「抓娃娃(じゅあわわ) 後継者養成計画」は風刺目線もあるけど、基本は人情バカコメディ、考えすぎず楽しむのが吉。

今回は、川崎チネチッタ9で「抓娃娃(じゅあわわ) ―後継者養成計画―」を観てきました。タイトルからだと韓国のホラー映画みたいなんですが、中国でヒットしたコメディだと知人に教えてもらって、劇場まで足を運びました。教えてもらわなきゃ絶対観に行かなかっただろうなあ、配給会社のやる気を感じさせないタイトルだわ。
現代の中国、ちょっと見、廃墟みたいなボロ共同住宅に、少年ジーイェは、父マー・チェンガン(シェン・トン)、母チュン・ラン(マー・リー)、祖母の4人暮らし。貧しい暮らしながら、ジーイェはすくすくといい子に育っていました。と、いうのは表向きの話で、実はマーは大実業家の大金持ち。彼は、自分が貧しい暮らしをしていて、その貧しさの中から色々なことを学んで、今の地位を築いたことから、息子もそういう境遇で育てるべきだと、それまで、母方の祖母のもとで我儘三昧で暮らしていた幼い息子を、物心つく前に、自分が住んでいた共同住宅に引っ越させ、自分も妻も貧乏のふりをして、育ててきたのでした。隣人はみんなマー社長の配下で、ジーイェ少年には常に護衛の監視下にあり、住宅の下には指令室のような秘密基地があって、教育のエキスパートが集まって後継者育成計画が進められてきたのでした。時にはばれそうになる時も、マー社長以下スタッフ全員の協力で乗り切っていきます。ところが、ジーイェに自我が芽生えて、陸上選手になりたいと言い出すあたりから、マー社長の思惑とは違う方向に進みかけるのですが、果たして後継者育成計画はうまくいくのかしら。
中国で大ヒットしたコメディ映画で、主演の父母を演じた二人は国民的コメディアンというくらいの情報しか出回ってなくて、ネット検索しても、それくらいのことしかわからない。ほとんど宣伝されてない映画なんですが、観たら結構面白い。バカバカしさを前面に出しつつ風刺もあるし、でも観終わって考えたり、後を引く部分もないという、いい塩梅の娯楽映画に仕上がっています。中国映画で親子愛を扱っていながら、引っ張り過ぎない、さらりとした味わいにしているのもいい感じでして、ベタな笑いだけどしんみりさせないところはセンスの良さを感じます。インドの「きっと、うまくいく」「花嫁はどこへ?」といった面白いコメディが評判になっているのだから、中国にもこういう映画があることをアピールしてもいいのにと思う一方、もうコメディ映画は売る方がやる気なくすくらい日本では当たらないのかなって気もしますから、微妙なところです。
息子を自分のような立派な経営者にしたりマー社長は、息子ジーイェを貧乏な環境に置き、贅沢をさせません。同居している祖母は、母を亡くしているマー社長がリクエストしてきた教育専門家のおばちゃんです。時々訪ねてくる母方の祖父母がジーイェに「お前は本当は大金持ちの子なんだよ」とバラそうとするのでハラハラしながら、一方で、外国人を仕込んでわざと話しかけさせて英語教育をさせたり、あちこちに監視カメラを仕掛けてジーイェを追いかけたり、スパイ映画並みのテクノロジーを駆使して、息子を後継社長に育て上げようとします。親孝行でいい子に育つジーイェなんですが、彼も高校に進んで、それなりに大人になってくるとちょっと変わり者感が出てきます。一方、ジーイェには年の離れた兄がいるんですが、これが結構な道楽者でどうやらジーイェの後継者育成計画を思い立ったのは、この兄の存在があったからみたいです。そんな兄が弟に接触しようとして、また大騒ぎになったりと、いろいろとドタバタを盛り込んでにぎやかなコメディに仕立て上げています。
一人っ子を大事に育てすぎる風潮への批判的な視点もありますが、それを大金持ちがやることでリアルさがなくなり、バカバカしさが前面に出たあたりは作り手の策士ぶりがうまいと思いました。また、息子の人生を支配してしまうとんでもない親でもあるのですが、そこもバカコメディのノリでなんとなく乗り切って、両親を悪役にしていない作劇もお見事でした。一つシリアスな方へ転ぶとすごく悲惨な話になるところを笑いで押し切ったのは、賛否両論ありそうですが、私はこの題材をうまいことさばいてソフトランディングさせた演出はうまいと感心しちゃいました。こんな話で、登場人物に悪い奴がいないという見せ方ができるんだって。
主役の両親は有名なコメディアンだそうで、悪役にもなりかねないポジションを善人キャラとしてまとめたところがお見事でした。また、他の演技陣もみないい味を出していて、偽祖母役の先生とか、ジーイェの尾行チームとか、彼女にはなれないジーイェの幼馴染とか、唯一まともそうな学校の先生とか、それぞれにきちんとキャラが与えられていて、印象に残るようになっているのは演出のうまさなのでしょう。作りとしてはすごく丁寧に作られているという印象になっているのは、脇のキャラがちゃんと描かれているからだと思います。
この先は結末に触れますのでご注意ください。
ジーイェ少年は、陸上選手になりたいと言い出し、学校も有名なコーチを紹介してきて、そっちの方向へ進みかけるのですが、父親は麻酔剤を使ってジーイェの左足を動けなくして、医者も巻き込んで、ジーイェに陸上選手の夢をあきらめさせ、経営者になるための大学を目指すように仕向けるのでした。そして、ジーイェは無事にイケメンの優秀な学生となり、大学受験が目の前に迫ってきました。彼は自分中心に世界が動いているという奇妙な陰謀論にとらわれていて、そのせいで学校の先生を嘆かせるのですが、それでも、試験の日はやってきて、ジーイェは父母に見送られて大学入試に臨みます。ところが試験会場からジーイェが出てきません。さらに写真付きの脅迫状まで届きます。写真から場所を特定してそこに向かう両親やスタッフ。実は脅迫状はジーイェの自作自演で、彼は一人地下の秘密基地(作戦本部)を見て回り、これまでの自分の人生の仕組みを知るのでした。親の教育の通りに育ったジーイェでしたが、その成果で疑問に思ったことを考え、検証していき、そこまでたどり着いたのです。両親はこれからも一緒に頑張ろうというのですが、ジーイェは自分はこれから自分の人生を生きると去っていくのでした。で、後日談として、体育大に進んだジーイェがマラソンに出場するのですが、給水所で捨てられるペットボトルを見て、貧乏時代の癖が抜けず、レースをやめてペットボトルを拾い集めてしまうという超ベタなオチがつき、それをテレビで観ていた両親が息子のためにできること、もう一人弟を作ろうかなんて言ってるところでおしまい。
ダメ兄貴も何を思い立ったのか、最後には雪山登頂を成し遂げて、弟のマラソンを沿道から応援してるというオチがつき、全て何となく丸く収まっちゃうのがおかしかったです。過去の仕掛けが全てバレてしまうのは、ジーイェにとっては相当シリアスでショックなんですが、そこをジーイェに変にしゃべらせずに、無言のまま、両親のもとから旅立つという展開にした演出は見事でした。愁嘆場をギリギリ回避して、最後の最後にベタなオチをつけてお笑いの映画だよって念を押すところがうまいと感心。超過保護な貧乏暮らしが子供にどう影響するのかといったシリアスな突っ込みを入れさせず、両親も変だけど、そのせいか息子のちょっと変な奴くらいで落としたのが、この映画の後味をすっきりとさせています。まあ、ベタなコメディにとやかく突っ込んでもヤボだなあと思わせる一方で、親の子供へ接し方、甘やかすのがいいのか、厳しくするのがいいのかってところをちょっとだけ考えさせるあたりは、大人、子供、あらゆる世代が楽しめる映画に仕上がっています。
