物流業界入門

物流業界の基礎から最新トレンドまで、現場経験を活かしてわかりやすく解説!

【物流構造問題】センコー下請法勧告が突きつけた「待たせる前提」の崩壊

下請け会社の作業に対価を支払わなかったとして、
公正取引委員会が物流大手「センコー」に対し、
再発防止などを求める勧告を行いました。

対象となったのは、

  • 荷物の積み下ろし作業
  • 指定時間を2時間以上超える長時間の「荷待ち」

にもかかわらず、
対価が支払われなかった行為です。

下請法違反の対象となった下請け業者は
少なくとも36社

数字だけを見れば、
「大手物流会社による下請けいじめ
という構図に見えるかもしれません。

しかし――
この問題の本質は、
一企業のコンプライアンス違反にとどまりません。

これは、
日本の物流業界が長年温存してきた“構造そのもの”の問題です。


🧭 1. 何が違反だったのか|「作業」と「拘束」を切り離す欺瞞

今回、公正取引委員会が問題視したのは、

  • 積み下ろし作業
  • 2時間を超える荷待ち

という、
明確に「労務」と「時間拘束」が発生している行為です。

にもかかわらず、

「運賃に含まれている」
「慣行だから」
「請負契約だから」

といった理由で、
追加の対価が支払われていなかった

これは下請法上、

  • 不当な経済上の利益の提供要請
  • 下請代金の不当な減額

に該当する可能性が高く、
今回の勧告に至りました。

重要なのは、
この構図が“特別な事例”ではないという点です。


🚛 2. 荷待ち・荷役は「誰の仕事」なのか問題

物流現場では長年、
次のような曖昧な扱いが続いてきました。

  • 荷待ちは「仕方ないもの」
  • 荷役は「ドライバーがやるもの」
  • 待たされても「運送のうち」

しかし冷静に考えれば、

時間を拘束し、身体を使い、責任を負わせている

これはどう見ても
労務そのものです。

にもかかわらず、

  • 契約書には明確な記載がない
  • 単価交渉の対象にならない
  • 下請けほど断れない

この状態が常態化してきました。


🧱 3. なぜ「払われない構造」が生まれるのか

■ 3-1:多重下請けという“責任分散装置”

物流業界では、

  • 荷主
  • 元請(大手物流会社)
  • 一次下請
  • 二次・三次下請

という多重構造が一般化しています。

この構造の問題点は、

責任だけが上に、負担だけが下に落ちる

ことです。

  • 荷主は「現場を知らない」
  • 元請は「直接やっていない」
  • 下請は「断れない」

結果、

「誰も悪くないが、誰も払わない」

という、
極めて不健全な状態が生まれます。


■ 3-2:「運賃」と「作業対価」を分けなかったツケ

本来、

  • 運ぶ対価
  • 待つ対価
  • 作業する対価

分けて設計されるべきです。

しかし日本の物流は長年、

全部まとめて“運賃”

という曖昧な形で処理してきました。

その結果、

  • 何時間待たせても同じ
  • どれだけ作業させても同じ

という、
時間と労働を軽視する構造が出来上がりました。


⏱️ 4. 「荷待ち2時間超」が意味するもの

国交省が問題視し続けてきた
「荷待ち時間2時間超」。

これは単なる数字ではありません。

  • ドライバーの拘束時間増大
  • 労働時間規制への抵触
  • 2024年問題の直接要因

です。

つまり今回の勧告は、

2024年問題の“実行犯”を可視化した

とも言えます。


⚖️ 5. センコーだけを責めて終わってよいのか

ここで重要なのは、

センコーだけが特別に悪質だったのか

という問いです。

正直に言えば、
答えは NO でしょう。

  • 同様の荷待ち
  • 同様の無償荷役
  • 同様の下請け圧力

は、
業界全体に広く存在しています。

今回、
たまたま「表に出た」のがセンコーだった。
それだけの可能性も否定できません。


🏗️ 6. 物流大手の社会的責任とは何か

物流大手は、

  • 価格決定力
  • 契約モデル
  • 業界慣行

に強い影響力を持っています。

だからこそ、

「慣行だから」で逃げてはいけない立場

でもあります。

業界を変えられるのは、
往々にして 強い側 です。


🏭 7. 荷主企業も“無関係”ではない

忘れてはならないのが、
荷主の存在です。

  • 着荷時間厳守
  • バース不足
  • 作業の外注化

これらを是正しない限り、

元請だけが是正しても、現場は変わらない

という現実があります。

安い物流を求め続けた結果、
どこで無理が吸収されてきたのか。

それを直視する必要があります。


🧩 8. 今回の勧告が持つ“本当の意味”

今回の公取委勧告は、

  • 過去の清算
  • 一企業への指導

にとどまりません。

これは、

「もう黙認しない」というメッセージ

です。

  • 荷待ちはタダではない
  • 作業は労務である
  • 下請けに押し付けるな

という、
極めて明確なシグナルです。


🚨 9. もし是正されなければ何が起きるか

是正されなければ、

  • 下請けは疲弊
  • ドライバーは離職
  • 輸送力は消滅

します。

それはつまり、

社会全体の物流BCPが崩壊する

ということです。


✍️ 結論|これは「センコーの問題」ではない

今回の下請法違反勧告は、

  • 一社の不祥事
  • 一時的なニュース

ではありません。

これは、

日本の物流が長年先送りしてきたツケ

が、
ようやく表に出てきただけです。

払うべき対価を払い、
待たせない設計をし、
責任を曖昧にしない。

それができなければ、
物流は続きません。

そして物流が止まれば、
社会は止まります。

いま問われているのは、
誰が悪いかではなく、誰が変わる覚悟を持つか
です。