ああ、こんな風に聞こえるのだな。何と柔らかい音なのか。今初めて聞いたわけでもないのに久しぶりに耳に届いたら、そう思うのだった。バッハの平均律クラヴィア曲集。クラヴィアとは鍵盤楽器。バッハが作曲をした当時はチェンバロだったのだろう。今ではピアノ演奏が多い。初めて触れたのがグレン・グールドの録音だった。十年も二十年も、それだけを聞いていた。同じく名盤とされているスヴャトスラフ・リヒテル、そしてフリードリッヒ・グルダの演奏に触れたのは後年だった。すると聞き馴れていたグールド版とは異なる解釈もあり、そこに惹かれた。豊かな響きのリヒテルと、硬質なグルダの音。僕は後者に惹かれた。多くのピアニストがさらりと…