その本屋は、駅前の通りが眠りにつく頃、ひっそりと存在感を取り戻す。 午前二時。 店の正面は部分的にガラス張りになっていて、外から中が少しだけ見える。営業しているわけではない。ただ、天井から吊るされた電球がいくつか、柔らかな橙色の灯りを落としているだけだ。 本棚の影が床に長く伸び、背表紙の文字は夢を見ているように静かだった。 その静けさの中に、奇妙な音が混じる。 ペタ、ペタ、ペタ。 床を踏む、間の抜けた足音。 本屋の通路を、なぜか一羽のアヒルが闊歩していた。 白い羽毛は少しくすみ、オレンジ色の足が磨かれた床に触れるたび、控えめに音を立てる。急ぐ様子はなく、むしろこの場所を知り尽くしているかのよう…