おやすみ前のやさしいお話

童話や昔話を元に、主人公や視点を変えたオリジナルストーリー

ヘンゼルとグレーテル~魔女の真実~・第九章

第9章:森へ

朝の光が差し込む中、母はいつもより少し高い声で二人を起こしました。

「おはよう。今日はいい朝よ。
 みんなで森へ行って、木の実やキノコを探しましょう。
 きっと、たくさん見つかるはずよ」

父はその言葉に、何も返さず、

キノコを入れる籠や、足元の草をはらうクワを用意していました。

 

ヘンゼルは、まだ眠そうな目をしているグレーテルの手を握り、

そっと立ち上がりました。

 

「お腹が空いた…」

と呟くグレーテルに

「これが最後のパンよ。ちょっと固くなってるけど……

 森で何か見つけたら、一緒に食べましょうね」

と、演じた笑顔で答える母。

「さぁ、ヘンゼルはこのパンを持ってね」

とヘンゼルにパンを渡しました。

 

春の終わりだというのに、

空気は肌寒く、森の奥はさらに冷え込んで、静まり返っていました。

父が先頭に立ち、無言で下草を刈りながら進み、

その後を、母、グレーテル、ヘンゼルの順で続き歩きました。

 

ヘンゼルは母から持たされたパンを少しずつ千切り、道へ落としながら歩きました。

森から家に帰るための目印にしようと思ったのです。

 

しばらく森を進むと、

「こっちに木の実があるわ!」

と、母が声を張り、ヘンゼルとグレーテルを呼びました。
その声は妙に明るく、森に不自然に響きました。

 

母の元に駆け寄った二人に

「奥にもっと木の実があるかもしれないわ。

 二人とも疲れたでしょう?二人は此処で少し休んでいてね。」

と、父と母はヘンゼルとグレーテルから離れて行きました。

 

ヘンゼルは、小さくなる両親の背中を見送りながら、固いパンを握りしめました。


グレーテルは兄の袖をつかみ、にっこり笑って言いました。

「木の実、沢山見つかるといいね。」

 

ヘンゼルは頷きましたが、その胸には、冷たい風が吹いていました。

 

 

続く~第十章へ~

 

 

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ヘンゼルとグレーテル~魔女の真実~・第八章

第8章:親の罪、子の覚悟

 

シィラの家が荒らされたあの夜から、

森は以前にもまして深く静まり返っていました。

 

そして、村の世界も、

飢えと寒さが増し、人々の命を削り、灰色に染まっていました。

 

そんな村の片隅の小さな掘っ立て小屋の中に、

両親と2人の子どもが身を寄せ合って暮らしていました。

子どもは兄妹で、兄はヘンゼル、妹はグレーテルと言いました。

 

 

「……もう、小麦も残りわずか……

 明日食べられる物と言ったら、固くなったパンが1つよ…」

母は、壺のヘリに着いた小麦の粉をかき集めながら言いました。

「井戸の水で薄めても、あと何日持つか……」

その声は疲れ果て、顔には不安だけが浮かんでいました。

父は震える手で薪をくべながら

「……それでも、子どもたちだけには、何か食べさせないと……」

と、呟きました。

 

 

そんな両親の会話をヘンゼルは瞼を閉じたまま聞いていました。

「ねぇ……あの子たちを、森に行かせてみたら……?」

母は小さな声で父に言いました。

「森から帰ってきた子どもは、みんな前より元気になっていたじゃない…」

「馬鹿を言うな……!」

父の怒鳴り声が、寒々しい部屋の中に響きわたりました。

「魔女がいる森だぞ!それに、森に送った子ども全員が帰ってきた訳じゃない!

 食べられた子もいるんだ!

 お前は二人が魔女に食われてもいいのかっ!」

 

 

その言葉を聞いたとき、

ヘンゼルの脳裏に、かつて森に向かった幼なじみのアデルの顔がよぎりました。

 

アデルは優しくて、森の小鳥の鳴きまねが得意な子どもでした。

口減らしの意味が分かる年齢だったアデルは、

飢えた弟たちを守るために、自ら森へ向かったのです。


「アデルは魔女に食べられたんだ…」
そう囁く大人たちの声が、村中に燃え広がったとき、

ヘンゼルは必死で否定しました。

「アデルも絶対に帰ってくるよ!」

 

けれど……村の大人たちが言うように魔女に食べられてしまったのか、

アデルは未だ戻りません。

 


(……僕は…アデルみたいには、ならない)
ヘンゼルは、ぎゅっと唇をかみしめました。

 

「……でも、あなた……このままだと……」

母は言いかけて口を噤み、ヘンゼルとグレーテルの寝姿に目を移しました。

「このままだと、あの子たちは飢えて死んでしまう…

 なら……少しでも生きる可能性がある方を、選ぶしかないじゃない…」

 

しばらくの沈黙の後、父は小さく目を伏せ、額に手を当て

「……わかったよ…」

と、絞り出すような小さな声で呟きました。

 

ヘンゼルは目を閉じたまま、震えを堪え、静かに妹の手を握りながら

(……大丈夫。僕が……僕が守るからね)

と、すやすやと眠る妹に囁き、

森から帰ってくる方法を考え続けていました。

 

 

続く~第九章へ~

 

 

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ヘンゼルとグレーテル ~魔女の真実~・第七章

第7章:踏みにじられた静寂

その夜、シィラは月の出を待って、静かに森の奥へと足を運んでいました。

その夜は、数年に一度しか採れない“夜照の花”が咲く夜だったのです。

「“夜照の花”は摘んでおかないと…」

月明かりを受けると青白く光るその花は、重い熱病に効くとされる特別な薬草でした。

シィラは、森の精霊に祈りを捧げながら、“夜照の花”へと向かっていました。

 

 

 

 

その頃、村ではひとつの噂が、焚き火のように燃え広がっていました。

「森には、子どもを食らう魔女がいる──」

恐れと飢えで追いつめられた人々は、いつしかそれが“真実”に変わっていました。

 

その夜、数人の大人たちが松明を手に森へ入っていきました。



やがて彼らは、木々に隠された一軒の小屋を見つけました。

 

そこには、干された無数の草、奇妙な匂いのする壺、

擦り減ったすり鉢、薬草を煮るための大鍋……

 

見慣れぬ道具や物が所狭しと並び、村人たちの目には異様に映りました。

 

「見ろ……やっぱり魔女の家だ!」

「これは人を呪う薬じゃないのか?!」

「魔女め……こんなところで何を……!」

「帰ってこなかった子は…ここで食べられたんだ!」

 

誰からともなく、

壺が叩き割られ、乾いた葉が撒き散らされ、道具が蹴り飛ばされました。

怒りと恐怖で、空気が濁ってゆく。

 

もう誰にも、この流れを止めることはできませんでした。

中には恐怖のあまり、棚を倒し、火をつけようとする者もいました。

 

やがて、家の壁は崩れ、窓は砕かれ、静かな森の一角は荒んだ音に包まれました。

 

シイラの家をめちゃくちゃにし、

少し気分の晴れた村人達は、その場を去って行きました。

 

 

 

夜明け前の薄明りの中、

帰宅したシィラは変わり果てた我が家の前で立ちすくんでしまいました。

割れた壺、踏み荒らされた薬草、倒れた棚、折れた扉。

母と祖母から受け継いだ、大切な記憶の品々までもが、無残に壊されていたのです。

 

「……どうして……」

だんだんと明るくなる森の中、シイラの嘆く声が小さく響くのでした。

 

 

続く~第八章へ~

 

 

 

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ヘンゼルとグレーテル~魔女の真実~・第六章

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ヘンゼルとグレーテル~魔女の真実~・第五章 - おやすみ前のやさしいお話

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ヘンゼルとグレーテル ~魔女の真実~・第一章 - おやすみ前のやさしいお話

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第6章:森に消えた声

 

それからというもの、

シィラはたびたび、森で倒れている子どもを見つけるようになりました。


皆、痩せ細り、手足は冷えきり、目には光がなく、

生きる望みを失っているようでした。

 

その度に、シィラはそっと抱きかかえ、自らの小屋へ運び、

薬草で煎じた湯を与え、火を焚き、温かな粥で癒しました。

夜は手を握り、先祖リーネの力が宿る手をかざし、子どもの生を祈りました。

 

そして、子ども達が健康を取り戻すようにと

「大丈夫よ」と、耳元でささやきながら共に眠りました。

 

ある者は数日で元気を取り戻し、ある者は熱にうなされながらも、

次第に笑顔を取り戻しました。

 

衰弱しすぎて、幾人かは助けられない子どももいましたが――

シィラはその亡骸を、家の裏手に静かに埋葬しました。

「どうか、心だけでも、家に帰り、

 ご両親に別れを告げてから、天に召されますように」

そう祈りを込めながら、墓の上にその子の履いていた靴をそっと置きました。

それは、彼らが生きた証であり、忘れてはならぬ命の重みでした。

元気を取り戻した子供たちは、

皆、名も告げず、家のことも語らぬまま、小道を戻って行きました。

シィラの姿が見えなくなるまで、何度も振り返りながら…。

 

 

 

やがて──

「森に捨てた子どもが、戻ってきた。

 森で“女”に助けられたって言うんだ!」

という噂が、村に広まり始めました。

 

「そんなはずない…うちの子は帰ってこなかった!」

「でも、うちの子も“女に助けられた”って言ってたわ。

 それに…太って帰ってきたの」

「これは、おかしい…よな?」

「……もしかして、森に・・・魔女がいるんじゃ…?」

 

元気になって戻ってくる子どもと、帰らぬ子ども――

その違いは何なのか?

 

人々の囁きはやがて疑念へと変わり、村に不安が広がっていきました。

「森にいるのは、魔女に違いない」

「帰ってこない子どもは、魔女に食べられたんだ」

 

貧しさゆえに子どもを森へ置いてくるのは、仕方のないこと――

けれど、我が子が魔女に食べられる――

この想像だけは、どうしても許すことは出来ない。

 

「魔女さえいなければ、うちの子は助かったかもしれない」

「子どもを返さなかったのは、魔女のせいだ」

 

村人たちの胸に芽生えた怒りと恐怖は、やがて理性を追い越しました。

 

そして、ついに、男たちは松明と斧を手に、

重い足音を響かせながら、森の奥へと踏み込んでいったのです──

 

 

 

続く~第七章へ~

 

 

 

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ヘンゼルとグレーテル~魔女の真実~・第五章

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ヘンゼルとグレーテル~魔女の真実~・第四章 - おやすみ前のやさしいお話

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ヘンゼルとグレーテル ~魔女の真実~・第一章 - おやすみ前のやさしいお話

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第5章:森に残るひとひらの灯

 

リーネが生きた時代から、およそ五百年の時が流れました。


彼女の血を引く者たちは、代々マレア族の教えを守りながら、

森の奥で静かに暮らし続けてきました。

 

リーネの特性は、不思議なことに代々その家の第一子に受け継がれていきました。

草花に手を添えれば、香りと色で薬効を見抜き、

苦しむ獣に手をかざせば、その痛みが静かに和らいでいく──

まるで、森そのものの声を聴くかのような力でした。

 

しかし、外との交流を断ったまま暮らすマレア族は、やがて数を減らしていきました。

他の村から命を迎えることもなく、血の濃さを恐れて新たな家族も築けず、

ひとり、またひとりと、静かに姿を消していったのです。

 

そして今、森に残されたのは、シィラただ一人となりました。


シィラはリーネの血を受け継ぐ、最後の娘でした。

彼女は祖母や母から受け継いだ知恵のとおりに薬草を摘み、

森と語らいながら、ひとり静かに暮らしていました。

 

そんなある日のこと、森の奥に、かすかな足音が響きました。

それは、やせ細った小さな子どもでした。

ぼろぼろの服をまとい、顔色も悪く、その子はシィラの目の前で倒れ込みました。

 

シィラはその子を抱きかかえ、自らの住まいへと運びました。




暖かな粥を炊き、薬草を煎じて与え、夜はそっと手を握って眠りました。

シィラの手は、先祖リーネの手と同じように、優しく静かな光を放っていました。

その温もりには、リーネがこの地で生きた証が息づいているように感じられました。



何日か看病を続けると、子どもは少しずつ元気を取り戻し、

「あなたが助けてくれたの? ありがとう」

と、微笑むようになりました。

 

「どうして、森の中に一人でいたの?」

そうたずねると、

「……僕の家、貧乏だから……」

と、子どもは目を伏せました。

 

シィラは、それ以上問い詰めることができず、ただ、

「そ、そう……なのね……」

とだけ答えました。

 

 

 

数日後──

「君はもう大丈夫。元気になったし、そろそろお家へ帰ったほうがいいわ。

 ご両親も、きっと心配していると思うの」

シィラはそっと微笑みました。

「……うん。そうだね……」

 

子どもは、名も、家も明かさぬまま、シィラの家を出て、

何度も、何度もシィラを振り返りながら、森の小道を歩いていきました。

 

シィラは木々の間からその姿を見送りながら、ふと不安を覚えました。

――外の世界では、良くないことが起きているのかもしれない。

 

今日まで完全に閉ざしていた外の世界。

その外の世界では、大飢饉が起きていたのです。

 

 

 

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ヘンゼルとグレーテル~魔女の真実~・第六章 - おやすみ前のやさしいお話

 

 

 

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ヘンゼルとグレーテル~魔女の真実~・第四章

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ヘンゼルとグレーテル~魔女の真実~・第三章 - おやすみ前のやさしいお話

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ヘンゼルとグレーテル ~魔女の真実~・第一章 - おやすみ前のやさしいお話

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第4章:森に生まれし者

 

誰も知らぬ森の奥、陽の光がわずかに射し込む静寂の地に、

マレア族は新たな集落を築きました。

倒木に苔を生やし、小川のせせらぎを導き、

精霊の声に従って住まいを定めました。

 

以前のように、歌を口ずさみ、薬草を摘み、

夜には月を仰いで、森と共に静かに生きる日々が戻ってきたのです。

けれど、燃え落ちた家の匂いも、罵声も、あの夜の寒さも──

村を追われた記憶は、誰の心にも消えぬ傷として残っていました。

焚き火の夜、長老は子供たちに静かに語りかけました。

「怒りは、心を濁らせる。だが、忘れてはならぬ。

 私たちは“忘れられた者”ではない。精霊は今も我らを見ておられる。」

 

マレア族が森の奥に隠れてから数年の後、森に一人の赤子が生まれました。

赤子が産声をあげた瞬間、森の風がざわりと鳴き、木々が優しく揺れました。

 

その少女には“リーネ”という名が与えられました。

 

リーネは、不思議な子どもでした。

 

言葉を覚える前から草の匂いに頬をほころばせ、

リーネが手を伸ばすと、必ず柔らかな風が吹きました。

傷ついた小鳥や動物にそっと手を添えると、

彼らはまるで傷が癒されたかの様に、元気を取り戻すのです。

 

「この子には、森そのものの声が聞こえているのかもしれない」

そう囁き合いながら、

マレア族の人々はリーネ力を精霊からの贈り物として喜び、見守りました。

 

ですが、一方で、マレア族の人々には、拭いきれない不安が芽生えていました。

 

──リーネの力は、マレア族以外の人々には脅威と映るのではないか?

 

 

 

リーネの誕生を境に、マレア族はさらに静かに森の奥へと身を潜め、

外の世界から遠ざかっていったのでした。

 

 

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ヘンゼルとグレーテル~魔女の真実~・第三章

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ヘンゼルとグレーテル~魔女の真実~・第二章 - おやすみ前のやさしいお話

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ヘンゼルとグレーテル ~魔女の真実~・第一章 - おやすみ前のやさしいお話

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第3章:飢えと疑い

 

西暦809年、マレア族の住む森と接する地に、長く重い冬が訪れました。

雨が全く降らず、春が来ても種は芽吹かず、夏になっても畑は実らず、

村人達は日々の糧にほとほと困っていました。

 

更に、久々に雨が降ったかと思うと、今度は雨が止まず、大洪水がおこりました。

 

村々には、飢えて、体が弱っていた人々が多くいた為、疫病が蔓延しました。

 

 

「神の罰だ」「悪魔の仕業だ」

人々は恐れ、疑い、そして理由を探し始めました。

 

やがて誰が言い出したのか

「森の民が、何かをしているのではないか?」

と言う噂が広がりました。

 

村々では、マレア族が使う薬草や祈りの言葉が

不吉なものとして結びつけられ、

「魔女の呪い」という噂がどんどん広がっていきました。

 

やがてそれは怒声となり、村人達は松明を持ち、森へと向かいました。

 

村人達は

「マレア族が我々を呪ったのだろう!」

「お前たちが、病を広めたのだろう!」

と、飢饉と疫病の原因をマレア族が起こした物と決めつけ、

マレア族の家々を焼き払ったのです。

「私たちにそんな力はありません!」

「私たちは森の声を聴いているだけです!」

マレア族の人々は泣きながら訴えましたが、

怒りに狂った村人達は聞く耳を持ってはいませんでした。

 

飢えや疫病で、これまでの暮らしが出来なくなった村人達は、

誰かを罰する事でしか、自身の心を慰める事が出来ない程、追い込まれていたのです。


「魔術の証拠」を探し、

マレア族に古くから伝わる薬草や書物を見つけると、踏み荒らし

「これこそ、マレア族が我々に呪いをかけた証拠だ!」

と、薬草や書物に火をつけました。

 

怒り狂う村人達を見つめ、マレア族の長老は言いました。

「森の奥へ行こう。精霊たちは、まだ我らを見捨ててはいない」

 

 

『戦いや争いからは、何も生まれない』

これは、マレア族の経典の一つでもあったのです。

 

 

マレア族は、自らの手で作った森の暮らしを後にし、

さらに深く、誰も知らぬ森の奥へと歩みを進めました。

 

夜の帳が降りる中、子どもたちの手を引きながら、

誰もが心の中で、そっと祈りを捧げていました。

 

森よ、我らを守り給え──と。

 

 

 

~続く~第四章へ~▶

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ヘンゼルとグレーテル~魔女の真実~・第二章

前回のお話▶

ヘンゼルとグレーテル ~魔女の真実~・第一章 - おやすみ前のやさしいお話

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第2章:森の民、マレア族

遥か昔、森に“マレア族”と呼ばれる少数民族が暮らしていました。


彼らは森の精霊を敬い、木々と話し、動物と共に生きる民でした。

 

火を囲み、月の満ち欠けに合わせ歌を捧げ、

傷ついた者には薬草を煎じて癒やしを与えました。


マレア族の女性たちは、とりわけ薬草の知識に長けていました。

「病は森が教えてくれる」

「病は森が癒してくれる」

そう信じ、草を摘み、根を砕き、香りと苦味を記憶に刻んでいきました。

 

けれど、彼らの祈りや言葉は、外の人々には奇妙に映りました。

草木の囁きに耳を傾け、動物の声を聴き、

月や雲や風の動きを見るマレア族の暮らし方は、

日々の仕事に追われ、目の前の事柄を処理する事に懸命だった人々には

「そんな暇があるなら、働けば良いのに…」

と、怠けているようにも見えたのです。

 

 

やがて「精霊と話す民」は“魔術を使う魔女”と呼ばれるようになりました。

マレア族の人々を見る目は、奇妙ではなく、恐れへと変わっていったのです。

 

それでもマレア族は、森に背を向けることはありませんでした。

 

森こそが彼らの家であり、精霊こそが彼らの祖先だったのです。

 

 

 

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ヘンゼルとグレーテル ~魔女の真実~・第一章

第一章:森の民の記憶

 

かつて、森の奥深くに“魔女の家”と呼ばれた家がありました。

今では朽ち果て、石と灰だけが残るその跡地には、

春になると白い小さな花がひっそりと咲くのでした。

 

 

 

魔女の家があったとされる森の近くには小さな村があり、

村の中央には少年と少女の象が立っていました。

象のプレートには「村の英雄・ヘンゼルとグレーテル」と書かれていました。

 

村人たちは言います。

「昔、あの森の奥には人喰いの魔女がいたんだ。 

 子どもをさらい、太らせ、最後には食べてしまう恐ろしい女だったそうだ。

 けれど、ヘンゼルとグレーテルが魔女を倒し、村に平和を取り戻してくれたんだ。

 ヘンゼルとグレーテルは村の英雄なんだよ。」

 

けれど、ヘンゼルとグレーテルの子孫達は、また違う話をするのです。

「本当は魔女なんていなかったの」

「子どもを太らせた理由は…」

「あの白い花はね…」

 

 

 

村人達の話が本当なのか、

ヘンゼルとグレーテルの子孫の話が本当なのか、

真実を知る者は、もういません。

 

 

 

森を吹き抜ける風は、時折村まで、甘く優しい香りを運んで来ます。

まるで誰かが、「真実を探して…」と囁いているかのように──

 

 

 

~続く~第二章へ~▶

ヘンゼルとグレーテル~魔女の真実~・第二章 - おやすみ前のやさしいお話

 

 

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ジャックと豆の木~空の三宝~・エピローグ

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ジャックと豆の木~空の三宝~・第十三章 - おやすみ前のやさしいお話

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ジャックと豆の木~空の三宝~・第一章 - おやすみ前のやさしいお話

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エピローグ:空に還る宝

 

雲の上――
誰も知らない静寂の中、柔らかな光が差し込む大樹の元に、

かつて地上に奪われた三宝の二つ、金貨の壺と、黄金のガチョウが、

静かに戻ってきていました。


その傍らで、長い髭を撫でながら、ひとりの老人が小さく呟きました。

「……やれやれ、人選を、間違えてしもうたわい」

老人は頭に手をやりながら、苦笑いしました。

 

彼は、かつてジャックに豆を渡した“天上人”でした。

本来なら、天と地を再びつなげ、「足るを知る者」へと育て、

三つの宝を通して人々の心を導くはずでした。

 

ですが、老人が選んだのは、欲望に抗えぬジャックでした。

壺も、ガチョウも、そして最後のハープさえ――

彼の手に渡った瞬間から、世界は“渇望”の色に染まりはじめたのです。

 

「さて…麗しのハープは……どうしたものかのう」

老人は、まだ戻ってこない最後の宝に目を細めました。

 

「人間たちが、自ら“足る”ということに気づかぬ限り……

 この先もずっと、

 “物質への渇望”と“際限なき欲望”は、鳴り止むことはなかろう」

 

彼の声は、空に溶けていくように静かでした。

 

「天と地が再びつながれば……

 きっと人々は、本当の幸せを思い出せるというのにのう……」

 

老人はそう言うと、雲の地面に一粒の豆を投げました。

豆はするすると芽を出し、天へと向かって伸びてゆきました。

 

天へ延びる蔓を見つめる老人の背後には、

静かに微笑むアルディンの姿がありました。


それは、まだ希望があることを知る者の微笑みでした。

 

 

 

~おしまい~

 

 

 

 

 

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ジャックと豆の木~空の三宝~・第十三章

第十三章:響き続ける音

 

ハープを売ったあと、しばらくの間、ジャックの暮らしは華やかでした。

贅沢な食事をとり、街で評判の酒場に通い、

着飾った姿で歩くことに誇らしさを感じていました。

 

けれど、そんな暮らしは長くは続きません。

金貨はどんどん減っていき、焦燥感が膨れるばかり。

 

そしてそれは、母も同じでした。

母の目に浮かぶ“もっと欲しい”という光――

それは

かつて、空の宝を求め続けた自分の目と同じだ!

と、気づいたジャックは目を逸らしました。

 

「あの巨人…ハープを奏でるな、と言っていた・・・

 ハープを弾かなければ…母さんは、こんなにはならなかったのか?」

そんな後悔が、彼の胸を締めつけました。

 

 

 

「働くか…」

ジャックはぼそりと呟きました。


それは、空の宝に頼ることをやめ、

初めて自分の手で何かを得ようとする、小さな決意でした。

 

欲しい物があるなら、それに見合う汗を流すしかない。

欲の為にも…。

金の壺も、ガチョウも、もうないのだから。

 

 


けれど――

彼のその小さな改心は、

世界全体の“欲望の音”を止めるには、あまりにも遅すぎたのです。

 

 

 

 

時は流れ――

空に届いていたあの蔓は、もはや誰の記憶にも残っていません。

雲の上の番人も、金貨の壺も、黄金のガチョウも、

物語の中だけの存在となりました。

 

ですが、ひとつだけ――まだこの世界に残っているものがありました。

 

風のない朝。
スマートフォンの通知音に追われながら、人々は目も合わさず駅へと急ぐ。


誰もが画面を見つめ、光に包まれ、耳にはイヤホン。

巨大なビルの壁面には広告が流れ続ける。

「もっと、多く」
「もっと、豊かに」
「もっと、欲しい」

空に浮かぶ雲を見上げる者は、ほとんどいません。

人々は「足りない」と思うことが、日常になりました。

 

そんな現代(いま)――

ある楽器店の奥に、ひっそりと神秘的な光沢を放つハープがありました。

それは、ジャックが最後に売り払った“空の三宝”のひとつ――あのハープでした。

 

あれから何人もの手を渡り、演奏され、また忘れられ、

それでも捨てられることは一度もなく、現代まで生き延びてきたのです。

 

時折、誰かがその弦に触れ、

ポロン

と音を奏でると、人々の心はざわめき始めます。

「……なぜか、焦ってしまう」

「もっと何かしなければ…」

そんな違和感を抱きながらも、

人々はつい、もう一音、また一音とハープを奏でてしまうのです。

 

これは、麗しのハープが地上で音を奏でる度、

人々が“物質への渇望”と“際限なき欲望”を呼び起こされているからです。

 

天と地の秩序を守ろうとした“空の番人・アルディン”の祈り。

そして、欲望に飲まれていった一人の少年、ジャックの物語。

 

誰も知らないその真実が、

ハープの音色となって、今もどこかで静かに奏でられているのでした。

 

 

 

 

続く~エピローグへ~

 

 

 

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ジャックと豆の木~空の三宝~・第十二章

前回のお話▶

ジャックと豆の木~空の三宝~・第十一章 - おやすみ前のやさしいお話

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ジャックと豆の木~空の三宝~・第一章 - おやすみ前のやさしいお話

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第十二章:欲望の旋律

 

翌日もハープを奏でてみたジャックでしたが、

どれだけ待っても奇跡の兆しはありませんでした。

 

ジャックはじっとハープを見つめ、意を決して立ち上がり、

ハープをそっと抱え、街へと歩き出しました。

 

 

 

町の骨董屋でハープを見せると

「ほぉ……これはまた、見事な作りだ。

 細工も音色も……まるで天上の品だな」

そう言って、店主は思いのほか高い金額を提示してきました。

 

「こんな値がつくなんて……」
ジャックは驚きつつも、にやりと笑い、ハープを売り渡しました。


金貨のずっしりとした重み。

かつて味わった興奮が、再びジャックの胸に蘇りました。

「これで、しばらくは困らない……」

 

 

家に帰る道すがら、ジャックは酒とご馳走、

そして新しい服を買い、帰る頃にはまるで別人のようになっていました。

 

ジャックが新しい服を着て家に帰ると、母が台所で何かを探していました。

「ああ、帰ったのね。ジャック、また金貨を出してほしいの。あの壺はどこ?」

ジャックは、いつもと様子の違う母に驚きながら答えました。

「……壺なら、なくなったよ・・・」

「な、なくなった? じゃあ……じゃあ新しい壺は? 探してこられないの?

 お願い、探してよ、ジャック!」

 

母の声はいつもと違い、どこか急いているような、焦りを帯びた響きでした。

「……か、母さん、どうしたんだよ?」

 

母はふっと我に返ったように笑い

「ごめんね、変なこと言ったわね」

と、薄く笑いながら呟きました。

 

ですが、その目は、以前とは違う『何か』を含んだ眼差しでした。

 

 

 

麗しのハープが地上で奏でられたその日から、

音の呪いは、静かに、静かに人の心に入り込んで行きました。

足ることを知っていた者の心にさえ、「もっと」という欲が芽生えはじめたのです。

 

本来、その音色は天上の風とともに響き、命あるものすべてを癒す聖なる調べでした。

けれど一度、地上に降りた瞬間から――

その旋律は歪み、“足りない”という感情を植えつける呪いへと姿を変えるのです。

 

ハープ自身は、何ひとつ変わらず、美しい音を奏でるだけですが、
奏でる場所が違えば、その意味もまた、まるで別のものになるのでした。

 

 

それは、決して暴力的ではなく、ただ“音”として――
耳ではなく、人々の心に響き、染み込んで行くのでした。

 

 

 

 

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ジャックと豆の木~空の三宝~・第十三章 - おやすみ前のやさしいお話

 

 

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ジャックと豆の木~空の三宝~・第十一章

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ジャックと豆の木~空の三宝~・第十章 - おやすみ前のやさしいお話

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ジャックと豆の木~空の三宝~・第一章 - おやすみ前のやさしいお話

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第十一章:奏でるな

 

金貨の壺も、黄金のガチョウも消えてしまった今、

ジャックがすがれるのは、たったひとつ――ハープだけでした。

 

「……そうだ! ハープは? ハープは……消えてないよな……?」

自分に言い聞かせるように、ジャックは立ち上がり、

再び納屋へと向かいました。



納屋には、小窓から差し込む月明かりに照らされた、

変わらぬ姿のハープがありました。

ハープは、まるでその姿を祝福されているかのように、

神秘的な光を纏っていました。

 

「良かった。これだけは消えてない。きっと、また富を得られる…」

 

ハープに、そっと手を伸ばそうとしたそのとき――

 

「……ハープを……奏でるな……」

アルディンの声が、ふいに脳裏によみがえりました。

 

その声は、怒りではなく――

哀しみを帯びた、忠告のようにも聞こえました。

 

「……なぜ、奏でてはいけない? 願いが叶うんじゃないのか?」

 

ハープに触れようとするたび、

ジャックの心には、あの言葉が繰り返し響きました。

 

「奏でるな……」

 

ジャックの額には、じんわりと汗が滲んできました。


「このハープを奏でたら、どうなると言うんだ?」

ハープはただ、静かに、静かに…ジャックを見つめていました。

 

すでに金貨の壺も、黄金のガチョウも消えてしまった今、

ジャックにはこのハープしか残されていませんでした。

 

「……これを弾けば、何かが起こる。そうだろ? 

 空にあった宝の一つなんだから……」

 

ジャックは、意を決して、弦に触れました。

 

ポロン――

 

一音。それは美しく澄んだ音色で、静かな夜の空気を震わせました。

 

さらにもう一音、そしてもう一音。

 

しかし――何も起きませんでした。

 

金貨が降ってくることも、ガチョウのように金の卵が転がり出る事もなく、

ただ美しい旋律が納屋に響くだけでした。

 

「なんだよ……このハープは……っ!!」

ジャックは立ち上がり、

怒りのあまりハープを蹴り飛ばしそうになりましたが、なんとか足を止め

 

「……ちくしょう……」

と、力なく呟き、ハープを見つめたまま、立ち尽くしていました。

 

 

 

しばらくして、納屋を出ると、家の外で母が空を眺めていました。

 

ジャックに気付いた母は

「……なんだか……心がざわざわして、眠れないの……」

と小さな声で、呟きました。

 

母の目に宿った違和感――

それは、静かに、何かが始まっていることを告げていたのでした。

 

 

 

 

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ジャックと豆の木~空の三宝~・第十二章 - おやすみ前のやさしいお話

 

 

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ジャックと豆の木~空の三宝~・第十章

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第十章:消えた宝

 

ドスン!

大地を揺るがすような音と共に土煙が舞い上がりました。

土煙が落ち着いてくると、アルディンが倒れているのが見えましたが、

彼はピクリとも動きませんでした。

 

ジャックは腰を抜かし、その場に座り込んでいましたが、

「はぁ……助かった……」

と、ほっと胸をなでおろしました。

 

ジャックは恐る恐る、動かなくなった巨人の側に近づいて行きました。

 

すでに亡くなったと思っていた巨人でしたが、微かに息をしているようでした。

巨人は近づいて来たジャックに最後の力を振り絞るように言いました。

 

「……ハープを……奏でるな……」

 

「えっ……?それは、どういう・・・」

どういう意味だ?とジャックが聞こうとした瞬間、

巨人の体はふっと風に溶けるように、砂の粒となり、空へと舞い上がっていき、

同時に空に伸びていた蔓も消えてしまいました。



「……消えた……」

ジャックは呆然と立ち尽くしていましたが

「そうだ!ハープ!!」

と、納屋へと走りました。

雲の世界から盗んできたハープは、雲の世界にあった時と同じように、

ただそこに静かにたたずんでいました。

「はぁ・・・良かった。」

と、ハープを眺めていたジャックでしたが、目の端に違和感を覚えました。

 

納屋の奥にいる金のガチョウ…その姿が昨日までとは違って見えたのです。

「ん?なんだ??」

と、金のガチョウに近づいて行くと…

なんと、ガチョウの姿はどんどんと透けて行き幻影のように揺らぎ、そして――

「ま、待て……!」

手を伸ばした瞬間、ガチョウはひとすじの風となって、ふわりと消えてしまいました。

 

「なんで……?」

ジャックの胸にざわりとした不安が広がりました。

 

ジャックはすぐに家の中へ駆け戻り、台所の金貨の壺を確認しようとしました。

 

「お願いだ……まだ、あるよな……?」

金の壺を置いたはずの台所には何もありませんでした。

 

「どこかに移したか!?」


ジャックは、バタバタと、台所の戸棚と言う戸棚を開け、全ての籠を開き、

金の壺を探し周りました。

 

ですが、金の壺はどこにもありませんでした。

 

「嘘だろ……?嘘だよな……」

ジャックは力が抜け、床に座り込んでしまいました。

 

 

 

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ジャックと豆の木~空の三宝~・第九章

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第九章:追われるジャック

 

最後の宝を手に入れる為、ジャックは三度、蔓を登ってきました。

欲望は、もう引き返せないところまで膨らんでいたのです。

 

ハープの元へと忍び寄るジャックの足音は、大樹の根元に響いていました。

「静かに・・・静かに・・・」

そう呟きながらハープに手を伸ばした瞬間

「何をしている!!」

背後から轟くような怒声が響きました。

 

空の番人・アルディンが目を吊り上げ、ジャックに駆け寄って来ました。

 

「ひぃぃぃ……!!」

ジャックは驚き、飛び上がってしまいましたが

「やばいっ!いそげっ!」

と言いながら、しっかりとハープを抱え、脱兎のごとく駆け出し、

登ってきた蔓へと走りました。

 

「待て!!貴様は、自分が何をしているのか分かっているのか!!」

 

ドスドスと、アルディンの足音がジャックにせまり、

雲の大地が震え、風が怒りのように渦巻きました。

 

 

「逃げろ逃げろ逃げろーーーっ!!」

ジャックは必死に、雲の中に垂れる蔓をつかみ、

滑り落ちるように地上を目指しました。

そのすぐ後を、怒りに燃えたアルディンが追ってきます。

 

「このままじゃ……追いつかれる!!」

 

やっと地面にたどり着いたジャックは、抱えていたハープを納屋に投げ入れ、

中にあったナタを手に取ると、夢中で蔓を切り始めました。

 

蔓は太く、しぶとく、なかなか切り倒す事は出来ません。

 

「切れろ、切れろ、切れてくれよおお!!」

と、叫びながらナタをふるい続け、

蔓を下ってくるアルディンの大きな足が後、数メートル先に見えて来た頃、

 

バシンッ!!

 

と、ついに蔓が根元から裂ける音が響きました。

 

(9-12)その瞬間、上空から

「うわぁぁぁぁ・・・」

と言う叫び声と共に、アルディンが地上に落ちてきました。

 

 

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