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今年の漢字「熊」に翻弄された2025男女ツアー 「爆竹」「追い払い犬」「ロボット狼」…手を尽くした対策の効果は?
今年の漢字に「熊」が選ばれるほど、2025年はこの動物に列島が悩まされた年でした。ましてや山間部で開かれることも多いゴルフトーナメントともなれば、対岸の火事とはいきません。
5月に女子の下部ツアー最終日が中止になったのが最初
「熊」。
日本漢字能力検定協会が発表する今年の漢字が決まりました。熊に脅かされたのは、ゴルフ界も例外ではありません。5月に女子のステップ・アップ・ツアー最終日が中止となったのに続き、7月半ばにはレギュラーの初日も中止。残り3ラウンドを無観客で行うなど、まず女子ツアーが“熊ショック”を被りました。その後、多くのトーナメントが必死の熊対策に追われました。その2025年を、振り返ってみましょう。
5月24日、石川県のゴルフクラブ ツインフィールズのコース内で熊が目撃されます。JLPGAのステップ・アップ・ツアー「ツインフィールズレディース」の最終日が、安全上の理由から中止されました。
これが長い“熊との闘い”の始まりでした。2カ月後の7月16日、問題は宮城県に飛び火します。今度はレギュラーの「明治安田レディス」のプロアマ戦が行われていた仙台クラシックゴルフ倶楽部で熊の目撃情報が入り、選手、関係者らが避難する事態に発展します。
翌日の朝にも近隣の田んぼで熊の目撃情報があったことで、ついにこの日予定されていた第1ラウンドが中止されました。宮城県や大和警察署から、できる限りの安全対策を取ってほしいと指導を受けた上で、今回は安全面を考慮して18~20日までの3日間に短縮。無観客で開催することを決定したことで、全国的なニュースにもなりました。

JLPGA側は「明治安田レディスでの事例をふまえ、適宜主催者さま等との意見交換や対応依頼を行ってまいりました。来年度につきましても、政府等から発信される方針等注視しながら、主催者さま等と連携し必要な対応を行って参りたいと思います」(トーナメント事業部)と、対策を施したうえでの開催を明言しています。
実は、今年も明治安田生命レディスの3週後に行われた「NEC軽井沢72ゴルフトーナメント」は、すでに6年間、熊対策を行ってきています。その中心的な役割を果たしているのが、2000年以降、軽井沢町からツキノワグマ対策を受託している「NPO法人ピッキオ」です。熊のにおいや気配を察知し、追い払う特別な訓練を受けた犬「ベアドッグ」による巡回を行っています。
「(今年は)8月入ってからも周辺で熊の目撃情報がありましたし、発信器付きの熊もいるのを確認していました。当初は例年通り(大会期間中の)4日間、朝9時ぐらいから夕方までパトロールする予定でした。でも、それから練習日2日間の依頼も来て、時間の方も朝の4時ぐらいか午前7時くらいまでの間に早めました。周辺の目撃地点の位置情報などを毎日メールで共有したのも今年初めての試みです。夜もパトロールしているので、軽井沢町内にいる20頭くらいの位置情報をお伝えしました」(ピッキオの関係者)
初の試みとなった背景にあるのが、連日報道され続けた熊関連のニュースによる住民感情の変化。
「世間の空気が変わっています。不安に思われている方が多く、お問い合わせの電話が本当に多くなりました。今までは熊を見ても通報しなかった方が『念のため通報します』という感じになりましたし、カモシカなど別の動物を熊と誤認して通報するケースも増えました」(同)
そうしたなか大会は無事終了しましたが、その直後に熊出没状況が舞い込みます。
「大会期間中は特に異常はなかったんですけども、終わった17日の夕方に目撃情報がありまして『熊も空気を読んでるな』と(笑)。人がいっぱいいるところには、そうは来ないですから。今回、朝のパトロールが有効だと思いましたので、できれば来年もこの形でやらせていただけたら、と思っています」(同)
6年連続トーナメント期間中の無事故を支えているベアドッグだけあって、年々ブラッシュアップされて対策にも磨きがかかっているようです。
「むやみに恐れることなく、なめるわけでもなく、正しく怖がっていただけたら。まずは熊を引き寄せる生ごみなどを置かないとか」(同)
「動物相手なので100%という言葉は使えない」
その翌週から北海道で2週連続男子のツアー大会を開催したISPS(国際スポーツ振興協会)の対応ぶりも徹底していました。トラブルをシャットアウトできた大会期間中の防御態勢について、関係者がこう明かします。
「熊対策としましては、まず『モンスターウルフ』の台数を増やしたこと。それから熊が嫌いなにおいが出るシートを、熊が好む場所を中心に張り巡らせていただきました。3つ目は猟友会の協力です。熊に限定せず、『野生動物対策』という目的で、猟友会の方に大会中ずっと来てもらい、見回りをしていただきました。4つ目は爆竹。試合が始まる前の朝5時くらいから、『特にここが危険だ』という場所でゴルフ場の方に毎日爆竹を鳴らしてもらいました。ものすごく大きい音でした。そこまでやっていただけているという安心感が一番ありがたい。それで、より充実した(運営をする)ことができました」(ISPS広報部)
できる対策はすべて投入し、大会関係者が一丸となってヒグマをシャットアウト。そうしたなかでもMVP的存在は、台数が増やされた『モンスターウルフ』の存在でしょう。ISPS主催2連戦の翌週、「ニトリレディス」が行われた北海道カントリークラブ 大沼コースでも活躍しました。
まさに八面六臂の奮闘ぶり。そこでモンスターウルフの販売元である「ウルフ・カムイ」の関係者を直撃すると、こんな答えが返ってきました。
「今年は北海道で4大会、ゴルフ場としては5カ所で使っていただいています。ISPSの大会が行われた北海道ブルックスさんではもう3年使ってくれていて、1台はゴルフカートに乗せて自動走行させています。電磁誘導のカートでずっと回りながら1ホール2ホールぐらいの間に1回、ウルフが吠えるんです。熊についてはゴルフ場での遭遇はありませんが、ウルフを見て逃げた鹿の事例は確認済みです。畑や果樹園、公園での検証映像からも、ウルフが熊を含めた野生動物にとって近づきにくい存在となっていることがうかがえます」
カートが電磁誘導でないゴルフ場でも、有効な活用方法があります。
「軽トラの荷台にウルフを積んで任意の場所に定期的に動かしながら、最終組が帰ったら出てきそうな場所にウルフを持っていって、一晩中置いて、定期的にスイッチが入るようにセットします。朝の1組目がスタートする前に軽トラごと回収する。それを日々繰り返すという使い方を推奨しています」
レンタル料は「半年なら月額2万5000円、3カ月だと月額3万円ですから、半年のレンタル代だけで15万円。あとは設置作業費と交通費がかかりますので、20万円は超える」とか。それでも北海道を例に取ってみると「30台以上レンタルした実績の内、お客様の9割以上がリピーターなんです」と担当者は胸を張ります。モンスターウルフは2019年に第8回ものづくり日本大賞の「ものづくり地域貢献賞を受賞」しています。
軽井沢のベアドッグと北海道のモンスターウルフを比較してみると、それぞれが持つ強みと弱みも見えてきます。
軽井沢の強みは町からの委託を受け、ベアドッグを管理して、きっちりと熊と人間の共存を図っていること。しかし、当然、人件費も犬の餌代もかかるため、行政と一体であればこそ実現が可能になっている一面もあります。
一方でモンスターウルフには当然のことながら餌代はかからず、電磁誘導や夜間に設置するなら人件費も安く済みます。開発も順調に進んでいて「GPSを使って自動で動き回ることや、AIカメラで熊や鹿などの動物を見つけたら、エリアから追い出すまで追従していくことも、まさにお金さえかけたらすぐできる段階まで来ています」。
とはいえ、モンスターウルフが万能であるかということになると、そうではありません。ウルフ・カムイのホームページには「未だに忌避効果に疑いや、完璧な被害抑制実績を求められることも多く、対象が野生動物である限り、『1匹も出なくなる、完璧で被害がゼロになると保証している訳ではありません』」と書かれています。
「動物相手なので100%という言葉は使えないですし、モンスターウルフはオールマイティーじゃない。結果として熊が来なかったというのは結果オーライだったということ。そこは知っておいていただきたいんです」
大活躍を続けるモンスターウルフ。開発は続行中とはいえ、万能ではない。来年のシーズンも熊を正しく恐れ、正しく対応していく。この日常の中でも大切な心がけこそが、トーナメントウイークを無事故で乗り切る再善策と言えそうです。
取材・文/小川朗
日本ゴルフジャーナリスト協会会長。東京スポーツ新聞社「世界一速いゴルフ速報」の海外特派員として男女メジャーなど通算300試合以上を取材。同社で運動部長、文化部長、広告局長を歴任後独立。東京運動記者クラブ会友。新聞、雑誌、ネットメディアに幅広く寄稿。(一社)終活カウンセラー協会の終活認定講師、終活ジャーナリストとしての顔も持つ。日本自殺予防学会会員。(株)清流舎代表取締役。
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