
映画「それでも夜は訪れる」(原題:Night Always Comes、2025)をNetflix で見る。主演は「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」などのヴァネッサ・カービーでプロデューサーも務めている。
生活費高騰の都市で家族のために必死にお金を稼ごうとする女性を描いたクライムスリラー映画。
冒頭で、アメリカ社会の物価と家賃の高騰や、雇用・住宅問題の厳しさなどが語られる。具体的には、収入のうち家賃の比率が3分の1以上を占める。多くが急な出費で1,000ドルも支払えない状態にある。1人が家を確保すると、4人が追い出される状況。住居費は制御不能に陥っているという痛切な「社会の闇」が積み上げられているという。

冒頭から主人公リネット(ヴァネッサ・カービー)が置かれたやることなすことがすべてうまく行かない。負の連鎖に陥る。絶望的な状況が説明もなしに、細かいカットの積み重ねで示されていく。全編、救いようがないような映画。
100ドルで買えたものが今では200ドルでも買えないような物価高騰のほか、貧困、借金、そして非情な支払期限のタイムリミット。
その焦燥感は、リネットの荒れた生活空間、労働後の疲弊した表情、そして兄ケニーへの献身的な愛情といった、日常の断片を通して痛切に観客に突き刺さる。
リネットの戦いは、時に狂気であり、この救いのない悪夢のようなストーリーを、片時も目を離せないサスペンスとして映画はドキュメンタリーのように成立させている。
必死にもがき、破滅的な行動に出たとしても、社会の残酷な現実は変わらず、無情で希望のない夜は再び訪れる。
この作品は、社会の闇の深さと、そこで生きる人々の悲しくも力強い姿を深く問いかける見応えのあるヒューマンドラマとなっている。


<あらすじ>
急激な物価高騰に揺れる都市、ポートランド。リネット(ヴァネッサ・カービー)は現在暮らしている家を家主から購入しようとする。リネットは朝5時に起きてパン工場のバイト。それが終わると障害を持つ兄・ケニーを連れて大学の講義に出て、夕方からまたバーで仕事という生活をしていた。
頭金2万5000ドルを何とか用意する。しかし、母・ドリーン(ジェニファー・ジェイソン・リー)がそのお金でなんと自分用に新車を購入してしまった。
そのシーンがこちら(↓)
24時間以内に2万5000ドルを用意しなければ家から追い出されてしまう。家がなければ、ダウン症の兄・ケニー(ザック・ゴットセイゲン)が福祉施設に入れられてしまう。
リネットは金を使い込んだ母・ドリーンに激怒。しかし金は戻ってこない。リネットは過去に何度か売春をしている裕福な男性スコット(ランドール・パーク)に連絡して会う。
2万5千ドルを貸して欲しいと頼むがキッパリと断られる。スコットは性的関係をもって500ドルを出したが、金額を倍額にしたのは今後関わらないでほしいという含みがあった。
リネットはスコットの高級車を盗み、スラム街に放置する。その後、リネットはかつての売春仲間の女性・グロリア(ジュリア・フォックス)の家へ。グロリアは現在、議員の愛人になっており高級マンションに住んでいた。
グロリアには3,000ドルの貸しがあり、返すように迫るが、はねつけられる。
そこで、リネットはグロリアが出かけたあとでバーの同僚コーディ(ステファン・ジェームズ)と一緒に金庫を盗む。
金庫をコーディの知り合いの半グレのアジトへ持っていく。そこでは荒っぽい方法で金庫を開けてもらう。中には大金と高級時計とコカインが入っていた。
しかし金庫が盗まれたものだと知った半グレが激怒。そして争いに発展。リネットは工具をカールという男性に投げると、カールは重傷を負って痙攣した。
金庫の大金とコカインをバッグに入れてはきたが、現金は1万9千ドルしかない。あと6千ドル足りない。
リネットとコーディは逃げる。リネットは知り合いの家に預けていたケニーを迎えにいき、車に乗せた。
リネットはコーディに盗んだスコットの車を買ってくれないかと提案。コーディはOKした。しかし車のある場所へ行くと、コーディは金を奪って逃げようとする。激怒したリネットはコーディを車で撥ね、車の鍵だけ置いて去った。
ケニーはリネットの行動に困惑していた。リネットは家族の家を手に入れるためだと宥める。
リネットは元恋人のトミー(マイケル・ケリー)に会う。リネットは16歳の頃にトミーに売春させられ、心に深い傷を負って自殺未遂をした過去がある。
リネットはトミーと口論になるが、コカインを買ってくれるだろうというブレイクの住所を教えてもらう。
ブレイク(イーライ・ロス)がいる場所は、かつて自分が出張売春に行ったことがある屋敷だった。屋敷にはクラブがあり、人が大勢いてドラッグや売春の気配があった。
リネットはブレイクにコカインを売るが、金を払うから抱かせろと提案されて激怒。ガラスで彼を殴りつける。リネットとケニーはなんとか屋敷から出て家に戻る。
金は手に入った。しかし、リネットは母・ドリーンと話し、彼女が家族を捨てた父親の持ち物だったこの家を嫌いで欲しくないといい、すぐにキレて暴走するリネットと一緒に住みたくないというのだった。
ドリーンはケニーを連れて知人の家に引っ越すと話す。
リネットは家を買うのを辞め、これからは自分のために戦うと誓う。リネットは兄・ケニーに別れの挨拶をする。ケニーは「いつだってお前の兄だ。いつでも守る」と言った。
リネットは車で違う土地へ旅立った。幹線道路を行き来する車の数々を俯瞰で映したものがラストシーンだった。
・・・
リネットは過去の呪縛とも呼べる人間関係を頼り、一夜で大金を稼ごうとする。過去に関係を持った男など、あらゆるつてで断られてしまい、最悪の事態がリネットに降りかかる。
すべてが悪循環のスパイラルに陥っている中、何か一つでも成功させたいという願望に向かって、引き返せない状況に突き進んでいく。
ラストはやや中途半端な終り方だった。ヴァネッサ・カービー演じるリネットは誰でも被害者と加害者になるという普遍的なパーソナリティを示し、被害と加害の区別のしようのなさを表現していた。
リネットが未来へ進むか、過去のような生活に戻るのかという問いを投げかけていたのか。リネットの犯罪は、窃盗や傷害などかなり重いもので、逮捕されることになる犯罪。
家を強制退去させられる崖っぷちの女性を24時間で描くコンセプトはよかった。
映画の見どころは、女優ヴァネッサ・カービー。目力と演技力は必見。
・・・
<主な登場人物>
■リネット:ヴァネッサ・カービー…幼いころから親しんだ家の家賃が支払えなくなり、頭金を払って購入を決意。頭金を持って法律事務所で住宅ローン契約にサインする段階で、母親が頭金を自動車購入に使ってしまったことが発覚。頭金25,000ドルを集めるために奔走する。
■ドリーン:ジェニファー・ジェイソン・リー…リネットの母。現在の家が気に入らず購入に反対。あろうことか自家用車の購入に頭金を使ってしまった。
■ケニー:ザック・ゴッツァーゲン…リネットの兄。ダウン症。
■グロリア:ジュリア・フォックス…リネットとはかつての娼婦仲間。リネットに3,000ドルの借金がある。
■コーディ:ステファン・ジェームズ…リネットのかつての売春の客の1人で、バーの同僚。
■スコット:ランドール・パーク…裕福に暮らすが、リネットのかつての売春の客の1人。
■トミー:マイケル・ケリー… リネットの元恋人。
■ブレイク:イーライ・ロス…広大な屋敷で違法クラブを運営。ドラッグの売買を行う。
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