スプーキーじいさんって何考えてるの!?

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猿のキリストの真実

元日に続いて二日も更新してしまいます。
年末に拾ったネタがあって、忘れないうちに書いておこうと思いまして。
ちなみに「元日」は一月一日のことで、「元旦」は元日の朝のことですね。
ついでに、「印鑑」はハンコを押した後に残る印のこと、ハンコのことは「印章」と言います、豆知識。

 

 

 

晦日に飛び込んで来たニュースがあります。
例の「猿のキリスト」を描いた方が亡くなったのです。

 

スペイン郊外の町にある教会のフレスコ画を、地元の油絵が趣味のおばあさんが修復したところ、キリストの顔が猿みたいになってしまった、あのおばあさんが亡くなったのです。
お名前はセシリア・ヒメネスCecilia Gimenez)さん、享年94歳。

 

修復前後の画像を見てみましょう。

BEFORE

 

AFTER

ぷっ
あ、失礼。
これ見たら思い出す方も多いと思います。
元の絵と違いすぎて、修復したというよりはイタズラ描きみたいですよね。

 

私もこのニュースには爆笑させていただきました。
しばらくは待ち受けに使っていましたし。
でもそれと同時に、違和感があったのも事実です。
どういうことか、それを書きましょう。

 

 

 

まず、元のフレスコ画ですけど。
描いたのはエリアス・ガルシア・マルティネスさん(Elias Garcia Martinez、1858年~1934年)。
バレンシアバルセロナで絵の勉強をした後、今回取り上げた教会(ミゼリコルディア教会)のあるアラゴン州サラゴサ県のボルハに移り住み、学校で絵を教えた人だそうです。

赤いピンのところがボルハ

例のフレスコ画は『この人を見よ』(Ecce Homo(エッセオモ))というタイトルですけど、実はマルティネスさんが描いたかどうかを裏付ける資料は何もないとのこと。
ミゼリコルディア教会に描かれたのは19世紀の末くらいらしいです。
保存状態は大変悪く、修復する予算もなく、ボロボロになっていてヒメネスさんが修復したときには既に顔の部分は無くなっていたそうです。
信者が触れることができる位置で、みんなが触っていたらしい

 

 

 

さて、フレスコ画です。
どういうものかというと、建物の壁や天井に漆喰(しっくい)を塗ったとき、生乾きの状態のときに水で溶いた絵の具で描いた絵のことです。
こうすることで漆喰が乾いた後は耐久性のある絵となり、長く残るのですね。
レオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』とか、ミケランジェロシスティーナ礼拝堂天井画なんかがこれ。

 

想像してみてください。
生乾きの漆喰に絵の具で絵を描くということは、一発勝負ですよね。
「あ、失敗した」と思っても、漆喰が乾いてしまったらもう直せません。
それでも直したいのなら、乾いた漆喰を削ってそこに描くしかないのです。
実際に削って直した痕は数々のフレスコ画に残っている

 

一方のヒメネスさんは、いわゆる日曜画家です。
趣味の油絵で風景画を描いていたそうで、その腕前は中々のもの。

ヒメネスさんの作品の一つ

そしてヒメネスさんは、自分の特技を活かして修復作業を行った経験があったそうです。
それがどのくらいのレベルの作業だったのかは不明ですけど、専門家の修復にかかる高額な費用を出せない教会のためにボランティアでやったのですから、まぁ想像がつくことです。

 

 

 

さて、ヒメネスさんが得意だった油絵です。
ご存知のとおり、油絵は基本的には薄塗りを何回も繰り返して完成させます。
私の母も描いてましたが、最初はザッと描いて段々と細かくしていくのが普通です。

 

例えばダ・ビンチの『モナ・リザ』ですけど、あれも薄塗りを繰り返して描かれています。
そうすると、絵の具の層がいくつもできますよね。
地層のように絵の具が重なって、ポプラ板に直接塗った絵の具と表側の絵の具では乾き具合が変わってきてしまいます。
そうすると絵の具の縮み具合も奥と手前で変わってきて、そのことにより絵の表面に細かいヒビが入ってしまうのです。

 

油絵を長くいい状態で残したいのなら、絵の具の厚塗りで一発で描くのがいいのです。
それを実際にやっていたのが…… そう、ファン・ゴッホです。
「ファン」は苗字の一部分なので省略してはいけない
ファン・ゴッホの絵の、あの絵の具の盛り上がり様は凄いですよね。
その絵の具は弟・テオの仕送りで……、と蛇足でした。

 

 

 

ここまで読んでいただいて、勘のいい方にはもう分かったと思います。
あの猿のキリストは、修復途中の姿だったのです。
「修復」ではなく「描き直し」のほうが正しいが
私は猿のキリストの記事を読んだとき、もしかしたら描きかけなのでは? と思っていたのですけど、今回調べてみたらそうだったことが判明しました。
ヒメネスさんは猿のキリストを描いている途中で、作業を中断して旅行に行っていたのだそう。
そして帰ってきてみたら、メディアに取り上げられて大騒ぎになっていたということです。
猿のキリストは世界中に配信されて、「失敗した修復作業」としてヒメネスさんは有名となり、マルティネスさんの孫からは訴えるとまで言われてしまい大ショック。

 

ヒメネスさんが長く生きてきた中で、心の支えとなった『この人を見よ』。
ボロボロとなり顔が無くなってしまったフレスコ画を、せめてもの恩返しにと記憶を頼りに描き直していたら、世界中からバッシングされてしまい。
可哀想じゃないですか。

 

 

 

ところが、事態はまったく違う方向へ進んでいきます。
世界中に配信されてしまった猿のキリストを見ようと、世界中から観光客が押し寄せてきたのです。
ミゼリコルディア教会は入場料を取るようになり、ボルハの町は観光客が落としていくお金で収入が激増。
このことはドキュメンタリーなどになって、知名度と収入はどんどん上がっていったのです。
リーボックからこの絵のスニーカーが出てるって本当なの?

 

ヒメネスさんはメディアに追いかけられたり、マルティネスさんの孫ともめたりして、色々大変だったそうです。
それでも猿のキリストの権利の49%を持っていて、グッズなどが出るたびに大きな収入があったようです。
ヒメネスさんのしたことは、悪いことばかりを呼び込んだわけじゃなかったのですね。
彼女はそれもこれも、神の思し召しだと語っていたそうです。

 

 

セシリア・ヒメネスさんの御冥福をお祈りします。

 

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。