長閑な比企の山間の川底に、人知れず青みを帯びた岩石が顔をのぞかせています。
川の水を掛けてみるや否や、たちまち藍染を彷彿とさせんばかりの、目覚ましい群青色を帯びるこの岩石こそ、言うまでもなく青色片岩です。


関東山地東縁には、中生代白亜紀のプレート沈み込み帯深部で生じた (低温高圧型) 変成岩からなる「三波川変成帯」が広く分布しています。
青色片岩はいわば沈み込み帯の岩石の代名詞であり、徳島県眉山や高越に広い産出が知られています。県内では小川町などで見られ、実際の岩石標本は県立自然の博物館の常設展示で、観察することが可能です(バーチャル展示室)。
深い藍色の原因は、Na2(Fe(II),Mg)3Fe(III)2Si8O22(OH)2 の組成式で表されるNa角閃石の一種、リーベック閃石 (Riebeckite) です。ルーペで見てやると、細粒なリーベック閃石が岩石の面構造 (片理面) に平行に伸び、かつ線構造を成しているのが観察されます。
本鉱はFeにかなり富む含水イノ珪酸塩鉱物で、その化学状態も2価および3価と面白い (ときに厄介な) 組成を持ちます。苦鉄質な結晶片岩のほか、アルカリ質な深成岩に出現します。

それだけでなく、珈琲色の細粒な繊維状鉱物も同じように成長しているのが観察されます。埼玉県の鉱物、スティルプノメレン (Stilpnomelane) です。こちらもやはりFeにかなり富んでおり、(K,Na,Ca)0.6(Mg,Fe(II),Fe(III))6Si8Al(O,OH)27 · 2-4H2Oの組成式で表される含水層状珪酸塩鉱物です。しばしば自形の磁鉄鉱も観察され、この青色片岩が非常にFeに富む全岩組成を持っていることがわかります。
ところで、実際に青色片岩を構成するNa角閃石は、藍閃石 (Glaucophane) が一般的です。リーベック閃石はこの藍閃石と連続固溶体を形成し、その化学組成は次の4つの端成分
・Riebeckite:Na2Fe(II)3Fe(III)2Si8O22(OH)2
・Magnesio-riebeckite:Na2Mg3Fe(III)2Si8O22(OH)2
・Glaucophane:Na2Mg3Al2Si8O22(OH)2
・Ferro-glaucophane:Na2Fe(II)3Al2Si8O22(OH)2
のうち3つの成分の線形結合により表されます。前世紀末まではこれらの中間的組成の角閃石はクロス閃石 (Crossite) と呼ばれていました。とくに藍閃石組成のものはざくろ石やオンファス輝石、ローソン石などの高圧変成鉱物とも共生することが多く、その安定領域の広さが窺われます。
随分と前置きが長くなりましたが、今回は三波川変成岩の一種、スティルプノメレン-リーベック閃石-石英片岩の紹介です。
以下、薄片の写真を紹介します。
薄片写真
左:平行ニコル、右:直交ニコル
左:平行ニコル、右:直交ニコル
平行ニコルで葡萄色を呈した針状ないし板柱状の伸長鉱物がリーベック閃石、茶色の繊維状鉱物がスティルプノメレン、黒色の不透明鉱物が磁鉄鉱です。リーベック閃石、スティルプノメレン、石英に富む層が互層をなしており、局所的な化学組成のコントラストが存在します。これらは細粒の燐灰石・緑簾石と共存しますが、顕微鏡サイズなため露頭で同定することは難しいでしょう。淡白な基質はすべて細粒な石英からなります。
偏光顕微鏡でリーベック閃石を鑑定する際の重要かつ鍵となる平行ニコルでの多色性 (濃青色~緑色) も観察されます。次の写真は上の写真から90度ステージを回転させた視野です。
左:平行ニコル、右:直交ニコル
クローズアップ。

リーベック閃石 (平行ニコル)

スティルプノメレン (平行ニコル)