映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「シンシン SING SING」

「シンシン SING SING」
2025年4月21日(月)キノシネマ新宿にて。午後2時45分より鑑賞(シアター2/A-4)

~限りなくリアルに描いた刑務所の収容者たちによる舞台演劇

 

「シンシン SING SING」という映画のタイトルを聞いた時に、ミュージカル映画かと思った。ところが実際は全く違った。シンシンとはニューヨークに実在するシンシン刑務所のこと。厳重なセキュリティが施された刑務所として知られているらしい。

「ということは脱獄劇なのか?」と思ったのだが、それも違った。この刑務所では舞台演劇を通じた更生プログラム「RTA」というものが行われているという。そのRTAを描いたドラマが「シンシン SING SING」なのだ。

ニューヨークのシンシン刑務所。無実の罪で収監されたディヴァインG(コールマン・ドミンゴ)は、刑務所内の更生プログラムである「舞台演劇」グループの中心メンバーで、収監者仲間たちと演劇に取り組むことで生きる希望を見出していた。そんなある日、刑務所内でも危険人物として恐れられていたディヴァイン・アイ(クラレンス・マクリン)が演劇グループに参加することになり、彼の提案で新作喜劇を上演することになる。演出家のブレント(ポール・レイシー)がメンバーのアイデアを取り入れて脚本を書き、上演に向けた稽古が開始されるのだが……。

映画の冒頭は、演劇の最終盤を背後から映す。続いてカーテンコール。出演者に大きな拍手が送られる。これだけを見れば、どこかの劇団の公演に思えるが、実は刑務所内の更生プログラムの演劇なのだ。

刑務所内のグループだから、当然メンバーの出入りがある。グループは新メンバーを迎えることになり、創立メンバーで中心的に活躍するディヴァインGが、仲間のマイク・マイクとともに候補者と面接する。候補者の中には、刑務所内で危険人物とみなされていたディヴァイン・アイがいた。ディヴァインGの目の前で他の収監者を脅すなど、評判通りのワルぶりを発揮するディヴァイン・アイだったが、ディヴァインGは「才能がある」とメンバーに加えることにする。

というわけで、ドラマはディヴァインGとディヴァイン・アイの対立と友情を軸に描かれる。ちなみに、この2人は名前が似ているということもあり、劇中で何度も「相棒」と呼び合うことになる。

ディヴァイン・アイは最初から一匹狼的な態度を取る。次の公演の演目を何にするかということで、他のメンバーがシリアスだったり重たい芝居(シェークスピアなど)を提案したのに対して、彼は「喜劇がやりたい」と主張する。収監者たちは笑いたいに違いないというのだ。

彼の意見を取り入れ、メンバーの話を聞いて、演出家のブレントがタイムトリップものの芝居の台本を書きあげる。ハムレットやエジプト王などが登場する奇想天外な物語だ。

稽古前にまずは役決めのオーディションが行われる。これがまあ面白いのだ。メンバーが自分がやりたい役を演じて見せるのだが、みんなとびきりユニークな個性を発揮する。

この稽古で、ディヴァインGはハムレットを希望する。だが、ディヴァイン・アイも同じハムレットを希望する。結局、先輩のディヴァインGが後輩のディヴァイン・アイにハムレットを譲る形になるのだが、そこにわだかまりの種が残る。

実は、この2人の対立構造にはもう1つの大きな要素がある。ディヴァインGは無実の罪で刑務所に入っており、それを証明しようとしている。つまり、彼は何とか刑務所を出ようと必死なのだ。

一方、ディヴァイン・アイは、どうやら近く出所できそうなのだが、外の世界が不安で出所したくないと思っている。この2人の立場の違いも、両者の関係性に微妙な影を落とす。

そんな中、メンバーは上演に向けて稽古を重ねていく。そこには様々な確執や対立があり、それを乗り越えて結束していく。この手の展開は演劇がテーマの映画にはよくあるが、本作は極めてリアルに描写される。

それもそのはず、主役のディヴァインG役のコールマン・ドミンゴ、マイク・マイク役のショーン・サン・ホセ、演出家ブレント役のポール・レイシーなどを除いたグループの大半のメンバーは、実際に元収監者が演じているという。

撮影も使われなくなった刑務所で行われ、手持ちカメラによる短いカットをつないでリアルさを強調している。もちろんドラマ自体はフィクションだが、そこにリアリティをたっぷりと吹き込んでいるのである。監督は「ザ・ボーダーライン 合衆国国境警備隊」のグレッグ・クウェダー。

稽古の途中では、各メンバーが「人生の完璧な瞬間」を想像し、それを語り合う場面なども挿入される。これがまたリアルなのだ。おそらく実際に刑務所で行われた場面を再現したのだろう。

リアルなドラマゆえ、劇的な場面は少ない。それもリアルと言えばリアル。それでも中盤には、あるメンバーの死が描かれ、ディヴァインGの心をかき乱す。また、終盤にはあることからディヴァインGが、グループから遠ざかってしまう場面も描かれる。すでに出所したメンバーの告白などもあり、現実の厳しさも突き付けつつ、舞台の成功に向けて努力が続く。

そして、ラストには、ディヴァインGとディヴァイン・アイの友情をきっちりとスクリーンに焼き付けてドラマが終わる。

観ていて感じたのは、このプログラムは参加者が自分を解放するものだということ。役を演じる過程で、心の中をさらけ出し、本当の自分を見つけ出していく。それも上からの押し付けでなく、自分たち自身が進んでそうなっていく。様々な拘束がある刑務所生活だが、参加者は自らの精神を自由にし、舞台でカタルシスを体験して変わっていく。

それを証明するかのように、映画のラスト近くで映される実際の演劇公演の映像では、メンバーの生き生きとした表情が見て取れる。実際に、このプログラムを経験することによって、再犯率が大きく下がるという。日本でも、こうした試みができないものだろうか。

主演のコールマン・ドミンゴは、本作でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた。セリフ以外の部分で、繊細な感情を表現する演技が絶品だった。ショーン・サン・ホセ、ポール・レイシーの味のある演技も忘れ難い。

同時に、元収監者だったクラレンス・マクリンは、ドミンゴ相手に引けを取らない演技で、存在感抜群だった。プロの俳優としての活動をスタートさせているというのも、うなずける演技だった。

◆「シンシン SING SING」(SING SING)
(2023年 日本)(上映時間1時間47分)
監督:グレッグ・クウェダー
出演:コールマン・ドミンゴクラレンス・マクリン、ショーン・サン・ホセ、ポール・レイシー、デビッド・“ダップ”・ジローディ、モーシ・イーグル、ショーン・“ディノ”・ジョンソン、コーネル・ネイト・オルストン、ミゲル・バランタン、ジョン=エイドリアン・“JJ”・ベラスケス
*TOHOシネマズ シャンテほかにて公開中
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