この餃子が普通に家庭で食べられているという事実がすごい
このようにホワイト餃子を家で焼くのはすごく楽しいが、明かに簡単ではない。それでも持ち帰りの冷凍餃子が大人気というのはすごくないですか。12月の飲食営業を取りやめる店舗があるほどに。
他所様の家庭料理を知る機会はほとんどないが、この餃子を当たり前のように自宅で焼いている家庭がたくさんあるという事実に震える。世の中はまだまだ知らないことだらけである。
そういえば「ホワイト餃子」という丸っこい餃子をだいぶ前に食べたことを、ふと思い出した。
久しぶりにまた食べてみようかなとネット調べてみると、持ち帰りの冷凍餃子というのもあることが分かったのだが、驚いたのはその焼き方である。
大量のお湯で蒸し焼きしているところに油をドバドバ注ぐという特殊すぎるレシピなのだ。これはおもしろそうだぞと、ドキドキしつつ試してみた。
せっかくだから店で久しぶりに食べて、ホワイト餃子の正解を確認してから、冷凍餃子を買って家で調理をしてみよう。
ちょっと検索したところ、ホワイト餃子は「ホワイト餃子店」という全国に公認店舗が23店もあるグループの看板メニューで、千葉県野田市に本店があることがわかった。
やはり本店で食べるべきかなとサイトで営業時間を確認すると、なんと本店は2025年の飲食営業を停止しており(今日は12月8日)、お持ち帰りのみしかやっていないようだ。それならばと家から比較的近い三郷店に向かう。
私が前に食べたのも確かここだったかなと思いつつ到着したのだが、普通の一戸建て住宅みたいな新築の建物に、なんとなくアイスクリーム屋っぽさのある青い看板が掲げられていた。まったく記憶にない店である。
あまりにも餃子屋っぽくない外観に驚きつつ入店しようとしたところで、店の外に「年内のランチは終了しました」という張り紙を発見してしまった。
どうやら野田本店と同じく、この三郷店も年内は冷凍餃子の生産に注力しているようだ。
私が知らないだけで、12月になると持ち帰りのホワイト餃子を家で食べるという食文化が日本に根付いているのだろうか。
持ち帰り用の冷凍餃子は販売しているようなので、とりあえあず店内に入ると、客席のイスがテーブルの上に逆さになって置かれていた。完全に飲食営業は休業モードである。
誰もいない店内に設置された食券販売機を確認すると、持ち帰りメニューは冷凍餃子のみで、16の倍数か24の倍数で買えるようである。
単価は何個でも1個あたり50円。とりあえず24個の券を購入してみた。24×50=1200円。
無人のカウンターに置かれたベルをチンと鳴らすと、店の奥から女性の店員さんが出てきた。ずっと餃子を作っているようだ。
店員さんに券を差し出すと、私が食べる気満々だったのが顔に書いてあったのか、「お店で食べられなくてごめんなさいね」と謝りつつ、紙に包まれた餃子とラー油、そして焼き方が丁寧に記されたカラーの焼き方マニュアルを渡してくれた。
さて、どうしよう。冷凍餃子は手に入ったが、やっぱり店で食べて正解の焼き具合を知っておきたい。
三郷店から近いのは越谷店なのだが、営業形態がちょっと変則的で、冷凍餃子の販売は10時からだが飲食営業は16時からのようだ。この店も持ち帰りの販売がメインなのだろうか。
いったん家に帰って、クーラーボックスで持ち帰った餃子を冷凍庫に入れて、昼飯を我慢しつつ時間を潰す。そして16時の開店を目指して越谷店に向かったところ、田んぼも残るのんびりとした住宅街に、大きくホワイト餃子と書かれたホワイトではないお城のような店舗が現れた。三郷店と全然違う。
私が到着したのは開店から10分後だったが、駐車場の空きは一台だけだった。月曜日の16時過ぎなのに。
今度こそは食べられますよねと祈りつつ入店すると、若い男性店員さんが席を案内してくれた。
客席は吹き抜けになっていて、窓が大きく天井がとても高い。上品な選曲のBGMも含めて、結婚式場のロビーみたいである。
卓上のタッチパネルでメニューを確認すると、大きく「餃子」と書かれたコーナーには、1人前8個600円の焼き餃子が20人前160個12000円まで用意されていた。焼き餃子のみで何人前でも1個あたり75円。
そして「サイドメニュー」も硬派だ。ライスの大中小、お新香、ワカメスープ、タマゴスープ、大根サラダ、トマトサラダのみ。定食セットみたいなものは存在しない。
餃子の王将や満州とは違い、気持ちいいくらいに焼き餃子一辺倒である。
餃子は皮が小麦粉だから炭水化物の追加は不要という考え方もできるが、個人的にはライスが絶対に欲しくなるので、餃子1人前に普通サイズのライスとワカメスープをコーディネートした。
たぶん15年振りくらいにホワイト餃子を食べる私に相応しい、この店で恐らく一番ノーマルな組み合わせだではないだろうか。
餃子を2人前にするかちょっと迷ったが、家に帰れば冷凍個に3人前の24個が待っていて、そっちが本番なのである。
注文してから17分後(これは自分で調理してみてわかったのだが、ホワイト餃子は焼くのに15分くらいかかるのだ)、注文した料理が到着した。
意外とワカメスープが大きいことに気を取られそうになるが、注目すべきはやはりホワイト餃子の全体がこんがりキツネ色の焼き上がりだろう。
油揚げかピロシキみたいに見事なキツネ色。ホワイト餃子店の創業者が中国の白(パイ)さんに作り方を習ったからその名がついたことを知識としては知っていたが、それでも「全然ホワイトじゃないじゃん!」と心の中で突っ込みたくなってしまう。
ホワイト餃子、おもしろいな。
届きたてのホワイト餃子にかぶりつくと、厚めの皮はモッチリではなくサクっとした食感で香ばしく、中から熱い汁が溢れてきた。
そりゃもうものすごく熱かった。これまで食べたどの焼き餃子よりも、なんなら小籠包よりも熱い。いや前に一度食べているのでそうとも言い切れないが、少なくともここ数年食べた中では一番の熱さだろう。
ニンニクではなくニラがたくさん入ってるようで、なかなかパンチのある味だが、餡は野菜がメインなのでパクパクいける。
これは日本中のどこにあっても、きっとソウルフードと呼ばれるであろう餃子である。
隣のテーブルで食べていた二人組の一人が、「俺は酢胡椒で食べるのが好きなんだよね」と説明しつつ店員さんから胡椒をもらい(卓上にはないけど言えば出してくれるようだ)、酢胡椒でホワイト餃子を食べたのだが、「あれ、この餃子は醤油とラー油がいいかも」とタレを作り直していた。
また別のテーブルでは、ちょっとご年配のご夫婦らしきお二人が、3人前の餃子を注文して、お新香をお供にモリモリと食べていた。とても良い店だなと思った。
私の胃袋だと頼んだ量でちょうど満腹だったが、気持ち的にはちょっと食べ足りない。こういう料理は口が飽きてきたところにギュウギュウ詰め込んでこそという部分があるので、次は電車で来て(最寄りの蒲生駅から徒歩圏内)餃子2人前に小ライスとビールを注文してみたいと思う。
それにしても、明かに外食の料理であるこの特殊な餃子を私は自宅で焼くことができるのだろうか。ちょっと不安になってきたので、すでに冷凍餃子は三郷店で買ったのだが、失敗する可能性を考えて追加で24個を買って帰った。
帰宅後、あまりに満腹なのでひと眠りしてから、あの味を覚えているうちにと、確実に日本最高峰の難易度を誇る冷凍餃子の調理に挑む。
さあここからが、ようやく記事の本題である。三郷店でいただいたカラーの焼き方マニュアルを見つつ、焼き餃子づくりに取り掛かろう。
我が家のフライパンは少し大きめの28センチ。火をつける前に薄く油を広げて、カチカチに凍ったホワイト餃子をバラしつつ並べてみると、3人前24個がちょうど収まって気分がいい。
ここでようやく点火して、強火にすると同時に隣のコンロで沸かしておいた熱湯を餃子が八分目浸るまで注ぐ。
餃子を焼くときにお湯を注いで蒸し焼きにするのは定番の手法だが、こんなにたくさん入れるのは初めてだ。これでは水餃子だなとちょっと不安になる。
すぐにフタをしたら、強火のまま「8分位」加熱するらしい。
焼く数や火力の違い、あるいはフタの密着度によって最適な加熱時間は変わるだろうから、ものすごく不安な時間である。
マニュアルに書かれていた標準時間の8分後にフタを開けると、あれだけ注いだお湯がほぼなくなっていた。
たぶんこれで正解のはず!
ここからが焼きホワイト餃子作りの恐ろしいところなのだが、マニュアルによると、ここに「餃子がもぐる位」の油を入れるのだ。マジか。
お湯に油を注いだら跳ねまくるんじゃないかとペットボトルを持つ腕が少し震えたが、まったく大丈夫だった。よく考えたら水より油のほうが沸点が高いので、油を水に注いでもノーリアクションなのである。でもやっぱりおっかない。
逆に熱した油に水を注ぐと跳ねまくると思うので気を付けよう。
そして強火のまま3分ほど加熱して、最初に注いだお湯がすべて蒸発したところで、さらに油を足す。まさかの追い油である。
餃子のヒダヒダ以外がこんがりキツネ色なのは、こういう焼き方だからなのだ。
点火してから13分ほどで餃子が茶色く焦げてくるので、ここで餃子底をフライパンから剥がし(「底入れをし」と書かれていた)、油を少しだけ残して切る。
マニュアルに「油は3~4回使えます」と書かれているが、ホワイト餃子を家で焼く家庭には、餃子専用の油入れがあって、短期間に何度も焼くのだろうか。あるいは一食で100個くらい焼くのかもしれない。
ここからは火加減を中火にして、適当な焦げ目がついたら火を止めて、ひっくり返して皿に盛ったら出来上がり。
ヘラで返せと書かれていたが、せっかくきれいに並んだ餃子の配列を崩したくなかったので、油をしっかり切ってから、餃子の上に皿を置いて一気にひっくり返した。
すごい、ほほパーフェクトな焼き色の餃子が大皿にぎっしり。
マニュアル通りに調理したのだから当然といえば当然なのだが、自分に餃子を焼く才能があるのではと勘違いするぐらい見事な仕上がりに大満足。
味の素などの大手メーカーから販売されている、できるだけ調理が簡単で誰が作っても失敗しない今どきの冷凍餃子と対極とも言える難易度だからこその達成感と多幸感が湧き上がる。これは自宅で作れる外食だ。
ホワイト餃子は本当におもしろい存在だ。最初は水餃子で途中から揚げ餃子、そして最終的には焼き餃子というトライアスロンみたいな調理工程。
家で焼くのも楽しいけれど、年が明けて本店が通常営業になったら、本家本元の味を食べに行こうと思う。なんなら全店舗を巡ってみたいくらいである。
ところでこの記事を書いている途中、「そういえば巣鴨に「ファイト餃子」という店があったな……」という記事が当サイトで公開されてびっくりした。ホワイト餃子の技術連鎖店である巣鴨のファイト餃子とホワイト餃子亀有店に行ったレポートだ。
見事なまでのネタかぶりだが、「生餃子を持ち帰って家で自分で焼いてみようかと思ったけれど、注文がちゃんと伝わっておらず、焼餃子をテイクアウトしてしまった」という一文に、ホワイト餃子の神様の思し召しを見たのだった。おお、メシア様。
ちなみにメシアとは「油を注がれた者」という意味だとか。まさにホワイト餃子のことではないか。
このようにホワイト餃子を家で焼くのはすごく楽しいが、明かに簡単ではない。それでも持ち帰りの冷凍餃子が大人気というのはすごくないですか。12月の飲食営業を取りやめる店舗があるほどに。
他所様の家庭料理を知る機会はほとんどないが、この餃子を当たり前のように自宅で焼いている家庭がたくさんあるという事実に震える。世の中はまだまだ知らないことだらけである。
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