わたしは気づくと、逆方向の江ノ電に乗ってしまっていた。
我ながら何してるのだろうと揺れる車内で何度も疑問に思った。彼はまるでわたしのことなど気づくこともなく、どこかそわそわしている。たまにスマホを見ては溜息をついてる様子がどうしても引っかかる。誰かからのメッセージが書かれてあるのだろうか? なんであんなに溜息ついてるの? そもそも、誰からのメッセージなのだろう?
それらの疑問の全ては、江ノ島駅と到着とすぐにわかってしまった。
その瞬間、ふと彼女と目が合った気がした。彼ではなく彼女の方。彼の方は相変わらずで、わたしに気づくどころか、まるで余裕がないように思えた。その余裕を失わせているのは彼女の方なのだろうか。わたしは彼のことも彼女のことも、よく知っているつもりだ。まさかとは思ったけど、わたしの胸をざわめかせていた予感が真実だったことを知り、ちくりと痛いものが走る。そもそもこの痛みは何だろう。これって正直、わたしらしくない。
そんなわたしを嘲笑うかのように、彼女の視線はわたしを無視する。まるでわたしの存在なんて最初から気づかなかったかのよう。でもそれが彼女の性格だってことも、残念ながらわたしは知っている。いたずら好きで、頑固者。根っこの部分は寂しがり屋のくせに、だからこそ彼と二人で歩いていることを頭の中で想像しても、何も否定できなかったのだ。
彼と彼女は似たもの同士。そんなの、この世で誰よりわたしが一番気がついてる。
二人は並んで歩き、小さな商店街を抜けて、やがて江ノ島の海岸に辿り着く。てっきり江ノ島の方へ向かうかと思いきや、二人は江ノ電の江ノ島駅から一番離れた西浜海岸の方へと歩いていた。ここは、とあるアニメのエンドロールで観たことのある景色だ。左隅に江ノ島が見え、正面には黄金色の海。右側には長く続く湘南海岸から小田原方面、そして伊豆半島までも一望できる場所。今日は雲で隠れて見えないけど、その背後に富士山が見えることもあるらしい。百八十度広がる、大パノラマ。
どこか幻のように映る夕暮れの景色の中に、彼と彼女の姿も埋もれていた。風と波の音が邪魔をして、二人が何を話しているのかなんてわからない。ただぼんやり、二人と砂浜に打ち付けるさざ波を見比べるだけ。本当にわたしは何をしたいのだろう。
やがて二人は波打ち際から離れ、わたしの座っていた階段の方へ歩いてきた。わたしの存在など気づくはずもなく、ずっと遥か遠方に腰掛ける二人。彼女は手に持っていた紙の包みを開き、中に入っていた串団子を分けあい、二人で食べ始めた。てかそれ、わたしも食べたかったやつだ。
どれだけ時間が流れたのだろう。二人を眺めていると、わたしも当然お腹空いてきてしまった。
帰ろうか。どうせあの二人は一緒に仲良く帰るのだろうし、わたしがここにいる理由もまるでわからない。二人に気づかれる前に、わたしはこの場から立ち去ろう。溜息が漏れる。これじゃさっきまでの彼みたいだ。なんだかすっごくおかしい。
ところが予想外のことが起きたのはその時だったんだ。彼女はその場に残り、彼の方だけわたしより先に、駅の方へと向かってしまう。訳のわからないままその場で黙ってみていると、彼女はあっという間にわたしの目の前にいた。
「人の密会を盗み見るなんて趣味が良くないなぁ〜」

いたずらっぽく笑う彼女の顔はよく知る彼女のそれで、わたしはただただきょとんと彼女の視線をぼんやり追いかけていた。
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