私は結構モテる(つもり)。
そんな私は奥様と二人で京都に行って来た。
目的は二つ。
一つは北野天満宮へ合格祈願のお参り。不良中年娘は高校三年生。受験生なのだ。
もう一つは万博スタンプラリーで京都駅にあるスタンプを押す事。
不良中年息子の万博スタンプ帳を満たす為である。
どちらも子供の為だが、私は車の運転が好きだから何も問題無い。
ド平日である水曜日、有休消化で私は休みであった。当然休日である事は奥様には秘密と言うか、前もって言う事は無い。何故かって私が休みと分かると色々面倒だからである。私が何をしようと奥様は何も言わないが、私が精神的ストレスを感じるのだ。『奥様に申し訳無い』と。実はコレが奥様の作戦なのかもしれない。
当初、奥様はご友人の車で京都に行くつもりだったのだが、ご友人の急用でキャンセルになってしまったとの事。京都へは電車で行くと言っている。
ここで私は迷っていた。
電車で行くのは何かと大変だろう。京都駅から北野天満宮迄はバスしか無い。大した荷物は無いだろうが、飲物や天候の急変の為傘や羽織る物も必要だろう。普段運動不足の奥様だ。何かと体力を使って疲れるだろう。
「私が車で連れて行くよ。」と言いたかったのだが、若干の抵抗があった。
娘と会社のおばちゃんの人の言葉を思い出すのである。
furyochunen.hatenablog.com
「奥様は不良中年さんとのデートなんて求めてない」
「ママが欲しいのは自由な時間。パパとのデートなんて論外」
私が一緒に行く事がかえって奥様の迷惑になるのではないか?
そう察したのである。
娘やおばちゃんの人、要は第三者の言葉であればまだしも、奥様本人から
「私はお友達と京都に行きたかったのです。その約束がキャンセルになったからと言って、何故私と不良中年さんが一緒に京都まで行く事になるのですか?私の事はお気になさらずに、いつも通りお一人の時間を楽しんで下さい。」
なんて怜悧に返されると生きていけない。そんな言葉を奥様から直接聞くには残りの人生が長過ぎる。
モテる(つもりの)私であっても奥様は手強い。奥様の独り言からも
「着いて来ないで下さい。」
的なオーラを感じる。
が、
奥様 「どちらにするのですか?ハッキリして下さい。」
私 「行こうか。」
こうして思い付きに近い状態で京都行きが決定した。
但し、奥様からある条件が言い渡される。
「不良中年さん、アナタは運転中に遅い車が前を走っていたりすると、瞬時に怒髪が天を衝きます。娘から何度も言われていますよね?アナタの怒髪が天を衝くと車内の空気が悪くなるのです。京都までの道中、運転が苦手な方にお会いする事もあるでしょう。その時、お怒りになるのはご遠慮頂けますか?」
答えは「はい」のみである。
因みに「はい」は一回。
よし、アンガーコントロールを徹底して意識し、京都まで行くか。
阪和道に乗ると早速遭遇。遅い車。
アンガーアンガーアンガーコントロール!
吹田を超えると結構な渋滞。
アンガーアンガーアンガーコントロール!
京都市内に着いた。市内も結構な渋滞である。この頃にはアンガーコントロールに疲れ果て、アンガーエネルギーも尽きていた。
穏やかとも疲れ切ったとも言える心で北野天満宮に無事到着。お参りを済ませて御守りと御札を購入。娘の事を宜しくお願いします。




懐かしい公衆電話 見なくなったな
学問の神様だけに、修学旅行生が結構多かったな。初めて来たけど綺麗で素晴らしい所であった。周りもお土産屋さんやお豆腐屋さんがあり、ゆっくり歩いてみたかったのだが、夕方迄には帰らないといけないし、もう一つのミッションである京都駅でのスタンプもゲットしなければならない。チョット惜しいが京都駅に向かう。京都駅近くの東本願寺の大きさにビックリしながら駐車場を探し、適当に駐車する。安い駐車場を探す時間も惜しい。300円位しか変わらないし、その分駅から遠くなるから駅からすぐの駐車場へ車を入れる。
お昼時である。奥様はお腹が空いたと言っている。
早速美味しそうなお店を発見。夜はお酒を出すお店がやっているランチだ。そんなお店が沢山ある。折角だから京都駅の方も見てゆくっりお店を決めるか。スタンプのミッションを優先させる。

初めて来たけど、京都駅って大きいね。(当たり前か)
私の地元、四国に鉄道はあるにはある。馬鹿にしてもらっては困る。しかし電車を利用するという文化が都会に比べて希薄なのだ。結果、駅ビルという物は県庁所在地であってもビックリする位ショボい。京都駅は大きいし、何か上品な雰囲気だ。
それにしても外国人が多いな。石を投げたら外国人に当たるって言うのも大袈裟な表現ではない。少し前は外国人を見ると言っても中華人民共和国や大韓民国の人達が殆どだった様な気がする。今は中東系の人やヨーロッパ系の人達も多い。京都は余計にそう感じるのかな?
大きな駅の中で、万博スタンプはあっさりと見付かる。息子のスタンプ張と現地で貰える台紙にスタンプを押す。
その台紙だが、「おひとり様一枚」となっている。私の前に並んでいるお婆ちゃんがグダグダとゴネている。
「一枚しか貰われへんの?人にも頼まれてるのに。遠くからきたんやで。ホント京都の人やわ。融通効かへん。私、万博何遍も行ってスタンプ集めてるんやで。京都もしょっちゅう来てるんやで。ホントにもう気分悪いわ~」
スタッフの人も特別扱いする訳にもいかず、丁寧に謝っていた。
情けない・・・
見た感じ、年齢は70代後半か?気持ちわ分からんでもないが、ゴネている間はスタンプの行列も前に進まぬ。しかし私の貴重な残り寿命はどんどん進む。アンタの寿命もですよ、お婆ちゃん。80年近く生きて来てコレか、と正直思ってしまった。あんな爺にはなりたくない。素敵な反面教師に出会ったとポジティブに考えるか。
だから私はモテる(つもり)。
スタンプのミッションも完了。
奥様と御飯を食べに行くか。駅ビルの近くでお店を探す。美味しそうなお店は沢山あるのだが、よく見るとチェーン店ばかりだな。チェーン店自体は好きなのだが、わざわざ京都にまで来て行く必要はない。かと言って京料理が食べたいとも思わない。
おっと、私の好きなバイキングのお店を発見・・・高過ぎる。ド平日のランチに夫婦で弐萬円は出せない。
それならとスイーツビュッフェのお店の値段を見る。スイーツでお腹を満たそうという作戦だ。中々経験出来ない事なので面白そうだ・・・高過ぎる。二人で壱萬弐千円。
私はお金持ちではないが、貧乏では無いとも思ってはいる。が、身の丈と言う物がある。記念日でもないド平日のランチに、一人何千円も払う事は出来ない。他のお店を探す。で、すぐ近くに洒落乙なお店を発見。京マダム達が昼からワインを飲んでおられる。
ここにするか。奥様も納得し店に入る。
おっと。結構可愛い店員さんだな。一番奥の窓際の席に案内される。奥様を壁際のソファー席に座らせて、私は椅子の席に座る。いつだって私は奥様ファーストだ。奥様は店内を見渡せる席で、私は奥様だけを見つめる席である。
最初に席に案内してくれた店員さんが我々のテーブルの担当になるシステムの様だ。若いのに丁寧な接客で好感が持てる。エアコンの真下の席だった為、奥様が寒そうにしていると
「お席を移動しましょうか?それとも少しエアコンを緩めましょうか?」と言ってくれた。良く気付いてくれたな。学生のアルバイトではなく、社員さんかな?
奥様は
「大丈夫ですよ。ホット珈琲が美味しく飲めますから。」と言って席はそのままにして貰った。席を変わるのには店員さんの手を煩わせるし、他のお客さんが暑いと感じたら迷惑だ。
さて、私はこの時点である違和感を感じていたのである。その違和感とは、かつて何度も感じた事のある違和感である。
メニューを決めてオーダーする。オーダーを取りに来てくれたのは我々のテーブルの担当女性。最初に席に案内してくれた女性だ。A子さんとしておこう。何しろ彼女の本名を知らないのだ。仮名となる。奥様は週替わりの牡蠣のパスタランチ、私はハンバーガーのランチをA子さんにオーダーする。
その後、「遅くなりました。」
と言ってB子さんがお水を席に置いてあったコップに提供してくれた。同時におしぼりも。おしぼりは上質な和紙の物。安物と違って食事中も乾く事が無い。
次に「お待たせしました。お先にスープとサラダになります。」
と言って、先ずはサラダとスープが提供される。持ってきてくれたのはC子さん。40代後半としては極めて健康な私ではあるが、血糖値の急上昇を抑える為にサラダから頂く。上品な甘みのドレッシングだ。慣れない道の長距離運転と、人ごみの中を歩いて少し疲れた体に抵抗無く入って行く。
続いてのスープはミネストローネだ。先程のサラダの甘いドレッシングがトマトの酸味をやわらげてくれる。具となっているそれぞれの野菜から溶け出した香りや甘味が一体となり、複雑で奥行きのある味だ。口に入れた後、味が段階的に変わって行くと言った表現が分かりやすいだろうか?シェフがじっくりと煮込んで作ってくれた様子が見える。先程少し寒いと感じたエアコンが、熱々のミネストローネを更に引き立ててくれる。
美味しい。
「おまたせしました。こちら牡蠣と水菜のオイルパスタでございます。」
持って来てくれたのはD子さん。奥様の前に置いて貰う。
「こちらはハンバーガーランチでございます。」
美味しそうだ。
「いただきます。」
私はどんな時であっても食事の前に「いただきます。」と言う。
食材に対し、「アナタの命を頂きます。」という感謝の気持ちと、作ってくれた人に対する感謝の気持ちだ。
どちらの料理も美味しかった。
特に奥様のパスタ。家では中々再現出来ない味だ。
お店には大変失礼なのだが、二人同時に牡蠣を食すと「あたった」場合に困るので私は麺とスープを一口だけ頂いた。
ぷりっぷりの大ぶりの牡蠣から出た濃厚な海のミルクの風味がパスタに絡んで、磯の香りが口の中に広がる。ソースをバゲットに付けて頂く。すると牡蠣から染み出たエキスが上質なオリーブオイルと混ざり合い、ソース全体に深みを与えている事が良く分かる。水菜は彩りと牡蠣の濃厚さに爽やかなアクセントを加えてくれる。
飲む事は出来なかったが、きっと白ワインが合うのだろう。
辛口の白ワインがオイルのコクをスッキリさせてくれると思う。
柑橘系、レモンやグレープフルーツの香りがある白ワインは、その酸味で口の中のオイル感を流し、食欲を更に増進させてくれると思う。軽めのロゼなんかも合いそうだ。
あ~~ ワイン飲みて~!
私の後ろの席で、京マダム達がワインを飲んでいるのだ。ワインクーラーには白ワインが冷やされている。
自分のハンバーガーをあっという間に食べてしまったので、奥様のパスタの味が一層鮮烈に残ってしまった。バゲットのお代わりをお願いする。
「おまたせしました。バゲットになります。」
今度はシェフ?らしきイケメン男性が持ってきてくれた。パスタのソースを付けて頂く。
美味しい。
更にワインが飲みたくなる。が、ここは絶対に我慢だ。飲酒運転で自分が死ぬのは勝手だが、他の人を巻き込む様な事故を起こしてはならない。普通に運転して事故の可能性はあるのだから、可能な限り事故のリスクは減らさなければならない。
食後のホット珈琲で我慢しよう。
ま、我慢といっても私は食後の珈琲が大好きなのだ。煙草は吸わないので分からないが、食後の煙草が一番美味しいらしい。それと似ているのかな?
「おまたせしました。ホット珈琲になります。」
E子さんが持ってきてくれた。一番美人だったと思う。
少し寒いと感じていたエアコンだったが、美味しい食事がそれを忘れさせてくれていた。今はホット珈琲を引き立ててくれている。
店に入ってから感じていた違和感は、この時には確信に変わっていた。
奥様に
「何かデザート食べる?」と聞いたのだが、既にお腹いっぱいとの事。
美味しくて満足してくれたみたいだ。
それにしても本当に外国人が多い。この店はイタリアンバルだった為、外国人は少なかったが、窓の外は本当に日本人より外国人の方が多かった。
珈琲を飲み終わり、店を出る事にする。美味しかったし店員さんの接客も良かった。
支払いは勿論私。
店を出て駐車場へ向かって歩く。大きくて綺麗なホテルを見て
「今度は泊まりで来てみたいね~。」
なんて言いながら駐車場へ到着。
仕事の日は昼食後に20分程度昼寝をする事にしている。午後の仕事の伸びが全然違うし、眠くなる事が無い。車でいつもと同じ様に暫し昼寝。奥様には少し待って貰う。
昼寝も終わり、帰路につく。帰りは第二京阪から。こっちの方が道幅広いし走りやすい。時間も随分短縮だ。近畿道に入り自宅の一つ前のインターで降りる。奥様お気に入りのパン屋さんに寄る為だ。
一般道を走っている時、奥様に謝罪する。
私 「ごめんな、僕、やっぱりモテるわ・・・。」
奥様「そうですか。どんな事がありましたか?」
先程お昼を食べたお店での出来事だ。
店に入って一番奥の席に案内されて店内を歩いている時、
「あら、素敵なご夫婦。」
といった眼差しの京マダムからの視線を感じていた。この時感じていたのが違和感。
違和感の原因は恐らくこうだ
店員さん達のやりとりである。
A子さん「さっき来た夫婦。素敵やない?旦那さん、結構カッコよかったで」
B子さん「え?どこ?」
A子さん「奥奥。8番テーブル。」
B子さん「あ!ほんまやな~。奥さん綺麗やわ。でも旦那さん見えへんやん。」
奥様は奥側のソファー席で店内が見渡せる席。私は奥様だけを見つめていた。
A子さん「ほなB子ちゃん、お水とおしぼり持って行って~や。」
B子さん「うん。分かった。」
B子さんは
「遅くなりました。」
と言ってお水とおしぼりを持ってきてくれた。太字で書いてある「た。」のタイミングで私の事をチェックしたのである。(推測)
B子さん「ほんまや~。結構イケメンやわ~。」
C子さん「え?何?何?」
B子さん「あのな、8番テーブルのお客さんやねんけど・・・」
C子さん「あ!ほんまやな~。奥さん綺麗やわ。でも旦那さん見えへんやん。」
B子さん「ほなC子ちゃん、スープとサラダ持って行って~や。」
C子さん「うん。分かった。」
C子さんは
「お待たせしました。お先にスープとサラダになります。」
と言ってスープとサラダを持ってきてくれた。太字で書いてある「た。」のタイミングで私の事をチェックしたのである。(推測)
C子さん「ほんまや~。歳40超えてはるとは思うけど、結構イケメンやわ~。」
D子さん「え?何?何?」
C子さん「あのな、8番テーブルのお客さんやねんけど・・・」
D子さん「あ!ほんまやな~。奥さん綺麗やわ。でも旦那さん見えへんやん。」
C子さん「ほなD子ちゃん、料理出来たら持って行って~や。」
D子さん「うん。分かった。」
D子さんは
「おまたせしました。こちら牡蠣と水菜のオイルパスタでございます。」
と言って料理を持ってきてくれた。太字で書いてある「た。」のタイミングで私の事をチェックしたのである。(推測)
D子さん「ほんまや~。結構イケメンやわ~。優しそうやし~。」
シェフ 「え?何?何?」
D子さん「あ、シェフ。8番テーブルのお客さんなんですけど・・・」
シェフ 「あ!ほんまやな~。奥さん綺麗やわ。でも旦那さん見えへんやん。」
D子さん「ほなシェフ、バゲットのお代わり、持って行って貰えますか?」
シェフ 「うん。分かった。」
シェフらしきイケメン男性は
「おまたせしました。バゲットになります。」
と言ってバゲットのお代わりを持ってきてくれた。太字で書いてある「た。」のタイミングで私の事をチェックしたのである。(推測)
シェフ 「ほんまや~。結構イケメンやわ~。オレも結構自信あるのに負けたかも・・・」
E子さん「え?何?何?なんですか?」
シェフ 「あのな、8番テーブルのお客さんやねんけど・・・」
E子さん「あ!ほんまですね~。奥さん綺麗やわ。でも旦那さん見えないですね。」
シェフ 「ほなE子ちゃん、アフターの珈琲持って行って~や。」
E子さん「はい。分かりました。」
一番美人のE子さんは
「おまたせしました。ホット珈琲になります。」
と言って珈琲を持ってきてくれた。太字で書いてある「た。」のタイミングで私の事をチェックしたのである。(確信)
E子さん「ほんまや~。イケメンやわ~。てゆーか目合ってしもた。奥さんに悪い事したな~」
A子さん
B子さん
C子さん
D子さん
「え~?E子ちゃんだけズルいわ~。」
E子さん「あんたら、一回顔見ただけやろ?私は二回見てん。旦那さん、奥さん居てるのに、私にまんざらでも無かったで。」
B子さん「またまた~。E子ちゃん得意やな~」
という一連の流れを、私は奥様に説明した。
奥様「そうですか。それは大変でしたね。おモテになり、本日もお疲れでしょう。」
私 「確かに疲れた。でも君程じゃないよ。」
奥様「私は大丈夫ですよ。」
私 「お店の若い娘達に妬いているんだろう。余計な心労を掛けてすまない。でも安心してくれ。僕は君だけのアイドルを選ぶよ。」
奥様「不良中年さん、アナタはきっと長生きします。おそらく150歳位迄。」
私 「老後2,000万円じゃ足りないね。」
奥様「そうですね。で、150歳迄生きるのと、150秒以内に私に息の根を止められるのと・・・どちらをお望みですか?」
私 「安楽死でお願いします。」
私はそれ以上喋らず、奥様お気に入りのパン屋さんへ車を走らせた。
全力で。
パン屋さんの支払いは勿論私。過去最高額であった¥5,000。およそパン屋さんで使う金額ではない。
冷蔵庫に鶏ムネ肉があったな。今晩は奥様の好きな鶏天丼に茄子の天婦羅も乗せるか。
秋ナスを揚げたての天婦羅で奥様に食べさせてあげる。
奥様を大切にする。
私はこうしてモテて来た。