グローバルチームを率いる日本人に、ぜひ頭に入れておいてほしい日本文化の特徴がある、というメイヤー教授。国内のみで活動する企業で、文化を分析する意義についても尋ねた。

実は日本人が一番「極端」(写真:PIXTA)
実は日本人が一番「極端」(写真:PIXTA)

 INSEAD(インシアード)のエリン・メイヤー教授が提唱する多文化分析のツール「カルチャー・マップ」は、各国の文化を多面的かつ相対的に捉える重要性を説くものだ。これまでに世界67カ国の文化をマッピングしたが、とりわけ日本の文化は特徴的だという。

 「世界各国のカルチャー・マップを比較すると、米国、イスラエル、オランダなどいくつか個性的なマップを持つ国があり、日本もその1つだ。8つの行動指標のほとんどで左右両極に位置している、つまりどの指標においても他国より極端な傾向があるのだ」

 8つの指標のなかでも、マネジメントという観点から最も重要なのが「リーダーシップ」と「意思決定」の2つだとメイヤー教授は指摘する。リーダーシップは地位や肩書にこだわらない平等主義か、こだわりの強い階層主義かを示すのに対し、意思決定はチーム内での合意形成を重んじるかトップダウンかを示す。トップダウンの文化では、トップによる「ちゃぶ台返し」も珍しくない。両者の違いに無頓着であることが、チームの不協和音の原因になるケースが多いという。

 「例えば米国のケースを見ると、リーダーシップは平等主義的だ。管理職は部下とファーストネームで呼び合い、会議中は意見を言うよう促す。しかし意思決定の場面ではトップダウン型になるケースが多く、他の文化の出身者は面食らうことも多い。

出所:2017年7・8月号米ハーバード・ビジネス・レビュー誌掲載のエリン・メイヤー氏による論文「Being The Boss In Brussels, Boston, and Beijing」から本誌作成
出所:2017年7・8月号米ハーバード・ビジネス・レビュー誌掲載のエリン・メイヤー氏による論文「Being The Boss In Brussels, Boston, and Beijing」から本誌作成
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 だが米国以上にユニークなのが日本だ。アジアの多くの国と同じように日本のリーダーシップは階層主義的だ(図の右半分)。上下関係がはっきりしていて、部下が人前で上司に意見することはめったにない。リーダーシップが階層主義的な国の多くは、意思決定はトップダウン型になる(図右上)。迅速で柔軟、一度決まったことでもすぐに変更や修正がある。中国やインドがこうしたケースだ。一方、日本の意思決定は合意型だ(図右下)。組織のなかで合意を積み上げていく。意思決定に時間はかかるが、ブレずに迅速に実行される。

 リーダーシップと意思決定という2つの指標で、日本ほど正反対の極へ大きく振れる国は他にない。階層主義と合意主義の共存という珍しいパターンが、他文化の人から見て日本の組織やリーダーは分かりにくいという印象を与え、摩擦を生む原因になる。同じようにヒエラルキーを重視するにもかかわらず、インド人は日本人リーダーが意思決定に時間をかけ過ぎるとイライラし、日本人はインド人リーダーが一度決めたことをすぐに覆すとイライラする」

意思決定の仕方にも文化がある

 2017年に米ハーバード・ビジネス・レビューに掲載された論文(Being The Boss In Brussels, Boston, and Beijing)で、メイヤー教授は2014年にサントリーに買収された米ビームのマネジャーが直面した文化摩擦を取り上げている。ビームに関わる重要な問題が生じ、日本まで出向いて担当役員の前で説明する機会を与えられた米国人マネジャーは、日本側を説得する好機と考えてパワーポイントを準備した。

 だが会議が始まると、すでに結論は出ていて、その場で周囲を説得しようとしても意味がないことが分かった。日本的な「稟議(りんぎ)」や「根回し」の概念を理解したこのマネジャーは以降、米国の常識よりはるかに早いタイミングでインプットを出すよう心がけるようになった、というエピソードだ。

 「グローバルチームを率いる日本人が成功するためには、最初に『このチームの意思決定方法はこうだ』と明確に示すことがカギとなる。『これが日本の意思決定のメカニズムだ、だから意見があればこのタイミングで伝える必要がある』と他文化のメンバーに説明するのだ」

 異文化摩擦を回避するうえで大いに役立ちそうなカルチャー・マップだが、日本国内のみで事業を営む企業においても、チームを運営していくうえで役に立つという。

カルチャー・マップで自分を知る

 「国の文化は、個人のパーソナリティー(性格)に相当する。このため私は国別のカルチャー・マップを作成するツールを応用し、個人のプロファイリングツールを開発した。個人が質問票に答えると、国別マップと同じ8つの指標に照らして『同じ文化の人と比べて、自分はどのあたりにいるのか』が分かる。インシアードのMBAの学生からは『モノカルチャーのチームで働いているが、メンバーのプロファイリングをした結果、これまでさまざまな問題が起きていた原因が分かった』と言われることが多い。

 単一文化のメンバーだけで構成されるチームでも、個人別マップを作成することで、コミュニケーション、意思決定、フィードバックの与え方などさまざまな面における個人の嗜好とスタイルが浮かび上がる。『スケジューリングの指標でAさんは私より柔軟だ』ということが分かれば、摩擦が起きたときに『あの人の仕事の進め方は場当たり的だ』『時間にルーズだ』などと感情的に判断するのを防ぐことができる。また取引先に角を立てずに修正的フィードバックを伝える必要があるとき、それが得意なチームメンバーに任せるという判断もできる」

 カルチャー・マップを使ってチームを眺めると、文化や性格の違いから生じる問題点だけでなく、多様性から生まれる強みを引き出すこともできる。日本企業も活用すれば、多くの示唆が得られそうだ。

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Day1-10月5日(火)
最新決定版!「ナッジ」の経済学 8:00~
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AIと雇用と資本主義の未来 14:30~

Day2-10月6日(水)
世界の幸福を追求するマーケティング・資本主義 9:00~
マッチングの社会実装で実現する「幸福な市場」11:00~
イノベーティブな企業文化と従業員の心の幸福 18:00~

Day3-10月7日(木)
米中テクノロジー冷戦とサプライチェーン危機 8:00~
特別対談:ダイナミックケーパビリティ―×暗黙知 9:30~
日本企業再興×両利きの経営 11:30~

・参加募集の詳細は、後日、日経ビジネス電子版で告知いたします。

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