[今日のうた] 1月

[今日のうた] 1

 

去年今年(こぞことし)貫く棒の如きもの (虚子、「大晦日から正月への時間の推移は「貫く棒の如きもの」」) 1.1

 

新年の棺に逢ひぬ夜中頃 (子規、「大晦日から元日へ時間が変る真夜中の頃、棺が通った、正月にも容赦なく人は死んでゆく」) 2

 

元日は田毎(たごと)の日こそ恋しけれ (芭蕉、「去年の秋、姨捨山では、一枚の田に一つづつ月が映って、美しかった、今、元日の朝、あの田に初日の出がそれぞれ映っているのを想像してしまう、美しいだろうな」) 3

 

うちはれて障子も白し初日影 (鬼貫、「おっ、今朝は元日、外はいい天気で日が差しているな、それは障子の内側からも、明るい「白さ」で分る」) 4

 

初空を夜着の袖から見たりけり (一茶、「ことしの初空、しっかり起きて眺めたいけど、寒いもんなぁ、だらしなく夜着の袖から覗くように見たよ」) 5

 

年玉や抱きありく子に小人形 (召波、「お年玉をもらったな、あの小さな女の子は、小さなお人形をだいじに抱いて、うれしそうに歩いているよ」) 6

 

凧(いかのぼり)きのふの空のありどころ (蕪村、「少年たちが今日も凧をあげている、青空高くあがっているな、昨日も凧は青空のあのあたりにあがっていたっけ」) 7

 

年の内に春は来にけり一年(ひととせ)を去年(こぞ)とや言はん今年とや言はん (在原元方古今集』、「年が改まらないうちに立春がきた、大晦日までの残りの日々を、去年というべきか、今年というべきか、分からないなぁ」、平安時代の暦では二年に一度こうなったという) 8

 

冬の夢のおどろきはつる曙(あけぼの)に春のうつつのまづ見ゆるかな (藤原良経『家集』、「冬の荒涼とした夢に驚いて目覚めたら、夜明けの光だった、そうか、春はこのように現実になるのか」) 9

 

雪もまだたえだえまよふ草の上に霰(あられ)みだれてかすむ春風 (肖柏『家集』、「雪と霰と霞と風が、ほんのわずかに萌えた草の上で、渦を巻くように迷っている」、作者1443-1527は室町時代連歌師) 10

 

さやかなる日影も消(け)たず春冴(さ)えてこまかに薄き庭の淡雪 (正徹『家集』、「澄んだ光が差し込んでいるが、庭に薄く積もった雪は、消えそうで消えない、春といっても空気は冷たいんだ」、正徹1381-1459は室町時代の歌僧で、2万首近い歌や、『源氏』研究もある) 11

 

春立つと聞きつるからに春日山きえあへぬ雪の花と見ゆらん (凡河内躬恒後撰和歌集』、「今日が立春と聞いたら、途端に、消えずに残っている春日山の雪が、なぜか花に見えてくるみたい」) 12

 

石(いは)ばしる垂水の上のさ蕨の萌え出づる春になりにけるかも (志貴皇子万葉集』、「さ蕨の萌え出づる春」には、我々の心も「萌え出づる」) 13

 

なほ冴ゆる嵐は雪を吹きまぜて夕空さむき春雨の空 (永福門院『玉葉集』、朝から降っていた「春雨の空」が夕方には雪まじりになった、これが新春の頃の「春雨の空」) 14

 

薄く濃き野べのみどりの若草に跡まで見ゆる雪のむら消え (宮内卿『新古今』、緑と白の色彩だけで早春の「野べ」を詠む。20歳前後に夭折した作者は「天才少女」といわれ、「若草の宮内卿」と呼ばれた) 15

 

乾鮭(からざけ)も空也(くうや)の瘦(やせ)も寒の内 (芭蕉1690、「寒の内の深夜、京都の寺で勤行の僧たちと行き交ったが、空也上人のミイラのようにひからびた体は乾鮭のようで、まことに寒の内らしい厳しい雰囲気だ」) 16

 

すべり来るスキー映画に大写し (高濱虚子、映画を見ている観客に向かって画面を突き抜けるように「すべり来る」スキー選手は、「大写し」のど迫力がある) 17

 

城門の閉まりし六時日脚(ひあし)伸ぶ (田中延幸、1月も半ばになると冬至の頃に比べて陽がやや長く差す、今までは六時に閉まる城門が見えなかったが、今晩は閉まる様子が分る) 18

 

大輪のあと蕾なし冬の薔薇 (飯島みさ子1899-1923、「冬の薔薇は、たまに大きく咲いても次がすぐ続くわけではない」、作者は虚子に認められた「ホトトギス」の俳人、若くして亡くなった) 19

 

海峡に船は一列初茜(はつあかね) (島谷喜代孝「毎日俳壇」1.19 小川軽舟選、「狭い海峡に設けられた航路を守って進む船はおのずから列をなす。空も海もあかね色に染まって荘厳な眺めになった」と選評」) 20

 

こんな夜に話してみたき雪女 (山本真弓「読売俳壇」1.19 正木ゆう子選、「伝承の雪女といえば、相手は男性であることが多く、恐ろしい妖怪だが、こちらは女どうしの雪女。こんな夜とは、どんな夜だろう」と選評) 21

 

明け方の形象として魔術師がしんと取り出すテーブルナイフ (中村杏「毎日歌壇」1.19 水原紫苑選、「ナイフの銀のかがやきの中に朝の食卓が広がる。いったい誰がテーブルにつくのだろうか」と選評) 22

 

朝な朝な抱擁するがにカーテンを丸めるための腕を廻しぬ (大槻弘「読売歌壇」1.19 俵万智選、「朝ごとにカーテンを開け、丸めて、留める。ありふれたルーティンが「抱擁」という比喩で、いっきに素敵に感じられる。大きな窓と、しっかりした生地も思い浮かぶ」と選評) 23

 

脇の下に指ぬくめつつ研ぐ鋏(はさみ)移る朝日に刃色変れり (鈴木義二「朝日歌壇」1973年、宮柊二選、寒い冬の早朝から大きな「鋏」を研いでいるのだろう、鋏に映る朝日の位置が変わると、鋏の色の輝きも変ってきた) 24

 

外套のボタンとれたるところに手 (黒米松青子「朝日俳壇」1970年、山口誓子選、オーバーのボタンがとれてしまったが、そこにさりげなく手を当てて、ボタンがないのを見えないようにしている、たぶん女性だろう) 25

 

生きたくて生きたくて熊穴に入る (たろりずむ「東京新聞俳壇」石田郷子選 「2025年 年間賞」の句、「この句ができた当時はまだ熊と人との関係性にも一定の節度があったと思います」と作者自註) 26

 

玲瓏(れいろう)と海の靨(えくぼ)や冬の月 (福地子道「朝日俳壇」1.25 高山れおな選、「海面に映える月光。靨の喩えに、自然に魅入られた気分が出ている」と選評) 27

 

それはそうそれはそうって潔癖な首すじ透るおんなの子たち (石井しい「東京新聞歌壇」1.25 東直子選、「「それはそう」と肯定しあう「おんなの子」たちの声が浮かぶ。繰り返されることで擬音語のように響き、寄り添い合う気持ちが調べになった」と選評。いかにもガールズトークらしい) 28

 

美しく泳ぐことより冬の陽の揺れる水面(みなも)を摑みたい吾子 (伊藤智紗「朝日歌壇」1.25 川野里子/佐佐木幸綱共選、冬のプールで小さな「吾子」が必死に泳いでいる、「泳ぐ」というよりは、水面を「摑もう」として水と格闘している、「冬の陽の揺れる」がいい) 29

 

街川に音なく夜の雪ふれり愛につかれし吾をみちびく (岡部桂一郎『緑の墓』1956、「愛につかれし」と「みちびく」いう語句が効いて、さまざまな情景を想像させる) 30

 

鉛筆をなめなめ次の逢う場所に丸つけて地図にわが愛を置く (浜田康敬『望郷篇』1974、真面目な青年が次のデート場所を事前に確かめているのか、初めての場所で行き違いを畏れているのだろう、「わが愛を置く」が初々しくていい) 31