ファンディの日々雑感。

日々の生活の中で感じたことを諸々書き綴っています!!

書籍で「宿」を楽しむ。名著2冊と渡辺淳一。

 あちこち出かけることが好きである。初めての場所を訪れるときのワクワク感がなんとも心地いい。日帰りだったらバイクで、泊を伴えば車中泊仕様の車での移動になる。

 途中で温泉に立ち寄ることも多い。多くの場合が、宿泊者以外にも「立ち寄り湯」として開放している温泉宿になる。湯に浸かり心地よさを満喫し、そして温泉場を後にすることになるのだが、このままここに宿泊し、お酒を呑みつつ美味を味わい、ゆったりと静かな夜を楽しむことができたら‥‥。そんなことを考えていたら、ますます宿屋への思いが募っていってしまう。

 さて、先日興味深い本を見つけた。サライ編集部編『名作を生んだ宿』。

 この本では、井上靖山本周五郎川端康成吉川英治夏目漱石ほか全25名の作家たちの定宿が紹介されている。この中に作家ゆかりの品や原稿などの写真、逸話も多数収録されており、読み応えも見応えも十分な内容になっている。現代に名を残す著名な作家が、作品を生み出すために利用した宿である。時代もあるのかもしれないが決して華美ではなく、どちらかというと静寂と質素の中に気品さを感じさせられる。その作家にまつわるエピソードとともに宿と実際に泊まっていた部屋の写真も添えられており、そこからは作家の息遣いが聞こえてきそうである。

 この本の発行は、今から27年ほど前の1998年11月10日。この中のいくつかの宿の所在地をGoogleマップで調べてみたら、すでに閉業しているところもあった。しかし、ここに紹介された宿は今もその多くが営業しているようである。これらの作家たちが泊まり寝た場所で横になり、そこから何が見えるのか見てみたい気持ちにさせられる本であった。

 そしてもう一冊。

 渡辺淳一著『一度は泊まりたい日本の宿』。

 帯には、「憧れの宿には物語がある。作家渡辺淳一が泊まって見つけた心づくしの宿。あなたも一度たずねてみませんか」。そして、前書きで、「ここにおさめたのは、私が2年間をかけ、全国の選りすぐりの旅館、ホテルを訪ね、各経営者、支配人、女将さんたちと対談し語り合ったものである。各旅館、ホテルなどにより事情と動機は異なるが、自由で独自な発想、思いによる発言は面白く、示唆に富んでいる。それは旅館やホテルの構造や建築、造園、もてなしの形、料理に及ぶ。」と書かれてある。

 ここで紹介された旅館やホテルは、前述した『名作を生んだ宿』にあるものとは大きく異なる。とにかく『凄い!!』と形容したくなる旅館やホテルばかりである。見事な自然の中で、そこに溶け込む建物。そこから見える景観もまた素晴らしい。ページをめくるたびにため息が出そうである。とにかく素晴らしい。一生に一度でいいから泊まってみたいと思ってしまう。

 そして渡辺淳一の経営者や女将、支配人との対談が、これらをより一層輝くものにしている。美術館などで、画家が描いた絵画を学芸員の解説と共に鑑賞すると、その作品に込められた画家の思いや意味、更には技法やテクニックなども分かり、鑑賞自体の深まりを得ることができる。この本に収められた関係者との対談は、これと同じように旅館やホテルの時間的な奥行きや想いや願いを知ることができ、より一層、ここに収められた1枚1枚の写真に輝きが出てくる。

 宿泊するホテルなどを探す場合、「agoda」や「トリバゴ」、「ブッキング・コム」を駆使して希望に叶う宿泊先を見つけている。その際、重要になる機能は、場所を把握するための地図機能と選択の効率化を図るための宿泊代上限設定機能になる。つまりは「便利のいい場所」と「高くない代金」の2つが最優先事項である。つまり、自分のような探し方をしていては、今回取り上げたこの本に出てくるような旅館やホテルは、確実に登場してこないのである。なんだか笑いたくなってしまう。

 話は変わるが、これらの本に登場した宿とは別に、『一度は泊まりたい日本の宿』のガイド役でもあった「渡辺淳一」という作家についていろいろ感じさせられた。氏の佇まいの優雅さと、特に女将との会話の艶っぽさは流石の一言だと感じた。どのように生きてくればこのような姿にたどり着くのだろうと、氏の写真を見ながら深く考えさせられた。2014年4月30日没、享年80歳。

 そうそう、氏の初期の頃の代表作「光と影」という作品に強烈な衝撃を受けたことを、これを書きつつ思い出してしまった。書棚のどこにあるのだろう。探し出してもう一度読んでみたいと思った。