映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「小川のほとりで」

「小川のほとりで」
2025年12月15日(月)ユーロスペースにて。午後1時15分より鑑賞(ユーロスペース2/C-9)

~またまたホン・サンス沼にひきずりこまれる

 

渋谷のユーロスペースで開催中の「月刊ホン・サンス」。韓国の名匠ホン・サンス監督のデビュー30周年を記念して5カ月連続で新作を上映する企画で、先月公開になった第1弾「旅人の必需品」に続く第2弾作品「小川のほとりで」の公開が始まった。

ホン・サンス監督の映画はユニークだ。他に類を見ない特徴を持っている。そして、一度観てハマるともう抜けられなくなる。まさしく沼である。沼にどっぷりつかった私は、今回もまたまた足を運んでしまった。

今回の舞台はソウルの女子大学。演劇祭が間近に迫っており、講師でテキスタイルアーティストのジョニム(キム・ミニ)も、それに向けた準備をしていた。だが、演出担当の男がなんと学生相手に三股をかけていたことが発覚。ジョニムは彼を首にしたため(その3人の学生もいなくなった)、穴埋めに叔父のシオン(クォン・ヘヒョ)を招いたのだ。シオンは有名俳優で演出も手掛けていた。一方、ジョニムが何かと世話になっているチョン・ウンニョル教授(チョ・ユニ)が、シオンのファンだということで、ジョニムは2人を引き合わせる……。

ドラマは恋愛模様をはらみつつ進む。恋愛スキャンダルで大学を去った演出助手の男のその後と、シオンとチョン・ウンニョル教授が親密になる様子が描かれる。とはいえ、大事件が発生するわけではない。ジョニムの身の回りのささいな出来事が描かれるだけだ。

映画のタッチもいつものホン・サンス節だ。カメラはほぼ固定。たまに横に振る程度。そして唐突にズームイン、ズームアウトする。なにせ監督、製作、脚本、撮影、編集、音楽はすべてホン・サンスが担当しているから、そうなるのも当然だ。

酒席での会話が多いのもいつも通り。今回も小川のほとりのうなぎ屋やウンニョル教授の自宅など、様々な場所で登場人物が酒を飲みながら会話をする。そこから、様々なことが見えてくる。売れっ子だったシオンが何かのトラブルで干されてしまったこと、この女子大には学生時代に訪れたことがあることなど。また、工学部の学生だったジョニムが、ある神秘体験をしたことがきっかけで人生が変わったことなども語られる。

そうした酒席での会話で面白いのは、会話以外の表情や態度が多くを物語ることだ。会話の内容とは違う感情が、そこから見えてきたりもする。それを観察しているだけで時間が過ぎていく。特に、主人公のジョニムは、シオンやウンニョル教授と酒を飲んでいる時には、2人に比べて口数が少ない。その分、隠れた感情がチラチラと見えたりするあたりが、何ともスリリング!

というようにいつも通りのホン・サンス節が展開するのだが、ちょっと変わったところもある。終盤、演劇祭でシオンが演出した寸劇が披露される。座卓を囲んだ4人の芝居で、それもまた何やら示唆に富む内容。そして、その上演後にシオンと4人の学生が酒を飲むシーンが秀逸だ。シオンが4人の学生に、「どんな人になりたいか詩で表現しなさい」と言う。それに対する学生たちの答えが実に感動的なのだ。こういうシーンは、過去のホン・サンス映画にはあまりなかった気がする。

そして、ラストはまたしても酒席のシーン。シオンとウンニョル教授が酒を飲んでいるところにジョニムが現れる。そこで、ジョニムの母(つまりシオンの姉)とシオンとの複雑な関係が露呈し、ジョニムとの間にちょっとしたバトルが起きたりするのも面白い。そもそもジョニムは教授に呼ばれてきたのだが、身勝手なシオンと教授に立腹している風にも見える。

その後、川に降りて姿を消したジョニム。一瞬、不穏な空気が流れるものの、再び姿を現した彼女のショットで映画は終わる。彼女がいったい何を考えていたのか、あれこれ想像するのもまた楽しいのである。

主演のキム・ミニは、本作で2024年の第77回ロカルノ国際映画祭最優秀演技賞を受賞した。その他の俳優もシオン役のクォン・ヘヒョ、教授役のチョ・ユニ、首になった演出家役のハ・ソングクなど、ホン・サンス監督作品の常連。いずれも含蓄ある演技を披露していて、なかなかに味わい深い。

というわけで、今回もホン・サンスの沼にずぶずぶとハマってしまったのだった。たぶん来月も行くな。聞くところによると次回は全編ピンボケの映画らしい。何じゃ?そりゃ。

◆「小川のほとりで」(BY THE STREAM)
(2024年 韓国)(上映時間1時間51分)
監督・製作・脚本・撮影・編集・音楽:ホン・サンス
出演: キム・ミニ、クォン・ヘヒョ、チョ・ユニ、ハ・ソングク、パク・ミソ、カン・ソイ、パク・ハンビットナラ、オ・ユンス、イ・ギョンミン、ハン・ヌリ、キム・スンジン
*ユーロスペースほかにて公開中。全国順次公開
公式ホームページ https://mimosafilms.com/gekkan-hongsangsoo/
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