金融商品のローコスト革命児ともいえる、1975年にペンシルベニア州のバレー・フォージで創業したヴァンガードVanguard Group, Inc。ヴァンガードは、さしずめ航空会社で言えばLCCのようなもので、ファンド数は470を超え、預かり資産USD7.1Tは、ブラックロック、ステート・ストリートと並ぶ世界最大級の運用会社となりますが、これだけの大手でありながらも実は非上場会社を守っています。
前編では、Vanguardの超低コスト(経費率0.07%)、ユーロ圏19カ国への分散投資、489銘柄のポートフォリオについて解説しました。中編では、2019年の設定以来約7年間にわたる具体的な運用実績、2022年の-15.88%という大暴落、ドイツ国債ETFとの詳細比較、そしてイタリア(22.3%)の債務リスクについて分析します。
パフォーマンス分析:7年間で年率-0.54%
期間別パフォーマンス(2025年11月30日時点)
累積・年率リターン
| 期間 | ファンド (%) | ベンチマーク (%) | 差異 (%) |
|---|---|---|---|
| 1ヶ月 | -0.03 | -0.03 | 0.00 |
| 四半期 | +1.33 | +1.34 | -0.01 |
| YTD(年初来) | +1.23 | +1.19 | +0.04 |
| 1年 | -0.26 | -0.21 | -0.05 |
| 3年(年率) | +1.74 | +1.76 | -0.02 |
| 5年(年率) | -2.76 | -2.73 | -0.03 |
| 10年(年率) | — | +0.07 | — |
| 設定来(年率) | -0.54 | -0.51 | -0.03 |
設定来年率-0.54%:マイナスリターン
約7年間(2019年2月~2025年11月)の投資シミュレーション
2019年2月に100万円を投資した場合:
- 約7年後(2025年11月):約962,300円
- 損失:約37,700円
- 年率換算:-0.54%
これは:
- 7年間で約-3.8%の累積損失
- マイナスリターン
- インフレ(約2%/年)を考慮すると、実質的には約-17%の購買力減少
ドイツ国債ETFとの比較
| ETF | 設定来年率 | 設定期間 | 評価 |
|---|---|---|---|
| iShares ドイツ国債 | +0.12% | 約13年 | わずかにプラス |
| Vanguard ユーロ圏 | -0.54% | 約7年 | マイナス |
なぜVanguardの方が悪いのか?
- 設定時期の違い:
- ドイツ国債ETF:2012年5月設定(低金利期)
- Vanguard:2019年2月設定(金利上昇前夜)
- イタリア・スペインの影響:
- 格付けが低い国(BBB)を含む
- これらの国債は、金利上昇時により大きく下落
5年年率-2.76%:大幅な損失
2020年11月~2025年11月の5年間
- ファンド:年率-2.76%
- ベンチマーク:年率-2.73%
5年累積リターン
年率-2.76%を5年間複利計算すると:
- (1 - 0.0276)^5 - 1 ≈ -13.0%
- 100万円 → 約870,000円
- 損失:約130,000円
これは、ドイツ国債ETFの5年損失(約-16.6%)よりはマシですが、依然として大きな損失です。
年次パフォーマンス:2022年の大暴落
ローリング12ヶ月パフォーマンス(直近5年間)
過去5年間の年次リターン
| 期間 | ファンド (%) | ベンチマーク (%) | 差異 (%) |
|---|---|---|---|
| 2024年12月~2025年11月 | -0.26 | -0.21 | -0.05 |
| 2023年12月~2024年11月 | +7.04 | +7.08 | -0.04 |
| 2022年12月~2023年11月 | -1.37 | -1.38 | +0.01 |
| 2021年12月~2022年11月 | -15.88 | -15.92 | +0.04 |
| 2020年12月~2021年11月 | -1.83 | -1.73 | -0.10 |
| 2019年12月~2020年11月 | +3.83 | +3.83 | 0.00 |
2022年:-15.88%の大暴落
ドイツ国債ETFとの比較
| ETF | 2022年リターン | 理由 |
|---|---|---|
| iShares ドイツ国債 | -17.95% | ECB利上げ、AAA国債 |
| Vanguard ユーロ圏 | -15.88% | ECB利上げ、多様な格付け |
Vanguardの方が下落が小さい理由
Vanguardの下落が-15.88%(ドイツ国債の-17.95%より小さい)のは:
- 格付け構成の違い:
- ドイツ国債:AAA 99.92%
- Vanguard:AAA 23.1%、A 41.2%、BBB 22.3%
- 金利上昇の影響:
- 高格付け債(AAA)は、金利上昇時により大きく下落
- 低格付け債(BBB)は、元々の利回りが高いため、下落幅が相対的に小さい
- デュレーションの違い:
- ドイツ国債ETF:7.03年
- Vanguard:7.0年
- ほぼ同じ
100万円を2022年初に投資した場合
- 2022年末:約841,200円
- 損失:約158,800円
2024年:+7.04%の回復
金利安定化で反発
2024年(正確には2023年12月~2024年11月)は:
- ECB政策金利:4.5%で安定
- 利下げ期待の高まり
- 国債価格が上昇
- +7.04%の回復
しかし、2022年の損失を取り戻せず
- 2022年:-15.88%
- 2023年:-1.37%
- 2024年:+7.04%
- 3年累積:約-11%
ドイツ国債ETFとの徹底比較
基本スペック比較
項目 Vanguard ユーロ圏 iShares ドイツ 経費率 0.07% 0.20% 運用資産 €4,290M €176.85M 保有銘柄数 489 66 設定日 2019年2月 2012年5月 設定来年率 -0.54% +0.12% 5年年率 -2.76% -3.51% 2022年 -15.88% -17.95% デュレーション 7.0年 7.03年 満期利回り 2.82% 2.46%
| 項目 | Vanguard ユーロ圏 | iShares ドイツ |
|---|---|---|
| 経費率 | 0.07% | 0.20% |
| 運用資産 | €4,290M | €176.85M |
| 保有銘柄数 | 489 | 66 |
| 設定日 | 2019年2月 | 2012年5月 |
| 設定来年率 | -0.54% | +0.12% |
| 5年年率 | -2.76% | -3.51% |
| 2022年 | -15.88% | -17.95% |
| デュレーション | 7.0年 | 7.03年 |
| 満期利回り | 2.82% | 2.46% |
どちらが優れているか
Vanguardの優位点
✓ 経費率が圧倒的に低い:0.07% vs. 0.20%(65%安い) ✓ 運用資産が大きい:€4,290M vs. €176.85M(約24倍) ✓ 分散が広い:489銘柄 vs. 66銘柄 ✓ 満期利回りが高い:2.82% vs. 2.46%(+0.36%) ✓ 2022年の下落が小さい:-15.88% vs. -17.95%
ドイツ国債ETFの優位点
✓ 設定来リターンがプラス:+0.12% vs. -0.54% ✓ 最高の信用力:AAA 99.92% vs. AAA 23.1% ✓ カントリーリスクなし:ドイツのみ vs. イタリア22.3%含む
投資判断:どちらを選ぶべきか
コスト重視なら:Vanguard
- 経費率0.07%は業界最低水準
- 長期的にコスト差が積み上がる
信用力重視なら:ドイツ国債ETF
- AAA 99.92%の圧倒的安全性
- イタリア債務リスクを避けたい
リターン重視なら:どちらも不適
- 両方とも、設定来ほぼゼロまたはマイナス
- 債券ETFは高リターンを期待すべきではない
イタリア債務リスク:22.3%のエクスポージャー
イタリアの財政状況
主要指標(2025年推定)
| 指標 | 値 |
|---|---|
| 政府債務/GDP | 約140% |
| 財政収支/GDP | 約-5% |
| GDP成長率 | 約+1% |
| 格付け | BBB(S&P)、Baa3(Moody's) |
ユーロ圏で最悪クラス
| 国 | 債務/GDP | 格付け |
|---|---|---|
| ギリシャ | 約180% | BB(投資不適格) |
| イタリア | 約140% | BBB |
| ポルトガル | 約110% | BBB |
| スペイン | 約110% | A |
| フランス | 約110% | AA |
| ドイツ | 約60% | AAA |
イタリア債務危機のリスク
過去の教訓:2010-2012年ユーロ圏債務危機
2010-2012年、ギリシャ、イタリア、スペイン、ポルトガルで債務危機が発生:
- ギリシャ:デフォルト、債務再編
- イタリア:10年物国債利回りが7%超に急騰
- スペイン、ポルトガル:EU/IMFによる救済
現在のリスク
2025年現在、イタリアは:
- 債務/GDP約140%(改善なし)
- 政治的不安定性
- 低成長
- 高齢化
将来、以下のリスクがあります:
- 債務危機の再発
- 国債利回りの急騰
- デフォルトの可能性(低いが非ゼロ)
Vanguard ETFへの影響
イタリアが22.3%を占める
もしイタリア国債が10%下落すれば:
- Vanguard ETF全体への影響:約-2.23%
2022年の例
2022年、イタリア10年物国債は:
- 利回り:約1% → 4.5%(+3.5%)
- 価格:大幅下落
この影響が、Vanguard ETFの-15.88%の一部を構成しています。
トラッキング精度:極めて優秀
期間別トラッキングエラー
期間 ファンド (%) ベンチマーク (%) 差異(年率) 3年 +1.74 +1.76 -0.02% 5年 -2.76 -2.73 -0.03% 設定来 -0.54 -0.51 -0.03%
| 期間 | ファンド (%) | ベンチマーク (%) | 差異(年率) |
|---|---|---|---|
| 3年 | +1.74 | +1.76 | -0.02% |
| 5年 | -2.76 | -2.73 | -0.03% |
| 設定来 | -0.54 | -0.51 | -0.03% |
トラッキングエラーの評価
年率-0.02%~-0.03%
このトラッキングエラーは:
- 経費率0.07%よりはるかに小さい
- 極めて優秀なトラッキング精度
- サンプリング手法(489銘柄で554銘柄のインデックスを追跡)でも高精度
経費以外のコストがほぼゼロ
- 経費率:0.07%
- トラッキングエラー:-0.02%~-0.03%
- 差:+0.04%~+0.05%
これは、経費以外のコスト(売買コスト、サンプリング誤差)がマイナスではなくプラスであることを示しています。つまり、ファンドはベンチマークをわずかにアウトパフォームしています(経費控除前)。
Vanguardの運用力
この高精度は:
- 489銘柄の適切な選択
- 効率的なリバランス
- 低い取引コスト
を示しています。
スペイン債務リスク:14.2%のエクスポージャー
スペインの財政状況
主要指標(2025年推定)
| 指標 | 値 |
|---|---|
| 政府債務/GDP | 約110% |
| 財政収支/GDP | 約-3% |
| GDP成長率 | 約+2% |
| 格付け | A(S&P)、A3(Moody's) |
イタリアよりは健全
スペインは:
- 債務/GDP約110%(イタリアの140%より低い)
- 格付けA(イタリアのBBBより高い)
- GDP成長率約+2%(イタリアの+1%より高い)
しかし、依然として高水準の債務を抱えています。


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