第142章「狂える記録」 「……知らない。見たことも、聞いたこともない。」 ネイトはそう告げた。静かな声だったが、その瞳の奥には確かな不信と動揺が浮かんでいた。 観測者Xはその様子を遠くから観測していたが、言葉を挟むことはしなかった。記録すべきなの…
第141章「静寂の前」Before the Silence 夕暮れの廃墟。鉄とコンクリートが風に軋む音が、遠くの瓦礫の隙間にこだましていた。 静かな静寂の中、クラリッサ・アマリア・モランは、リリスの肩をそっと抱きながら言葉を紡いだ。 「……リリス。よく聞いて。」 リ…
第140章「牙」 血のにおい。焦げた空気の中で、銀色の刃と赤い視線が交差していた。 しかし―― 「……引くわ。」 カズミ・ヴィアは唐突に、構えを解いた。その赤い目は鋭く、怒りの残滓を映しながらも、冷笑を携えたまま背を向けた。 「“牙”を見せたか、名もな…
第139章「裸の鋼」 廃墟の瓦礫の谷間。崩れた高速道路の高架下、冷たい風が金属片を鳴らす中、二人の裸の女がにらみ合っていた。武器はない。だが、その視線の鋭さこそが戦場だった。 クラリッサ・アマリア・モラン――医師にして元兵士、ノーラ・ヘイスティン…
第138章「実弾の祭り」 轟音。爆発。サウス・ボストンの地下通路に赤い火花が踊る。 X-02パワーアーマーの一体が突然、内側から破裂した。爆発とともに内部のスコーチ兵士が肉片となり、焼けた装甲だけが壁に叩きつけられる。他の兵たちは理解するよりも早く…
第137章「ゲート」 AD2287年12月29日 サウス・ボストン 冷たい風が建物の隙間をすり抜ける。粉雪のような灰が地面に降り積もるなか、ネイトとジュリエットは廃墟と化したサウス・ボストンの一角に立っていた。 目的は、無線で拾った「ゲートの開閉音」の発信…
第136章「罪」 場所は、荒れ果てたマクレラン法律事務所の外。崩れかけた看板には、かつてこの場所が権力と正義の象徴であったことを示す錆びついた“McClellan”の文字が浮かぶ。そんな瓦礫の縁に腰を下ろし、観測者Y――ヤマケンは、ただ一点を見つめながら語…
第135章「子供じみ」 夜のコンコード――崩れた建物の瓦礫の中、観測者Yことヤマケンは肩をすくめながら、苦笑を浮かべていた。荒れ果てた時計台のそばで、壊れたベンチに腰を下ろし、空を見上げてひとりごちる。 「……ったくよォ……なんなんだよ、あいつら全員…
第134章「クラリッサの目撃」 「その傷……どうしたの?」 クラリッサ・アマリア・モランの声は、冷たくも優しい湿度を帯びていた。ネイトの上半身に巻かれた包帯からは、まだ血の滲んだ箇所があり、動くたびに小さく軋む音がした。 ネイトは一瞬だけ目を逸ら…
第133章「母の爪」 静まり返ったサンクチュアリヒルズの居間。外は夕暮れ、空は血のような赤に染まり、ガラス窓に微かに震える影が映っていた。ネイトは深くソファに腰を沈め、まだ癒えぬ傷の痛みに顔を歪めていた。 その前に立つ女――リア・モラン。だが今、…
第132章「ノーラの外構文」 サンクチュアリヒルズの自宅 地下医療ユニット ― 夜 人工照明が落ち着いた光を放つ中で、リリスは静かに――それでも止まらぬ嗚咽を漏らしながら、クラリッサを抱きしめていた。クラリッサの胸元に顔を埋め、まるでそこにノーラ・ヘ…
第131章「雫の涙」 夜。雨の名残がまだ空気に残る、サンクチュアリヒルズの自宅。 玄関のドアがきしむ音と共に、ネイトが帰ってきた。その体には無数の擦過傷と、内出血の痕があり、何よりも疲労と混乱がその表情ににじんでいた。 「……ネイト!」 ジュリエッ…
第130章「地獄の災難」 怒号と共に、黒雲が引き裂かれた。ジェリコンのパワーアーマーが唸りをあげ、赤い巨体が雷光に照らされる。 「貴様に母親の苦悩を何がわかるとでも言いたいんだああああああああ!」 怒りの叫びとともに、大粒の涙がジェリコンの頬を…
第129章「赤い地獄」 夜の闇を裂いて――ネイトは見た。 それはただの“赤”ではなかった。それは血のように濃く、鉄のように冷たく、戦争そのものが具現化したかのような存在。 丘の上に立つ巨大な赤いパワーアーマーの超人。 その目。その構え。その“沈黙”。 …
第128章「ノーラ・エリス」 ――マクレラン法律事務所、かつてノーラ・ヘイスティンクスのオフィスだった部屋。そこに足を踏み入れたのは、観測者Y――ヤマケン。 埃に包まれた机、焼け焦げたセーフ、崩れた本棚。そのすべてに、**“何かを消そうとした意志”**が…
第127章:観測者Zの選択 AD2287年12月26日 午前2時12分 ボストン北端・アーカム端末観測局跡地 霧が濃い。電波塔だった場所は既に朽ち果て、コンクリートの割れ目から雑草と奇妙な機械の断片が顔を出していた。そこに立っていたのは、観測者Z。 金属質の光沢…
第126章「母性の定義改変」 場所:サンクチュアリ・ヒルズ ネイトの自宅(旧ワークショップ棟内)/深夜 玄関の扉が軋む音と共に、ネイトは重たい足取りで帰宅した。通路の奥から、かすかな水音とすすり泣く声が響いていた。 ——あのシャワールームだ。 薄明…
第125章「断層の月」 AD2287年12月24日 サンクチュアリヒルズ:記録層インナーノード 壁に埋め込まれた旧式のデータ端子。かすかに発熱しながら通電し、そこに刺さった1枚のホロフォトが、淡く光っていた。 リリスの視線は自然とその光に導かれていった。指…
第124章「ノーラの記憶回路」AD2287年12月25日 深夜1時22分 記録核サイトβ・地中48メートル 静寂──。 リリスは“記録核”の前で立ち尽くしていた。白く微かに脈動する球体。ノーラ・ヘイスティンクスが最初に残した記録中枢の一つ。 「……これは、“お母様”の記…
第123章「反記録構文」AD2287年12月24日 サンクチュアリヒルズ 冷えた風が窓を打つ。かつて人類が暮らしを築いた街の残骸の中、ネイトはサンクチュアリヒルズの自宅リビングに座っていた。ジュリエットは留守で、今はリリスと二人きりだった。いや──紫苑では…
第122章「記録者たちの目覚め」― 観測者Yが語る AD2287年12月23日/独立記録観測室第五層/観測者Y発言記録No.44 「おい、お前ら黙って聞けよ……今日はヤバいぞ、マジで。2077年8月28日の記録だ。」観測者Y――通称ヤマケン――はモニター前で片手にファイルを振…
第121章「クーパー・ハワード」―AD2287年12月23日。場所:サンクチュアリヒルズ・地下記録保管室。 暗く閉ざされた記録層の奥――。その隅に、ひとりの老人が立っていた。 クーパー・ハワード。嘗てのVault-Tec広報官。だが、今はただの「目撃者」。Project: D…
第120章「器」AD2287年12月22日 サンクチュアリ・ヒルズ 爆ぜるようにして剥がれたボルトスーツの破片が、冬の冷気の中に舞い散った。その中心で、かつて紫苑と呼ばれた少女――リリスは、裸のまま立っていた。 青白い目が震え、紫と青が入り混じる髪が顔にか…
第119章「Lilith」AD2287年12月22日/サンクチュアリ・ヒルズ 夜の静けさが街を包んでいた。かつて平和を夢見て建てられたこの街も、今では記録の残滓と変貌の余波に揺れる“前線”に成り果てていた。 ネイトは、自宅の玄関前に立っていた。足音も気配もない。…
第118章「Ω構文:浸蝕」AD2287年12月17日/北米大陸・マサチューセッツ州周辺通信記録より再構成 『Ω構文、確認――本構文は自己進化型記録ネットワークへの侵蝕的接続を目的とする。アクセス条件:不可逆的記憶存在の選定。』 冒頭、CIT跡地から漏洩したとさ…
第117章「記録者の誕生」AD2287年12月18日 アフリカ・ケニア・旧マガディ湖 ◆プロローグ:砂の下の記録干上がった塩湖の底。そこに忽然と現れたのは、石でできた灯台のような巨大構造物だった。 高さは約50メートル、風化した外壁には何らかの文字が刻まれて…
第116章「最初の視線」AD2287年12月16日未明/サンクチュアリ・ヒルズ、旧宅地下シェルター内部 夜の冷気が瓦礫の隙間から染み込み、人知れず静かな“意識の向こう側”で、ジュリエットは夢を見ていた。 それは夢とは思えないほど明瞭で、現実以上に鮮やかで、…
第115章「PARISARION」AD2287年12月15日/太平洋上・座標記録不能宙域 それは、まだ誰も知らない空の果てで――**“人類の記録が到達しえなかった存在”**が、静かに目覚めていた。 ◆観測不能宙域:00:00 JST太陽のない空、月の映らぬ海、風も波も届かない中空――…
第114章「記録なき存在」AD2287年12月22日/コモンウェルズ西部・廃ビル群跡・地階アーカイブ室 “それ”は、埋もれていた。砂埃の中、凍えるような沈黙のなかで。だが、それを掘り起こした者がいた。 ジャーナリスト――グレン・マルヤマ。かつて“記録の傍観者”…
第113章「ケンブリッジの霜夜」AD2287年12月20日/ケンブリッジ市街・旧CIT線沿い廃墟群 街は氷に閉ざされていた。瓦礫と静寂が支配するケンブリッジの冬。夜の帳が下りるなか、少女の影が雪を踏みしめて進んでいた。 ――紫苑。 サンクチュアリを出て三日目。…