世に伝説といわれるカレー店は数あれど、ここ以上のお店はないでしょう。
いや、最早カレー店と呼ぶこと自体失礼かも知れません。
それほどまでに、さまざまな伝説、さまざまな噂が詰まったお店。
山形市。

賑わう中心街のすぐ裏手路地に、その店はあります。

『ジャイ(JAY)』
小さなスナックのような佇まいです。
入っていいのかどうか迷うかも知れません。
ですが「やってますか?」というコトバはこの店ではNGワード。
そう訊いた時点でお店へは入れない、そういう噂。

入り口の看板に明かりが灯っていれば「営業中」の証。
そのまま入りましょう。
おっと。
30歳以上の男性の短パン履きはここではNG。
即退店、そういう噂。
ともあれ、お店の中はただならぬ雰囲気です。

ただならぬ雰囲気、ただならぬ存在感の店主、由利三(ゆりさん)さんが出迎えてくださいます。
由利三氏はまだ、インド料理店が日本にほとんどなく、日本語で記されたインド料理本もなかった1970年代からインド料理を作り続ける、日本人インド料理シェフのパイオニア的存在で、幾多の巨匠たちから「ナンバーワン」と一目置かれる腕と知識の持ち主。
1980年には伝説の深夜番組『イレブンPM』で日本一のインド料理に認定されたそうです。
もともとは都内の吉祥寺で『だんらん』というお店を営み、その後仙台へと移り『ジャイマール』という名前で営業を続けました。
そして2001年12月に山形県へ移住しこの『JAY』をオープン。
『JAY』とは「勝利」という意味だそう。
提供するのはインドの家庭的な野菜料理と、ムガライ宮廷料理の流れをくむ肉料理。
一般的にイメージするナンとバターチキンのようなインド料理とは全く別物の、いろいろな意味でリアルなインド料理がいただけます。
料理の内容はそのときどき。
さて、この日は。

★カリースペシャルセット ¥2640
・ムルグカリー
・アンダーマサーラー
・ヴェジタリアンカリー
・プラオ
・プーリーorチャパティ
・チャトニー
・ピックルス
・マサーラチャイ
・ライタ
・焼きものの中から一品
パンはプーリーを、焼きものはシャミカバブを選択しました。

これらの料理について、生半可な説明は野暮というものでしょう。
ともあれ、これだけの品数のインド料理をご高齢のシェフがお一人で、黙々と作り続けていること自体、只事ではない。

そして、私自身もはじめ驚き、他の訪問者に訊いてもみな驚くポイントがひとつ。
一品一品が酸っぱいんです。
それもただタマリンドやレモンで加えたというのではなく、熟成されたような酸味がある。
別の機会に由利三さんの料理をいただいた時もそう。
一瞬「ん?」と思うかもしれないけれど、食べ進むにつれこの酸味があってこそ、と思うようにも。
他国の料理で例えるなら、キムチや梅干し、初めて食べる人は酸味を抑えたものを好むかもしれないけど、徐々に酸味がしっかりのものを欲するようになる、その感じに近いかも。
「酸っぱいでしょう?」由利三さんも言う。
インドのインド料理の「こんな感じ」を堂々と表現、これは一般的なレストランではビビッてできないでしょう。
なんにせよ、不思議に食がガンガン進むことは間違いないんです。
こちらはサービスで出してくださったインド・ラジャスタン地方の「トマトとジャガイモ煮込み」(フィリーニー?)。

月ごと、インドの地方ごとのテーマを決めて料理教室をひらく由利三さん。
それに合わせ作られる手書きの新聞「ジャイ通信」は、その地方の料理だけでなく文化についても記述された保存版。
情報が簡単に手に入らない時代から独学で研究をつづけた由利三さんだからこそ。
そしてそれは逆に、なんでも簡単に検索できる反面、「どんな情報もネットで手に入る」と思い込んでしまっている今の人々たちへのアンチテーゼでもあります。
本当にリアルな一次情報は、自ら労力を費やして取りに行かねばならない。
こんな当たり前のことを、全く知らない人が大量生産されている今だからこそ、この『JAY』と由利三さんの存在は貴重なのだと感じます。

ところで噂では「由利三さんはかつて演劇関係の方だったらしい」と聞いていました。
確かに料理への探求心、知的好奇心はまさに、そういった芸術関係との親和性を感じるのですが、その真相についてもご本人から伺うことができました。

曰く、バブル以前の経済成長期、六本木や新宿の巨大キャバレーに設置されていた巨大水槽。
その水中ショーの演出(ライティングや衣装など)に携わっていたそう。
「そういう需要もなくなってね。」
やはり只者ではありません。
ネットで知ることができるその何倍も深い世界が、ここにはありました。
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