大正時代、円本の普及と共に、大衆受けは良いが、世俗的で品性の低い、文学的価値の乏しいテキストが大量に出回った。既存の作家達や、円本のような作品を卑しむ人々により、今までの文学はそういう大衆文学とは一線をかくしたジャンルであるとされ、それは純文学と名付けられた。もっとも、そうは言え、既得権益を守るために作った組合みたいな側面も多分にあった。 (こっちのほうがまとまってていいと思います)
21世紀に入ってからの一時期、主に純文学界隈(特に新人賞)でやたら「不条理」という言葉が飛び交っていたように記憶している。バブル崩壊の後、リーマンショックで追加の打撃があり、他にも様々な要因から、この四半世紀は混迷を極めた。したがって現実世界の不条理さが浮き彫りになったとも言えそうだが、個人的にはそうした中で「不条理」という言葉に違和感があったのである。 元々ミステリー・SF・歴史小説あたりばかり読んでいるので、純文学を批評することはできないのだが、これらの分野にも不条理さは描かれており(歴史などそもそも不条理の連続)、僕自身、意識はしていなかったが、今になって振り返ると「不条理に慣れ親しんで…
「この中にいる、犯人は!」 叫び声を上げた、商店街のど真ん中で、ひとりの探偵が。襟を立てていた、彼は、トレンチコートの。名探偵と呼ばれていた、もちろん自称ではあったが、そのつけ髭の男は。「名にかけて、じっちゃんの!」 決め台詞だった、それが置田倒次郎の、名探偵と自ら呼ぶ男の。 しかし漁師だった、彼の祖父は、探偵でもなんでもなく。ふぐの毒を喰らって死んだ、そのじっちゃんは、てめぇで釣ったふぐの、丸々と太ったふぐの。つまり実の祖父ではなかった、彼がその名にかけたのは、彼の言うじっちゃんは。それは名探偵だった、見知らぬどこかの、たぶんフィクションの、本か漫画か何かで読んだ。 とはいえどうでも良かった…
12月になったので毎年恒例の芥川賞・直木賞候補作が公開された。 第174回芥川龍之介賞および直木三十五賞の候補作だが、両賞あわせて10名の候補者のうち、実に8名が「初候補」である。日本文学界において確実な世代交代と、新たな才能の発掘が進んでいるということなのかな。 選考会は2026年1月14日に東京・築地の「新喜楽」で開催される。この記事では芥川賞・直木賞の候補作を紹介したい。 芥川賞とは? 第174回芥川龍之介賞候補作 久栖博季 「貝殻航路 」(文學界 12月号) 坂崎かおる 「へび」(文學界 10月号) 坂本湾「BOXBOXBOXBOX」(文藝 冬季号) 鳥山まこと「時の家」(群像 8月号…
ことり (朝日文庫) 作者:小川 洋子 朝日新聞出版 Amazon 大好きな小川洋子さん。『ことり』は再読です。 「小鳥の小父さん」と呼ばれるある男性の一生を描いた、切なくて儚い物語。始まりは、小父さんが鳥籠を抱えながら自宅で横たわって亡くなっているところを発見される場面から始まります。 幼少期から中年までの小父さんとお兄さんの、独特だけど穏やかで温かい暮らし。小父さんの恋愛や、小鳥との関わり。小父さんの人生に登場する、ほんの少しの人たちとの出来事が、小川洋子さんらしい静謐で美しい文章で描かれています。 温かい気持ちになれる場面もあれば、切なく、泣ける場面も。 「どうか小父さんをそっとしておい…
新潮文庫 昭和四十年 三島氏にしては文体がシンプルで読み易い 小説だった。しかし、中身は精神分析が テーマとなっていて、難解さを含有してい る。兄妹間で起こった不貞から不感にな った麗子が主人公となって、物語が紡が れていく。鋏がひとつの小道具となり、 イチモツをちょん切るイメージとして 出て来る。これはとてもフロイト的である。 兄妹の間の性的関係にひとつの美を見出 そうとしている三島氏だが、ぼくはそ こにエロチシズムはあるのを認めるが、 不潔感しか覚えない。とても、そこに美 などは見出せず、醜い歪んだ愛しかないと 思う。そう云った意味では、三島氏は病的と 云うか、ある種の観念に囚われ過ぎる傾…
もし、あなたの人生が「65歳まで生き残る確率」という一つの数字で評価されるとしたら、どんな気持ちがするでしょうか。もし、その数字が低いというだけで、結婚や出産をためらうことになったとしたら。今回ご紹介する村田沙耶香さんの短編小説『生存』は、そんな少し不気味で、でも私たちの現実と地続きかもしれない世界を描いた物語です。 この物語は、「生存率」という絶対的な価値観に支配された社会で、一人の女性が自分の生き方を見つめ直す姿を描いています。読み終えた後、私たちが当たり前だと思っている「幸せ」の形が、少しだけ違って見えるかもしれません。
1、作品の概要 『山の音』は川端康成の長編小説。 1954年に筑摩書房より単行本が刊行された。 第7回野間文芸賞受賞。 戦後文学の最高峰と称された。 1949年~1954年に『改造文藝』『群像』『新潮』『文學会』などに連載された。 全16章からなる。 1954年に原節子主演で映画化され、その後も数度ドラマ化された。 初老の信吾の視点で、老いた妻、息子夫婦、出戻りの娘と孫たちとの家族の生活を仔細に描いた。 2、あらすじ 東京にある会社に勤める初老の信吾は、物忘れも出始めて地鳴りのような山の音を耳にして死の予感に捉われる。 戦地より復員後、堕落してしまった息子の修一、彼の妻の美しい娘の菊子、出戻り…
あなたは、家族や親しい人からの何気ない一言に、心が深く傷ついた経験はありませんか。悪気がないと分かっていても、忘れられずにずっと胸の奥に刺さっている言葉。多くの人が、そんな経験を一度はしたことがあるかもしれません。 今回ご紹介するのは、第62回群像新人文学賞を受賞した、石倉真帆さんの『そこどけあほが通るさかい』です。 この物語は、関西の田舎町を舞台に、家族や親戚から浴びせられる辛辣な言葉の数々に傷つき、自分の存在価値を見失いそうになる一人の少女・光里の心の叫びを描いた作品です。 読み進めるほどに息が詰まるような苦しさを感じますが、不思議とページをめくる手が止まりません。読み終えた後には、言葉が…
最近、あなたの信じている常識が、ぐらりと揺さぶられるような体験をしたことはありますか。もし、そんな少しスリリングな刺激を求めているのなら、今回ご紹介する一篇がぴったりかもしれません。 今回取り上げるのは、阿部和重さんの『トライアングルズ』という物語です。この話は、小学六年生の「私」の目から見た、彼の家庭教師の先生と、先生が気になっている女性「あなた」との少し変わった関係のお話です。純粋な子供の目から見た、普通じゃない大人たちの行動に、読み始めるともうページをめくる手が止まらなくなります。 読み終えた後、当たり前の日常が少しだけ違って見えるかもしれない、そんな不思議な魅力に満ちた物語です。
こんにちは、かんきっくです。 年末に向けて忙しくなってきました。 そのうちブログに残そうとは思ってるのですが、最近ランニングを始めてみました。といっても、忙しすぎるのと風邪ひいてちょっと日が空いてしまっているのですが。 さて、ここ最近は出張が多く、電車内で小説や新書を読む機会が多かったので、直近でもう一冊。 今回は佐藤厚志さんの荒地の家族を読みました。 ネタばれ注意! あらすじとしましては、東北大震災で職やらなにやら色々なモノを失い、さらには妻も失い、再婚相手には逃げられ、息子とも上手くいかない男、祐志が日々の中で、生き残った事、息子との付き合い方もわからないことなどで感じる罪悪感に悩みつつも…