痛い。まだ痛い。
アメリカでコロナ前の頃、血液検査で前立腺の値が高かったので再検査という指令が来たのは昔の出来ことだった。ならば日本を発つ前にここで検査を、ということになったのだが日本での血液検査も運悪く数値は以前よりも高く2桁手前のグレー損ということだ。通常数値1-4まではセーフで5以上は要検査らしい。10以上はガン可能性あり私は9.6。よってMRIを撮り、今回の生検という具合である。
生検というのは、お尻から器具を挿入し前立腺の裏面からソナー付きのソーセージほどの太さの器具を通じた針を刺して組織を採るという離れ業である。通常針刺しは10か所である。私の場合は、脳腫瘍の影響もあり神経に負担を掛けないほうがいいということで、急遽局部麻酔なし!という運びになった。尾てい骨からの麻酔が無く、それでいて裂け痔という、この世の終わりに近い状況に陥ったのだ。いや、痛みはこの世の終わりを遥か通り越していた。
針はまるで水中銃のような感じで器具の先っぽから飛び出る仕組みになっている。要するに銃口を腸壁に当てて、そこから針の弾丸が前立腺に発射されるわけで、その音は「カチャ!」という感じである。針は1ミリはある。気の利きすぎた看護婦が検査前にすべての装置を私に見せたために、私はかなり動揺した。おまけに検査医師も「カチャで針が飛び出て組織を採ります、また検査器具でグリグリします。痛いけどわざとじゃありませんから」なんて言うもんだから、私は動揺から激高に自分の気持ちが変化するのを感じた。
器具を挿入しようとしたときに医師は「うーん、肛門が狭い狭すぎる痔の手術でもしましたか?。うーん、これは入るかな? やめましょうか?」と半分独り言のように言い放った。私は自身の肛門を広げられた状態でやめようか?という言葉を聞いたと同時に「え、じゃ、自分で入れますよ先生」と怒り半分で言い放った。(この言葉の意味、またなぜそれを言ったかは今でも理解できない)医師は「それは無理ですよ、何とかしますから…」と言いながら、この世の終わりの痛みが始まった。「あーこれだ、友人が『かなり辛いよ、俺はもうイヤ』」と言っていたのをふと思い出した。
ここは大学病院ということもあり、私は医学生の観覧OKにサインをしておいた。実際検査シーンや手術シーンを観て良しという患者は少ないので私は協力したのだ。痛いながらも私は生徒さんに「しっかり見ておくれよ」と我慢しながら言い放つと、その検査医師はなんと生徒に説明しながら検査するという暴挙に出たのだ!「うー、痛い」と言う私の声の後に医師の「こうやって3D画像を合わせて前立腺の形を画面上で作り…」なんて云々言うものだから私は辛さと時間を二倍に感じ、生徒によく見ろと言ったことを深く後悔した。痛さのあまり足の指全部をニギニギ擦り合わせた。カチャ数回と足指ニギニギ30分後。そして「ムロさん!無事終わりました十分データ取れましたから」という医師の言葉に幾分かは安堵した。私の前立腺の大きさは二倍以上あるらしく、高い数値は肥大も影響しているらしい。
結局、10か所の検査点を短縮し8か所で済ませた。これは私に対する情けだろう。しかし最後は意識朦朧で気絶寸前まで来ていた。出血予防の脱脂綿を挿入し全てが終わった。通常は車いすで病室に戻るのだが、看護婦の温情で横になったまま私は運ばれた。検査後、最高血圧153、体温37度は久しぶりに自分の寿命を削った気がした。
さて、この病院は曹洞宗『永平寺』から近く、田んぼや山並み、風景からも『禅』を感じる。私の7階にある4人部屋の窓からは永平寺があると思われる山も見渡せる。私の検査患部はまだ相当痛いが、それらが幾分か気持ちを落ちつかせてくれた。そして病院食だ。一般的に病院食は「まずい」と言われているが、それは薄味だからだ。しかし、ここでの食事は風味がきいていて素材の味が出ている。何といっても『炊き立てのご飯』がおいしい。この風景を見ながらの食事は悪くない、患部の痛みを除けばだが。同じ病室の患者もプラ製の箸とお椀でカチャカチャ音立てて食べている。私は心の中で「美味しいよね、味無いけど」と話しかける。
点滴による痛み止めアセトアミノフェン1000㎎はおだやかに効く、食事も悪くない。ならば、予定の一泊を延長して二泊はどうか? という考えが頭をよぎる。家に帰ればシェリーは何か問題を起こしているだろう。日頃の雑音から逃げてこの食事と柔らかいベッドは自分にとって大変心地よい。しかし激しい尿便出血も無いため、私のリクエストは簡単に却下され予定通り帰宅する。そして今また蒸し暑い家に籠っているのである。
前立腺肥大などは脳にある下垂体から出る性ホルモンバランスが影響している。一度肥大すれば通常自然に元には戻らず、ホルモンブロッカーなどの薬で対処するしかない。中高年齢での自然な肥大症は男性ホルモンテストステロン低下による。
一泊前立腺生検査入院:合計5万800円(健保3割負担)
