今回は「合理的に予見可能な誤使用」についてISO12100を参考にまとめつつ、思うところを書いていきたいと思います。
製品の安全に関する議論などでちょこちょこ登場しますが、改めて見ていくと、一筋縄でいかないことが分かります。
文字ばかりで、ちょっと説教臭いですが、お付き合いください。

言葉の定義
まずは言葉の定義から確認してみましょう。
ISO/IEC Guide 51:2014*1内の、3. Terms and definitions内に、
3.7 reasonably foreseeable misuse
use of a product or system in a way not intended by the supplier, but which can result from readily predictable human behaviour
と記載されています。
直訳すると、「製品やシステムの使用方法のうち、製造業者が意図していない使用方法であるが、容易に(妥当に)予見できる人間の振る舞いによって生じる使用方法」といった感じでしょうか。
また、ISO12100:2010*2(JIS B 9700:2013)の3.Terms and definitionsには、
3.24 reasonably foreseeable misuse
use of a machine in a way not intended by the designer, but which can result from readily predictable human behaviour
と記載されています。Guide51とは一部用語が違いますが、ほぼ同じ意味ですね。
ちなみに、誤使用の対義語は「意図する使用(intended use)」です。
誤使用の想定と対策までが設計者の責任
このように、誤使用についてわざわざ用語が定義されているのは、設計者は、誤使用についても考慮し、誤使用が重大が危害につながらないように対策をする必要があるからです。
もちろん全部が全部ではなく、ある程度の線引きは必要でして、それが「合理的に予見可能な」という部分で表現されているのですが、詳しくは後述します。
誤使用を考慮するのはどの設計段階か
ISO12100で、「合理的に予見可能な誤使用」を考慮する必要があると言及されている場面を列挙すると、下記になります。
- 機械類の制限を決定する時(5.3に記載)
- 危険源の同定をする時(5.4に記載)
- リスク低減のうちの安全防護・付加保護方策を決定する時(6.3に記載)
- 使用上の情報をまとめる時(6.4に記載)
リスクアセスメントの全工程で意識しておく必要があると言ってよいでしょう。
誤使用をもう少し詳しく
ISO12100の5.リスクアセスメント, 5.4 危険源の同定に、「オペレータの意図しない挙動又は合理的に予見可能な機械の誤使用」の例が記載されています。
また、「機械の包括的な安全基準に関する指針」の解説等について(基安安発0731004号)」*3にも誤使用の事例が列挙されています。
こういった例示を見ていくと、誤使用には
- 意図しない誤使用
- 意図的な誤使用
の2種類が含まれていることに気づきます。(「意図しない誤使用」・「意図的な誤使用」は、私が便宜上呼んでいるものです)
意図しない誤使用
意図しない誤使用は、例えば、
- 疲れていて操作を誤った
- (移動機械など)スピードに不慣れで反応が遅れ操作ミスをした
- 力不足で物を落とす、機械の反力に負ける、など(老人や子供など)
- 物が倒れてきて思わず支えようとした
- 注意書きが読めなかった・理解できなかった(海外出身の作業者など)
といったことが考えられます。
うっかりや不可抗力による誤使用ですね。
意図的な誤使用
一方、意図的な誤使用としては、
- 作業時間を短縮するために、安全設備を迂回・無効化した
- 生産を止めないために、エラー表示を無視して機械を動かし続けた
- 決められた手順をスキップした(省略行為)
といった例が考えられます。
本当は良くないと知りつつ、止むに止まれず・・という形ですね。
両方の誤使用に対応する必要がある
誤使用についてさらに細かく分類することもできますが、私は、まずは「意図せず」「意図して」の2つに大別して考えると分かりやすいと思っています。
特に、2つ目の意図的な誤使用については、「そこまで先回りして考慮しないといけないのか」と思いたくなるかもしれませんが、そこまで考慮するのが設計者の務めです。
「誤使用」を線引きする上でのあれこれ
さて、実際のリスクアセスメントでは、ここまでの誤使用をカバーしよう・これ以上はさすがにカバーしなくてもいだろう、という線引きをする場面が必ず出てきます。
「合理的に予見可能」とは、どこまでの範囲を指すのか?どこまでやれば十分と言えるのか?
ここで結論を出すのは無理ですが、考える材料をいくつか記載してみます。
あくまで個人的な意見ですので、参考程度に捉えてください。
「容易に」予測できる?
語の定義の中の「readily predictable human behaviour」の部分は、JISですと「容易に予測できる人間の挙動」と訳されています。*4
「容易に」は決して、パパッと思いつく事柄ということではありません。*5「妥当に」に近いニュアンスと捉えた方がいいと思います。
誤使用の想定範囲を決める際には、チームを組んで時間をかけて行うべきでしょう。
人の特性を知る
機械を使用する人の特性から出発して考えてみましょう。例えば、
- 肉体的限界がある(反射神経の限界・体力の限界・筋力の限界・五感の限界)
- 知識や経験の個人差がある
- 楽をしたい性質がある(省略行為へつながる)
- 責任感がある(生産を止めたくないという動機)
などなど。
繰り返しになりますが、人ってうっかりすることもあるし、あえて不安全と知りつつやってしまうこともあるよね、ということです。
社会情勢・地域差なども考慮する必要あり
社会情勢によって前提にできる事柄も異なります。
例えば、かつては、日本国内の工場の労働者はほぼ日本語を話せるという前提で考えてもよかったかもしれませんが、昨今は外国出身の労働者も増えており、日本語が母語ではない可能性も考慮する必要があります。
また、ある地域では見慣れているピクトグラムが、他国では意味が通じない・別の意味になるといったこともあるかもしれません。*6
まとめ
設計者が多く情報を持っていることを意識
このように、誤使用まで考慮して製品設計をしないといけないと聞くと、設計者側の責任ばかりが大きいように感じるかもしれません。
ですが、基本的に設計者(供給側)と使用者側の間には、情報の非対称性があるということを理解しなければなりません。
設計者はある一定期間、その製品に対して100%の知力・労力を注ぎ込んだ立場であり*7、その製品を網羅的に熟知しています。
逆に、使用者側は、1つの製品だけを使用するということはほぼなく、様々な製品と付き合いながら日々の業務を遂行しています。当然、設計者よりも理解は浅くなってしまいますし、必要な情報だけを拾って機械を使用することになります。
そのため、製品を作り出す立場に伴う責任として受け入れ、知恵を絞って様々な誤使用に先回りして対策しておくことが必要と言えます。
コストなどと相反する構図になりがち
技術者としては、ユーザ保護のために、誤使用の範囲をなるべく広く捉えておきたいという気持ちがありますが、広く定義すればするほど、対策のためのコストや時間がかかることになります。
これは商業的な事情(コストダウンや製品の早期リリースなど)とは相反するものであり、設計VS経営サイドという構図になりがちです。
しんどいですが、技術者として安全のためにここだけは譲れないという一線を意識し、設計を進めていく必要があるでしょう。
*1:https://www.iso.org/obp/ui/#iso:std:iso-iec:guide:51:ed-3:v1:en
*2:https://www.iso.org/obp/ui/#iso:std:iso:12100:ed-1:v1:en
*3:https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001408308.pdf
*4:JIS B9700:2013の3.24参照
*5:easilyではないので
*6:そうならないようにISOで定めているわけですが
*7:兼務兼務と言うパターンもあるかもしれませんが・・



