会話というのは不思議なもので、ちゃんと日本語を使っていて、単語も文法も合っているはずなのに、終わってみると「いま何の話をしていたんだっけ? 」と首を傾げたくなることがあります。互いに相槌を打ち、笑いも起き、表面上はなごやかに進んでいるのに、頭の中ではそれぞれ別の景色を眺めている。どうやら私たちは、言葉を共有した瞬間に「地図まで共有できた」と早合点してしまう癖があるようです。 国の名前、距離、評価、「世界一」――そうした便利で強そうな言葉が出てくると、会話は一気に加速します。でもその加速の裏で、出発地点や縮尺、前提条件は、案外あやふやなまま置き去りにされている。あとから振り返ると、同じ方向に走っていたつもりが、実は別々の遊歩道を散歩していただけ、ということも少なくありません。 そんな、少しズレたまま進んでしまう会話の感触を思い浮かべながら、次の話を聞いてください。 「スペインからフランスに車で行くと、何時間ですか?」 「スペインの塩は世界一です、買って来てください。」 どんな舞台装置?と思いますよ。 どうやってピンポイントでスペインからフランスに行くんです? 国境をまたぐだけなら、1秒で行けますよ(笑) アンダルシアからパリまだだったら、20時間以上? スペイン国スペイン県スペイン村じゃないんですから、塩だって 数百種類はあるでしょうね。 『料理の鉄人』が好きなんだから、イギリスの「マルドン」にしとき ましょうよ! 実績的にはこれが世界一ですよ(笑) 『料理の鉄人』がいくら好きでも、自分が鉄人になってはいけません。 潮が世界一でも、その小麦粉、防腐剤と漂白剤の塊! 鶏?そんなもの、パリの一流店で出て来ませんよね?(笑) あれこれ混ぜられると『ジュラシックパーク』と『Cats』の間を 行き来させられ、疲れます。 そこで質問ですが、 私たちは会話の中で、いつの間にか同じ地図を広げ、同じ距離感で話している「つもり」になってはいないでしょうか。国の名前や「世界一」という言葉が出た瞬間に、頭の中では一気に話が跳躍して、塩も鶏も舞台装置ごとごちゃ混ぜになる。けれど本当は、そのズレ自体が悪いわけではなく、ただ「今どこから話してる?」と一度立ち止まる余白が足りないだけなのかもしれません。では、その余白は、どうやって会話の中にそっと差し込めばいいのでしょうか? ๑/๑