Dolcissima Mia Vita

A Thing of Beauty is a Joy Forever

2025-08-01から1ヶ月間の記事一覧

流れに逆らわずに生きること 有吉佐和子『紀ノ川』を読んで

有吉佐和子はここ数年でよく読むようになったが、物語を読む醍醐味を味わわせてくれる好きな作家の一人である。今までに読んだのは『連舞』『仮縫』『更紗夫人』『悪女について』『開幕ベルは華やかに』『和宮様御留』など。彼女の小説によく出てくる、芯の…

『ウナイ 透明な闇 PFAS 汚染に立ち向かう』に見る〈妹の力〉

京都シネマで封切られたばかりの映画『ウナイ 透明な闇 PFAS 汚染に立ち向かう』を見てきた。 身近な環境汚染をめぐって、一人の女性のいてもたってもいられないような不安がもう一人の女性を触発し、そこから生まれた小さなドキュメンタリーがまた別の女性…

源氏物語の皮肉な語り直し 円地文子『女坂』を読む

円地文子『女坂』(1957年)読了。 三人の着飾った女たちが菖蒲園の花を愛でる場面のあでやかさは谷崎潤一郎の『細雪』に出てくる姉妹の花見を思い出させるが、この三人が姉妹ではなく、二人は妾、あとの一人は息子の嫁だがどうやら舅の手がついているらしく…

すべてを捨てて身一つになること 木下尚江『乞食』を読む

姦通の女に石を投げるよりも難しいのは、そういう自分は無罪なのかと胸に手を当てて自省することであり、社会の不正や不平等を糾弾するよりも難しいのは、そのように批判する自分自身こそ驕り高ぶっていると自覚して、自己批判をすることではないだろうか。 …

〈あいだ〉を生きる人々 アルンダティ・ロイ『至上の幸福をつかさどる家』感想

アルンダティ・ロイ Arundhati Roy の長編小説『至上の幸福をつかさどる家』The Ministry of Utmost Happiness 読了。 このごろスーフィズムの宗教歌謡カッワーリー qawwali に親しんだり、インドにおける第三の性ヒジュラー hijra についての本を読んでいた…

ただうなだれて聴くしかない ブリテン『戦争レクイエム』

第一次大戦に従軍して凄惨な戦場の中で詩を書き、若くして戦死したウィルフレッド・オーウェン Wilfred Owen の詩で昔から好きなのは "Dulce et Decorum Est"と題された詩だった。 ドイツ軍による毒ガスを吸って、苦悶しながら死んでゆく戦友の様子を語り、…

恋愛以上に濃密なかかわり 映画『ラブ・イン・ザ・ビッグ・シティ』を見る

京都の出町座で映画『ラブ・イン・ザ・ビッグ・シティ』を見てきた。 異性愛の女性と同性愛の男性という、絶対に恋愛になりえない二人のルームシェア、その関係性は、例えばヘテロ男性二人の友情とはまた違って、互いの異質さに気づき、理解し合えないにもか…

まじめすぎてユーモアがない 映画『HAPPYEND』を見て

空音央監督の『HAPPYEND』を見た。 この映画を作った人はまじめな人なんだろうな。出ている人物もみんな、校長や総理大臣も含めてまじめ。一人だけおちゃらけた生徒がいるけれど、それがみんなに波及せず、一人浮き上がっている。権力に抵抗するのはなにより…

徳富蘆花『不如帰』あるいは女であることの絶望

徳富蘆花『不如帰』読了。同じ時期に喀血した正岡子規が、血を吐いて啼くと言われるホトトギスにちなんで俳号をつけたように、本書のヒロインもまた肺結核によって苦しむ。「帰るに如かず」の当て字からは、不幸ばかりに見舞われたこの世を離れて、早く森に…