「ラブ・イン・ザ・ビッグシティ」
2025年6月16日(月)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後2時35分より鑑賞(スクリーン7/D-9)
~普通に馴染めない男女の友情ドラマ。一見ラブコメだが中身は硬派


タイトルと内容が一致しない映画がある。実際に観て事前に思っていたのとずいぶん違う内容で落胆することもあるが、逆に「こんな映画だったのか!」と嬉しい驚きを経験することもある。
韓国映画「ラブ・イン・ザ・ビッグシティ」はそんな映画だ。事前にタイトルを見て、てっきりラブコメかと思ったのだが、そこには硬派なメッセージがこめられていたのだ。
自由奔放で自分の気持ちに正直に生きるジェヒ(キム・ゴウン)と、ゲイであることを隠して孤独に生きるフンス(ノ・サンヒョン)。正反対な2人は、ある出来事をきっかけに同居生活を始め、お互いにかけがえのない存在になっていく。だが、大学を卒業して社会に出た2人に大きな転機が訪れ、大切な友情に危機が訪れる……。
映画の冒頭、フンスがビルの屋上に行くと、そこでは花嫁姿のジェヒがタバコを吸っていた。なになに? この2人が結婚するのか? 何やら胸騒ぎのするオープニングだ。
その後は、ジェヒとフンスの20歳から33歳までの13年間の日々が描かれる。赤いスクーターに乗って、動き出したバスを強引に止めて、堂々と乗り込んでくるジェヒ。乗客としてそれを見ているフンス。2人は大学の仏文科の学生として出会う。そして、フンスがゲイであることがバレそうになった時にジェヒが助け舟を出したことをきっかけに、親しくなっていく。
見かけはタイトルのように、完全にラブコメ映画だ。テンポよく、ポップな映像で観客を楽しませる。ジェヒが彼氏の家に行き、彼氏を押し倒そうとしたら、母親が帰ってきてさあ大変……というところなどは、いかにもラブコメらしいエピソード。
ジェヒは自由奔放で恋愛も自由だ。そしてゲイにも偏見がない。フンスがゲイを隠そうとしているのを見て、「アンタらしさがなんで“弱み”なの?」と言う。しかし、内気で繊細なジェヒはカミングアウトできない。
正反対に見える2人だが、大きな共通点がある。世間でいうところの「普通」に馴染めないのである。世間には、あからさまではないにしてもゲイに対する差別や偏見がある。自由に生きるジェヒに対しても冷たい視線を注ぐ。
序盤ではSNSなどを通じてジェヒを揶揄するコメントが記される。彼女のバストが何カップだなどと面白おかしく書く。それに対して、ジェヒは教室で堂々とシャツをたくしあげて、「Aカップだけど、文句ある?」と啖呵を切るのだ。カッコいい! フンスはジェヒを「イカれ女」と呼ぶ。
まもなく2人は同居生活を始めることになる。そこでは細かな日常のシーンで、2人の結びつきの強さを示していく。例えば、深夜のクラブでしたたかに泥酔し、翌朝、ひどい二日酔いに苦しみつつ、ようやく準備したチゲを食べ始める2人。その美味しさにたちまち笑顔になる。また、ある時はベッドに寝そべって美顔パックをしながら、他愛のない会話を交わす2人。こうした描写が実に効果的なのだ。
2人はそれぞれ恋愛もする。だが、なかなかうまくいかない。フンスは何人かの男性と付き合うものの、深入りはしない。本当に好きになったら困るからだという。そして、相変わらずゲイであることを隠している。
彼が好意を持った男性に誘われて学園祭に出かけるシーンがある。相手の男性はギター同好会だという。ところが会場に着けば、彼はLGBTのサークルに所属していた。そして、その展示を邪魔する人間が現れる。大学の場にふさわしくないというのだ。それを見てもフンスは何も言えない。
一方、ジェヒは好きになった男にだまされる。相手が姉だと言った女性が、実は別の恋人だったのだ(このあたりもラブコメ風)。お互いに罵り合い、飲み物をかけ合う2人。
こんなふうに、ジェヒとフンスはそれぞれに傷つくが、そんな時にはお互いが寄り添って支えになる。2人は本当に仲が良い。本当の親友とはこういうものなのだろう。
それは大学を卒業してジェヒが就職し、フンスが兵役についても変わらなかった。環境が変わっても、2人の友情は不変だった。
だが、やがて転機が訪れる。ジェヒは弁護士の男と付き合うようになるが、その男は執着心の強い男だった。それが2人の関係にも影響を与える。
後半で印象深いのは、初めのうちはどちらかというと強い女だったジェヒの中にある脆さが現れ、内気で弱々しかったフンスの中に勇気と力強さが芽生えていくこと。それが、終盤のジェヒのピンチをフンスが救う展開へとつながっていく。
この映画のメッセージは明確だ。劇中でジェヒが「世間は異物を排除して優越感に浸ろうとしている。でも、それは劣等感だ」という趣旨の発言をする。社会は何と不寛容なのか。マイノリティーに対する偏見や無理解は様々な機会に顔を出し、人々を苦しめる。それはこの映画の舞台である韓国のみならず、日本でも同様だろう。そんな社会に強烈なパンチを放ち、自分らしく生きることの大切さを伝えているのが本作なのだ。
とはいえ、前述したように見かけはラブコメ。エンタメ映画。笑って泣いてホッコリできる。最後のシーンもそれを象徴している。ゴージャスな結婚式シーン。そしてフンスの熱唱。曲はmiss Aの「Bad Girl Good Girl」。そこにジェヒも加わる。心が温かくなってくるような素敵なエンディングだった。
ちなみに、本作には歌以外にも、ティモシー・シャラメ主演の映画「君の名前で僕を呼んで」など、時代と2人の関係性を象徴するアイテムがうまく使われている。
本作の原作は、国際ブッカー賞やダブリン文学賞といった国際的な文学賞にもノミネートされた韓国の作家パク・サンヨンの連作小説「大都会の愛し方」に収録されている「ジェヒ」。それを「アメノナカノ青空」「女は冷たい嘘をつく」などのイ・オニ監督が映画化した。この監督の過去作の何本かは私も観ているが、なかなかの演出力だ。今回も、卓越した演出力だった。
そして、何よりもジェヒを演じたキム・ゴウンの魅力が爆発だ。映画「破墓 パミョ」やドラマ「トッケビ 君がくれた愛しい日々」で人気だが、自由奔放なジェヒを見事に演じていた。その表情や細かなしぐさも、すべてがジェヒそのもの!
フンス役のノ・サンヒョンの内気で繊細な演技も見逃せない。2人の化学反応が、この友情のドラマを素晴らしいものにしている。
多様性の時代といいつつ、いまだにマイノリティーに対する差別や偏見は根強い。だからこそ、こんな映画がなおさら意味を持つ。エンタメ映画でありながら、硬派な内容を持つ快作。今年観た映画の中でも、有数の作品だった。この映画を観たのなら、あなたもこんな親友が欲しくなるはず。
◆「ラブ・イン・ザ・ビッグシティ」(LOVE IN THE BIG CITY)
(2024年 韓国)(上映時間1時間58分)
監督:イ・オニ
出演:キム・ゴウン、ノ・サンヒョン、チョン・フィ、オ・ドンミン、クァク・ドンヨン、イ・ユジン、チュ・ジョンヒョク、イ・サンイ
* TOHOシネマズ日比谷ほかにて公開中
ホームぺージ https://loveinthebigcity.jp/
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