒髪の少女が水蛇と泳いでいるのだ。
ジェイフは驚き少女の名を問う。彼女は「ラグトーリン」と名乗った。ジェイフは三、四日で戻ると言って出て行く。
ラグトーリンはマーリー・2に「あなたは私を追って赤砂地星に来たの。あなたは時空人なのね。もういちど探しに来て。こんどは殺さないわ」と言い消えた。
(三)影日
マーリー・2はラグトーリンを探しに赤砂地星へと赴く。
彼をマーリー本体だと思ったガルガ城主はマーリーが無事戻ってきたと驚く。
しかし目の前にいるのが彼のクローンだと知ってさらに城主は複雑な表情となる。
この赤砂地星の描写に心惹かれる。
旧き因習。
影日、月蝕の夜。二つの月が重なりさらに月蝕となる。
灯りの代わりの蛍木。
そしてリザリゾ王は忌むべき赤子を生んだ王妃と侍女らを後宮に閉じ込め焼き殺したのだ。
さらに王は今年生まれた子をすべて忌むべき者として殺していくだろう。がるが城主は自分の子もまた同じ目に遭うのを怖れ戦うつもりだった。
ガルガ城主はマーリー・2に助力を求めるが彼は断る。
しかしラグトーリンを探し出したい彼はガルガ城主に楽師がいるという高原に向かうため飛行機を借りたいとせがみ城主はそれを許した。
マーリー・2が高原へ舞い降りる場面はこの作品中最も印象的な場面ではないだろうか。

(四)高原幻想
高原に降り立ったマーリー・2は音の老サと童の後を追い音楽と舞の集会を見る。
そこでマーリー・2は突如自分が空を飛び荒野を行く人を見る。
それはミューパントーであった。
ハッと目覚めるとマーリー・2は倒れており周囲に楽師たちがいた。
少女がマーリー・2を老ペシャのもとへつれていく。
そこには老ペシャと忌むべき赤ん坊の王子、そしてペシャにしか見えない王子の守護神ラグトーリンがいた。
見えはしないラグトーリンがその状況を眺めている。
さて、マーリーを加えた場合のバリエーションその一。
老ペシャは王子をマーリー・2に抱かせ「このまま宙港へ行って脱出しなされ」と言い出す。
どこからか「引き受けてマーリー」という声がした。
赤ん坊を袋につめてマーリーは迎えに来た飛行機に乗り込み「宙港へ行ってくれ。急用ができた」と伝える。
(五)バリエーション
時間ループの嵐が起きる。
様々なバリエーションが繰り返されるがどうやっても忌むべき王子を外へ運ぶことができない。
どんなルートを辿ってもマーリー・2は止められ王子は捕らえられてしまうのだ。
マーリー・2はラグトーリンを見つける。
彼女のターバンが解け長い黒髪がほどけた。
「なんでわたしにこんなことをさせるんだ」
ラグトーリンは微笑む。
(六)歪んだモザイク
ラグトーリンはマーリー・2と唇を重ねた。
「あなたは誰だ。なにをしようとしているのだ」とマーリー・2は問う。
「あるべきものをあるべきところへ」
ラグトーリンはマーリー・2を時空人だと呼び助けてほしいと告げる。
マーリー・2は自分にはそんな力はないと答えるがラグトーリンと共にまた十五年後の世界を見る。
そこではすっかり年老いたリザリゾ王が15歳の少年となったミューパントーを見る。
しかしラグトーリンは「あれはミューパントー(最後の銀の三角人)ではない。あれはル・パントー(小さな銀の三角人)だ」と答える。
年老いたリザリゾ王は忌むべき目を持つ王子を捕らえて幽閉し何度も何度も毎日のように兵士に殺させ続けてきた。
しかしそのたびに王子は生き返る。だがパントーは不死人ではない。時空人なのだ。体内の時空軸がパントーの殺される前の身体を運んでくるのだ。
パントーは自分が一生殺され続ける運命だと知る。
老いた王は自ら剣を取り我が息子を刺し殺したのだ。
この時ル・パントーは最初で最後の声をあげる。自分の時空軸を破壊し異形音を発すると共に自殺する。
もう目覚めない。
王はやっと安心する。
ラグトーリンは言う。
「ル・パントーが出す声を、これを止めたいの、マーリー」
この世界はいわばひとつひとつの時空が結晶となった多くのモザイクでできているようなもの。
そのモザイクの一つでも形が歪んでいると無理に空間にはめ込んでもズレや亀裂が生じ雨長い間にはたわんで分解してしまう。
パントーのあの異形音は時空の結晶を歪めてしまうのだ。
美しい波に揺れ美しい音に響くべきこの世界が砕け散ってしまう。
このお話は実在する「愛されない子どもたち」の話なのだろう。
愛されない子どもたちが発する悲しみの声は世界を歪めてしまうのだ。
ラグトーリンはこの「愛されなかった子ども」の叫びを止めにきた。
もしくは消しに来た。
その声がある限りこの世界は美しくなり得ない。
しかしそんなことがほんとうにできるのだろうか。
マーリー・2は「わたしは何もできない」と答える。
しかしラグトーリンは「いいえ、きっと助けてくれる」と微笑むのだ。
この世界から「愛されなかった子ども」を救う、それがこの作品なのだと思う。
ラグトーリンが何故そんなことをしようと思ったのか。
それは前に書いた
「阿修羅は闘いの申し子で戦い続けることで世界を救おうとした。そして今も戦い続けている」
のに対してラグトーリンをなんと呼べばいいのだろうか。
「愛の申し子」
「慈悲の申し子」
ペシャが言うとおりの「守護神」でもいいだろう。
とはいえ私はもうすでにこの物語を最後まで読んでおりラグトーリンが「愛されなかった子ども」であるパントーをこの世から消したことで決着したと知っている。
そしてマーリー・2が「あの子を戻して」と泣いたことも。
「愛されなかった子ども」を救うには「消すしかなかった」というのはなんだかいじめられた生徒が別の学校へ転校していくことに感じられる。
マーリー・2の涙に共感する。
しかしもう一度その道を辿ってみたい。
もしかしたら今度は別の結末が待っているかもしれないのだから。