花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

山口未桜 白魔の檻

山口未桜 「白魔の檻」
気になってはいたけど後回ししていた山口さんの新しい作品を読んでみました。

 

 
主人公の女性研修医は研修として温泉湖に建つ病院へ向かった。その病院の人事課にはかつての恩師がおり会うことを楽しみにしていたが、硫化水素の発生により遺体となって発見されてしまう。さらにその後発生した地震によって院内に硫化水素ガスが流れ込んで来ており、周辺が霧に包まれていることから救援も来られない状況になってしまう。
そんな状況の中で、院長が首を斬られて殺害されているのが発見される、というお話。
 
過疎地の医療現場をテーマにしたミステリー作品となります。以前話題になった「禁忌の子」の続編となります。
前作に比べるとミステリー部分に注力して描かれているという印象でした。その結果、中途半端な感じの作品になっています。
ミステリーとしてみると描写が分かりにくく、粗い部分が目立っていました。冒頭の見取り図が細かすぎて覚えてられない、患者含めて80名以上の容疑者がいて面倒くさいという煩雑さ。それなのにトリックを説明する場面では文字のみで説明していて分かりづらい。
犯行に使われたトリックそのものに関しても面白いとは感じませんでした。ネタバレになるので詳細は描きませんが、それをありにしたら興醒めという内容でした。前作は物語が面白かったのでミステリー部分が多少粗くても楽しめましたが、本作ではそうは思えませんでした。
前作は良かった物語の方も、冒頭で恩師が死んでしまうためか印象に残りませんでした。テーマである過疎地の医療現場の過酷さも社会問題系としてそこまでインパクトは出せていませんでした。
なお前作「禁忌の子」は読んでいなくてもOKです。主人公二人は前作に登場したキャラになっているというのみで、内容は繋がっておらず読んでいないと分からないような描写もありませんでした。前作を読んで登場キャラが気に入った人であれば本作は楽しめるかもしれません。
 
前作と違う試みをしたという点は良いのですが、そのせいでどの方面も中途半端になってしまった印象でした。まだ二作目ですので、今後に期待しましょう。

 

葉真中顕 家族

葉真中顕 「家族」
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
葉真中さんの新しい作品を買ってみました。
 


ある女性が交番で保護されたことで一つの事件が発覚した。ある女が彼女を「家族」と見なして監禁、暴行しており、同様にして「家族」として監禁し保険金をかけた者や、逃げ出そうとした裏切り者を「家族」に何人も殺害させていることが判明した。彼女は保護される半年前にも交番に相談したが、家族の問題は民事不介入としてその時は捜査しなかったことを担当した警察官は後悔した。
一方で、ある男性はパチンコ店で知り合った男に居候をさせてもらっていた。本名を隠しているなど彼は明らかに訳アリだったが、居候させてもらっている身なので深くは追及しなかった。ある時、彼を探しに来たという女性に家族にならないかと誘われる、というお話。
 
家族と民事不介入をテーマにした社会問題系の作品。実際にあった「尼崎連続変死事件」をモチーフにしているそうです。
本作の見所は監禁される人々の心理描写がリアルで上手い点にあります。単に主犯グループの狡猾さや恐ろしさだけでなく、なぜ被害者たちは逃げ出さなかったのか?に対しての描写なのだろうと読み取りました。逃げた後の孤独に耐えられず、監禁場所の「家族」の中にしか居場所が無いために、一度逃げたのに自分から戻ってしまう、というシーンは非常にリアルでした。
本作の中では民事不介入に関する説明や描写が多くされていました。作中で事件の主犯だった女性が居場所の無い人を探し出して監禁し、民事不介入を使って犯罪を隠蔽しているのは、犯罪とはいえ上手いなと感心してしまいました。モチーフにした事件によって対策が取られた現代では同じような方法は使えないのでしょうけれど。これらの点も本作の見所になるかもしれません。
 
作中にて疑似的な家族から抜け出せそうだった男性がそこにしか居場所が無いことに気づいて戻っていってしまう描写がありました。このシーンが「逃げ出すチャンスがあったはずなのに、なぜしなかったのか?」に対する回答のように描かれていました
この描写は正しいのだろう、と私は考えています。状況としてはブラックな職場を辞めることが出来ない状態に似ていました。精神的に追い詰める点もそうですが、俗に言う「辞めたところで、他に行っても通じないぞ」という状態に仕立て上げて逃げられなくするのと構図的にそっくりです。実際に私の部署にて、異動経験が一度も無く自部署でしか使えない知見しか身に着けなかったために他のチームでは戦力になれない、と自虐している先輩が何人かいます。このような一か所に執着するしかない状態になるのは危険だと判断し、色々な分野の勉強をするようにしています。そのおかげで「チームから追い出されても、懲戒解雇食らっても、やっていけるだろう」というマインドが出来上がったので、早い段階で気づけたのは良かったと思っています。
 
社会問題系の作品として面白い内容でしたので、気になる方はチェックしてみてください。

 

北山猛邦 神の光

北山猛邦 「神の光」
あらすじを読んで面白そうだったので買ってみました。

 



 
建物が消失した謎を推理するミステリー短編集となります。本作は建物や街が僅かな間に消失しそのトリックを推理する、で全部の短編が統一されています。
消失トリックにすべてを振り切った作品なので、トリックの面白さと斬新さが見所となります。各章の年代が違っておりその時代で実現できる手法でどうやって建物を消失させるか、が緻密に考えられています。これだけの数を用意していながら「それは強引すぎる」というトリックが無いのが凄いと思いました。そんな手があったかとどれも感心してしまいました。
自分で全部を推理して当てようとすると専門知識が必要になってくるので、謎解き感覚で軽く考察しながら読むと楽しめるでしょう。
 
トリックを推理するのが好きという方なら楽しめる内容ですので、ぜひチェックしてみてください。
 
書籍の紹介はこの投稿が今年最後になりそうです。
一年間お世話なりました。来年もよろしくお願いします。皆様よいお年をお迎えください。