なぜ今、ハンナ・アーレントなのか なぜ今、ハンナ・アーレントなのか。それは彼女が「正しかったから」ではない。ましてや「勇敢だったから」でもない。 彼女はただ、考えることをやめなかった。それだけのことが、これほどまでに不都合だった。 全体主義は、過去の出来事ではない。それは常に「正義」「被害」「安全」「科学」といった耳触りのよい語彙をまとって再来する。 そして、そのたびに「彼我の善悪を二値化する方が楽だ」という誘惑が、人間を思考停止へと導く。 アイヒマン事件と「凡庸な悪」の射程 アイヒマンは怪物ではなかった。アーレントが見たのは、悪意でも狂気でもなく、省エネ運転に入った思考だった。 命令に従う。…